August 28, 2005

麻酔科医の存在価値

夏休みのあいだ,いろいろと余計なことを考えてしまった。フリーターという不安定な身分の人間が長期間休むと不安になるのは当然のことであるが,私が「2週間休む」と言っても,どの病院の外科系医師たちもそれほど困った様子が見られなかったせいもある。

各バイト先の外科系医師たちは,できれば麻酔科医などに頼らず,自分たちだけで手術を完遂したいと思っているはずだ。全麻手術でも局麻手術のように自分たちだけで麻酔ができれば,いちいち麻酔科医に連絡したり,検査の不備を気にしたりすることもない。私の目を気にすることなく,仲間内だけで冗談をとばしながら楽しく仕事ができる。

しかし,今のところ全麻手術には私が必要なようだ。ただ,彼らが私を必要とする理由,私にできて彼らにできないことは実はそんなに多くないような気がする。

全身麻酔に麻酔科医が必要とされる一番の理由は,呼吸管理だと思う。麻酔科医の仕事はもちろん呼吸管理だけではない。しかし,血管作動薬の投与や輸液負荷は麻酔科医でなくても可能だし,臨床医にとってそれほど難しいものとは思えない。現に外科系の医師たちは,全身麻酔よりも血圧が下がりやすいルンバールを自分たちで行っている。

呼吸管理というハードルがクリアされてしまうと,麻酔科医の存在価値が低くなる可能性がある。

例えばAEDの電極パッドのようなものをからだのどこかに貼るだけで酸素化と脱二酸化炭素が同時にできる装置,いわば非侵襲的経皮的人工肺とでも呼べるようなものが開発されれば,無呼吸時も気道の確保は不要となる。陽圧換気しないことによる無気肺の予防や誤嚥対策は必要かもしれないが,patientがハイポキシアにならないというだけで安心度は非常に高くなる。さらに,現在のオペ室でルーチンに装着されている心電図モニターにAEDや体表ペーシングの機能が付加され,心電図電極を兼ねた小さなパッドでも除細動やペーシングができるようになると,循環器系の安全性も高まる。そして「この装置があれば,麻酔科医を呼ばなくても大丈夫だろう」ということになる。

麻酔科医の存在価値について不安になっているとき,骨セメントによる死亡例に関する報道があった。新聞によっては「麻酔科医(相変わらず“麻酔医”となっていた)がそばにいれば対処できたはず」と解釈できる記事があった。トータルヒップはともかく,トータルニーはルンバールでも手術可能のため,麻酔科医がいなくても手術ができる。厚労省は以前から「骨セメントを使用する際は,急な血圧低下などに備え緊急対応のできる麻酔(科)医の監視下で使用するなどの対策を」などと警告してきたが,単なる指針や注意などではなく「骨セメント使用時には必ず麻酔科医が立ち会うこと」となれば,麻酔科医の存在価値は高まる。

麻酔科医不足は当分続きそうだし,それほど心配する必要はないかもしれない。そもそも非侵襲的経皮的人工肺なんてものがそう簡単に実現するとは思えない。

今年も何回か蚊に刺された。蚊は凝血を防ぐために唾液を注入した後,血液を吸い上げる。蚊が注入した唾液によってかゆみが生じるのは少し時間がたってからで,それまで蚊に刺されたことに気づかない。そう,蚊は唾液の注入も血液の採取も“非侵襲的”にやってのける。蚊にできることが人間にもできるようになるのは,遠い先のことだろうか。

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August 23, 2005

結果オーライ

春頃からバイト先の各病院で「夏は2週連続で休みます」とことあるごとに宣言していた。しかし,海外旅行など長期休暇を必要とする予定もなかったし,5月から6月にかけて予期しない平日の休みが結構あったためか,まとまった休みをあまり切望しなくなってきた。夏季休暇を1週間に減らそうかとも思ったが,周囲に「フリーターにはボーナスはないが,こんなに休みがとれるのだ」と見栄をはりたかったので,2週間連続の夏休みを実行した。「不本意な16連休」と書くと顰蹙を買いそうだが,少なくとも「待ちに待った夏休み」という気分ではなかった。

映画や買い物には行ったが遠出することもなく,実家(ここが一番遠かった)に顔を出した以外はほとんど自宅にいた。どこかのバイト先から緊急手術の麻酔依頼があったなら,「運がいいですね。今日だけはちょうど予定がなくヒマだったのです。ゆっくりしたかったのですが仕方ないですねー。今からそちらに行きます」と恩着せがましく引き受けるつもりだったが,どこからも連絡はなかった。

おかげでなまけ癖がつき,休み明けの第1日は病院への道のりが遠かった。そして,さんざんな目にあった。症例は多く,こちらのカンも鈍っていた。エピには時間がかかったうえ,抜けた感触がいまひとつだった。ラリマはフィットが悪くガーガー音が術者にまで聞こえていた。カンが鈍っていたのが私だけではなかったのか,ある症例では出血量が予想をはるかに上回り,MAPはもちろんFFPや血小板輸血までした。久しぶりに手術途中でのCVカテ挿入やノルアド投与を行った。後手後手に回り,ずいぶんあわてた場面もあったが「こんな田舎の病院でも血小板を入手できるのか」と口にしないほどの理性はあった。

仕事をしている最中は内心,「今日の麻酔はボロボロ」と思っていた。しかし仕事を終えて振り返れば,いまひとつのエピを入れた症例も術後痛がらなかったし,ガーガーLMAも最後までラリマでしのげた。大量輸血した症例もカリはそれほど上昇しなかったし,何事もなかったかのように覚醒・抜管できた。かろうじて「結果オーライ」といったところか。

「麻酔,いや,あらゆる医療行為が結果オーライなのだから」と自分に言い聞かせつつ帰途についた。帰りは,とても眠たかった。

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August 11, 2005

挿管依頼

ある日の夕方,4例目の麻酔導入を終え,少し疲れを感じながらも「終わりが見えてきた」とほっとし始めた頃,オペ室師長が院内PHSで誰かと話しながら私のところにやってきた。外来に救急患者がいて挿管が必要だが誰が試みても入らなくて困っており,「手が空いているなら挿管をお願いしたい」とのこと。隣の手術室で行われている3例目は血行動態が安定しているものの,出血量が増えてきてそろそろ輸血の準備をしようかという頃だったし,導入を終えたばかりの4例目にはエピにやや多めの局麻を入れてしまった。手術室を出て行くことは気が乗らなかったが,トラキライトと喉頭鏡を手に外来処置室へ向かった。喉頭鏡は外来にもあるのにわざわざオペ室のを持って行ったのは,外来の救急カートに入っている喉頭鏡は滅多に使用されないため電池が古くて暗かったり,接触不良でライトが急に消えたりするからである。

外来処置室は「この病院にこんなに医師がいたのか」と思えるほどのにぎわいだった。不謹慎なことだが,救急蘇生の現場はしばしば“祭り”にたとえられる。patientに分けてあげたいほどのカテコラミンが体内を駆けめぐっていそうな医師らは最初から祭りに参加していたのだろう。一歩引いた外側でたたずんでいる医師らは,遅れて参加したため祭りに乗り遅れた口か。

このような時,麻酔科医は祭りの輪の中心にある櫓にいきなり引っ張り上げられる。そして太鼓のバチの代わりに挿管チューブを持たされる。

しかし,周囲の「早く挿管を」という雰囲気に飲まれていきなり挿管操作を行うとロクなことはない。挿管を試みて失敗した医師たちは,麻酔科医も失敗することを期待している。「麻酔科でも難しいのだから,自分が挿管できなくても恥ずかしいことではない」という言い訳を欲している。

予定手術の挿管とは異なり,病棟や外来での挿管は条件が悪い。分泌物が多い。吸引ができない。筋弛緩ができていない。パルスオキシメーターがない。喉頭鏡がぼろい。ベッドの高さを変えられない。ベッドの頭側に立つスペースがない。など。

まずは,アンビューバッグでマスク換気しながら条件を整えていく。麻酔科医にとってマスク換気は助走のようなもの。助走無くしては高く跳べない。そしていつものようにモニターを確認する。ややtachyだがsinusだし,血圧も充分だ。自発呼吸はないがマスク換気は容易で,当初80台後半だったSpO2も90台に上がってきた。あわてる必要は全くない。口腔内を吸引してみると血液と唾液が混じった粘稠なものが引けた。マスク換気で奥へ押し込んだかもしれない。「もっと太い吸引カテーテルに替えて」と一応言ってみたが,やはりこれが一番太いものだった。仕方なくカテーテルをはずして吸引管を直接口腔内に入れようとすると,上の門歯がぐらぐらしているのに気づいた。誰に言うでもなく「この歯はもともとグラついていた?」と問うと,そばにいた医師が「何回か喉頭展開している間にやってしまったのだと思います」。思う?気づいてなかったのか! 私が何も確認せずにいきなり挿管していたなら,間違いなく私が折ったことになるところだった。気のせいか「救急の場で歯のことなんか気にするな」という視線が感じられた。
確かに顎は小さく,口も開きにくい。口腔内は出血と唾液だらけ。

トラキライトを持ってきておいて良かった。私は綿棒をもらって鼻道の太さを確認した後,トラキライトによる経鼻挿管を行った。一回で難なく挿管できた。内科系の医師たちはトラキライトを見るのが初めてらしく,狐につままれたような表情をあらわにしていた。アンビューで2回ほど換気すると,本当に挿管できたか心配なのか,聴診器片手に近づいてきた医師がいたが,その聴診器が胸壁に置かれる直前にアンビューをはずしてテープ固定した。彼らに聴診をまかすと時間がかかってしようがない。挿管できたのは血行動態の変化と胸の上がりとアンビューの感触でわかっている。片肺になってないかどうかだけ確認すればよい。テープ固定したので左手がフリーになった。その左手で聴診器を持ち,片肺でないことを確認するためアンビューを押しながら左右2回だけ聴診器をあてた。再びアンビューをはずして気管内吸引すると軽度のバッキングが生じ,少量の血液が混じった分泌物が引けた。

手術室が気になる。長居は無用だ。まごまごしているとレスピレータの設定だけでなく,今後の呼吸管理のことなども相談される。

「挿管の深さは大丈夫だと思いますが,ブラインドで入れてますので念のためレントゲンで確認しておいて下さい。私はまだ麻酔の仕事が残っていますので,じゃ」と言い残し,手術室に戻った。

手術室では3例目の出血量が1000mlを越えており,tachyとhypotensionで典型的なハイポボレミアだったが,まだ輸血されていなかった。「輸血の準備をしておいて」といっておいたが,本当に準備だけだった。
4例目は,「血圧が下がったらエホチールを1mgずつivして」と言ったおいたら,皮切直前にも投与したらしく,手術開始と同時に血圧が200mmHgを越え,術者の指示でペルジピンが投与されていた。セボの気化器のダイヤルは一切触れられなかったようだ。

私がいない間に手術患者にもしものことが起こったら,やはり私の責任にされるのだろう。

もう一度同じ状況が起こったら,私は挿管依頼を断るかもしれない。

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August 01, 2005

痩せたデブ

勤務医時代も含め,一日にこなした麻酔件数の最多を本日更新した。麻酔導入が完了し落ち着いた頃に別の部屋の手術が終了するタイミングが続き,リズム良く働けた。短時間の手術が多かったので帰宅もそれほど遅くならなかった。しかし,このような一日がたまにある程度なら仕方ないが,毎週は歓迎できない。私としては他の曜日にも振り分けて欲しいが,各診療科の検査や外来(午後診),応援医師との関係で難しいらしい。平日がだめなら土曜日でも私は構わないのだが。「フリーになっても土曜日に働くのか」と思われるかもしれないが,平日の休みが多いせいか土・日はヒマをもてあましている。日曜日は翌日の仕事に備えて完全休養したいが,土曜日なら働いても構わない。しかし,緊急手術ではなく予定手術を土曜日に行うなど,オペ室ナースだけでなく病棟のナースも難色を示すだろう。patientの家族には喜ばれるかもしれないが。

立場が違えば考え方もがらりと変わる。勤務医の頃は木曜日に外科医が「あさってくらいに緊急手術を入れて欲しいのですが」と言ってきたら激怒していた。「あさってって土曜日じゃないか。何が緊急なんだ。土曜日まで待てるなら月曜日まで待てるんじゃないか。待てないなら今すぐ手術すればいい」

その前にいた病院では麻酔科長が外科部長と仲が良く,土曜日の予定手術も引き受けていた。
我々はこのような,土曜日に予定される手術を「予定緊急手術」と呼んでいた。そう,「痩せたデブ」と同じである。

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July 30, 2005

リバース考

この週を夏休みとする予定はなかったが,手術予定のpatientsが夏風邪をひいたり都会の病院へ逃げたりしたため,今週は1日しか勤務しなかった。そのかわりその1日は他の休業日を補ってあまりあるほど忙しく,ある症例では既にリバースの薬剤を用意していたにもかかわらず,さらにもう一回分のリバースをシリンジに引いてしまった。最後の症例ではなかったため,他の症例にまわすことができたが,これがフェンタだったら麻薬伝票がややこしくなるところだった。

マスキュラの持続時間は短いし,神経刺激装置で筋弛緩の程度をモニターしていればリバースは必要ないかもしれない。実際,リバースを全廃した施設もあるそうだ。

リバースを廃止すれば,薬剤の誤投与を防ぐことができる。

リバースが関与する誤投与のひとつは,リバースだと思って投与した後,シリンジをよく見ると別の薬剤だったというものである。抜管前は口腔内吸引,気管内吸引,使用した麻酔ガスの計算,輸液量の合算などで慌ただしい。若いpatientなどで体動が激しくなってくると「挿管チューブを嫌がっている。早く抜管して楽にしてあげねば。その前にリバースを」と,麻酔器の上に置いてあった10mlのシリンジをあわてて三方活栓につなぎ,薬剤を投与する。そしてそれがリバースではなくマスキュラやエホチール,硬麻用局所麻酔薬だったというもの。

もうひとつはリバースとしてシリンジにひいたアンプルのひとつが硫アトやワゴスではなく,ボスミンまたはノルアドであったというもの。これらのアンプルはすべて同サイズである。硫アトやワゴスは麻酔科医がリバースとしてたくさん使用するため,薬剤カートのなかでも大きなスペースを占めている。その隣にボスミンの置き場所があった場合,薬剤補充の際にボスミンのアンプルがワゴスのところに紛れることがある。リバースをシリンジにひこうと薬剤カートの中から硫アトとワゴスを複数抜き取った際,ボスミンが混じる。「ワゴスの置き場所から取り出したアンプルはワゴス」という先入観があるため,よく確認しない。「アンプルカットするときやアンプルの中に注射針を入れるときにラベルぐらいは見えるだろう」と思う人もいるだろうが,1mlのアンプルは小さく,指に挟んでしまうとラベルは見えにくい。薬剤伝票にはワゴス○本と記入され,空アンプルは,やはりよく確認されないまま,部屋の隅に置いてある大きな危険物廃棄ボックスに捨てられる。かくして,ボスミン1Aはワゴス1Aとしてリバースのシリンジ内に混入し,ワンショットで投与される。もちろんリバースを投与した医師はボスミンを投与したことに気づかない。シリンジには確かにリバースと記入されている。

「リバースを投与したら,異常高血圧,肺水腫になりました」という報告がときどきあるが,そのなかには上記のような誤投与が含まれているのではないかと疑っている。薬剤管理がきちんとできていれば,薬剤カートのなかに残っているワゴスとボスミンの数で確認できるかもしれないが,オピオイドや筋弛緩薬ほど厳しく管理される薬剤ではない。数日分のアンプルが収納されている危険物廃棄ボックスをくまなく調べるという方法もある。しかし,もともとワゴスの消費本数は多いし,ボスミンもボスミン生食などに使用されるため,廃棄されるアンプル数は少なくない。結局,真相はわからない。

リバースを全廃すればこのような誤投与は防げるはずだが,神経刺激装置もないし,たとえ自発呼吸が充分戻っていても,ミオブロック時代からの慣習で抜管前の儀式として投与している。

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July 22, 2005

月がとっても・・・

今日(日付が変わったから,正確には昨日)の手術は予定時間が3時間と2時間半の2件だけで,しかもどちらもリスクのない症例なので,いつもように並列麻酔すれば明るいうちどころか,売店のおばちゃんより早く帰れると思っていた。

しかし・・・。

一例目の手術が始まり,血行動態も安定してきたので,「そろそろ次のpatientの入室を」とオペ室ナースの師長に言うと,師長は
「いま,この手術以外に局麻の手術と腰麻の手術が施行中なので,ナースが足らないんです。この手術に続いて縦(直列)でお願いできますか? (この手術と)同じナースが担当します」

一昨日の病院では(私の勘ぐりすぎかもしれないが)ナースが早く帰りたいから3並列を強いられ,今日の病院ではナースの数が足らないから直列させられる。どうやら私の仕事の密度を決めるのは彼女たちのようだ。

paitentsはふたりとも合併症がなく,術中の血行動態はきわめて安定していた。昇圧薬も降圧薬も使用せず,輸血も輸液負荷も必要なく,ときどきマスキュラを追加投与する程度だった。

「まあ,たまにはこんなのんびりした麻酔も悪くはないか」と自分を慰めるしかなかった。

帰りは,月がとってもきれいだった。

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July 19, 2005

早く帰れたが

連休明けに手術5件はきつかった。世間は3連休だったが私は4連休だったので,早くも夏休みモードに入ってしまい,勤労意欲がわかなかった。

スタートが午前中だったため,通常の並列で充分にこなせるはずだったが,ある手術が予想以上に長引いた。私は翌日が休みなのでいくら遅くなっても構わなかったが,他の病院から来る応援術者の都合と,ゲフリールの都合(つまり病理医の都合)から,5例目を早く始めたいとのことで,結局最後は3例並列になってしまった。 2例並列が3例並列になると,忙しさが格段にアップする。マスキュラは充分投与しているつもりだったが,二つの部屋でほぼ同時にバッキングが起こり,右往左往した。神経刺激装置がないのはつらい。リバースの薬剤をシリンジにひいている最中に他の部屋に呼ばれ,戻ってきたら空アンプルが廃棄されていたため,硫アトとワゴスをどれだけひいたかわからなかった。また,麻酔導入も早く済ませたいので麻酔器のチェックがおろそかになってしまう。喘息の既往があるpatientの麻酔導入時,意識消失後にマスク換気をしようとしてバッグを押すととても固かった。喘息発作かと思って焦ったが,麻酔器のレバーがレスピレーター側になっていた。

3例並列を要求してくるのはいつもオペ室のナースである。応援術者やゲフリールは口実で,本当はナース達が定時で帰りたいから3並列を要求しているような気がする。

おかげで疲れたが早く帰宅でき,家族と一緒に食事ができた。

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July 18, 2005

慣れた方法が一番?

手術に腹腔鏡,胸腔鏡,関節鏡などの光学機器がさかんに用いられるようになったのはこの10年ほどだろうか。

現在,「開腹胆摘の腕前はピカ一だが,ラパ胆はできない」という消化器外科医がどれほどいるのか知らない。ラパ胆が普及しはじめた当時,「そんなテレビゲームみたいな手術は若い者にまかせる」「今から新しい技術の訓練は受けられない。今まで通り開腹胆摘でやる」と決断した年配の外科医もいただろうが,それは何歳ぐらいの医師だっただろう。

麻酔の世界にもラパ胆に相当するような新たな技術が導入され,それに乗り遅れた麻酔科医は仕事ができなくなる。そんな悪夢のような未来は想像もしたくない。

今後の麻酔にどのような新技術が登場するのか,凡人の私にはわからないが,私が麻酔科医になってから今までにどのような変化が麻酔科領域にあったかを振り返ることはできる。

揮発性麻酔薬
ハロセンやエンフルレンが廃れ,セボフルレンやイソフルレンが主流になった。これは特に問題なかった。「ハロセンでは麻酔できるが,セボフルレンは使えない」という麻酔科医はいないだろう。

ラリンジアルマスク
短時間の手術では重宝するし,私もよく使っている。しかし,ラリマを使えない麻酔科医がいたとしても,仕事ができないわけではない。挿管すれば済むことである。ラリマでの麻酔を要求する外科系医師もいるかもしれないが,ラリマには誤嚥を防げないという重大な欠点があるため,挿管擁護派は肩身の狭い思いをしなくてもよい。

プロポフォール
ラリマの挿入時にはこれが便利であるが,別になくても構わない。今でもラボナールやイソゾールで導入している施設もあるだろう。TIVAだって好きな人がやればいいだけなのだから。

トラキライト
これが使えれば挿管困難に対するストラテジーがひとつ増えるが,ファイバースコープやインテュベーチングラリマなどに習熟していれば,トラキライトが使えなくても問題ない。常勤麻酔科医がいながらも,これを置いてない施設もあるだろう。

TEE
心臓血管外科の手術には必要だろうが,一般的なバイト麻酔では目にすることもない。心電図のようなルーチンモニターになれば別だろうが。

結局,過去十数年間の麻酔科領域では,(一般的なバイト麻酔の範囲では)習得に苦労するような手技はなかったように思う。

そもそもラリマが登場したときも,ラリマの熟練者に手取り足取り教えてもらった日本人医師がどれほどいるだろう。ラリマもトラキライトも,みんな文献や説明書を見ながらおそるおそる試したのではなかったか。ダメならいつもの喉頭鏡で挿管すればよいだけだったし,patientに危険がおよぶことも(私の知る限り)なかった。新しい医療機器やインプラントを使用する鏡視下手術や整形外科手術では,今も業者からの説明を受けながら手術をしている光景をよく見かけるが,私はラリマやトラキライトの説明を業者から受けた覚えはない。

ただ,過去に大きな変化がなかったからといって,将来にもないとは断言できない。

気管挿管に代わる,合併症がきわめて少ない気道確保手技,あるいは気道確保そのものが不要になるような呼吸手段が開発され,その習得には時間と労力がかかる。このような状況もあるかもしれない。

しかし「いつもひとりで麻酔していれば,新たな技術を習得できない」というのなら,それにあてはまるのはフリーター医師だけではない。中小病院で一人医長として日夜がんばっている常勤麻酔科医も同じはずだ。むしろ時間に余裕のあるフリーターのほうが,新しいものを学びやすいかもしれない。

それに,新しい技術が自分にとって難しく,とても習得できないとあきらめた場合でも,「慣れた方法が一番」という念仏を唱えれば何年か働けるだろう。

学会のシンポジウムなどで,「ある状況(病態)への対処法としてどの方法が良いか」がテーマになることがあるが,最後の締めくくりに司会の先生がよく用いる決まり文句,どのシンポジストの顔もつぶさずに済む台詞,「つまり,慣れた方法が一番ということでよろしいですね?」

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July 05, 2005

傘をさしただけ

今年はカラ梅雨かと思ったが,ここ数日は毎日のように傘をさしている。
その昔,傘という雨具がまだなかったころ,傘を発明した人が初めて傘をさして雨中の街を歩くと嘲笑されたとか。

勤務医を辞めてフリーターになるのは,傘をさす程度のことかもしれない。

自分にとって雨量(仕事量?,ストレス?)が多かったから,傘をさしただけ。

雨量には地域差があるだろうし,同じ雨量でも「この程度の雨で傘なんかいらない」という人もいるだろう。

「ズブ濡れでも我慢している人が大勢いるのだから,おまえも我慢しろ」という人も少なくない。

傘をさした麻酔科医はまだ少数派で,周囲の麻酔科医たちはうわべでは「いいなあ,気楽で。自分もそうしたいな」とうらやみながらも,本心は「自分はまだそこまで落ちたくない」「最後の駆け込み寺としてとっておく」といったところか。

最近,あちこちの病院で麻酔科医が大量辞職するという話を耳にする。特に,独立行政法人 国立病院機構○○医療センターという名の病院が多いようだ。これらの病院は,(私が知っている範囲では)昔の病院名の頃から「土砂降り」で有名だった。辞職した麻酔科医がフリーターになるのかどうか知らないが,また何本かの傘が開くのだろう。

先日,雨の程度を見くびって傘を持たずに出かけ,びしょ濡れになってしまった。

びしょ濡れになってから傘をさしても,服は乾かないのであった。

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June 28, 2005

同じ土俵では

先日いつものように2例の全麻手術を並列で管理していると,別室から某外科系医師が「ルンバールが入らなくて困っているのですが・・」と言いに来た。

その症例の部屋に行ってみると,別の医師がまだルンバールをトライしていた。patientの腰にはすでに何カ所か穿刺の跡が見られた。どうやら3人の医師が代わる代わる試みたが,tapできなかったようだ。
確かにpatientは肥満しており棘突起も触れにくそうであったが,これぐらいの体型は珍しくない。エピの際にもよく遭遇する体格である。patientに聞いてみると,現在下肢にしびれはないが,穿刺の最中に一度だけ放散痛を感じたらしい。

私は迷った。

この病院ではルンバールでできる手術はすべて各科で麻酔を行っている。つまり外科系医師たちは,毎日とはいかないまでも,三日に一度くらいはルンバールを施行している。全脊麻などトラブルへの対処はさておき,穿刺そのものは私より上手かもしれない。確かに私は硬麻で用いているパラメディアンアプローチを応用できる。穿刺跡を見る限り,彼らはメディアンしか行っていないようだ。パラメディアンでは案外簡単に穿刺できるかもしれない。あるいはメディアンでも入るかもしれない。しかし,放散痛が気になる。また,放散痛は問題なくとも,硬膜外血腫のこともある。出血傾向はないようだが,複数の医師が穿刺を試みた後に硬膜外血腫ができ,そのために下肢麻痺が生じた場合,誰の責任になるのかわからない。確実なのは,穿刺を試みなければ責任は問われないということだ。エピなら穿刺部位を3椎体ぐらいずらしてトライすることも可能だが,ルンバールではそうもいかない。

私がルンバールに成功すれば,通常のルンバール手術として各科管理になるが,ルンバールを避けて全麻に変更となると,全麻症例として私が術中管理しなくてはならない。既に2例を並列管理しているため,この症例が全麻になると3例並列になってしまう。

私の頭には最悪のシナリオがよぎった。
私がルンバールを何回か試みても穿刺できず,時間が過ぎていく。だんだん焦ってくる。ときどき,全麻手術の部屋からナースがやってきて「血圧が80台後半です」だの「バッキングが起こっています」などと言って私の集中力をそぐ。外科系医師たちは私の背後から私の手技を眺めつつ,心の中で「プロの麻酔科医がやっても入らないのだから,われわれのルンバールの腕が悪いわけではない。patientの脊椎が異常なのだ」と唱え安堵する。結局,全麻に変更となり,私は3例の全麻を管理することになる。術後,patientは下肢のしびれを訴え,ルンバール手技がその原因として疑われる。結局,穿刺を試みた回数が一番多かったのは私だった,ということにもなりかねない。

私は「誰かがルンバール針を何回も刺した背中に,さらに刺すのはイヤです」などとは言わず,「先生たちがルンバールしようとして入らなかったのなら,私がやっても入らないでしょう。全麻にしましょう。当然,私が管理します」と言った。

「ルンバールという同じ土俵で,その外科系医師たちと勝負するのを避けた」という見方もできる。

以前なら,「腕の違いを見せるチャンス」とばかり,張り切ってルンバールをトライしたことだろう。ずいぶん臆病になったものだ。研修医やローテーターがトーヒ針を刺しまり,皮下出血や局麻で腫れてきた背中に針を進めたことも今までに数え切れないほどある。それに,ThならともかくL2/3あたりに万一血腫ができてもそれほど重篤にはならないはずだ。

しかし,後で冷静になって考えてみると,迷ったことさえ馬鹿げている。次も同じような状況になったなら,即「全麻に変更」を決断するべきだ。ルンバールで行うはずだった手術なら,手術時間は短い。3例並列になるのもせいぜい2時間程度である。諸般の事情により,もっと長い時間を3例並列管理したこともあるのだから。

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June 23, 2005

薬剤誤投与

医師が「塩カル」と指示したのをナースが「塩カリ」と聞き違え,KCLを小児に静注,その結果心停止から重度の脳障害に至った事件の判決が先日あった。塩化カリウムをワンショット静注したらどうなるか知らなかったナース,心肺停止している小児に適切な蘇生処置をしなかった医師など,問題点はいろいろあるだろう。

医療従事者にとって薬剤誤投与は身近な問題である。明日は我が身かもしれない。

ある病院に勤めていたとき,「内科や外科の医者が薬剤のアンプルを触るのを見たことがない。この病院のなかで医師自らが薬剤のアンプルを開封し,内容液をシリンジにセットしているのは麻酔科だけではないか」と常々思っていた。病院によっては導入薬剤の準備をナースがしてくれる施設もあるだろうが,その病院では緊急手術などでどんなに忙しくても静脈麻酔薬,筋弛緩薬,各種血管作動薬など,麻酔で使用するすべての薬剤の準備は全部麻酔科医が行っていた。私は「麻酔導入にルーチンに使っている薬だけでもナースが用意してくれればいいのに」と思っていたが,医長でもない私に,“ナースの仕事を新たに増やす”ことなど口にすることはできなかった。

そんなある日,某地方病院へ麻酔のバイトに行かされた。初めて行ったバイト先の慣れない手術室では,いつものように薬剤を自分で準備しようとしてもどこに何があるのかわからない。まごついていると,ナースが「薬の準備しましょうか?」と言ってくれた。「薬やシリンジの場所がわからない自分が用意するより,まかせたほうが早いだろう」と好意に甘えつつ,「田舎の病院のナースは気が利く。いや,これが本来の姿なのだ。麻酔科だけが薬の準備を自分でするのは古くからの悪しき慣習だ。不公平だ」など,勝手なことを考えはじめていた。さて,ナースが用意してくれた薬剤で麻酔導入は問題なく経過した。ところが手術中にVPCが散発し始め,その数は次第に増えてショートランまで見られた。私はナースに「静注用キシロカイン1アンプル!」と言いながら,基礎疾患や術前検査(電解質)を確認するため,カルテを繰っていた。そしてナースが「キシロカイン,全量投与していいですか」と言ったので,「ああ,すぐ入れて」と答えた。ナースがシリンジを三方活栓に接続し,押子を押そうとするのが目に入った。しかし,それは10mlのシリンジであった。
私「ちょっと待って,なぜ10mlのシリンジなの?」
ナース「えっ? 全量が10mlなので」
私「5mlじゃなかった? 空アンプル見せて」
ナース「これです」

アンプルのラベルには10%キシロカインと書いてあった。

恥ずかしながら,静注用キシロカインに10%10mlの製剤があることをそのときまで知らなかった。もしあの時,10%10mlをワンショットで静注していたら,確かにVPCは消失しただろう。正常QRSとともに。

その日以来,薬剤の準備を自分ですることに何の不満も感じなくなった。

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June 18, 2005

メリハリか?,毎日少しずつか?

今週はいずれの勤務日も,一日(といっても午後から)の症例が4~5件で忙しかった。勤務のない日は当然完全休業なので,メリハリのある一週間だった。これこそ,私が望んでいたライフスタイルのはずである。

ただ,平日に休んでも特にすることはなく,一日中ボーっとしているだけだった。

そのうち,「月曜から金曜まで毎日2件程度をこなすほうがいい」と思うようになるかもしれない。

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June 13, 2005

プシった医者の行くところ

私がバイトしているA病院に派遣されるはずだった医者Xのその後の話。

A病院の院長がXの病気のことを知らなかったというのは本当らしい。院長は常勤医としてのXの派遣を断っただけでなく,週1回のバイトでも来させないでくれと,Xのボスである大学教授に申し入れたとか。A病院の院長はかつて,同じようなプシった医者を引き受けて痛い目にあったという。

先日の学会で大学の連中に聞いたところ,Xの病気が悪化したというのも単なる噂ではなかった。日によって波はあるらしいが,奇異な言動が最近特に目立っているそうだ。

そんなXでも奥さんを養い,子供を育てなくてはならない。教授はXに,患者と接することの少ない診療科に転科するよう勧めた。Xも病識がまだあるせいか,転科を拒まなかった。しかし,転科先のほうはXを拒みたがる。本人は放射線科の読影医になることを望んだが,放射線科の教授がXの入局を拒否したため,やむなく病理医を目指すことになった。病理学教室が受け入れたのは,病理の教授がXのボスと仲が良いためという説と,「Xの病気は軽症」としか聞いていないためという説がある。Xは元の科で助手だったが,病理でも助手なのか,科が違えば降格人事はありえるのか,現在のところ情報はない。

Xに関してはふたつの見方があると思う。

1.「得意だった手術もできず,畑違いの仕事を一から始めなければならない。気の毒に」という見方。

2.「プシってしまっても医師の資格を失うことなく,畑違いとはいえ医師として働くことができる。家族だって養える。こんな恵まれた職種が他にあるだろうか?」という見方。

私は後者の考えである。それとも他の職種,警察官,教師や一般サラリーマンがプシっても配置換え程度で済み,クビにはならないのだろうか。病気の程度にもよるだろうが,大阪市など福利厚生が手厚い地方公務員ではどうなのだろう。


「研修医の4人に1人がうつ状態」という調査があったが,研修医に限らず,医師(特に勤務医)にかかるストレスは今後も増えることはあっても減ることはないだろう。プシる原因がストレスだけとは限らないだろうが,精神に変調をきたす医師が増えても不思議ではない。しかし,Xの例をあげるまでもなく,プシったが失職していない医師を何人も知っている。
極論かもしれないが「医師という職業はストレスが多くプシりやすいが,プシった後も何とか食べていける,恵まれた職種」なのではないだろうか。

ストレスが多いのは勤務医だけではない。どんな職種についてもストレスがかかるような世の中なら,「万一プシっても職を失わないために,医者を目指せ」と子供にアドバイスしたほうがいいかもしれない。
医局制度が完全に崩壊した後はどうなるか知らないが。

前にも書いたが,医局の庇護を受けられないフリーターの私がプシった場合を考えると不安になる。
ただ,今の私はストレスとは無縁と言っても過言ではない。

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June 08, 2005

大学病院の麻酔

先週の学会では某大学病院の麻酔科医らと会い,いろいろな話を聞いた。

その大学病院の麻酔科も例に漏れず人手不足で,十数室ある手術室のうち,術中管理を正規の麻酔科医が行っているのはほんの2,3室に過ぎず,残りの手術室は他科からのローテーターや研修医(卒後2年以内で,どの科にもまだ属していない)が術中管理を担当している。もちろん,麻酔導入時と覚醒時には必ず監督医(指導医,専門医)がついている。「ウチの大学では昔からそうだった」という人もいるだろう。しかし,昔の研修医は卒業と同時に麻酔科に入局し,関連病院に派遣されるまでの期間はずっと麻酔の修行をしていたはずである。そのため,卒後半年もすれば「プロの麻酔科医」とまではいかずとも,「手のかからない実働部隊」程度には成長している。ところが現在の研修医は3か月で交替する。つまり一生懸命教えても,3か月すれば交替し,また一から教えなくてはならない。そもそも麻酔科に入局してくれるかどうかわからない(まず来ないとみなして間違いない)ので,教える方もあまり力のこもった指導をせず,「お客さん」に気管挿管を体験してもらう程度になってしまう。

しかし,3か月で入れ替わってしまう「お客さん」研修医でもモニターの見張り番程度はできるため,研修医に挿管の練習をさせた後,血行動態が落ち着いたら監督医はその場を離れ,研修医をひとりにして麻酔管理をさせているらしい(研修医が余っているときは,研修医だけのペア)。何しろ監督医ひとりにつき3~4部屋のスーパーバイザーを務めるため,ひとつの部屋につきっきりではいられない。監督医は一番頼りない研修医の部屋に常駐し,他の部屋で何かあれば院内PHSや放送で呼ばれる。研修医には「とにかく少しでも異常があれば,迷わず監督医に連絡するよう」指導しているとか。
また,研修医ではなく卒後数年たっている他科からのローテーターは医師としての経験を市中病院で積んでいるため,戦力になるのにたいして時間はかからないが,それでも最初のうちは全身麻酔に関して素人である。

結局,マンパワー不足のせいで,お客さんと素人に術中管理を任せざるを得ない状態だという。研修医も医師には違いないので一応並列麻酔にはなっていないが,専門医に異常を知らせるのがナースか医師かの違いだけで,バイトの並列麻酔とたいして変わらない。ある麻酔科医は「大学では3~4列の並列麻酔をしているようなもの。外勤でも並列麻酔をしているが2列だけだし,エピも挿管も自分でするのでストレスが少ない。一週間のうちでほっとするのは外勤日と研究日だけ」と言っていた。

一方,麻酔科に回ってくる研修医の数だけは多いらしく,彼らに挿管体験してもらうため,ローテーターの挿管機会が少なくなっているようだ。また,ローテーターに当てられる症例はリスクが低いことが多く,救命士挿管実習のかっこうの候補となる。patientが実習を承諾すれば,気管挿管は救急救命士が行うことになる。

人手不足は麻酔科だけではない。麻酔科にローテーターを送る側の外科系各科も新研修医制度のせいで労働力は不足している。そんなマンパワーの台所事情が苦しいにもかかわらず,どの診療科も何とか麻酔科にローテーターを送り込んでくる。そして先日の整形外科医のように,ローテーターが麻酔科で一番得たいものは気管挿管のテクニックなのであって,術中の呼吸・循環管理ではない。一般病院での当直の際,急変した患者に気管挿管できるようになりたいのだ。ところが,挿管の練習機会は研修医と救急救命士に奪われてしまう。実際「麻酔科に来てもろくに挿管させてもらえない」とこぼすローテーターも最近は多いらしい。このままでは麻酔科へのローテーター派遣を中止する診療科もでてくるかもしれない。

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June 06, 2005

学会明け

別に発表したわけではないが,学会疲れが残る身で麻酔4件は疲れた。
いずれもリスクの低い症例で手術時間も長くはなかったが,最後は2つの部屋でほぼ同時に手術が終了したため慌ただしかった。

手術室の看護師長には「いつも忙しい思いをさせてすみません」と言われた。

あるナースは「(午後)5時までに終われるとは思わなかった」と喜んだが,それは「手術がうまくて早く終わった」という意味なのか,「並列だったので4例でも早く終われた」という意味なのかわからない。

後者だと思っておこう。

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June 01, 2005

その手には乗らない

先日,バイト先の整形外科医が「麻酔を手伝いたい」と言ってきた。
今までにもバイト先で「麻酔を教えて欲しい」と言われたことはあるが,いずれも消化器外科医で,整形外科医は初めてだ。しかも「教えて欲しい」ではなく「手伝いたい」とは。

話を聞いてみると,数年前に大学病院で半年間の麻酔科ローテートを終えているという。

通常,整形外科医は麻酔のローテートを終えていても,職場で「自分は全身麻酔できます」とは言わないはずである。常勤麻酔科のいない病院でうっかりこれを口にすると,整形外科専属の“全身麻酔担当医”とされるおそれがある。つまり麻酔ばっかりやらされて,術者として手術に参加させてもらえなくなる。だからどんなに麻酔に自信があっても,上司には「麻酔科を半年間ローテートしましたが,もう麻酔はこりごりです。怖い経験も何回かしました」と逃げるのが普通と思っていた。

不思議に思ってさらに話を聞いてみた。

最近の当直の夜,ある患者に気管挿管を試みたところ全然入らず,結局外科医に挿管してもらったとか。麻酔科ローテートの後半は気管挿管に失敗することなど全くなく,かなりの自信を持っていたらしい。わずか数年でここまで腕が落ちるとは思わなかったので,ひどく落ち込んだそうだ。

そして彼の提案を要約すると

・整形外科症例のうち,彼が術者や前立ちとならない症例の麻酔管理を引き受けるので,挿管もさせて欲しい。
・彼が担当した麻酔の報酬も今まで通り,私に支払われる。減額もない。
・できればトラキライトを練習したい。

ということであった。

彼の要求をのめば,私は楽になるかもしれない。ひとつの手術の麻酔管理を彼にまかせ,私はもうひとつの手術の麻酔に専念できる。表向きは並列にならない。報酬も今まで通りだし。

だが,その手には乗らない。

彼は麻酔に興味があるのではなく,トラキライトに興味があるのだ。そういえば,彼は私が挿管するとき,いつも食い入るように挿管手技を見ている。彼が私の指導下でトラキライト挿管したとして,その後のことはだいたい想像がつく。整形外科の手術ではレントゲン透視装置(Cアーム)がよく用いられる。その病院の手術室でCアームを操作するのは放射線技師ではなく,整形外科医である。Cアームを必要とする手術ではもともと外回りの整形外科医が必要なのである。彼の提案は,「自分がCアーム担当のときに,麻酔管理もするからトラキライト挿管させろ」ということなのである。そしてさらに彼はまぎれもなく整形外科医なのであるから,彼の注意力・集中力の多くはおのずと手術手技に注がれるだろう。

私だって術野は見るが,それは「出血は多くないか,あとどれくらいで終了するか」という視点で見るのであって,術者の手術テクニックを盗むべく一挙手一投足を注視するようなことはない。麻酔経験半年の人間がCアームと術野に気をとられながら管理するよりも,今まで通り私がひとりで並列管理する方がはるかに安全だ。

それともうひとつ落とし穴がある。それは彼が麻酔に自信を持っていることだ。半年程度の経験で麻酔に自信を持つなとは言わない。半年もあれば多少の経験も積んである程度の自信はつくだろう。それは構わない。ただ,その自信があるため,イベントが生じても私になかなか報告せず,自分で解決しようとすることがある。出血量が増えて太い静脈ラインが必要になっても何とか自分でライン確保しようとし,かけつけたときには主な末梢静脈が全部つぶれ,血圧は60台なんてことはごめんだ。 収縮期血圧が104mmHgから98mmHgに低下しただけで,別室まであわてて報告しに来るナースのほうがましである。

結局,私は彼にこう言った。

「君が全身麻酔をしたいなら,私が並列管理する2例以外に,3例目として独自にやってくれ。もちろん,困ったことが起きればいくらでも助ける。ただし,君が担当する症例の麻酔記録にも手術記録にも私の名前は一切書かないでくれ。当然,君が担当した症例の麻酔報酬を,私が請求することはない」

それにしても,トラキライト挿管は簡単そうに見えるのだろう。やってみたくなるのも無理もない。整形外科ではブロンコキャス(トラキライトが使えない)を入れることもなく,小児もラリマなので,彼らは私が喉頭鏡を使って挿管するところを見たことがないのだ。そういえば,この一か月ほど喉頭鏡に触ってないような気がする。

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May 28, 2005

少しだけ罪悪感

今週はいつにもましてヒマだったため,郊外の巨大ショッピングセンターに二日連続で行ってしまった。土日には周辺道路が渋滞するほど集客力があるそうだ(土日に行ったことはない)が,平日昼間の利用客は少なく,のんびりヒマつぶしするにはちょうど良かった。吹き抜けのある広場には休憩用のベンチが置いてあるが,ひとりで座っているのはたいてい男性だ。奥さんの買い物につきあうのに疲れたのか,最初からひとりなのか。他は老夫婦や女性だけのグループがちらほら。

私も空いているベンチに座り,高い天井のガラス越しにそそぐ陽光を浴びながらぼんやりしていた。
今も勤務医を続けていたなら,来週の学会の準備に追われていたかもしれない。緊急手術の麻酔を徹夜でこなし,翌日も朝から予定手術の麻酔をかけ,その合間を縫ってポスターの作成・・・。気のせいか,夜間の緊急手術は学会前に多かったような気がする。

それが今や,毎日8時間ほど睡眠(我ながらよく眠るものだ)し,このように平日昼間からブラブラしている。
勤務医たちが医療システムの不備を個人のがんばりでカバーしている現状を思うと,少し罪悪感のようなものを感じてしまう。

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May 21, 2005

プシに関する本音

私のバイト先であるA病院に,プシった医者Xが常勤医として赴任する話はなくなったようだ。

不思議なことに,いろいろな説が飛び交っている。

①病院側(院長)が拒否した。
   院長はXの病気のことを最近になって知り,あわてて大学に拒否の連絡を入れたという説。
Xの病気のことは同大学出身の医師の間では有名だったので,院長が知らなかったとは考えにくい。しかし院長は内科系なので,あり得るかもしれない。

②Xの病状が重くなってきた。
   薬でのコンロトールが悪くなり,大学から派遣取り消しを申し入れてきたという説。
そういえば,Xは大学では手術だけでなく外来の担当もはずされたとか。

③(旧)隣町のB病院に常勤医として派遣される。
   B病院には精神科があり,そこでpatientとしてフォローを受けながら常勤医として働き,A病院にはいままでどおり外来のバイトとして(A病院とB病院は町村合併によって経営母体が同じになったので,厳密にはバイトにはならない)来るという説。 
身体的疾患ならともかく,精神疾患で自分の勤務先の精神科にかかるのはどうだろう。待合室のイスに座って診察を待つことはないだろうが,パラメディカルを通じて噂がすぐに広まりそうだ。私なら勤務先とは遠く離れた病院の精神科に診て貰うだろう。

④X自身が大学に固執している。
   手術も外来もはずされ,最初は不満だったようだが,最近は一日中インターネットしているかバイトで外出している(半日のバイトでも大学には全く来ないらしい)生活に満足しているという説。
A病院での正規のバイト以外にも,他院で闇のバイトをしているという噂もある。大学ではほとんど働いていないのに助手として給料だけでなくボーナスも貰っている上,昼間のバイトは行き放題。医局員にとっては手術室や病棟にいられるより,バイトに行ってくれているほうが有り難いため,とがめられることもない。確かにおいしい身分ではある。この説が本命か?

XがA病院に来ない理由はともあれ,私はちょっと残念だが,大いに安心した。

ちょっと残念なワケ
私はA病院では一度も怒ったことがない。大病院と異なり,医師たちは礼儀正しくナースもよく働いてくれるため,腹を立てることがなかった。私のほうでも,いつも気持ちよく仕事しているせいもあってか,少々の不手際などには目をつぶってきた。しかし最近ちょっと,なめられているというほどではないが,「与し易い」と見られているような気がする。私自身にも言えることだが,緊張感が低下するとそのうち不祥事が起こりそうだ。ここらで少し引き締めておいたほうが良いのでは思うようになった。
麻酔を依頼してきたXに向かって,「お前,いつか『麻酔なんて簡単だ。誰にでもできる』と豪語していたじゃないか。自分で麻酔しろよ」と私が言ったなら,A病院の医師やナースたちは目が覚めるだろう。「あの温厚な先生も怒ることがある。そうだ,あの先生はバイトなのでいつでも辞められるんだ。怒って辞められると手術できなくなる」と感じてもらえるかもしれない。
ただ,困った点はXがプシっていることだ。「精神を病んだかわいそうな医師をいじめるひどい人」というレッテルを貼られる危険性がある。「Xがプシる前,それもずいぶん前から嫌いだった。プシっているから拒否しているわけではない」と周囲に説明してまわらなければならない。

大いに安心したワケ
Xの病勢が進行しているのが真実だったとして,私が予定通り「お前の依頼は受けない」と言ってしまったときのことを想像すると,ちょっと怖い。ネット上でなら,プシっていると思われる医者にいくら絡まれても鬱陶しいだけで無視すれば済むし,刺される心配はない。しかし生身をさらす現実社会では恐怖だ。「プシ=刺される」はいかにも短絡的ではあるが,あり得ない話ではない。私が怒らせた後,Xの耳に「天の声」が聞こえ始めるかもしれない。
「シゾも持病のひとつ。DMや高血圧と同じ」と前にも書いたが,あくまでも建前である。Xが私の嫌悪する相手ではなく,「ただのプシっている医者」だった場合はどうするか,胸に手を当てて考えてみた。正直なところ,一緒に働きたくない。できれば離れていたい。精神科の先生から「医者のくせに病人に偏見を持つな」と怒られそうだが,医者のなかでも「偏見持たずに一緒に働けます」と断言できる者が多数派とは思えない。

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May 17, 2005

麻酔看護師

今月11日~13日に名古屋で日本外科学会の学術集会が催され,「麻酔医不足に外科医はどう対応すべきか?」というタイトルの特別企画があったらしい。麻酔科の学会では今まで何度も「麻酔科医をいかに増やすか」といったタイトルのシンポジウムなどが開かれていたが,ここにきてやっと外科医たちも危機意識に目覚め,学会で取り上げるようになった(私が知らないだけで,過去にも外科学会で取り上げられたかもしれない)。しかし,麻酔科医は「麻酔医」と呼ばれることを非常に嫌う。あまりこだわるほうではないと思っている私でさえ,バイト先のロッカーに「麻酔医用」と書いてあると,誰にも何も言わないが内心少しムッとする。この特別企画には麻酔科医も参加しており,彼らの報告ではタイトルを「麻酔(科)医不足に外科医はどう対応すべきか?」と括弧付きで修正している。

外科医が学会で麻酔科医不足の対策について討論するのは結構だが,「麻酔科医は麻酔医と呼ばれることを嫌う」という習性も知らないようでは,おそらく麻酔科医を満足させるような案は出てこないと思う。もっとも,外科医にしてみれば手術ができればいいのであって,何も麻酔科医を満足させる必要はないのだろう。外科医は「外科医が満足するような案」で充分なのだ。それが証拠に,外科医たちはやはり麻酔看護師を望んでいるようだ。

私は立場上,麻酔科医が少し不足しているくらいが有り難い。しかし,あまりに不足すると抜本的な改革が進められる可能性がある。麻酔看護師もそのひとつだ。仮に麻酔看護師という職種を作るとして,どの程度の手技までさせるのだろう。救急救命士が挿管しても構わないご時世だから,看護師も挿管できるという制度を作るにあたりハードルはそう高くないだろう。エピも分離換気もさせるのか? 今の麻酔科医と全く同じことをさせると,将来「麻酔科医になっても看護師と同じ仕事しかできない」という理由で麻酔科の人気はますます落ちるだろう。

2007年を皮切りに団塊の世代が定年をむかえ,労働力の低下が懸念されている。それだけでなく団塊の世代が高齢化するということは,手術を受ける患者も多くなるはずだ。それまでに麻酔科医不足は解消しているだろうか。

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May 14, 2005

私がプシらせた?

休みが長く続いたため,3日連続で働いただけで疲れたが,連休ボケを吹き飛ばすようなニュースが耳に入った。

私のバイト先の病院(A病院としよう)に,某医師(Xとしよう)が来月から赴任してくるらしい。A病院にはその診療科の常勤医は現在おらず,大学からXが非常勤として外来を週一回担当している(他の医師二人も別の曜日にバイトで来ているので,その科の外来は週三回ある)。そしてA病院のその診療科の初代常勤医としてXが派遣されてくるのだ。常勤となると外来だけでなく手術もするだろう。その診療科は全麻が必要となる手術も少なくない。A病院のバイト麻酔科医は私しかいないため,Xが全麻の手術をしたい場合は私に麻酔を依頼することになる。しかし,私は依頼を断るつもりだ。いや,Xが私に依頼することはないかもしれない。私はかつて,ある病院の病棟でXと大げんかしたことがあるのだ。Xが麻酔科の研修医をいじめてくれたので,私がXのいる病棟に乗り込んでいった。頭に血が昇った私は,「おまえらがやってる手術は,患者には意義のある重要なものかもしれないが,麻酔科にとってはつまらない手術だ」「エピも入れない,体外循環も回さない,分離換気もしない,麻酔科にとってはだらだら長時間続くだけの退屈な手術だ」「そんなつまらない手術の術式を尋ねるなんて,ウチの研修医は偉いじゃないか」「こんなつまらない手術の術式など知らなくても,麻酔できる」など,さんざん「つまらない手術」を連発したあげく,「麻酔をかけてやってるほうと,かけてもらっているほうと,どちらが立場が強いかよく考えてもの言え」というようなことまで言ってしまった。私は言いたいことを思いっきり言ってやったので気持ちよかったが,その後もXは麻酔科を軽視するような言動が目立ち,麻酔科全員から嫌われていた。また自分の科の研修医や病棟ナース,手術室ナースにもきつく怒ることが多く,よくあるように「プシっている」という陰口があちこちでささやかれるようになった。実際,奇異な言動も目立つようになったという。そして,病識があったのか周りの勧めが強かったのか知らないが,精神科を受診しシゾフレニアと診断された。私は口の悪い後輩たちから「もともとその傾向があったのを,先生がとどめを刺したのです」と言われてしまった。確かに,手術に自信のあるXが,自分らの病棟のナースステーションで,「つまらない手術」と言われまくったのだからショックは大きかっただろう。後悔はしていないが,ほんのわずかだが責任を感じている。でも,今でもXが嫌いなことに変わりはない。

私は以前,「プシった医師は大学に戻され,医局で飼われることになる」と書いたが,Xの場合はまったく逆で,大学病院から関連病院に送られる。これには,新研修医制度にからむいろいろな事情があるらしい。教授はXを研究室に閉じこめようとしたが失敗した。Xは臨床,特に手術が好きで,術者からはずれていても手術室に現れた。ただそれだけなら良いが,学生やスーパーローテーター(SR)をつかまえ,ささいな知識不足や手技の未熟でもみんな(patientsやナース)の前できつく叱り,馬鹿にすることが多かった。新研修医制度のせいで,どの診療科も去年と今年は新入医局員がゼロであるが,来年春には2年ぶりに入局者が得られるはずである。しかし,Xが大学にいたのでは入局者は来年もゼロかもしれない。実際,「Xがいるのでその科には入局しない」と公言してはばからないSRもいる。
また,新研修医制度のせいで大学が人手不足となり,その不足分を補うために関連病院から医師を呼び戻す医局が多く,Xの科でも関連病院から何人かの医師が呼び戻されている。その結果,助手のポストが不足してきた。Xは助手なので,Xが外に出れば助手のポストはひとつ空く。現在Xは当直からはずされており,他の仕事も少なめである。Xがいなくなって代わりに働き盛りが来れば,他の医局員の負担は少し減る。

送り出すほうはいいかもしれないが,受け入れるほうはどうか。Xはきちんと服薬遵守し,疾患のコントロールはできているそうだ。しかし,A病院の外来ナースの間では「すぐにキレる」と,評判は良くない。ただ,バイト先でも偉そうに叱りつける医者はどこにでもいるので,コントロールできていないとは言えない。精神科から「治癒した」との診断があったかどうか知らないが,Xのボスである教授は「治ったからどこへでも出せる」と言っているらしい。転勤の際には健康診断書を転勤先に提出することになるが,そこにどう記載されるのか。個人情報保護法などができても,人の口に戸は立てられない。隠し通せるものでもなく,A病院の院長がXのウワサを知らないはずはない。A病院のほうにもXを断れない事情があるようだ。先頃の町村合併のせいでA病院はいずれ市民病院になる予定だが,市民病院という立派な名称となる以上,某診療科がバイトの外来のみというのはまずいということになった。そこで,プシった医者でも受け入れざるを得なくなったという話だ。院長がXのバイト外来での働きぶりを見たのかどうか知らないが,一応外来をこなせるのだから常勤も大丈夫と判断したのだろう。

「シゾもただの疾患のひとつ,DMや高血圧と同じ」と言えなくもなく,罹患している(あるいは罹患した既往がある)という理由で距離を置こうとするのは,医療従事者としてあるまじき態度だ。だが,patientsにとってはどうだろう。自分のからだにメスを入れる術者がDMや高血圧でも(術中に倒れられたら困るが)特に心配はないが,持病がシゾなら・・・。私がpatientなら,プシった医者に手術や麻酔はして欲しくない。

それにしてもXは,自分の赴任先の麻酔科医が私であることを知らないのであろうか。知っていたなら転勤を拒否するはずだ。それとも,全麻の手術はしないつもりか。

私はXと喧嘩しておいて良かった。なぜなら「プシった医者とは一緒に働きたくない」とうような差別的なことは言わず,「Xとは大喧嘩したことがあり,Xが嫌いだからXの依頼は受けない」と言えるからだ。こんなことを書くと「個人的な事情で麻酔の依頼を拒否するな。patientsのことを考えろ」とお叱りを受けるかもしれないが,私は「手術をするな」と言っているのではない。Xが他の麻酔科医を見つけてくれば済むことだ。
「嫌いなヤツをいちいち拒否していたら仕事などできない。フリーターは気楽でいいな」という声も聞こえてきそうだが,その通り,嫌な仕事を拒否できるのがフリーターの強みだ。今までは私とXは双方ともバイトで,勤務の曜日も違っていたのでA病院で顔を合わす機会はなかったが,来月からはそうはいかないだろう。Xの顔を見るのも嫌なら,私が来月からはA病院で働かないという選択肢もあるが,病院の廊下ですれ違うくらいは我慢するとしよう。挨拶はお互いしないと思うが。

念のために明記しておく。私は,Xがプシった(既往がある)医師だから拒否するのではなく,単に嫌いだから拒否するのである。

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May 08, 2005

当直とオンコール

暇なので昔のことを書こう。十数年前,私は地方の中規模病院に勤めていた。その病院の医師当直は部長以上を除く医師全員が交替で毎日1名ずつ担当していた。いわゆる全館当直と呼ばれるもので,夜間や休日に(個人的な用事で病院にいる医師は別として)その病院に医師は当直医一人だけとなり,当直医が眼科や皮膚科の場合でも腹痛や胸痛の救急患者を診なくてはならなかった。当直業務は病院が規定する正式な業務であり,当然当直料がわずかながら支払われていた。これとは別に各診療科ごとにオンコールと呼ばれるものがあった。いまさら説明するまでもないが,オンコールとは,いつでも連絡がつくようポケットベルを持って待機することである。待機といっても自宅で普通に過ごしていても,買い物やレジャーを楽しんでいても構わない。その診療科にかかわることで当直医師やナースがポケベルを鳴らすと,オンコール医師はただちに病院に電話する。電話での口頭指示で済むこともあれば,病院に急行することもある。オンコールは各診療科が独自に行っており,オンコールしたからといって待機料などは給料に加算されない。「オンコール時には30分以内に病院に戻れる場所にいること」などと厳格なルールを決めていた科もあれば,オンコール体制があるのかどうか疑わしい科もあった。

当直のスケジュールとオンコールは無関係である。例えば医師が5人いる診療科ではオンコールが5日に1回は巡ってくるが,それとは無関係に全館当直の順番も回ってくる。科長と研修医の二人しかいない診療科では科長が毎日オンコールしているようなもので,さらにときどき全館当直もしなくてはならない。ところが,その病院では麻酔科だけが全館当直を免除され,オンコールのみであった。それは,麻酔科のオンコールに連絡があった場合,電話での口頭指示で終わることはなく,ほぼ100%緊急手術の麻酔依頼であるから-つまり麻酔科のオンコールは他の診療科のオンコールに比べ拘束性が強いという理由による。しかし,麻酔科だけが全館当直をしないことに不満を感じる医師は多く,医局会で議題になることがたびたびあった。

その当時の私のボス,つまり麻酔科の科長はしっかりした人で,自分よりもはるかに年上の内科系・外科系の部長クラスを相手に一歩も引かなかった。ある日の医局会でのやりとりを,覚えている範囲で再現してみる。

内科系医師A:「眼科や皮膚科の医師も全館当直し,オンコールもしている。眼科のB先生は毎日オンコールしている上に全館当直も当たっている。麻酔科だけが全館当直しないというのは不公平ではないか」

麻酔科長:「公平にしろということですね。私も公平とか平等とかいう言葉は大好きです。この公平・平等という原則に基づき,来月から麻酔科も全館当直をすることにしましょう」

私の心の中:「えー? あなただけは信じていたのに」

麻酔科長:「ところで確認しておきますが,内科のオンコールの業務内容は内科が決めますよね?」

内科系医師A:「え?」

麻酔科長:「つまり,他の診療科から『内科のオンコールはこの仕事もして下さい』と押しつけられたりはしませんよね? それと,電話での口頭指示で済む場合もあり,必ずしも病院に行くことはないですね?」

内科系医師A:「それはまあ・・」

麻酔科長:「では,麻酔科のオンコールでの仕事内容も麻酔科が独自に決めて良いのですね?」

ただならぬ気配を察したのか,一同少し沈黙

麻酔科長:「私は他の診療科のオンコール業務がどのようなものか教えてもらったことはありません。ですから来月からの麻酔科のオンコール業務をここで発表する義務もないですが,勘違いされる人がいては困りますので,麻酔科の新しいオンコール業務について発表します。来月からの麻酔科のオンコール業務は,緊急手術で使用された麻酔器およびモニターの点検とします。不慣れな人が麻酔器やモニターを使用すると調子が悪くなりがちです。オンコールはこれらの点検を行い,次の予定手術が支障なく施行できるよう調整します。いままでは手術が始まる前に麻酔科に連絡されていましたが,今後は緊急手術が終わってから連絡してください」

外科系医師C:「それは,緊急手術の麻酔を麻酔科が担当しないということ?」

麻酔科長:「平日午後5時までに始まる緊急手術は終了まで引き受けますし,麻酔科医が全館当直しているときはその医師の判断にまかせます。オンコール体制のときはさっき言った通りです。例えば休日に私が全館当直でなくオンコールで自宅にいるときにポケベルがなったとします。私は病院に電話し担当医に『そうですか,イレウスですか。休日なのに大変ですね。麻酔器もモニターも病院の備品なので好きなものを使ってもらっていいですが,壊さないようにして下さいね。挿管時には誤嚥に注意し,輸液は多く入れてくださいね』とアドバイスぐらいはします」

外科系医師D:「もし麻酔科以外の医者が麻酔をして,何かあったら誰が責任をとるんだ」

麻酔科長:「何かあったらとは,医療ミスのことですか? 麻酔による医療ミスなら麻酔を行っていた医者が責任をとるのが当然だと思います。その場にいなかった者が責任をとれるはずありません。そもそも対等な立場の医者同士で責任をとったりとられたりするのはおかしいでしょ。それとも,麻酔科医は他科の医師がミスした場合の責任をとらされるほど偉い立場ですか?」

外科系医師E:「しかし,麻酔科という診療科があるのに緊急手術の麻酔をわれわれがするのはいかがなものか。麻酔科は特殊な診療科であり,オンコールでは緊急手術の麻酔を担当するのが当然ではないか」

麻酔科長:「麻酔科にも全館当直をさせようというのは,公平・平等の観点からではなかったですか? 全館当直では公平・平等を謳っておきながら,オンコールでは麻酔科の特殊性を考慮するのですか」

その後,しばし沈黙が流れた。

緊急手術など関係のない内科系医師たちはまだ不服のようであったが,外科系医師たちのあわてぶりを見て次第におとなしくなっていった。その後も麻酔科が全館当直しなかったことは言うまでもない。

今よりはるかに体力はあったものの,4,5日に一回のオンコールのたびに当たる夜間緊急手術にうんざりしていた私は,「月に1,2回全館当直するだけで休日夜間の緊急手術に呼び出されずに済むのなら,そのほうがいいかも」と少し残念な気もした。

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May 03, 2005

セミリタイヤ?

勤務予定を記入したカレンダーを見てみると,5月はGWのせいもあって全部で11日分の予定しかない。5月2日には勤務予定が入っていたが,手術が中止になって結局休みになった。5月6日はもともと休みにしたので,4月29日から5月8日まで10連休になってしまった。GW中はどうせ何処も混むだろうと,何の予定も入れていなかったが,こんなことなら遠出してもよかったかもしれない。

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May 01, 2005

断る理由

新卒医師の新研修制度が発足して1年が経過したが,どこの医局もあと1年しないと入局者が入ってこない。そのため,大学病院の働き手を確保する目的で各医局は関連病院の医師を大学に戻し,代わりを送らない,あるいはその診療科の医師全員を大学に引き上げさせるという話をよく耳にする。麻酔科も例外でなく,ただでさえ少ない麻酔科医を大学に引き戻され,困っている病院も多いようだ。特に私の近辺ではこの4月から常勤麻酔科医が少なくなる,あるいは全くいなくなる病院が多かったらしく,面識のない院長からのメールが2月から3月にかけて相次いで届いた。たいていは「突然のメールを送りつける失礼をお許しください。○○先生から先生のお話を聞き・・・」という出だしで,要は週一回でいいから私に非常勤で麻酔を担当して欲しいという内容である。院長とは面識がないものの単発のバイトで働いたことのある病院もいくつかあり,全く未知の病院は少なかった。また,麻酔保険料の全額を報酬として払うと明記しているところもあった。勤務スケジュールにはまだ余裕があるため,週一回程度なら可能であるが,結局すべて断った。ただし,将来こちらから「働かせてください」と頼むこともあるかもしれないので,表向きの理由は「現在,空いている曜日がありません」としておいた。

断った本当の理由は以下のようなものである。

・病院が遠い:同じ都道府県内でも自宅から遠かったり交通の便が悪かったりすると往復するだけで疲れる。
・常勤の麻酔科医がいる:常勤麻酔科医がいながらも手術が多くて非常勤を雇いたがっている病院もあった。モニターや麻酔器具が充実しているという利点もあるが,その常勤医の流儀に従わねばならないという足かせがある。つまり,好き勝手できない。
・手術が朝から実施される:田舎の病院では外科系医師が外来診療を終えた午後から手術を行うことが多い。朝から手術を行う病院には常勤麻酔科医がいるところが多く,上の項目と重なることが多い。朝食はゆっくり食べたいし,朝の渋滞や通勤ラッシュに巻き込まれるのもいやだ。
・手術室がひとつしかない:一例ずつしか麻酔できないと効率が悪い。
・嫌いな手術が多い:脳外科,小児外科は嫌い。
・ルンバールも麻酔科医にさせる:ルンバールは保険点数が低い。

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April 30, 2005

麻酔科医がプシったら

ある地方病院の某診療科(麻酔科ではない)の医師がどうやらプシったらしい。優秀で真面目な医師だったが,言動がおかしくなってきた。本人に病識はなく,まわりがいくら勧めても精神科を受診しないため診断はついていないという。その診療科の科長は医局の教授と相談し,その医師は4月から大学に戻された。一般病院で働くのは無理でも大学病院では働けるからだ。なるべくpatientsと接しない仕事を担当することになる。臨床科でそんなことが可能なのかと思われるが,大学病院にはいろんな仕事がある。まず大学病院は会議がやたらと多い。その医局にとって重要な会議にはしかるべき人間が出席するが,どうでもいい会議は彼にまかせる。パソコンか得意なので医局のPCの管理という仕事も与えられた。パソコンが苦手な教授のためにパワーポイントでスライド作りもするのだろう。しかし,会議は一日中あるわけではないし,パソコンの調整も連日必要なわけではない。今後ほとんど毎日ブラブラして過ごし,病気が治るか本人が医局を辞めたいというまで,大学医局で“飼われる”ことになる。

何かと問題を指摘され,一部で崩壊しつつある医局制度であるが,そのプシった医師が職を失わずに普通に給料をもらえるのは,面倒見のいい教授と医局制度のおかげかもしれない。ただ,他の医局員にとっては迷惑である。プシった医師が(プシっていなければ)するはずの本来の仕事(外来,病棟,当直,研修医の指導など)をみんなで分担することになる。

ふと,「私がプシったらどうなるのだろう」と考えてしまう。私も含め,一般的なバイト麻酔医は術前に病棟でpatientに麻酔の説明をしたりしない。手術室で初めて会って,その5分後にはpatientの意識はない。実働時間のほとんどはpatientに意識はなく,patientから「あの医者,言ってることがおかしい」と指摘されることはないだろう。しかし麻酔科医がいくら不足していても,プシった医師に麻酔を依頼する病院があるとは思えない。

尚,「プシる」という言葉は「アポる」「ステる」「ネクる」などと同様の業界用語であり,差別用語でないことを明記しておく。

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April 26, 2005

病院機能評価と個人情報保護法

私のバイト先のある病院では,医療従事者だけでなく医事課や医療事務の業者にいたるまでフルネーム入りの顔写真が各部署に掲げられている。病院評価機構(正確には日本医療機能評価機構というらしい)から良い評価を得るためだそうだ。
一方,個人情報保護法のせいで病室入り口に患者名の札を貼らないという動きが出ている。
病院では患者には個人情報保護法が適用されるが,病院職員には適用されないようだ。

「こういう病院の常勤医でなくて良かった」と,つくづく思う。

そのうち,非常勤医師の顔写真とフルネームも掲示するようになるのだろうか。

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April 18, 2005

充実の一日

今日は午後から肺切含む3例で充実した内容だった。手術の終了が重なることもなく,オペ室の回転がスムーズで明るいうちに帰途につけた。私は頻繁にオペ室を出たり入ったりしていたのに,肺切についた外科医たちは,私が他の部屋でも麻酔をしていることになかなか気づかなかった。他の部屋で骨接合術が始まったため放射線防護のプロテクターを着たが,脱ぐのが面倒でそのまま肺切の部屋に入ったとき,プロテクター姿を見て初めて気づいたようだ。久しぶりの開胸手術で麻酔科医の所在を気にする余裕がなかったのだろう。

それにしても分離換気が必要な肺切は麻酔の保険料が2倍になるのでありがたい。それにLKのPtはたいてい痩せており,エピも挿管も簡単なことが多い。肺切なら毎日でも大歓迎だ。

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April 14, 2005

麻酔科医のホームポジション

一般的な腹部や下肢の手術の場合,麻酔科医のホームポジションは患者の頭側で,麻酔器と生体情報用モニターに挟まれたところである。最近の麻酔器にはモニターが組み込まれているものが多いが,私が働いている病院のなかにはECGとパルスオキシメーターとカプノメーターがそれぞれ独立したものしかないところもあり,まさに麻酔器とモニターに挟まれた格好になる。自動血圧計の数値やECGの確認は少し離れたところからでも可能であるが,レスピレーターや気化器の調節,挿管チューブの確認などはホームポジションにいなければできない。また,静脈ラインの三方活栓もこのホームポジションで操作できるようにしているのが普通で,薬剤投与もこの場所から行われる。

手術室の出入り口は通常一箇所で,麻酔科医のホームポジションは部屋の奥,つまり出入り口の反対側になることが多い。したがって,他の部屋にいるときに「バッキングです」と呼ばれても,すぐにはホームポジションにたどりつけない。先日,ほんの30分ほどだが3例並列になったことがあったが,個々の処置よりも部屋の移動に疲れた。ある部屋では透視用のCアームとそのモニターが行く手を阻み,ある部屋では腹腔鏡用の機器(モニター,VTR,光源,気腹装置)が通り道を狭めていた。そしてどの部屋も,滅菌済みの手術用器具が並べてある台に触れないよう通らねばならない。

ところが,手術室の出入り口が患者搬送用以外にもうひとつ,ホームポジションの近くに作られている施設もある。このドアから出ると(裏の)廊下で,この廊下から別の手術室のホームポジションにただちにたどり着ける。この“麻酔科医専用”ドアがすべての手術室に備わっていれば,常時3例並列も可能なのだが。

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April 07, 2005

フルストマックにマスク換気

フリーになった今,原則として緊急手術は引き受けないことにしているが,先日久しぶりにリスク欄のEに○をつけた。その日は長時間の手術(PD)が一件だけだったが,その最中に整形外科が申し訳なさそうに小児の骨接合術を依頼してきた。どうせPDが終わるまで帰れないし,骨接合などすぐに終わるので二つ返事で引き受けた。朝食を食べていたがその後はNPOだった上,もう夕方になっていた。絶食時間は8時間以上だったが,受傷後は消化管の運動が低下し,胃は空っぽではないと思われた。点滴も入っていたので本格的なクラッシュ導入も考えたが,適切なクリコイドプレッシャーをしてくれる介助者もいないし,サクシンも使いたくなかったので通常のラピッドで導入した。いつもより早めにマスキュラを入れ,プロポを多めに入れた後,タイダルボリュームを少なめに慎重にマスク換気した。挿管後,セイラムサンプを挿入して吸引したところ,やはり食物残渣が中等量引けた。
手術は短時間で終了し,基本料金麻酔と思われたが,オペ室入室が午後5時を過ぎていたため,院外患者の時間外緊急手術として加算がついた。

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April 03, 2005

最近3か月のまとめ

1~3月の勤務日数は52日,症例数は136例ですべて全身麻酔だった。80歳以上は15例,10歳未満が6例であった。麻酔時間が10時間を超えた症例があった一方,麻酔時間20分という手術もあった。一日あたりの症例の最多は6件,最少はもちろん1件であった。エピ,ラパロ,プローン,ワンラングなどのオプションがつかず,麻酔時間2時間までの,所謂“基本料金”麻酔は32件であった。エピはThが43例,Lが2例であった。帰宅が遅くなり,家族と一緒に食事できなかったのは5回程度だったろうか。

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March 29, 2005

居眠りはしない

前回「麻酔が雑になってきた」と書いたが,私は仕事中に居眠りなどしない。
麻酔の開始時(導入時)は患者の血行動態が変化しやすい上,気管挿管(あるいはラリンジアルマスク挿入)というヤマ場があるため,麻酔科医は忙しい。また,手術終了時も患者を麻酔から円滑に覚醒させつつ麻酔チャートを完成させねばならないため,非常にあわただしい。しかし,患者に合併症がなく,大出血や喘息発作などのイベントがなければ,手術中の大半の時間は麻酔科医の仕事はモニターをチェックしたり点滴を交換したりするぐらいで,概ね暇である。そのため,この安定期に居眠りをする麻酔担当者がいる。麻酔科入局者では経験2,3年,他科からのローテーターでは3か月程度の麻酔経験で居眠りする奴もいる。
私は患者の状態が落ち着いていても居眠りなどしない。それは,懸命に手術をしている術者に対して失礼だからという理由ではない。自分が生涯の仕事として決めたものが,「居眠りしながらできるもの」と思われたくないからだ。手術中に居眠りする連中は,「麻酔が居眠りしながらでもできる簡単な仕事」と思われても構わないのである。麻酔科入局者も若い間は今後どの道に進むかわからないし,ローテーターにいたっては自分の意志でやってきたかどうかも怪しい。私は最近は並列麻酔を行うことが多く,居眠りどころかイスに座る時間もなくなってきたが,手術が一件だけでそれが長時間の退屈な手術ではさすがに眠たくなってくる,そういうときは酒精綿でうなじを拭いたり,あちこち歩き回るようにしている。

私が居眠りをしないもうひとつの理由は,毎日の睡眠時間が充分だからである。仕事のほとんどは午後からなのに,23時頃には寝床についている。当直・オンコール明けでも通常どおり働かなくてはならない勤務医の皆さん,気を悪くしないでね。

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March 27, 2005

麻酔が雑になってきた

勤務医の頃は研修医に「麻酔器のリークチェックは決して怠るな」と言っていたが,最近は自分自身があまりしなくなってきた。挿管チューブのカフのチェックもろくにしていない。薬を投与する順番もいい加減で,早く挿管したいからプロポフォールよりも先にベクロニウムを入れることが多い。ベクロニウムを後にすると,患者によっては少量(1mg/㎏以下)のプロポフォールでも血圧低下することがあり,ベクロニウムが効く前に挿管することになるからだ。順番を変えたとしてもほんの数十秒(あるいは数秒)の差だろうし,血圧が下がれば昇圧薬を使えばいいだけの話だが,マスク換気しながらの昇圧剤投与は面倒くさい。挿管すればどうせ血圧は上がるんだから。

第三者からのチェックが入らないと“いい加減”になってくるのは仕方ないのかもしれないが,そのうちひどい目にあいそうだ。

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March 20, 2005

マイナス面(4)

前回の続き

10 年金と健康保険
将来の年金のことに関しては,制度の破綻も含めいろいろ言われている。あまり詳しくないので何とも言えないが,勤務医の厚生年金や共済年金は大丈夫でフリーターの国民年金だけが危ういとは思えない。少なくとも,フリーター麻酔科医だけが年金をもらえないということにはならないだろう。年金基金は上限いっぱいまで一応かけている。保険料に関しては,そもそも勤務医の保険料は労使折半だから何となく有利のようにも見えるが,雇い主が払っているように見える保険料(半額分)も,もともと給料になるはずだったものという見方もある。健康保険は任意継続だがいずれ国民健康保険に加入しなければならない。医師国保のことはよく知らないが,地元医師会に入会しなくてはいけないらしい。
結論を言うと,年金や健康保険に関しては,制度の破綻など,一般の人々(もちろん勤務医も含む)と同じような不安はあるが,保険料の多寡はあまり気にならない。NHKの受信料は絶対払わないが。

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March 15, 2005

マイナス面(3)

前回の続き

9 仕事が減る可能性(勤務医の仕事は減らない)
やはりこれが最大のマイナス点だと思う。麻酔科医の需要と供給のバランスが逆転することが何より困る。麻酔科医が増えるという事象と,手術症例が減るという事象が考えられ,前者には麻酔看護師制度の導入も含まれる。勤務医の麻酔科医のみが増えるだけなら現在の常勤麻酔科医の過酷な労働条件が少し緩和される程度だろうが,私のようなフリーター麻酔科医が増えるとパイの奪い合いになり,報酬の単価が下がるおそれがある。
基幹病院への手術の集中化により地方の中小病院で手術ができなくなることは,実はあまり心配していない。全体の手術件数が同じなら,基幹病院の常勤麻酔科医だけで業務をこなすのは不可能である。いやいやながらもフリーター麻酔科医に応援を要請することになるだろうと楽観視している。その場合,私は最新の設備と薬剤が揃った手術室で,常勤麻酔科医が前日までにリスク評価とムンテラをしてくれた症例の麻酔を担当する。大学病院などと異なり,術者はバリバリの臨床医が同じ手術ばかりしているので当然上手で,手術は短時間に終わる。そして私は術後回診もすることなく,当直もオンコールもせず,明るいうちに帰途につくのである(甘い?)。
一番恐ろしいのは,癌・骨粗鬆症・変形性関節症の患者が減ること,あるいは手術以外の画期的な治療法が開発されることである。私が現在担当することの多い症例は胃癌,結腸癌,肺癌,乳癌,前立腺癌,子宮癌などの悪性腫瘍と,高齢者の骨折(大腿骨頚部骨折が大半)の骨接合術,OAに対するTHA,TKAなどである。癌の特効薬はもちろん,手術によらない癌の治療法が開発されると仕事は激減する。現に今も脳腫瘍へのガンマナイフ,肝臓癌のTAE・PEIT・MCT・RFA,肺癌・前立腺の粒子線治療など,麻酔科医の存在を脅かすような治療法が確立されてきている。また,骨粗鬆症の予防薬や治療薬が発達して老人の骨が丈夫になると,骨折が減ってORIFなどの手術は減ってしまう。
しかし,ある特定の手術が激減した場合,その手術を専門にやってきた外科系医師が一番困るだろう。バイト麻酔科医は「小児の麻酔は嫌いだ」とか「開心術はかかわりたくない」などの好き嫌いはあるものの,ひととおりすべての手術の麻酔に応じられる。ある種類の手術がまったく消失してもすぐには失業しない。麻酔科医が失業するほど手術が激減する頃には,大勢の外科系医師が職を失っているはずだ。「外科系医師の仕事は手術だけではない。外来も検査もある」と言うだろうが,手術がなくなっても病院側は外科系医師を今の数ほど雇ってくれるだろうか。手術がなくなれば,入院も外来も数が減るだろうし。

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March 14, 2005

マイナス面(2)

前回の続き

5 休めない(代わりがいない)
「麻酔を担当するはずだったバイト麻酔科医がインフルエンザに罹ったので,本日の手術は延期になりました」と言われて,患者と家族は納得するだろうか。麻酔科医が複数いる病院では,自分自身が急病したり身内に不幸があったりすると休めるだろう。しかし,勤務医でもひとり医長ではなかなか休めない。一般の開業医も同じである。

6 収入が不安定
こちらが休みたくなくても,仕事の依頼がなければ当然休みが増え,その分収入は少なくなる。勤務医なら手術がいくら少なくなっても収入は同じである。ただ,勤務医は仕事が多くても(時間外手当は別として)収入が同じとも言える。

7 早起きできない
バイト先は手術が午後からの病院が多いので,早起きが苦手になってきた。ある病院での午前10時からの仕事も苦痛になりつつある。

8 スキルの低下
中心静脈カテーテルの挿入を久しくしていない。これを必要とする症例が少ないし,必要な症例ではすでにカテーテルは入っている。スワンガンツにいたっては目にすることもない。「いままでさんざんやってきたんだから,からだが覚えている」などと過信するのは禁物だ。医療の手技だけでなく,どんなスキルも継続して行わなければどんどん低下していくはずだ。IVHカテーテルを挿入することがおもしろいという時期はとうに終わっているので,今後一切できなくても構わない。手術中に急にIVHを入れなければならないという場面に遭遇しないことを祈るしかない。そういえば末梢静脈路の確保も2か月で2,3回程度だった。

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March 13, 2005

マイナス面(1)

フリーの麻酔科医が勤務医の麻酔科医に比べて劣る点を挙げてみようと思う。通常は勝る点から考えるものだろうが,勝る点はいろいろな理由からまだ書きたくない。また,私は自分が選んだ道を否定したくはないので,マイナス面を過小評価しようとする傾向は避けられないだろう。一度にすべてを書ききれないので何回かに分けることにする。

1 肩書き(勤務先)がない
バイト先に電話するとき,従来は「○○病院麻酔科の△△ですが」と言っていたが,現在は「麻酔科の△△ですが」としか言えない。今のところ交換手に「どちらの麻酔科ですか?」と聞かれたことはないが,その場合はどう答えようか迷っている。「フリーの麻酔科医」などと言うとますます怪しまれそうだ。「毎週そちらの手術室で働いている非常勤の麻酔科医です。明日の手術のことで聞きたいことがあるので××先生をお願いします」で納得してもらえるだろうか。また,子供が入学すると学校への提出書類に親の勤め先を記入しなくてはならない。まさか「フリーター」とは書けないし,とりあえずバイト先の病院のどれかを書いておくとしよう。ところで,勤務医の麻酔科医を定年まで続けたとしてどれほどの肩書きを得られるだろうか? 院長の可能性はきわめて低い。定年60歳として,2学年上に麻酔科の先輩がいれば57歳でも麻酔科部長ではない。58歳でやっと部長,その時点で院長の次に高齢なら,2年間だけ副院長(しかも2~3人のひとり)の肩書きをつけてもらえるかもしれない。しかし,その頃(今でも?)の院長は公立病院といえども経営手腕の能力を問われるだろうから,従来のような年功序列や内科・外科優先ではなく,医学だけでなく経営学も学んだ若い人間が院長に抜擢されているかもしれない。あるいは院長が医師でなければならない時代はとうに終わり,病院経営学のみを学んだものがその経営手腕を発揮している可能性もある。58歳の副院長以下すべての医師が,文系出身の若造をボスとする日もそう遠くないかも。

2 独善的になる?
他の麻酔科医と話をする機会がほとんどない。手術を依頼してくる外科系医師たちは,私の麻酔に不満があったとしてもそれを口にすることはまずない。つまり,私の麻酔は他人からの評価を一切受けない。より良い麻酔を目指して試行錯誤しているうちはまだいいが,そのうち「この手術にはこんな麻酔」と固まってくると,いつしか「この手術にはこの麻酔しかダメだ。私の方法が一番だ」と独善的になってくるような気がする。でも,それはひとり医長の勤務医でも同じことだ。

3 住宅ローンが組めない?
試したわけではないのでわからないが,上記1との関連でおそらく住宅ローンは組めないと思う。

4 退職金がない
定年まで勤務医を勤めあげていったいいくらもらえるのか知らないが,20年後の退職金が従来通りと期待できるかどうか。

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March 11, 2005

タバコは吸ってください

私はタバコを吸わないし,嫌煙派である。新幹線は禁煙車,ファミレスも禁煙席を選ぶ。分煙などと言わず,駅も飲食店も全面禁煙にしてもらいたいと常々思っている。しかし,タバコを吸いたい人は自宅やマイカーのなかでどんどん吸えば良い。肺の手術は分離換気という特殊な手技を用いるため,麻酔の保険点数が高くなる。つまり,肺の手術の麻酔は私にとって「おいしい仕事」なのである。肺の手術というと,肺癌やブラの切除術である。タバコが関与しない肺癌もあるが,ほとんどの肺癌とブラはタバコが原因である。だから,私と私の家族,私にとって大事な人たちにはタバコを吸って欲しくないが,それ以外でタバコを吸いたい人は1日100本以上吸ってもらって構わない。そして未来の私の「メシの種」になってくれれば良い。このように考えると,歩きタバコしている人を見ても苦々しく感じずに済む。しかし,今タバコを吸っているアホそうな中高生が肺癌になる頃には,私は麻酔をしていないのが残念だ。
喫煙は癌だけでなく様々な疾患をもたらしてくれる,医療従事者にとってはありがたい風習である。日本医師会が禁煙キャンペーンを実施しているが,それは将来の自分たちの仕事を減らす行為と言える。トヨタやホンダが「地球温暖化防止のため,マイカーはなるべく使わず,公共の交通機関を利用しましょう」というキャンペーンを張るようなものだ。
「医者のくせに喫煙を奨励するなんて」と思う人もいるかもしれないが,閑古鳥が鳴いている内科クリニックの院長がインフルエンザの流行を望むのと同じである。それに,自分はヘビースモーカーのくせに患者には「タバコをやめなさい」という医者と,「タバコはいくらでも吸っていいですよ。私は病気になりたくないので絶対吸いませんけどね」という医者と,どっちがマシだろうか。
タバコによる疾患の医療費が保険医療財政を圧迫していると主張する人もいるだろうから,「タバコが原因であることが明白な疾患では健康保険が効かないようにすればよい」という意見も一応述べておく。
愛煙家の皆さん,私を非難しないでね。私は,あなた達がタバコを吸う権利を尊重しているのだから。

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March 07, 2005

エピ考(4)

約20年前,エピがまだ珍しかった頃,われわれ麻酔科医が慣れない手つきで苦労して入れているのを外科系医師たちは「何をやってんだ。早く導入してくれよ」と言いたげな目つきで見ていた。そしてせっかく入れたカテーテルも病棟に帰るやいなや抜去されたりもしていた。その後,外科系医師たちはエピが入っていると術後管理が楽であるということに気づいたらしく,彼らのほうからエピを要求するようになってきた。バイト先でも例外ではなく,一般的な開腹手術では必ず「エピもお願いします」と言われる。バイト麻酔でエピを入れるのは構わないが,患者はエピの合併症・リスクに関しては何の説明も受けていないことがほとんどである。いや,エピだけでなく全身麻酔に関する説明も,せいぜい「麻酔は専門の先生にしてもらうから安心して」程度と想像がつく。バイト麻酔のエピで硬膜外血腫が生じ,下半身マヒが生じた場合のことを考えると憂鬱になる。以前,ある看護師が開腹手術の患者となったが,「エピは入れないでください」とはっきり宣言した。エピのベネフィットとリスクをきちんと説明すれば,このようにエピを拒否する患者も多くなるかもしれない。「麻酔の説明は,バイトでも麻酔科医が当日に行えば良いではないか」という意見があるかもしれない。しかし,エピを入れるかどうかの(患者側の)意志決定を,手術室入室直前に迫るのはどうかと思う。えっ? 自分が開腹手術を受ける場合はどうするかって? もちろん,信頼する麻酔科医にエピを入れてもらう。

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March 04, 2005

マンパワー考(2)

「麻酔なんて誰にでもできる」というフレーズをよく目にする。自分は麻酔などしたことがないのに,ただ麻酔科医が嫌いという理由でこのようなことを言う医師は論外として,麻酔科医がいない病院では外科医が全身麻酔を行っている病院が多く,そのような医師たちは本気でそう思っているのかもしれない。だが,患者が高齢化し,合併症を持っている患者も多くなってきた。私が研修医の頃,麻酔のリスク分類では65歳以上を高齢者として扱っていた。そして当時80歳以上の患者は,合併症がなくても単に「高齢だから無理して手術をしても・・・」と外科医も手術をしたがらなかった。それが今や80歳を越える患者の手術は一般病院でも頻繁に行われ,60歳台の患者の手術では「今日の患者は若いので楽だ」となる。全身麻酔を行える外科医たちも,リスクのない若い患者なら自分で麻酔を行うが,高齢者や合併症の多い患者には二の足を踏むようだ。一部には「麻酔科医が他科に麻酔をさせないから麻酔科医不足になった。自業自得だ」と考えている人もいるようだが,外科医が麻酔をしなくなったのは患者の高齢化と手術適用(麻酔適用?も含む)の拡大によるものだと思う。そして手術適用(麻酔適用)拡大の一因は医療の専門化にあると考えている。

つまり,

患者が高齢化→合併症も増えてくる→外科医は麻酔したくない→麻酔科医に任す→麻酔科医が足りない

医療の専門化→手術手技・器具の発達→手術適用の拡大→手術が増える→麻酔科医が足りない

医療の専門化→麻酔手技・モニターの発達→麻酔適用(?)の拡大→手術が増える→麻酔科医が足りない

ということではないだろうか。
ここで,麻酔における専門化とは,「他科に麻酔をさせない」ということではないことを付け加えておく。

最後に本音を言わせてもらうと,私は麻酔科医不足がいつまでも続くことを願っている。
誰だって,自分が「売り手市場の売り手側」であり続けたいはずである。

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February 28, 2005

2月の反省

2月の勤務日数は16日,麻酔症例は47件だった。1日あたりの症例数は目標の3件をほぼ達成できた。平日の休みは3日あった。
以前はope出しの1時間くらい前に病院に到着し,病棟でその日の症例のカルテを予めチェックしていたが,最近は患者の入室と私の到着とがほぼ同じになってきた。ひどい時にはカルテを一度も見ないうちに手術が終わることがある。

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February 18, 2005

エピ考(3)

アナペインが発売された当初,持続エピのレシピにオピオイドを入れる必要はなくなるのではと期待した。実際,バルーン式持続エピのメニューに塩モヒやフェンタを入れず,0.2%アナペインだけにしたこともあったが,どうしても投与速度を上げないと除痛が得られず,痛みがとれるほど速度を上げる(4ml/hぐらい)と血圧が低下することが多かった。最近ではしかたなく,従来のようにオピオイドを混ぜて使っている。しかし,施設によってバルーン式簡易持続注入ポンプの容量や速度が異なっているため,施設ごとの調整が面倒である。0.8ml/hや1ml/hの固定タイプも結構多い。オピオイドを混ぜたとしても,このような低速で充分な鎮痛が得られるとは思えないのだが。また,アナペインの文献などには0.2%を6ml/hで投与するようなことが書いてあるが,こんなに入れると必ず血圧が下がると思う。

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February 14, 2005

エピ考(2)

産婦人科医は,全麻はしないけどエピとルンバールは毎日のように自分でしていることが多いらしく,エピには自信があるようだ。私がエピを入れているとき,背後から食い入るように見つめているのはほとんどが産婦人科医だ。なかには「俺のほうがこの麻酔科医よりエピは上手だ」と思っている産婦人科医も多いだろう。しかし,私は声を大にして言いたい。LとThでは難易度が違うのだ。
しかし,彼らがよく入れているL2/3あたりのエピが婦人科の術後鎮痛に有効なのだろうか?
もし有効なら,Th9/10などから入れる必要はないということになる。

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February 12, 2005

マンパワー考(1)

麻酔科医不足が最近クローズアップされている。今週水曜日(2/9)の読売新聞にも慶応大学の教授が「論点」で述べている。私は,いわゆる麻酔看護師(麻酔士)という新たな職業をつくるのには反対なので,武田氏の「専門医でない医師が避け始めた麻酔を,医師でない者に担わせるのは安全の向上につながらない」というフレーズには拍手喝采を贈りたい。
しかし,麻酔科学会がいろいろ努力をしても麻酔科医不足はなかなか解消しないと思う。なぜなら
(1)医師免許を持っていれば誰でも麻酔は行える。麻酔標榜医や専門医の資格は必要ない。麻酔の訓練を受け始めるにあたり,書類の申請すら必要ない。
(2)麻酔科以外の医師に「そちらの病院の麻酔科で麻酔を勉強したい」と言われて断るような病院(麻酔科)はまずない。どこの病院も麻酔科医不足なので諸手を挙げて歓迎してくれるはずだ。
(3)2年ほど麻酔科医として働けば,その病院で行われる手術の麻酔はたいていこなせる。異論もあろうが,実際3年目くらいからひとりでバイト麻酔していることが多い。

つまり,「麻酔をひとりで行えるようになりたい」と望む医師を阻むようなハードルは無に等しい。ただ,新しい研修医制度が始まったばかりの今はどこの科も人手不足のようなので,その医師が所属する医局側が「麻酔の勉強は後にしてくれ」と引き留めることはあるかもしれない。

一人前になるのにそれほど時間がかからない麻酔科医が一向に増えないのは,単に「麻酔科医なんかになりたくない」という医師が多いためだと思う。手術というものはやっていて楽しいらしく,外科系医師は年をとってもやりたがる,いやむしろ若い頃はなかなか重要な部分をさせてもらえないせいか,年をとってからのほうがいろいろできて楽しいようだ。一方,麻酔科はというと,偉くなればなるほど自分で麻酔をしなくなる。教授自らメスを振るう外科系医師は多いが,麻酔科の教授になっても(VIP患者やバイトは別として)麻酔を行っている人がどれほどいようか。

要するに,麻酔という仕事は「つらいばかりで楽しくない」からみんなが避けるのだと思う。

私は結構楽しんで仕事をしているほうだと思うが,長い手術は確かに退屈である。

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February 06, 2005

麻酔を“かける”

麻酔科医のなかには「ソースや醤油じゃあるまいし,『麻酔をかける』という表現はやめろ。『麻酔を行う』または『麻酔を施行する』と言え」と主張するひとがいる。しかし,私は麻酔をかけるという言い方は好きである。かけるという動詞は『魔法をかける』『術をかける』など,神秘的な行為に用いられるからだ。こんなことを言うと,頭の固い麻酔科医は「麻酔を魔法や魔術と一緒にするな。麻酔は科学だ」と反論するだろう。しかし,吸入麻酔薬の作用機序がよく分かっていないのは有名な話だ。「作用機序が完全に解明されていないと科学とは言えないのかね」と言われそうだが,自分が普段使用しているものが,実は科学的には正体がよく分かっていないというのは面白い。
エピがまだ外科系医師にそれほど知られていなかった頃,エピを十分効かせながら全麻を覚醒し,患者が痛みなくすっきり覚めるのを見た外科系医師のひとりは「魔法のようだ」と言ってくれた。そう,私は魔法のような麻酔を目指すとしよう。

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February 05, 2005

エピ考(1)

最近,毎日のようにエピを入れている。エピに関しては自分の中でもいろいろな葛藤,矛盾がある。脊髄損傷などのリスクがあるため自分から進んで入れたいとは思わないが,エピを入れられない患者の開腹手術や開胸手術ではスムーズに覚醒させる自信がない。常勤の麻酔科医がいる施設でもエピを全廃したところもあると聞いているが,術後鎮痛はフェンタIVのPCAあたりか。 フェンタをうまく使用すればエピなど必要ないかもしれないが,私が帰った後,病棟で呼吸抑制が起こるのが怖い。フェンタの遅発性呼吸抑制はモルヒネほどではないにしても,「エピを入れてほしい」という主治医の希望を退けてまでフェンタIVに固執するのも抵抗がある。結局,これからも毎日トーヒ針の先を脊髄近くまで進めなくてはならない。

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January 30, 2005

1月の反省

まだ1月31日が残っているが,1月の勤務日数は17日,麻酔件数は42件となりそうだ。1日4件した日もあれば,1件だけの日もあった。収入は思ったほど多くない。やはり1日平均3件はこなす必要がありそうだ。しかし,お手玉のような並列麻酔を常時行うのはいかがなものか。先日,午後から並列で麻酔して15時には終了ということがあった。手術が二つとも予想より早く終了したためだが,これなら縦一列でも十分な時間に終えられたはずで,まさに「不必要な並列」であった。そうかとおもえば,別の病院ではすぐに終わるはずであろう手術が意外と長引いたりもした。手術に要する時間の見極めが非常に重要だ。

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January 26, 2005

読売新聞の記事

フリーの麻酔科医は思っていたよりも忙しいけれど,それなりに充実している。1月24日の読売新聞朝刊に麻酔科医不足に関する記事が掲載されているらしい。それには非常勤麻酔の報酬が保険診療報酬の90%と書かれているとか。是非コピーを入手して,次回の交渉の道具に使おう。

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