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April 30, 2009

熱源,急速接近中! 


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新型インフル:発熱外来の設置 市民病院が拒否 埼玉

 埼玉県が第2種感染症指定医療機関に指定している東松山市立市民病院が、新型インフルエンザ対策として県が要請した「発熱外来」の設置を断っていたことが30日、分かった。理由は医師不足という。

 発熱外来は厚生労働省が策定した行動計画に基づいて設置される。新型インフルエンザの疑いのある患者と一般患者を隔離して診断することで、感染拡大の危険性を下げることが目的。県は28日から県内の医療機関10カ所に要請し、9カ所から承諾を得た。

 同病院によると、常勤医数は現在、ピーク時の31人から14人に半減。夜間救急医療も07年秋から中止している。一方で、感染症病床は維持している。河村俊明内科部長は「発熱外来は特別な消毒や専門スタッフも必要。この状況では難しい」と話す。県疾病対策課も「全体の中でインフルエンザ対策に協力してほしい」と理解を示す。

 しかし、同省新型インフルエンザ対策推進室の高山義浩室長補佐は「発熱外来の病院数が少ない感染拡大期は患者が1日に何十人も押し寄せることはない。夜間救急はしていなくても、当直医師などで十分対応できるのではないか」と指摘している。【岸本悠】
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>発熱外来の病院数が少ない感染拡大期は患者が1日に何十人も押し寄せることはない。

私にはこの日本語が理解できない。


>夜間救急はしていなくても、当直医師などで十分対応できるのではないか

だから,当直医師は入院患者の急変に備えて当直室で“寝ている”のが仕事だと。

さて,東松山市立市民病院に続くのはどこだろう。

マスコミはそろそろ「たらいまわし」に匹敵する医療機関向け誹謗中傷用語を用意せねばならない。「門前払い」「排斥」「シャットアウト」「打ち棄て」「放棄」「自己中」「閉門」「鎖国」「立てこもり」・・・どれもぱっとしない。

「結界」とか「シールド」だと一般の非発熱患者が安全を求めて殺到しそう。

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April 28, 2009

HDって,かえって有害じゃないの


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搬送拒否:消防に賠償命令 奈良地裁

 奈良県橿原市の中和広域消防組合の救急隊員が、同県大淀町の男性(44)が頭にけがをしていたのに病院に搬送しなかったため、意識不明の状態になったとして、男性と家族が同組合に治療費や慰謝料など計約2億5230万円の損害賠償を求めた訴訟で、奈良地裁(坂倉充信裁判長)は27日、同組合に計約1億3860万円の支払いを命じる判決を言い渡した。坂倉裁判長は「救急隊員は必要性の判断を誤り、搬送すべき義務に違反した。搬送していれば、(意識不明状態という)結果を避けることができた」と、男性側の主張を全面的に認めた。

 判決によると、男性は06年11月15日午前2時10分ごろ、橿原市の橿原警察署の敷地内を酔って歩いているところを同署に保護された。駆けつけた救急隊員は声をかけたり、顔に付いた血をふいたりしたが、緊急を要する症状ではないと判断、搬送先を探さなかった。

 駆け付けた家族は、同署の東隣にある県立医大付属病院への搬送を希望したが、隊員は「かかりつけじゃないと、なかなか診てくれない」「アルコールが入っているので、受け入れ先がない」などと説明。家族は、不搬送の承諾書に署名、男性を連れて帰宅した。ところが男性は帰宅後に容体が急変、午前11時ごろ県立医大付属病院に運ばれ、脳挫傷などと診断された。男性は現在も意識が回復しない状態が続く。

 判決では、搬送について「顔面や衣服に付着するほど出血し、発見当初と比べて意識障害の程度が重くなっていることを容易に認識できた」などと必要性を認めた。家族が不搬送承諾書に署名したことについては「依頼したのにできないとされた結果として、やむを得ずした対応」として、家族が搬送を拒否したとは認めず、救急隊員は搬送する義務を免れないとした。

 男性側の弁護士は「極めてまれな事例だが、よほどの理由がない限り搬送すべきだという当たり前の判決だ」と述べた。

 中和広域消防組合の橋本雅勇消防長は「主張が認められなかったことは誠に遺憾。今後の対応を慎重に検討したい」とのコメントを発表した。【高瀬浩平】
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というわけで,今後救急隊は酔っぱらいをすべて病院に送り込もうとするはず。

ところが,

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男性重体訴訟 医療法人に賠償命令「治療受ける権利侵害」
 シンナー中毒で入院した秋田県男鹿市の潜水作業員の男性(35)が意識不明になったのは、医師らが適切な治療を怠ったためだとして、潟上市に住む男性の母親が同市で病院を運営する医療法人に約1億2400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、秋田地裁は24日、法人側に110万円の支払いを命じた。

 鈴木陽一裁判長は「医師らは心停止や脳障害を予見し得たが、その時点で適切に治療しても確実に回避できたという証明はされていない」と指摘。その上で、血液浄化療法をしなかったことについて「医療水準にかなった治療を受ける権利を侵害され、多大な精神的苦痛を受けた」と認め、男性が自らシンナーを摂取したことなども考慮し損害額を算出した。

 判決によると、男性は2002年4月20日、シンナー中毒で法人運営の病院に入院し、22日に心停止して脳に障害が生じ、現在も意識が回復していない。
2009年04月25日土曜日
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1億2,400万円求めて110万というのがほほえましいが,これがシンナーでなくアルコールだったならどうだったか。
「男性が自ら酒を摂取したこと」を考慮して減額などしてくれないだろう。
そのうち,急性アルコール中毒にも「血液浄化療法すべきだった」とか言い出しかねない。

しかし,シンナーのせいで心停止したのに1億2,400万円もふっかけるなんて,恥ずかしく(以下略) まあ,子が子なら(以下略)  何かに似てると思ったら,割りば(以下略)

それにしても,ここによるとトルエン中毒では低カリウム血症になるらしい。そこへ透析なんかすると・・・透析液の調節が難しそう。ああ,CVカテーテルも入れてKCLを投与しながらHDですか。こんな患者を担当される医師は大変ですね。私には無理なので近寄らないようにします。

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April 26, 2009

俺が挿管するとき背後に立つな

ルパンにゴルゴにブラック・ジャック…
誰を参考にすれば通帳残高は増える?

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ブラックといえば、まず考えられるのは『ルパン三世』のルパンですよね。泥棒をしてきているわけですから。盗むための経費は若干かかるものの、元手も何もいりません。通帳残高はとんでもない数字になっているでしょう。あと、1回の手術で数千万円の手術代を取っていたブラック・ジャックも通帳残高は多いと考えられますね

中略

京都大学の橘木俊詔教授が『日本のお金持ち研究』という本を出しているんですが、この本の結論は、『金持ちになる人は、高額がコンスタントに入ってくる医者と企業経営者だ』です。


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>盗むための経費は若干かかるものの、元手も何もいりません

私の仕事は経費もかからないし,元手もいらない。しかし,税金は払っている。
いいよな,ルパンもゴルゴもブラックジャックも所得税払わなくて。

それにしても

>金持ちになる人は、高額がコンスタントに入ってくる医者

何年前の話だ。ゴルゴ13が白ブリーフで多弁だった頃? 
えっ? ゴルゴのパンツは今も白ブリーフ? そろそろ大人用おむつじゃ・・・

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April 20, 2009

ツモでしかあがれない

この春の交通安全運動期間中(4/6-15)の交通事故死者数は全国で108人で,統計が残っている昭和30年以降最も少なかったらしい。

魚拓

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事故死者は最少108人 春の交通安全運動まとめ
2009.4.16 11:40

 春の全国交通安全運動期間中(4月6-15日)の交通事故死者数は、昨年同期より17人少ない108人で、交通安全運動期間中で統計が残っている昭和30年以降、最も少なくなったことが16日、警察庁のまとめで分かった。

 シートベルト非着用の死者数は19人減の14人と大幅に減った。年齢層別死者数は65歳以上が53人と最も多く、15歳以下の子どもは3人だった。

 都道府県別では、北海道、茨城、新潟のそれぞれ7人が一番多かった。岩手、宮城、石川、福井、高知では死者がいなかった。

 昨年1年間の全国の交通事故死者数は5155人で、8年連続の減少。今年は4月15日現在、前年同期より33人少ない1296人となっている。
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だが,それでもわずか10日間に108人が亡くなっている。乱暴な運転による自損事故もあるかもしれないが,何の落ち度もない歩行者が犠牲になることもよくある話。しかし,これらすべての交通死亡事故が全国に報道されるわけではない。報道されるのは,有名人が絡んでいる,被害者がこども(特に入学・入園式直後),加害者が悪質(酒気帯び,ひき逃げ),死傷者が大勢など,何らかの“役”がついている場合だけ。

で,

魚拓

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7病院が救急受け入れ拒否 宮崎、心肺停止の男性死亡
2009.4.17 12:10

 宮崎県日向市の市道脇で脱輪していた乗用車の男性(65)が心肺停止状態で救急搬送された際、県内の7病院に受け入れを断られ、救急隊到着から約1時間10分後に運び込まれた8番目の病院で死亡していたことが17日、分かった。

 市消防本部によると、今月4日午後7時40分ごろ、通行人から「車の中の男性が意識を失っている」と119番があり、救急隊が出動。8分後に到着したが、既に心肺停止状態だった。男性は狭心症の病歴があったという。

 救急車内で蘇生(そせい)措置を施し、搬送先を探したが、日向市や延岡市などの計7病院に「重症者用のベッドが満床」「当直医が手術中」などの理由で受け入れを断られた。再度の要請を含め、延べ10回断られたという。午後9時前に日向市内の別の病院に運んだが、約15分後に死亡が確認された。
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65歳はまだまだ現役世代。亡くなられた男性にはお悔やみ申し上げます。


さて,ネットのどこかで『7病院が救急受け入れ拒否 宮崎、心肺停止の男性死亡』というタイトルを目にしたとき,医療崩壊をあたたかく見守っている人たちはきっと「何か“役”があるに違いない」と本文を読みに行ったと思う。

しかし,回転数は10回だし死亡原因が全く不明ということもなさそう。

“役”らしいものは何もなく,病院や医師を悪者に仕立てたいという悪意しか感じられない。

救急医療の崩壊はこれからも進んでいるだろうから,そのうち救急患者受け入れ不可は交通事故のようにありふれた厄災となり,「たった10回断られただけで病院に収容  現着から2時間の快挙」などが“役”になるかも。

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April 15, 2009

あの世病院

夜は(昼も?)基本的に暇なので,見たいテレビは何でも観られる。
で,『ゴッドハンド輝』の第一回も観て,いや見てしまった。

患者が死にそうになると胸のカラータイマー手形が光り(不整脈も出現するようだ),イタコ状態になって天才外科医だった父が乗り移り神業的手術を成し遂げる・・・。所詮フィクションなんだから,「術後に手術記録ちゃんと書けんのか?」とか「18年前には存在しなかったオペもできるのか?」などと突っ込むのは野暮。

そのうち,脳みそがハチミツ漬けチョコレート状態の情弱がブログのネタに困ったあげく,にわか正義漢を気取って医師を叩く際,「ゴッドハンド輝のような医師はいないのか」ときっと書くだろうが,大丈夫だ。

「俺の父親は医師じゃない」
「僕の親は医師だが,まだ死んでいない」
「私の父は故人で医師だったが,私よりヤブだった」
「ウチはシャーマンの家系ではない」

これでなんとかなる。

それにしても病院の別名がヴァルハラって。

「アーダベルト・フォン・ファーレンハイトが戦死する時に子供を道づれにしたと言われては、ヴァルハラに行ってから俺の席が狭くなる」

「我に余剰戦力なし、そこで戦死せよ。言いたい事があればいずれヴァルハラで聞く」

「死ねだと!?よし死んでやる!先に死ねばヴァルハラではこちらが先達だ。雑用にこき使ってやるからみておれよ、ラインハルト・フォン・ローエングラムめ!」

私にとってはヴァルハラ=あの世なのだが。


私は中井貴一が麻酔科医を演じていた『風のガーデン』も観ていた。

「天国に行って、天使ガブリエルに出会ったとき、彼はなんといったか知っている?」「あのよー」

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April 13, 2009

時給防衛軍(2)

A室に戻ると,患者の収縮期血圧が150台まで上昇していた。セボフルレンの濃度を上げ,硬膜外腔に局所麻酔薬を投与した直後,次の患者がC室に入ってきたことを告げられた。しまった,硬膜外への局所麻酔薬が少し多すぎた。きっと10分後くらいから血圧が下がり始める。これからC室で麻酔導入というときに・・・。現在150台の血圧が危険なまでに低下する可能性は少ないとはいえ,万が一ということもある。C室の麻酔導入を20分程度遅らせるという手もあるが,患者に手術室の天井を20分も見させておくのもいただけない。私はB室のアンヌ先生をA室に呼び,「血圧が90台になったらエフェドリンを5mg,心拍数が40台になったら硫酸アトロピンを0.4mg投与すること」を指示して部屋を出た。B室が麻酔担当医不在となるため,B室の血行動態を確認した後C室に入った。

C室では桐山先生が患者へのモニター装着を手伝っていた。耳鼻咽喉科の桐山先生はリハビリママ女医のなかで最年長だ。最年長といっても卒後4年間の医師経験の後産休に入り,子供が次々と生まれたため最年長のリハビリママ女医になってしまった。

「おはようございます。よろしくお願いします」

「おはよう。今日は2人が休みだから,ちょっと忙しくなるよ」

「私は大丈夫です。18時までばっちり働けます。耳鼻科の手術ですし」

手術は咽頭腫瘍で,経鼻挿管しなくてはならない。桐山先生は元耳鼻科ということで,鼻に管を通すのは麻酔科医よりも自分のほうが上手だと思っているようだ。私は気乗りしないが,彼女は経鼻挿管をやる気満々なのでやらせてみることにした。

桐山先生は麻酔器の横のカート上に置いてある銀色のアルミ製アタッシュケースに気づき,静脈麻酔薬で患者の意識が消失すると早速質問してきた。

「このケースは何ですか?」

「この中には経鼻挿管の道具が揃っているんだ。細経の電池式気管支ファイバー,経鼻用スタイレットスコープ,マギール鉗子,各種サイズの綿棒などなど」

「それで,『ウルトラ経鼻隊』って書いてあるんですね。ところでこのマークは麻酔科学会のロゴか何ですか?」
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「いや,別にそれは関係ない。さあ,筋弛緩も効いてきたし,そろそろ挿管しようか。普通なら挿管チューブを鼻から挿入し,いつもの経口挿管のように喉頭鏡で声門を直視しながらマギール鉗子でチューブ先端を声門に誘導するんだけど,この患者は前歯が大きい上にぐらぐらしている。なので,喉頭鏡は全く使わずにファイバー挿管をしてもらうね」

「気管チューブをファイバーに装着した状態で,ファイバーを鼻から通して気管に入れればいいだけですね」

「そう,大事なことは鼻出血させないこと。出血するとファイバーが使い物にならなくなるから」

「はい,わかってます」

「じゃ,始めようか」

桐山先生は私の指示通りに鼻腔内に潤滑用ゼリーを注入し,綿棒で鼻道の狭さや方向を確認した。右よりも左のほうが鼻道が広いことが確認できたときには綿棒の先には血液が滲んでいた。私は両手の親指と人差し指で患者の下唇をつまみ,下顎を天井方向に持ち上げて口腔内に観察スペースを作ったが,桐山先生はファイバー挿管を2回試みて一度も声帯を確認できなかった。口の中を吸引すると中等量の血液が引けた。3回目は私自身でファイバー挿管を試みたが,すぐに血液で視野がとれなくなった。

「咽頭腫瘍の患者にブラインドで挿管するのは避けたいんだが・・・」と言いつつ,私はトラキライトを使って経鼻挿管に成功した。

私は落ち込んでいる桐山先生に「大丈夫,これくらいの鼻出血はすぐに止まる。今はチューブで圧迫されているし,ヘパリン使う手術でもないから」と,挿管の失敗には触れずに鼻出血のことだけ慰めながら各種モニターの数値を確認した後,C室を出た。

A室のアンヌ先生に昼食をとらせている間,私はA室とB室を掛け持ちで管理した。今はどちらの症例も血行動態は落ち着いているが,B室のTKAでは骨セメントやターニケットを使うので,昼食から戻ってきたアンヌ先生には引き続きA室を担当させることにした。

その後D室に婦人科の患者が入室した。手術は腹腔鏡下卵巣のう腫摘出術。B室ではもうすぐ骨セメントを使用する頃なのが気がかりだったが,私はD室に向かった。D室は私一人での麻酔導入だったので最速モードで導入・挿管を完遂することができた。

その後私はB室とD室を並列管理し,A室はアンヌ先生,C室は桐山先生にまかせた。桐山先生の昼食時には3例並列となったが,点滴ボトルが2室で同時に空になったという些末なイベント以外は何も起こらなかった。

やがてTKAが終了し,B室2例目の腱板断裂も私一人で導入・挿管した。次にA室の胃全摘が終了した。抜管のために私がA室にいる間,B室とD室は麻酔科医不在になる。したがってA室での覚醒は迅速に済ませたいところだが,アンヌ先生が麻酔薬を切るタイミングが遅かったために抜管が少し遅れた。しかし硬膜外が効いていたので患者はまったく痛みを訴えなかった。アンヌ先生は自分の麻酔管理が上手だったせいだと思っているようだった。

その後アンヌ先生にはB室を担当してもらうことにしたので,並列管理は解消された。まもなくD室の手術が終了したので私がB室に入り,アンヌ先生には帰宅してもらった。アンヌ先生の娘は保育園で保護者を待つ最後の一人にならずにすみそうだ。C室の咽頭腫瘍はまだ終わらなかったが,18時近くになっていたので桐山先生にも帰ってもらった。

あとは私一人でB室とC室の並列。しかし,他の部屋を心配しなくてもよい。そう,麻酔器の横に医師免許を持った人間が存在しているが,それが安心材料にはならない手術室を。今は“たった”2つの手術だけを気にしていればいい。

B室の腱板断裂修復術が終了し,抜管退室後には入れ替わりに骨接合術後の抜釘を受ける患者が入室してきた。もちろん気道確保はラリンジアルマスク。この症例の導入が終わると,C室の咽頭腫瘍切除術が終了。その後まもなくして抜釘術も終了し,本日の私の仕事は終了した。胃全摘,TKA,咽頭腫瘍切除,腹腔鏡下卵巣のう腫切除,腱板断裂修復,抜釘の計6件。ほどよい充実感が私を包み込む。明日は5件で短時間の手術ばかりなので今日よりずっと楽なはずだ。私の身分はフリーなのに,この病院で週三回働いている。一か月あたりの全麻症例は約80件。一人でもっと多くの麻酔を担当している猛者もいるだろうが,今の私ではとても一人ではさばききれない。リハビリママさん女医たちに麻酔管理を全面的に任せることはできないが,モニターの監視役ぐらいはできる。ここの手術室は彼女たちのおかげで何とか回っていると言える。

手術室でのモニター監視の仕事は,朝もゆっくりの出勤で帰宅時間もある程度保証される。その上,気管挿管の練習もたまにさせてもらえるとあってリハビリママ女医に人気が高い。しかし,彼女たちはいつまで時給1,000円で働いてくれるだろう。彼女たちのために時給アップを事務長に交渉してみようか。いや,やめておこう。代わりに私の報酬を下げられては困る。自分たちの時給の交渉は自分たちでしてもらうしかない。私は自分の時給を守るので精一杯だ。私の報酬は麻酔の保険診療報酬の*割なので,時給で換算したことはない。えーと,今日は9時半に出勤して今が20時だから・・・。


参考記事
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札医大病院が時短勤務、女性医師確保狙う 保育所定員も増やす

 札幌医科大学は付属病院で4月から、主に女性医師を対象に勤務時間を短縮して働ける制度を導入する。医師を育成している大学病院でも医師の数が十分とはいえず、地方の自治体病院へ医師を派遣する機能にも限界が見え始めている。出産などでキャリアを一時中断した医師がスムーズに復帰できるようにすると同時に、人手不足を少しでも補う狙いがある。

 まずは内科の外来で導入する予定。1日6時間程度で週2回、給料は時給に換算すると1000円程度にする。院内に設けている保育所も定員を10人増やし70人にする予定で、医師や看護師が子どもを預けて働きやすい環境を整える。

 病院長の塚本泰司教授は医療の高度化で従来に増して医師の人手や患者1人当たりにかけるケアの時間が増えたことが医師不足の背景にあると指摘する。

 時短勤務の導入についても「フルタイムで働ける医師を1とすると短い勤務では0.7程度の仕事量にしかならないが、それでも人手がほしい」という状況。
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魚拓

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April 12, 2009

時給防衛軍(1)

実話風ですが,全くのフィクションです。

午前8時半。私は自宅の居間でTVを観ながらクロワッサンを頬ばっていた。TVではエロ写真家のくせにいつの間にか医療評論家と自称している気色悪い奴が得意げに何かしゃべっている。次に画面が変わり,ベンツが1台買えるくらい高価だとされるヅラを載せた司会者が相変わらず取るに足らない感想を吐いている。「TVは時計代わりにつけているだけなのだから,画面全体を時計にしてくれればいいのに。それにしてもあのヅラがベンツか」などと思いつつコーヒーをすすっていると,ケータイから「ウルトラセブンの歌 パートII」の着メロ。天城先生からだ。天城先生は美人で,ゴドラ星人やキュラソ星人に似ているわけではない。発信者別の着メロの選び方はいいかげん,というか何も考えていない。おっと,それどころではない。この時間帯の電話の用件はだいたい想像がつく。

「諸星先生,ごめんなさい。息子が急に熱を出して」

「え,大丈夫? ああ,こちらは心配なく。休んでくれていいから」

「すみません。実家が近ければ親にみてもらうんですが」

「いやいや,やっぱりお母さんがいてくれたほうが子供も安心するし」

「本当にいつもすみません」

「気にしなくていいよ。幼児は急に発熱するからね。うちの子もしょっちゅうだったよ。こっちは大丈夫だから。それより子供さん,お大事に。じゃ」

さて困った。いつもは私を含めて医師6人で手術室4列の麻酔をこなしているが,今日は古橋先生が子供の入園式で休みをとっているので5人で4列の予定だった。ところが天城先生が休むので4人で4列になる。数字の上では足りているが,これでは誰も手術室を抜けられない。食事交代も難しい。それに誰か一人は病棟で翌日の麻酔のICを担当しなければならない。私はこれ以上ケータイが鳴らないことを祈りつつ,愛車のウィンダムに乗って病院に向かった。私も医師の端くれなのでトヨタのクルマには乗りたくないが,トヨタが嫌いになったという理由だけでクルマを買い換えるほどの富豪ではない。しかし日産かホンダあたりがミクラスという名のクルマを発売してくれたなら,少々無理してでも買うつもりだ。アギラでもいいけど。

病院に到着したのは午前9時半を少し回った頃だった。手早く着替えて手術室の中央廊下に出るとA室に入り,麻酔の準備を始めた。1例目は胃全摘術で10時に入室予定だった。硬膜外を併用する症例が1例目で良かった。他の部屋を気にすることなく硬膜外に専念できる。

患者は予定より5分ほど遅れて手術室に到着した。こんな日に限って硬膜外やライン取りに難渋するのではと危惧したが,どちらも滞りなく完遂した。そして手術が始まった頃に蘇我先生がオペ室に入ってきた。

「諸星先生,おはようございます」

「おはよう,蘇我先生。実は天城先生が急に来られなくなって,それで蘇我先生には病棟で明日の症例のICを頼みたいんだけど」

「えー? 私,麻酔のムンテラはしたことないですけど」

「先生が所属していた循環器内科でも心カテのムンテラはしてたでしょ。大丈夫,それに比べればずっと簡単。緊急PCIと違って時間は充分あるし,この麻酔説明書に書いてあるとおりに説明してくれればいいよ。で,最後に患者本人と同席者に署名してもらうだけ。麻酔器とモニターのお守りをしているより気が楽だと思うよ」

蘇我先生は小冊子を受け取ると,ページを繰りながら顔をしかめた。
「こんなにたくさん説明するんですか?」

「書いてあるとおりに読めば1時間もかからないさ」

「悪性高熱とか歯牙損傷はわかりますけど,これは・・・」
蘇我先生は説明書の一部を読み上げ始めた。
「『お年寄りでは,持病がなく普段元気にしておられる方でも朝見たら寝床で冷たくなっていたということがあります。あの世からのお迎えはいつなんどきやってくるかわかりません。それがたまたま手術中ということもあり得ます。医師は神様ではありません。天寿を全うされる方をこの世に呼び戻すことは不可能です』・・・これはちょっとやり過ぎではないですか?」

「何を言ってるんだ。君が産休している間にも患者の権利意識はバルンガのように膨らんできている。『医療訴訟は医師の説明不足が原因。患者のせいではない』と公言してはばからない連中もいるんだ。これでもまだ説明が足りないくらいだ。そろそろ『AEDは死人を生き返らせる機械ではありません』も付け加えようかと思っている」

「これだけきついムンテラしたら,患者は麻酔を拒否しませんか?」

「麻酔無しでは手術は受けられない。麻酔を拒否するということは手術も拒否することになる。それはそれで仕方ない。麻酔中に有害事象が発生し,後日患者から『麻酔のリスクがこんなに怖いとは知らなかった。知っていれば麻酔を受けなかった』と訴えられるくらいなら,最初から麻酔を拒否してくれた方がありがたい。とにかく,麻酔のリスクの説明を受けた患者の2人に1人は恐怖に涙し,3人に1人は遺書を書き,4人に1人は自宅に逃げ帰り,5人に1人は屋上から飛び降りる,それくらいのつもりで厳しくムンテラしてきて」

「麻酔のムンテラを苦にして飛び降りた人っているんですか?」

「二十年ほど前,ある若い麻酔科医が患者に麻酔の説明をした。そしてその患者は夜中に屋上から飛び降りた。しかし,ムンテラの内容がきつかったわけではない。その麻酔科医は患者に『僕も麻酔の仕事がんばりますので,あなたもがんばって病気と闘ってくださいね』と言ってしまった。患者にはうつ病という合併症があった」

「その麻酔科医,責任を問われなかったんですか?」

「病室は個室だったし,ムンテラ時に患者の家族はいなかった。病院は11階建てだったので患者は即死。誰もムンテラ内容を知らない」

「その若い麻酔科医って・・・」

「ま,それはともかく,今日のICは5例だから,よろしく。手際よく済ませればいつもより早く帰れるかもしれないけど,くれぐれも端折らないように」

蘇我先生はムンテラが終わったら帰宅していいと聞いたとたんに機嫌が良くなり,急ぎ足で病棟に向かった。

とりあえず,これでICのほうは何とかなりそうだ。あとはオペ室のことだけを考えればよい。私は術野を見て胃全摘術がインオペにならないことを確認し,筋弛緩薬をたっぷり投与した。これで当分はバッキングで呼ばれることはない。もうすぐここは麻酔科医が数十分間いなくなる。

しばらくすると,予定通り隣のB室にTKAの患者がストレッチャーで運ばれてくるのがドアの窓越しに見えた。私はモニター上の数値と人工呼吸器をチェックした後,A室を出てB室に入っていった。患者は60歳代の小柄な女性。最近の整形外科では肺血栓塞栓症予防のためにフォンダパリヌクスを使用するため,硬膜外は入れないことにしている。ナースたちが患者のからだに手早くモニター類を装着するやいなや,私は患者の顔にマスクをあてて酸素を流し始めた。静脈麻酔薬と筋弛緩薬を投与しマスク換気し始めると,帰国子女のアンヌ先生が手術室に現れた。

「諸星先生,遅くなってすみません。幼稚園の送迎バスがなかなか来なくて」

「いやいや,ちょうど良かった。この患者,総入れ歯で自分の歯は1本もないから挿管してくれていいよ」

「えー? いいんですか? ありがとうございます」

アンヌ先生の喉頭鏡での挿管試技は1回目は舌を充分よけられずに失敗した。2回目も失敗したら喉頭鏡を取り上げようと決めていたが,何とか2回目で挿管できた。

「先生,次はラリンジアルマスクの練習もさせてください」

私は「うん,適当な症例があればね」と大嘘をついた。

冗談じゃない。産休明けでリハビリ中,しかも麻酔科医になるつもりもない君たちにLMAは任せられない。LMAの挿入自体は問題ないが,麻酔維持中が怖い。LMAのフィットが悪くなってくると,LMAそのものが気道を塞いでしまう。気管挿管ならその心配がない。私が麻酔維持を彼女たちに任せられるのは挿管されて人工呼吸器に乗っている症例だけだ。

私は「セボフルレンは2%以上にしないように。何かあったらすぐに僕を呼ぶように。呼ぼうかどうしようか迷ったら必ず呼ぶように。それと,今日は人手不足だから昼食交代は20分で我慢して」と言い残してB室を出た。

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