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March 29, 2009

お客さん,そろそろ看板なんですけど

魚拓

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愛育病院、一転して総合周産期センター継続を検討へ

2009年3月26日20時23分


 リスクの高いお産を診る「総合周産期母子医療センター」の指定返上を東京都に申し出た愛育病院(港区)は26日、再考を求める都の意向を受け入れ、総合センターの継続を検討することを決めた。

 同病院は、医師の勤務条件に関する労働基準監督署の是正勧告を受け、総合センターとして望ましいとされる産科医の当直2人以上の態勢を常勤医だけでは維持できないと判断し、返上を申し出た。

 同病院によると、26日に病院を訪れた都の担当者から、周産期医療の提供体制を守るために必要だとして継続を要請された。都側は非常勤の医師だけの当直を認める姿勢を示したという。

 一方、厚生労働省の担当者からは25日、労働基準法に関する告示で時間外勤務時間の上限と定められた年360時間について、「労使協定に特別条項を作れば、基準を超えて勤務させることができる」と説明されたという。

 中林正雄院長は26日の記者会見で、「非常勤医2人の当直という日があってもいいのか。特別条項で基準を超える時間外労働をさせても法違反にならないのか。都や厚労省に文書で保証してもらいたい」と話した。

 中林院長は、非常勤医だけで当直をすることの是非について、周産期医療の関係機関でつくる協議会に検討を求めたことも明らかにした。
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通称『たらい回し』記事を読んで義憤に駆られた情報弱者が,盲目的感情爆発型思考停止ブログに「患者を受け入れられないなら,○○センターの看板を下ろせ」とか得意げに書き込んでいるのを見かけるが,本当は病院側が看板を下ろしたくても行政がそれを許してくれない。今回がそのいい例。
しかし愛育病院には「GJ!」と思っていたのに,翻意するとは誠に残念。

「スーパー総合周産期センター」の1つである日赤医療センターにも労働基準監督署から是正勧告を受けているらしいから,そっちに期待しよう。
http://lohasmedical.jp/news/2009/03/26132125.php


その他,新年度に向けて小粒だが香ばしい話題も

魚拓

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佐野厚生病院、12月から産科休止 周産期機関返上へ
(3月28日 05:00)

 合併症などリスクの高い妊婦を受け入れる地域周産期医療機関に認定された佐野厚生総合病院(佐野市)が十二月から産科を休止する方針であることが二十七日、分かった。現在三人の産科常勤医が四月から二人に減るためで、十一月までのお産と産科救急も当面対応する予定という。出産前後の周産期医療体制を支える地域拠点病院がこのまま離脱すれば、弱体化は必至だ。

 同日の県周産期医療協議会で病院関係者が報告した。

 下野新聞社の取材に対し、現在診療している妊婦は責任を持ってお産まで担当するが、四月以降に常勤医が三人に戻らなければ、十一月いっぱいでお産を休止せざるを得ないという。

 佐野厚生のお産件数は、年間四百件近くに上る。産科救急は四月から対応できる範囲が縮小する見通し。また地域周産期医療機関の認定も産科が休止すれば、返上するという。

 県保健福祉部によると、県内でお産に対応する医療機関は減少する一方。三年前には五十カ所だったが、昨年四月には下都賀総合病院(栃木市)のお産休止などで四十四カ所に減った。

 地域拠点病院も今年二月に国立病院機構栃木病院(宇都宮市)が地域周産期医療機関の認定返上を申し出たばかりだった。

 県保健福祉部の担当者は「きょう初めて聞き、えっと思った。救急の対応など今後の状況を、きちんと確認したい」と、驚きを隠さなかった。
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よく考えたら,奈良で救急患者が6病院に断られたというのと同様,別に珍しい話ではない。12月はまだまだ先だし。

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March 19, 2009

麻酔伝説5

これで終わりです。
ツッコミどころは多いでしょうが,どうか目をつぶってやってください。
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「オーベル,3週目はどうだった? 確か開口障害のある…」

「後腹膜腫瘍です」

「そうだった。麻酔はまさか,またエピスパか?」

「いいえ,硬麻は併用せずに全麻だけでした」

「そういえば,ヤンは硬膜外カテーテルをあまり入れたがらないという噂だったな。PDは喘息患者だったので挿管を避けるため仕方なくエピスパを選択したのか。で,挿管はどうした」

「気管支ファイバーで難なく経鼻挿管していました」

「まあ,プロの麻酔医ならそれくらいできて当然であろう。驚きはせぬ。それより手術での不手際はなかったであろうな」

「大量出血しました。約10リットルです」

「なんだと,鉄壁ミュラーともあろう者がどうしたことか! いったい何が起こったのだ」

「腫瘍が予想よりも周囲と癒着していました。ヤンにこの症例を担当させるため手術予定を遅らせましたが,その間に急速に浸潤していったようです」

「それで,患者はどうなった?」

「もちろん大量輸血となり,緊急避難的な異型輸血もしましたが,大きな合併症もなく昨日ICUから一般病棟に移りました」

「異型輸血だと?」

「患者の血液型はB型でしたが,B型の血液製剤が足らなくなり,やむを得ずO型MAPとAB型FFPを投与することになりました」

「誰がその決断をしたのだ」

「ヤンです」

「予想外の大量出血とはいえ,輸血部という部署まである大学病院で同型血が間に合わないとはどういうことだ。ヤンの血液製剤発注のタイミングが遅すぎたのではないか?」

「いいえ。小官もその場にいましたが,発注のタイミングは早すぎるぐらいでした」

「それではなぜ」

「手術室看護師と輸血部との連絡ミスです。MAPがなかなか届かないため輸血部に確認したところ,初めて連絡ミスが発覚しました。輸血部の在庫はすぐに底が付き,ただちに日赤血液センターに発注すると同時に病棟中のB型MAPを探しましたが,血液内科や心臓外科の病棟にもありませんでした。しかし幸いなことにO型MAPとAB型FFPは充分ありました。ヤンはB型MAPを使い果たした後はぎりぎりまで我慢しましたが,患者の血行動態が悪化したため,O型MAPの輸血に踏み切りました。また,出血傾向も見られるようになったのでAB型FFPも投与しました」

「血液型不明の救急患者ではあるまいに,なんという失態だ。だがそのおかげでヤンの危機管理能力を評価することができた。麻酔医にとって予想外の大量出血は珍しいことではないとはいえ,MAPが足りない状況でさぞかしヤンも肝を冷やしたことだろう」

「ヤンは終始冷静でした。B型MAPが院内に存在しないと聞くとただちにO型を探させ,オペ室に取り寄せました。いつでも異型輸血に踏み切る用意を整え,後はタイミングを計るだけだったようです」

「なかなかやるではないか。それに運にも恵まれている。硬膜外カテーテルを入れていたなら,出血傾向による硬膜外血腫も心配せねばならぬところだった」

「彼は硬麻だけでなく,観血的動脈圧やCVカテーテルもあまり入れたがらないという話でしたが,なぜかこの症例には麻酔導入後すぐにAラインばかりか内頚静脈にトリプルルーメンカテーテルを挿入していました。これらのおかげで後手後手に回らずに済んだとも言えましょう」

「まさか,大量出血を予見していたとでも」

「その件についてですが,こちらをご覧ください」

「麻酔チャートか,数字と記号しか書いていないこんな紙切れを見て何がわかる」

「まずは輸液,特に手術開始時あたりの輸液製剤を見てください」

「1号液に生理食塩水と5%ツッカー…。奇妙だな。麻酔医とは馬鹿の一つ覚えのようにリンゲル液しか輸液しないものと思っていたが,それがない」

「その3つの輸液製剤には共通点があります」

「カリウムだ。カリウムが含まれていない」

「そうです」

「患者は腎機能が悪かったのか?」

「いいえ,全く正常です。そして手術開始時より尿量も保たれています。にもかかわらず,ヤンは早期よりドーパミンの持続投与を始めています」

「血圧が低かったためではないのか?」

「確かに出血が始まる前からも血圧は低めです。しかしいきなりカテコラミンを必要とするほどではありません。それに,麻酔維持に用いている静脈麻酔薬と麻薬の投与量が前の2回の麻酔より多めです。血圧を上げたいならまずはドーパミンではなく,麻酔薬の維持量を減らすのが先のはずです」

「ではドーパミンは利尿目的なのか? 乏尿でもないのに? 馬鹿な,これから大量出血になりそうというときにハイポボレミアを助長するようなことをするわけがない。奴は大量出血など予見していなかったということだ」

「カリウムを含まない輸液と強制利尿でどうなりますか?」

「もちろん低カリウム…。ん?まさか,奴は大量輸血に備えて故意に低カリウム血症にしていたというのか? 大量輸血後の血清カリウムの値は?」

「最高で5.6mEq/Lでした」

「照射血をこんなに輸血して最高が5.6mEq/L。やはり予め意図的に血清カリウム値を下げていたのか。しかし,カリウムを下げたいならフロセミドのほうが手っ取り早いではないか?」

「乏尿でもないのにループ利尿薬はさすがに気が引けたと見えます。ヤンはこっそり低カリウム血症に誘導したかったのでしょう」

「低カリウム血症でも不整脈が出るはずだ」

「おそらくヤンは心電計のT波の高さを見て調節していたものと思われます。閣下,今度は手術開始時の人工呼吸器の換気条件に注目してください」

「400mL×7回。患者の体格の割に少ないな」

「次はEtCO2です」

「50台後半の高値で推移している。これでは呼吸性アシドーシスになるではないか」  

「アシドーシスになるとカリウムはどうなります?」

「細胞内から出てきて高カリウム血症に…。なんてことだ,奴は利尿で低カリウム血症にしておきながら,それをごまかすためにアシドーシスにしていたのか! しかし代謝で代償…いや,そんな時間はない」

「そうです。それに輸液も生理食塩水などです」

「大量輸血直前のカリウムの値は?」

「その時点のCBCのデータはありますが,血液ガスと電解質のデータはありません」

「カリウムの低値やアシドーシスを見られたくないから検査しなかったのか」

「断言はできませんが,おそらく間違いないでしょう。そして大量輸血でカリウムが上昇してくる頃に分時換気量を増やし,アシドーシスを是正してカリウムを細胞内に戻したのです。麻酔チャート上でも輸血量が増えるにつれて一回換気量も換気回数も増えています」

「もし輸血する必要がなかったらどうするつもりだったのだ」

「簡単です。『血圧が低いのでドーパミンを使用したら利尿が増えた。そのせいで低カリウム血症になったのでカリウムを補正する』と言ってトリプルルーメンのどれかのルートからゆっくりカリウム補正するだけです」

「何が魔術師だ,これではペテン師ではないか」

「しかし,そのおかげで大量輸血でも高カリウム血症にならずに済みました。並みの麻酔科医なら当初静脈ルート1本だけで麻酔していたことでしょう。出血が増えてきてあわてて太い末梢静脈路確保,Aライン,さらにCVカテーテル挿入と続くでしょうが,どれかに手間取っている間にボリューム負荷やMAPの発注がもっと遅れた可能性があります。ヤンと同様に異型輸血という離れ業を思いついたとしても,その決断がヤンより早いことはなかったと小官には思えます。さらに大量輸血による高カリウム血症で心停止というシナリオも充分ありえます」

「つまり,卿は『麻酔医がヤンでなければ患者は死んでいた。ヤンのおかげで助かった』と言いたいのか」

「助かったのは患者だけではありません。今頃閣下と金木院長,余部教授が並んで頭を下げ,カメラフラッシュの放列を浴びていた可能性もあります。そしてその場合,三浦先生は数年間刑事罰に怯えて暮らすことになります」

「もうよい,わかった。卿の言うとおりだ。よし,ヤンを買おう。勤務条件の交渉には私も立ち会う。どんな奴か見てみたい。報酬ははずんでやろう。どうせ私のカネではない」

「交渉は必要ありません」

「どういうことだ? オーベル」

「彼から辞退の連絡が先ほどありました」

「なんだと? 向こうから雇って欲しいと言ってきたはずではないか」

「しかし,試行期間を申し入れてきたのも向こうです」

「そうだった。 えっ? ということは まさか…  試行期間で試されたのは…」

「そう,我々だったようです」

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March 17, 2009

麻酔伝説4

「2週目のミッターのPDはどうした? 重症の喘息患者だったな。気管挿管の刺激で発作は起こらなかったのか?」

「ヤンは挿管せず,CSEで麻酔を行いました。そのせいか喘息発作は起きませんでした」

「CSE? まさかエピスパのことか?」

「脊硬麻とも言います」

「そんな馬鹿な,PDをアウェイクで手術したというのか」

「ヤンは三田先生が疾風ミッターと呼ばれていることを知っていたようです。たとえ上腹部の手術でも短時間なら硬麻だけでも麻酔は可能だそうで,ルンバールはおまけだと言ってました」

「おまけ?」

「下半身の痛みは取る必要はないものの,無意識のうちに下肢が動いたりしないようにするためとか」

「硬膜外麻酔で交感神経をブロックしたなら,喘息は起こりやすくなると聞いたことがある」

「そのリスクと,気管挿管の刺激による発作誘発のリスクとを天秤にかけ,CSEを選択したようです。ただし,術者が三田先生でなければヤンも全身麻酔を選択していたでしょう」

「それで手術はどうなった? ミッターなら大丈夫だったろうな」

「さすがの三田先生もアウェイク患者へのPDは初めてで,勝手が違ったようです。それに三田先生はいつもより時間を気にしていました」

「それは私が最短記録を目指せと言ったからか?」

「そうではありません。後で聞いた話ですが三田先生はルンバール単独と勘違いし,『麻酔が切れないうち』にと,いつもより急いだそうです」

「なんと愚かな。麻酔薬は硬膜外カテーテルから足せるというのに」

「それだけではありません。ヤン先生が患者と会話しているのが気になったようです」

「患者の意識が清明なブロック麻酔では,気を紛らわすために麻酔医が話しかけるのは当然であろう。コミュニケーション能力に欠ける麻酔医が多い中,むしろ褒められるべき行為だ」

「会話の内容が気になったそうです」

「どういう会話だったのだ」

「私は少し離れていたので断片的にしか聞き取れませんでしたが,赤城,加賀,蒼龍など旧日本海軍の空母の名前が挙がっていました」

「ふん,ヤンも軍オタか。卿と気が合いそうだな。しかしミッターも軍オタとは知らなかった」

「三田先生はヤンや患者の口から『エヴァ』という言葉が発せられるたびに気が散っていたようでした」

「エヴァ? なんだそれは? アメリカの軍艦か?」

「そのような名の艦船は私は知りませんが,三田先生にとってエヴァとは特別の意味があります。閣下もよくご存じのはずです」

「うん? そうだ,ミッターの奥方の名だ。あいつ,留学先ではろくに研究しなかったくせに結婚相手はしっかり見つけおって」

「三田先生は手術に時間制限があると思いこんだ上,自分の妻の名をたびたび呼び捨てにされて気が散ったのか,いつもより精彩を欠いていました」

「手術は失敗したのか?」

「急性期は問題ありませんでしたが,術後3日目に膵空腸縫合不全をきたし再手術となりました。今度は全麻で,手術終了時に喘息発作が起きましたが,現在は落ち着いています」

「再手術の麻酔はだれが担当したのだ」

「金木一門の当直医です。麻酔中は大丈夫でしたが,抜管を契機に重篤な喘息発作をきたし,再挿管されてICUで2日間ほど人工呼吸管理になりました」

「なんということだ。 ところでヤンは再手術のことを…」

「ヤンには電子カルテのIDとパスワードを与えましたので,端末のあるところでなら自由に閲覧できます。彼は他病院での仕事の帰りにもときどき当院に顔を出していましたので,その後の経過は知っていると思われます」

「やれやれ,ビッテンに続きミッターまでもがこのざまか。いや,しかたあるまい。百戦して百勝というわけにもいかぬ。それより患者側とはこじれていないか? 再手術になった上,一回目の麻酔と再手術の麻酔でその質に大きな差があった」

「三田先生の誠意ある態度と詳細な説明のおかげで感情的にはなっていません。ただ」

「ただ,何だ」

「患者は『一回目の手術は胃カメラの検査より楽だった』と周りに漏らしているそうです」

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March 16, 2009

麻酔伝説3

所詮妄想ですので,鋭いツッコミはご容赦のほど

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3週間+α後。


「閣下,お疲れのところ恐縮ですが,お話があります」

「例の麻酔医のことだな? オーベル,あのブラ切除はどうなった?」

「当日,ヤンは胸部レ線で気管の細さに気づき,さらに胸部CTでトラケアル・ブロンクスと診断,すぐさま手術の延期を申し入れてきました。しかし美点先生はこれを拒み,麻酔の施行を強要しました」

「あのビッテンの性格ならそうなるであろうし,卿もそうなることは読んでいたはずだ。で,ヤンはどうした?」

「麻酔を引き受けました」

「ヤンのポリシーはいったいどの方向を向いておるのだ。分離換気が不可能だから延期を申し入れたのであろう。術者が強硬姿勢だからといって簡単に折れていいような問題ではあるまい」

「それが,分離換気は成立しました」

「何? 小児用の気管支ブロッカーが届いたのか?」

「いいえ。麻酔導入後,彼はまず内径5mmのシングルルーメンチューブを挿管しました」

「卿はそれでは長さが足りないと言ってたではないか」

「それはチューブのカフが左主気管支に達する深さまで入れた場合です。ヤンはカリーナの上方,右上葉気管支が開口している部位にカフが当たるようにチューブを固定しました」

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「その位置をどうやって確認したのだ」

「聴診器です」

「なるほど。右上葉の呼吸音が聞こえなくなる位置か。これで右肺上葉をブロックできるとして,中葉と下葉はどうしたのだ」

「フォガティカテーテルを気管支ブロッカーとして使いました」

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「そうか,フォガティカテーテルなら細さは充分だ。気管支ファイバーで見ながらフォガティを右気管支に誘導してやればいいわけか」

「いえ。内径5mmの挿管チューブではフォガティといえども気管支ファイバーと同時には入りません。彼はブラインドでフォガティを右気管支に入れました」

「ばかな! 気管支の左右は1/2の確率で何とかなるとして,深さの確認はどうする?」

「それも聴診のみです。そもそも右肺全体を無気肺にすることが目的ですので,それさえ達成できれば深さは問題ありません」

「ああ,うかつだった。ダブルルーメンチューブと違い,デペンデント側の上葉枝ブロックは気にしなくていいのか」

「そういうことです」

「で,リークチェックなどで右肺をインフレートする際にはフォガティのバルーンをしぼませたり5mmの挿管チューブをずらせたりするわけか」

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「その通りです。ただしインフレートよりもデフレートに少々苦労していたようです。右上葉のデフレートは挿管チューブを少し深くすることにより上葉枝が大気解放になりますが,中葉と下葉はそういうわけにはいきません」

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「しかし,即興でそんな芸当ができるとは。ヤンにはしてやられたな。簡単な手術を選んでおいて正解だった。麻酔医が見事な手際を披露した後に手術で手間取っていては格好がつかないところだった」

「それが…」

「まさか,ビッテンの奴,しくじったのか?」

「ブラが見つかりませんでした」

「何?」 

「私も胸腔鏡のモニターを見ていましたが,胸腔内に生理食塩水を満たした状態で右肺をインフレートしてもどこからも泡は出てこず,ブラらしきものも見あたりませんでした。上葉ばかりか,中葉も下葉も」

「自然気胸を繰り返す患者ではなかったのか」

「そうですが,とにかくリークもなくブラもないので何もせずに手術を終えました」

「いやがる麻酔医に無理強いしておきながら,なんたる無様な! 信賞必罰は外科医のよって立つところ。ビッテンの責任を問わねばなるまい」

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March 15, 2009

麻酔伝説2

細かいツッコミはご勘弁

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「症例は既に用意してあります。来週はトラケアル・ブロンクスというアノマリを有する患者の胸腔鏡下ブラ切除術がよろしいかと」

「トラケアル・ブロンクス? 気管支の分枝異常か?」

「そうです。上葉に向かう気管支がカリーナ上方の気管から直接枝分かれしているものです」

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「麻酔上何か問題があるのか?」

「トラケアル・ブロンクス自体による症状はありませんが,この症例では気管が細くなっています。おそらくシングルルーメンの気管チューブでも内径5mm程度のサイズしか挿管できないでしょう。手術はブラ切除なので分離換気が必要になりますが,分離換気用のダブルルーメンチューブは太すぎて使用できません」

「ブラはどこにあるのだ?」

「分枝異常の気管支が担当している右上葉です」

「右肺全体を虚脱させる分離換気なら,シングルルーメンの気管チューブのカフが左主気管支に入る深さまで進めれば事足りるはずだが」

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「患者の身長は183cmです。内径5mmの気管チューブでは長さが足りません」

「関連病院の葉稲泉こども病院では小児の分離換気はどうしている」

「気管支ブロッカーの細いものを使用しているようですが,当院にはありません」

「では,それを取り寄せたらすむことだろう」

「それではテストになりません。麻酔上の問題点についての情報を予め得ていてそれに対する道具があるなら,凡百の麻酔科医でも対処可能でしょう。予期しないトラブルに対して手持ちの道具や薬で切り抜けられるかどうかで麻酔科医の真価が決まります。患者にトラケアル・ブロンクスがあることを知っているのは私と,術者である美天先生だけです。ヤンには電子カルテのIDとパスワードを一時的に与え,カルテを自由に見られるようにしますが,どこにもトラケアル・ブロンクスの記載はありません。美天先生にも気管支の異常についてはカルテに何も書かないよう言い含めてあります」

「あのビッテンが卿の謀に協力するとは驚きだな」

「美天先生は私のことが嫌いのようですが,フリー麻酔科医のことはもっと嫌いのようです。罠をしかけると言うと大乗り気でした」

「他人を陥れようとする者は自分の足下が見えないものだ。ビッテンこそ手術でヘマをしないか」

「美天先生は胸腔鏡下手術の第一人者です。しかも単純なブラ切除術。手術に関しては問題ないでしょう」

「そうか。抜かりがないな。卿を敵には回したくないものだ。他のテスト症例も聞いておこう。どうせもう決まっておるのであろう」

「2例目は喘息発作を繰り返す患者の膵頭十二指腸切除術です」

「ERCP中に発作を起こした,あの症例か?」

「そうです。その後しばらく人工呼吸管理になりましたが,今は元気にしています」

「なるほど。それはおもしろい。PDなら疾風手術のミッターが術者だな。ヤンのやつ,手術のあまりの速さに舌を巻くことだろう。もっとも,術野を見る余裕があればの話だが」

「患者は腹部の手術歴がなく,病変部に炎症や血管浸潤もありません。三田先生ならいつもどおり3時間以内に手術を完遂できるでしょう」

「ミッターにはPD手術の最短記録を目指せと言っておけ」

「御意」

「3例目は何だ」

「開口障害のある後腹膜腫瘍です。顎関節症のために口が1横指しか開きませんので気管挿管に難渋するはずです。手術は簡単なので術者の候補には困りませんが,三浦先生に依頼しました」

「鉄壁ミュラーか。用心深い人選だな。ところで,喘息や開口障害もヤンには教えてやらないのか」

「2例目の喘息と3例目の開口障害はカルテを見れば一目瞭然です。1例目のトラケアル・ブロンクスも胸部CTを詳しく見れば診断できます。ただしトラケアル・ブロンクスという稀なアノマリを知識として持っていればの話です。しかしこの病態のことを知らなくとも,気管が異様に細いことは胸部の単純レ線で気づくはずです」

「ヤンがそれに気づかずに太い挿管チューブを入れようとしたなら,必ず止めるのだぞ。みすみす気管裂傷など起こさせてはならぬ。卿はこういう場合に黙認するきらいがあるが,今回は明確な阻止命令を出しておく。それにしても,ヤンのテストをこの目で見られないのは残念だ。私とキルヒは週末から海外出張に出かけ,帰国は三週間後になる。私に代わってヤンの腕前をとくと見極めよ」

「御意」

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March 14, 2009

麻酔伝説1

注:私は「麻酔医」という呼び名は嫌いですが,外科医の言葉としてあえて時々使っています。

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「閣下,お話があります」

「何事だ,オーベル」

「前にも申し上げましたが,私の姓は大鈴(おおすず)です」

「私はただの上級教授に過ぎないが,軍オタの卿は私のことを閣下と呼ぶ。それは一向に構わん。しかし卿は陰で私のことをラインハルと呼んでいるそうだな。私はその呼び名も嫌いではないが,その呼び方を公式に許しているのはここにいる,幼なじみの吉瑠陽(きるひ)だけだ。卿が私のことを正しく線張(せんはる)と呼ばずにラインハルと呼ぶのなら,私が卿のことをオーベルと呼んでも差し支えあるまい」

「承知しました」

「ところで,話とはなんだ」

「自由麻酔同盟と呼称するグループに属する医師のひとりが,当院でバイト麻酔医として週一回働きたいと申し入れてきました」

「はて,それは筋違いというものだ。我が大傳(おおでん)大学病院で麻酔医として働きたいというのなら,当院の麻酔科に申し入れるべきであろう」

「その麻酔医は我が第二外科の手術に関してのみ麻酔を担当したいと申しております」

「ほう,これはどういうことだと思う? キルヒ?」

「ラインハル様の名声がフリーター麻酔科医達にも知れ渡ったということでしょう」

「そいつの名はなんという」

「矢武上利一です」

「やむうえりいち?,呼びにくい名だな」

「親しい人間にはヤン先生と呼ばれているようです」

「そうか,では我々もヤンと呼ぼう。オーベル,我々がそのヤンとかいう麻酔医を勝手に雇い,第二外科だけの麻酔を担当させたなら,当院麻酔科の金木一門が黙っていまい?」

「麻酔科のゴールデンバ…,いや金木教授は確かに病院長でもありますが,かつてのような権勢は見る影もありません。金木教授は心ある部下の諫言には耳を貸さないどころか彼らを遠ざけ,世辞の巧みな者だけを重用しています。その結果,有能な麻酔科医が次々と去っていったのはご存じの通りです」

「そう言えば『忠誠心というものは,その価値を理解できる人物に対して捧げられるもの』と言い残して去っていった麻酔科医もいたな。金木がおのれの人徳のなさで重臣に人を得ないのは自業自得だが,こちらも迷惑だ。手術待機患者は山ほどいるというのに,麻酔医不足のせいで手術枠が埋まらぬ。週三回の第二外科の手術枠は本来2列ずつのはずが,火曜と木曜は実質1列の状態が続いておる。しかし,だからといって勝手に麻酔医を雇って手術枠を埋めれば金木一門との波風は避けられぬ」

「閣下,我々と麻酔科はもともと良好な関係になく,いまさら金木一門に気を遣ってもこちらに破格の恩恵を恵んでくれるわけではありません。それにすでに先例があります。眼科では小児の斜視手術に限定した麻酔医を外部委託しています」

「あの麻酔医は眼科の緑丘教授の娘だ」

「術者の肉親だからといって専属の麻酔医が特別に許されるという道理はありません。眼科で認められるのなら,我が第二外科でも認められるはずです」

「ふむ,確かにそうだ。しかし小児の斜視手術専門とは考えたな。患者入れ替えの時間を考慮しても午前中だけで4,5件はこなせるはずだ」

「緑丘教授の娘は午後3時には帰宅しているそうです。そんな甘ったれた雇い方が許されるのなら,週一とはいえフルタイムで働く専属麻酔医を雇うことを忌避されるいわれはありません」

「卿の言い分はわかった。ところで,そのヤンとやらは何曜日に勤務してくれるのだ?」

「月曜日を希望しております」

「それはまずい。月曜日には我々の手術枠はない」

「問題ありません。月曜日は耳鼻咽喉科の枠が空いています。それを借りるのです」

「借りる? 我が第二外科の火曜か木曜の枠1列を月曜日に移せばすむことではないか?」

「閣下,それをしてはなりません」

「何? してはならぬ? そうか,わかった。さすがはオーベル,欲が深いな。我々が得た麻酔医はあくまでプラスアルファということだな」

「そういうことです」

「だが,耳鼻科がそう簡単に首を縦に振るとは思えぬが」

「耳鼻科の月曜日の手術枠が稼働していないのは麻酔医不足のせいではありません。一昨年からの開業ラッシュのせいで耳鼻科に術者がいなくなったためです。月曜日にかぎらず手術室は空室だらけでオペ室看護師も余っています。手術室の効率的利用を訴えれば誰も拒否することはできないでしょう」

「耳鼻科はさておき,中央手術部の部長である泌尿器科の余部(ヨブ)教授が納得すると思うか? ヤツは『麻酔医不足のせいで稼働していない火曜か木曜の手術枠を使え』と言うに決まっておろう。

「麻酔医不足のために手術枠削減を余儀なくされているのは我々だけではありません。第一外科,脳外科,産婦人科,泌尿器科,整形外科…。多くの診療科が麻酔医を欲しています。我々の本来の手術枠にヤン先生を使えば,金木一門にはその分少しだけ人的余裕が生まれます。しかし,その新たに出現した麻酔科のマンパワーは我々には向けられず,他の外科系の手術に振り分けられると考えて間違いありません。つまり,我々が麻酔医を独自に得たおかげで他の診療科は労せずして恩恵を授かることになるのです。我々にはウロやギネの手術枠を増やしてやる義理はありません。それに,ヨブ教授自身も泌尿器科専属の麻酔医を求めて全国を飛び回っているという情報も入ってきています。彼が麻酔医探しに成功した暁には,我々と同じことを考えるでしょう」

「しかし,それならヨブはヤンに他の手術の麻酔,特に泌尿器科も担当させろと言い出さないか? なにしろヤンに給料を払うのは第二外科ではなくて病院だ」

「それは各科がヤン先生に個別交渉すればいいだけです。麻酔科医は公共財ではありません。フリーの麻酔科医には,少なくとも現在は仕事のパートナーを選ぶ自由があります。確かにヤン先生に給料を払うのは病院ですが,彼の働きによって麻酔の診療報酬を得るのも病院です。給料を払う者が誰かと,希少な麻酔科医を招聘したのは誰かは切り離して考えるべきでしょう。我々は第二外科のためにフリーター麻酔科医を雇うのであって,ここの麻酔科を楽にするためではありません。第二外科本来の手術枠は,稼働しているしていないにかかわらず,手放してはなりません。一度減らされた手術枠は,将来当院の常勤麻酔科医が充足してきたときに復活するとは限りません」

「なるほど,確かにそうだな。ちょうど良い。明後日に手術部運営会議がある。出張前で忙しいが,私が会議でヨブのヤツを説き伏せるとしよう。ヨブは嫌いだが致し方ない」

「ラインハル様,その前にひとつ問題があります。そのヤン先生の麻酔科医としての力量を我々は知りません」

「キルヒ,自分から売り込んで来る医師が腕に自信がないと思うか?」

「本人の自信と実際の能力とは必ずしも相関しません」

「その点に関してですが,実はヤン先生のほうから三週間の試用期間,つまり3回の月曜日を無料で働くので自分の力量を見て欲しいと申し出ております」

「ほう,殊勝な心がけだな。ところでヤンは現在どこの病院で働いているのだ?」

「火曜日が手尼戸(てあまと)記念病院,水曜日が阿夢(あむ)市立病院,木曜日が明日館(あすたて)総合病院,金曜日が伊瀬流(いぜる)医療センターで,土日と月曜日は休みです」

「毎週三連休とは結構なご身分だな。しかしさすがはオーベル,抜かりがないな。その様子では各病院での評判も既に得ているのであろう?」

「各病院の密偵,いえ,外科医に問い合わせたところ,悪い噂は聞きません。手術が夜遅くまでかかっても嫌な顔ひとつしないそうです。麻酔科医の売り手市場をいいことに高飛車な態度をとることはないようです」

「肝心の麻酔の腕前はどうなのだ?」

「新しい麻酔方法を積極的に取り入れるほうではなく,堅実な麻酔をこころがけているとのことです。麻薬や筋弛緩薬の新薬が発売されてもすぐに飛びつきはせず,一年間は様子を見るという話です。中心静脈カテーテルや観血的動脈圧など侵襲性のあるモニターも極力避け,最近では硬膜外カテーテルも入れたがらないそうです」

「ふーん。人柄はともかく,麻酔に関しては臆病でヘタなだけではないか」

「しかし,理由はわかりませんが彼のことを『魔術師』と呼ぶ者もいるようです」

「うーむ。どう思う? キルヒ」

「臆病さは麻酔医にとって重要な資質と思われます。当院は教育病院ということもあり,未熟な麻酔医がCVカテーテルなどをやたらと入れたがりますが,そのために手術開始時刻が遅れ合併症のリスクも高まります」

「確かに当院の麻酔では侵襲的モニターのベネフィットよりリスクのほうが高いな。麻酔医がうちのビッテンのような猪突猛進型でも困る」

「ラインハル様,とにかく噂だけではわかりません。試用期間にしっかり見極めることが肝要かと」

「そうだな。早速次の月曜日からヤンを試そう。来週の手術予定の提出は今日だ。まだ間に合う。中央手術部のヨブと麻酔科の金木には私が直接話をつける。オーベル,麻酔上問題がありそうな手術症例を3例選べ。特に来週の症例は大急ぎで手配しろ。ただし,麻酔は難しくても手術は簡単な症例だ。癒着・炎症・血管浸潤など手術に支障がありそうな症例は避けろ。言うまでもなくその手術のスペシャリストを術者とし,研修医は参加させるな。若い外科医への教育的配慮は一切不要だ。ヤンに隙を見せてはならぬ」

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March 13, 2009

タスポにはETC並みの特典を

魚拓

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川崎の医師:講演会で「どんどん吸って早く死んで」

2009年3月12日 2時30分 更新:3月12日 8時28分

 川崎市立井田病院(中原区、関田恒二郎院長)の男性医師(55)が、7日に富山市で開かれた講演会の質疑応答で「禁煙が進むと医療費がかさむことは明らか。どんどん吸って早く死んでもらった方がいい」と発言していたことが分かった。禁煙推進団体は「人の命と健康を守る医師の発言とは思えない暴論」と抗議した。医師は取材に対し「真意が伝わらず誤解を生んだ」と釈明している。

 病院などによると、講演会は富山県医師会主催で参加は関係者約30人。男性医師は医療と介護をテーマに講演した。質疑応答で、神奈川県が制定を目指す公共的施設受動喫煙防止条例について問われ、回答した際に発言したという。

 医師は「私もたばこを吸うので、(喫煙は)自己責任だと言ったつもりだったが、誤解されてしまった」と説明。さらに「禁煙よりも、医療や介護を受けられない人たちへの対応に力を入れるべきだという思いがあった」と話した。

 市民団体「たばこ問題情報センター」(東京都千代田区、渡辺文学代表)は10日、関田院長と医師に発言の真意などについての公開質問状を提出した。【笈田直樹】
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どっかでよく似たものを見たような気がすると思っていたら,ちょうど4年前にこんなことを書いていた。

http://anesthesia.cocolog-nifty.com/freeanesthe/2005/03/post.html

「早く死んで」までは言わないけど,明らかに喫煙が原因と考えられる疾患の治療には健康保険は使って欲しくない。自費でどうぞ。

でも,やっぱりこういう本音は講演会で言うものではないな。

そういえば,タスポカード保持者の医療費自己負担分アップand/or保険料アップの話はまだあがっていない。喫煙者もタスポカードを持つのは何となくやばそうな気配を感じているのか,普及はいまひとつのようだ。

刈り入れは,もっと広範囲に実ってからか。


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March 08, 2009

常勤医をfreeに


魚拓

-◆-◇-◆-◇-◆-◇-◆-◇-◆-◇-引用開始-◆-◇-◆-◇-◆-◇-◆-◇-◆-◇-
周産期母子医療センター:帝王切開「30分で手術可能」3割 麻酔医が不足

 全国の周産期母子医療センターの約3分の2が、国の整備指針に反して「(必要と診断されてから)30分以内の帝王切開手術」に対応できない場合があることが、厚生労働省研究班(主任研究者、池田智明・国立循環器病センター周産期科部長)の調査で分かった。産科医よりも麻酔科医の不足がネックになっており、厚労省が年度内に見直すセンターの指定基準に麻酔科医の定員を明記するよう求める声が出ている。

 調査は昨年3月、全国の総合周産期センターと地域周産期センターに行い、130施設の回答を調べた。

 国の指針では、地域センターは30分以内に帝王切開ができる人員配置、総合センターにはそれ以上の対応を求めている。だが「いつでも対応可能」と回答したのは総合センターの47%、地域センターの28%にとどまり、48%は「昼間なら対応可能」、17%は「ほぼ不可能」と答えた。

 対応が遅れる最大の理由は「手術室の確保」(43%)だったが、人的要因のトップは「麻酔科医不足」(25%)で、「産科医不足」(17%)、「看護師不足」(14%)より多かった。54%の施設は当直の麻酔科医がおらず、緊急の帝王切開では執刀の産科医が麻酔もかけているセンターが16%あった。

 麻酔科は産科、外科などと並び医師不足が深刻とされるが、帝王切開で通常かける麻酔の診療報酬が全身麻酔の場合より著しく低いため、特に周産期医療の現場に集まりにくいとの指摘がある。

 分析に当たった照井克生・埼玉医大准教授(産科麻酔科)は「リスクの高い妊婦を受け入れるセンターには産科手術専属の麻酔科医の配置を義務付け、人員確保がしやすいように診療報酬を加算すべきだ」と訴えている。【清水健二】

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私は現在,余程のことがないかぎり麻酔のICは主治医に任せているが,手術当日には術前に病棟で簡単なカルテチェックと診察を行っている。そしてその後手術部に向かい更衣してORに入室,麻酔の準備を始める。私は愚図なので着替えものろい。私の後から更衣を始めた人間が先に着替えを済ませ更衣室を出て行くことがたびたびある。

というわけで,私は術前診察+更衣+麻酔準備だけで30分は軽く超えてしまう。
既に室内着に着替えた状態でope室内にいて,しかも暇を持て余しており,麻酔のICも術前診察もしないなら,30分で何とかなるかもしれない。

しかし,結果が悪ければ患者and/or家族は医師の瑕疵を探す。その中には必ず説明義務違反が含まれる。そもそも超緊急の帝王切開では少なくとも胎児は危険な状態にある。それならなおのこと,充分なICが必要になる。

それにしても
>帝王切開で通常かける麻酔の診療報酬が全身麻酔の場合より著しく低いため、特に周産期医療の現場に集まりにくいとの指摘がある

全麻に比べルンバールの点数が低いことを言っているのだろうが,麻酔の診療報酬が直接給料には反映されない勤務医には当てはまらない。もはや常勤麻酔科医の招聘はあきらめ,フリー頼み? 診療報酬が低いせいで病院の収益が上がらないと麻酔科医を新たに雇うカネもないということか。

帝王切開の麻酔の診療報酬を2万点ぐらいにすれば,昼間の予定帝王切開はフリー麻酔科医が引き受けるかも知れない。私は不可抗力の妊婦死亡などで逮捕されたくないので,周産期医療には絶対手を出さないが。

30分ルールとやらに縛られる緊急帝王切開をどうするか。院外にいるフリー麻酔科医を呼び出したのではとうてい無理。これはもう,常勤麻酔科医を常にfreeな状態,つまり他の仕事(定時手術の麻酔も含む)を担当させず,院内をブラブラしておいてもらうしかない。夜中も休日も…。

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