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June 29, 2007

結局,マニュアルも役に立たない

私はネタを見つけるのが遅い上に遅筆である。別にあれこれと思考を巡らしたり文章を何度も推敲したりするわけではなく,ただ遅いだけである。スキマの時間を利用するという器用なマネはできず,まとまった時間がないとキーボードを打つ気になれない。また,充分な時間があったはずなのに言いたいことの半分も書けていないこともよくある。そして少し仕事が忙しくなると,書きかけのまま何日も放置してしまう。その結果,周回遅れどころかゴールする頃に誰もいなかったりする。

言い訳はこれくらいにして。

魚拓
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エホバの証人:手術中に大量出血、輸血受けず死亡 大阪
 信仰上の理由で輸血を拒否している宗教団体「エホバの証人」信者の妊婦が5月、大阪医科大病院(大阪府高槻市)で帝王切開の手術中に大量出血し、輸血を受けなかったため死亡したことが19日、分かった。病院は、死亡の可能性も説明したうえ、本人と同意書を交わしていた。エホバの証人信者への輸血を巡っては、緊急時に無断で輸血して救命した医師と病院が患者に訴えられ、意思決定権を侵害したとして最高裁で敗訴が確定している。一方、同病院の医師や看護師からは「瀕死(ひんし)の患者を見殺しにしてよかったのか」と疑問の声も上がっている。

 同病院によると、女性は5月初旬、予定日を約1週間過ぎた妊娠41週で他の病院から移ってきた。42週で帝王切開手術が行われ、子供は無事に取り上げられたが、分娩(ぶんべん)後に子宮の収縮が十分でないため起こる弛緩(しかん)性出血などで大量出血。止血できたが輸血はせず、数日後に死亡した。

 同病院は、信仰上の理由で輸血を拒否する患者に対するマニュアルを策定済みで、女性本人から「輸血しない場合に起きた事態については免責する」との同意書を得ていたという。容体が急変し家族にも輸血の許可を求めたが、家族も女性の意思を尊重したらしい。

 病院は事故後、院内に事故調査委員会を設置。関係者らから聞き取り調査し、5月末に「医療行為に問題はなかった」と判断した。病院は、警察に届け出る義務がある異状死とは判断しておらず、家族の希望で警察には届けていない。

 エホバの証人の患者の輸血については、東京大医科学研究所付属病院で92年、他に救命手段がない場合には輸血するとの方針を女性信者に説明せずに手術が行われ、無断で輸血した病院と医師に損害賠償の支払いを命じる最高裁判決が00年に出ている。最高裁は「説明を怠り、輸血を伴う可能性のあった手術を受けるか否かについて意思決定する権利を奪った」としていた。【根本毅】

毎日新聞 2007年6月19日 19時46分

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既に多くの医師がそれぞれのブログでコメントされているので,今さら私が述べることに目新しいものは何もない。

誰もが書いているように,この記事を書いた記者が何を主張したいのかわからない。ひとつだけわかることは,「医師を悪者にしたい」という悪意のみ。

>「瀕死(ひんし)の患者を見殺しにしてよかったのか」と疑問の声も上がっている

患者や家族が熱狂的なエホバ信者であり,充分なムンテラが行われたことを知っていながらこんなことを口にする医師や看護師はまずいないと思う。記者に「本当に誰かがそんなことを言ったのか?」と問えば情報源秘匿とかで言い逃れするのだろう。このような確認不可能な伝聞形式の記事が許されるなら,事実を伝えるフリをしながら記者自身が描くストーリーを自由に捏造できてしまう。

>病院は事故後、院内に事故調査委員会を設置。

これは事故なのか? 輸血拒否患者に対するマニュアルは病院が作ったはずである。そのマニュアルに則って事を進め,予想外の突発事象も起こっていないのに「事故」とされ,事故調査委員会まで設置するとはどういうことか。そのマニュアルには「大量出血の患者に最後まで輸血しなかったために死亡する」というシナリオは織り込まれていないらしい。

とにかく,エ○バにはかかわらないに限る。前にも書いたが,信仰の自由は尊重するが我々に迷惑かけるのはやめてくれ。自分の健康より信仰のほうが大事なら,病気も祈○師に治してもらえ。えっ? 今回のは病気でなくて出産? だったらなおさら病院には(以下略)。

今後麻酔科医が激増し,私が過当競争に敗れて仕事にあぶれることになったとしても,エ○バ信者の手術だけは引き受けまい。たとえそれが鼠径ヘルニアだとしても。

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June 25, 2007

私は大淀病院産婦人科医師を支持します

私は大淀病院産婦人科医師を応援します。

亡くなられた褥婦の女性の冥福を祈るとともに,ご遺族にはあらためてお悔やみ申し上げます。

しかし,大淀病院産婦人科医師に落ち度はなかったと信じております。


おそらく同じ事象は繰り返される
今回のご遺族のことは知らないが,患者が死亡して遺族が担当医を訴える際の決まり文句に「二度と同じ不幸が起こってはならない。だから訴えることにした」がある。
研修医でもやらないような初歩的なミスだったなら,一罰百戒というのもあるかもしれない。
しかし,大淀病院の件は今後も防ぎようがない。今日や明日に都会の病院で起きても何ら不思議ではない。

1 夜中に孤軍奮闘している医師は日本全国津々浦々に存在する。
2 診断が難しく,病態が急変する疾患は珍しくない。
3 高次施設へ転送したくても,どこも人員不足・設備不足で引き受けられない。
4 結局患者が死亡する

1などは当たり前すぎて条件にもならない。2~4の条件が揃えば大淀病院と同じになる。

医療崩壊が有名な北海道・兵庫ばかりか,首都圏や大阪で発生しても驚かない。いや,むしろまだ起こっていないことが不思議だ。しかし大淀病院のようなことがどこかで起こっても,やはり医師個人が責められるのだろう。急性期医療にはなるべくかかわらないようにするしかない。

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June 24, 2007

勤務医の頃と変わらない

田植えが一段落したせいか最近手術が多く,やたらと忙しかった。おかげでメールチェックすらしない日もあった。当直や緊急呼び出しがないとはいえ,平日の仕事量は勤務医の頃と変わらないほどだ。常勤医時代は並列などしなかったため拘束時間は長かったが,病態が落ち着いている症例では麻酔器のそばに座っているだけのまったりタイムも多かった。それに比べると今のほうが仕事の密度は濃い。

4月人事で赴任してきた外科系各科の医師たちもそろそろ病院に慣れてきたのか,手術が増えてリズムに乗ってきたのか,元気がよさそうに見える。

しかし,なかにはリズムだけでなく調子に乗っているように見受けられる医師もいる。

麻酔科医には偏屈者が多いので当初は警戒するのか,着任間もない外科医は私が麻酔導入するのを遠巻きに見ていただけだった。ところが,最近はすぐそばで私の手技を見ている。ただ見ているだけなら問題ない。

麻酔導入後,挿管までのマスク換気中に患者のお腹を触り出すヤツがいる。患者の意識がなくなるのを待っていたかのように。患部を触診したいなら病棟で心ゆくまでしておけよ。awakeでの患者の痛み・不快感を考慮するなら,せめて挿管が終わるまで待てないか。マスク換気なんてたかが3,4分じゃないか。わざわざその短い時間帯にお腹をさわるのはどういうことだ。

勤務医時代,フルストマックの小児でどうしても麻酔前に末梢ラインが確保できず,やむなくスロー導入したことがある。私が「吐きませんように。誤嚥しませんように」と祈りながら慎重にマスク換気しているときに患児の腹部を触ろうとした外科医にはさすがに怒鳴ってしまった。

また,私がマスク換気しながらモニターを見つつ,気化器やシリンジポンプを調整して挿管のタイミングをはかっている最中に話しかけてくる奴もいる。話しかけられて困るほど余裕がないわけではないが,麻酔科医が一番忙しいときにつまらない質問をするなよ。持続硬膜外のメニューなど,いつも麻酔チャートに書いているじゃないか。さては麻酔チャートなど見たことないな。ふん,そういえば「外科医が麻酔チャートを詳細に見るのは,麻酔科医の落ち度を探すときだけ」と誰かが言ってたっけ。

勤務医の頃と変わらないくらい忙しい日々が続いても,大きく変わった点がある。それは,若い外科医が粗相をしてもあまり怒らなくなったこと。私が麻酔科医の売り手市場にまかせてむやみに怒鳴ると,将来痛いしっぺ返しを食らうのではないかという漠然とした恐れがあるのかもしれない。しかし,勤務医を辞めてから少し温和になったのは,自分にゆとりができたせいだと思っている。勤務医時代は今から思えばとてもつまらないことで怒っていた。「この業界,舐められたら終わり」とばかり虚勢を張っていたところもあったのだろうが,やはり余裕がないと怒りの閾値が下がる。

ここのところは余裕を見せて,マスク換気中の腹部の触診くらいはスルーしてやろう。
「お前らに少々お腹を触られたくらいで嘔吐するような,下手なマスク換気はしてねーよ。ガスは1ccも胃には行ってねーぜ」と。

でも,向精神薬飲んでいる患者の場合は触らないでね。胃管から大量に液が引けることがよくあるので。

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June 08, 2007

麻酔はひとりでするのが一番


魚拓
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「麻酔管理料」算定できない実態も
日本麻酔科学会学術集会
算定への厳格な運用への動き強まる

2007.6.4

 2006年度診療報酬改定で、全国的な麻酔科不足を背景に重点的評価項目の1つとして麻酔科領域で増点評価された「麻酔管理料」だが、臨床研修病院や大学病院で研修医が指導医の指導を受けながら麻酔を行った場合には、算定できない事態になっていることが明らかになった。札幌市で5月31日~6月2日の日程で開催された日本麻酔科学会・第54回学術集会の診療報酬関連の公募フォーラムで、会員から学会に対して是正を求める声が上がった。この問題について同学会では、次回診療報酬改定を視野に、全国の臨床研修病院の現状を把握していく計画だ。

● 指導医ついた研修の場合麻酔管理料の算定不可

 フォーラム「麻酔科の保険診療報酬を考える」は、次期診療報酬改定に向け、会員から応募のあった要望項目の妥当性について議論することを目的に行われた。

 議論の中で、フロアから発言した群馬県のある公的病院の医師からは、指導医のもとで臨床研修医に麻酔を行わせた場合、麻酔管理料の算定が認められないと厚生労働省の指導を受けた事実が報告された。

 「これでは、研修医に対する十分な指導ができない。その上、前回の改定の麻酔科の評価分も受けることができない」―。フロアからの意見は、研修医の指導か麻酔管理料の算定かの2者択一を迫られる臨床研修病院の窮状を指摘するものだった。

 こうした事例が、同院以外でも発生していることも判明。臨床研修病院の中には、麻酔管理料の返還を求められるケースが出てきている。すでに、同学会の社会保険専門部会は、複数の会員施設から疑義解釈を求められていた。

 フォーラムでは、会員の意向を受けた社会保険専門部会が、行政機関に疑義解釈を照会した結果を示し、「麻酔管理料については、国が決めた麻酔標榜医が実施した場合について算定するという要件を順守してもらいたい」との見解が示されていると説明した。また点数表では、麻酔管理料は常勤の麻酔科標榜医が麻酔前後の診察を行い、「かつ専ら当該保険医療機関の常勤の麻酔科標榜医」が、麻酔を行った場合に算定すると規定されていることも明らかにした。

● 選択迫られる臨床研修病院

 臨床研修病院の場合には、指導医が研修医を指導する過程で気管挿管などを体得させるようとすることがある。このようなケースで仮に麻酔管理料が算定できないと判断されると、病院としては研修医の指導を優先すべきか、管理料の算定を優先するべきかで選択を迫られることになる。

 問題提起した群馬県の事例では、臨床研修病院としての社会的役割を優先させる方向が示されたという。しかし、現場当事者からは「麻酔科の診療報酬の評価を受けることができないのは、不合理な解釈だ」と不満の声も聞かれた。

 さらに、フロアからは臨床研修医が麻酔を行うことを法的に認めているにもかかわらず、麻酔管理料を算定できないという解釈に疑義も出された。これに対して、06年度改定を担当した学会関係者からは、「麻酔科医の専門性を評価していくなどを重点要望していた」ことなどが説明された。社会保険専門部会としても、現行の算定要件がそごを来しているのか把握することにしており、その結果を踏まえて、次期改定の要望項目に盛り込むかを決めていきたい意向だ。

<会員から改定要望項目帝王切開麻酔や小児麻酔関連などが議論に>

 一方、今後の診療改定に向けた要望では、帝王切開術の麻酔に対する診療報酬の増点と小児麻酔関係の見直しの2題が寄せられた。

 帝王切開の麻酔に対する診療報酬増点を要望したのは埼玉医科大総合医療センター産科麻酔科の照井克生氏。照井氏によると、帝王切開の麻酔は、母体への安全性と胎児への影響などを考慮し、大部分が脊髄くも膜下麻酔で行われている。そして、特にその場合、効果的な鎮痛を提供するために、比較的高位の麻酔範囲が求められる。

 従って交感神経遮断の範囲も広範となり、妊娠子宮により仰臥位低血圧症候群を来すと、重篤な低血圧を起こす危険性が高いという。このため、母児に対して麻酔を安全に行うには、麻酔科専門医による麻酔が求められると主張した。また脊髄くも膜下麻酔の保険点数のアップのほか、脊髄くも膜下麻酔の麻酔管理料の設定、術式別麻酔点数の導入案などについても要望した。

 これに対して社会保険専門部会は、帝王切開術の麻酔報酬の増点に対しては基本的方向として理解を示した。しかし、術式別麻酔点数の導入案については、現行点数表の「第11部麻酔」の形から、輸血のように手術の中に包含される可能性が高いとして慎重に検討していくことが必要との見解を示した。

 小児麻酔関連では、静岡県立こども病院麻酔科の堀本洋氏が発言した。重症患者規定拡大の申請を求めるもので、▽新生児期緊急手術時の麻酔▽肺高血圧症を伴う先天性心疾患の麻酔▽チアノーゼを伴う先天性疾患の麻酔―などの重要加算の設定を挙げた。

 ただ、小児科領域については、06年度診療報酬改定で重点評価されただけに、次回改定も同様に手厚く評価されるかは不透明といわれる。社会保険専門部会では、これらの項目も今後の診療報酬改定の要望候補項目として検討していく意向だ。

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麻酔管理料とは麻酔そのものの保険点数とは別で「常勤の麻酔科標榜医が麻酔を担当する」などの条件をクリアした場合に付加される。
私は標榜医ではあるが常勤ではないので,病院は麻酔管理料を保険請求できない。病院が保険請求できないものは私も病院に請求できない。したがって,私は麻酔管理料の点数に興味がない。

こちらによると全麻で750点,つまり7500円らしい。
この金額の多寡はともかく

>指導医のもとで臨床研修医に麻酔を行わせた場合、麻酔管理料の算定が認められない

麻酔導入と抜管のときだけ指導医が監督するが,手術中の大部分の時間は研修医をひとりで手術室に放置し,しかもこのような放置プレイをひとりの指導医が複数の手術室でかけもちする,いわゆる鵜飼い麻酔なら文句は言えないだろう。

しかし,患者の手術室入室から退室まではもちろん,術前診や術後診も指導医と研修医のペアで行った場合も算定されないなら,こんなひどい話はない。

「研修医につきっきりで教えながら麻酔するぐらいなら,自分ひとりで麻酔したほうがずっと楽」というセリフは,ベテラン麻酔科医の口癖のようなもの。指導医(当然標榜医)がひとりで麻酔を担当すると病院は麻酔管理料を請求できるが,研修医の面倒を見ながらだと請求できない。麻酔管理料は指導医の懐に入るわけではないが,指導医が麻酔以外の労働(研修医の指導)をすると病院の収入が減るのはおかしな話だ。研修医に教えながらだと麻酔の質が下がるということだろうか。質が下がらないように指導医がついているはずだと思うが。

麻酔の研修を受けるのは新卒の研修医ばかりではない。5年以上の臨床経験を積んだ外科医がローテーターとして麻酔科にやってくることもある。麻酔の経験こそないものの,3か月もたてばそれなりの戦力になってくれる。例えばこのようなローテーターと経験20年レベルの麻酔指導医がペアとなり,大きな手術あるいは重症合併症の症例を担当すると仮定する。指導医が手術室を離れられるほど余裕のある症例ではなく,最初から最後まで二人で麻酔管理をしても,麻酔管理料は請求できない。

一方,麻酔経験2年で標榜医をとったばかりの麻酔科医が,リスクが少なく短時間で終わる全麻をひとりで担当すると麻酔管理料をもらえてしまう。

ま,「病院に麻酔管理料が入ろうが入るまいが常勤麻酔科医の給料は変わらないから,どーでもいい」と思っている麻酔科医も少なくないだろう。

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June 06, 2007

本当は助けてあげたいんだ

飛行機や新幹線の中で急病人が発生し,「お医者様か看護師の方はいらっしゃいませんか」というアナウンス,いわゆるドクターコールがあった場合,それに応じるかどうかが日経メディカルで取り上げられ,ブログでも話題になっている。

ある先生のブログではシリーズで詳細に検討されている。

私個人の見解としてはムンテラが何より大事だと思う。

ムンテラと言っても,機内で発症した患者およびその家族に向けて「私は医師ですが専門外ですし,機内には充分な医療器具や薬がありませんので満足な治療はできません。努力はしますが,その点を何卒ご了承下さい」とICするということではない。

ムンテラは自分の連れ,つまり家族や友人にするのである。
「いいか,俺のことを大切に思ってくれるなら,ドクターコールがあっても俺のほうを絶対見るな。俺が逮捕(ドクターコールでの逮捕は聞いたことないが,今の日本ならあり得そうだ)されたり民事裁判の被告になったりしたらイヤだろう?」
家族,特に子供にはしっかりと説明しておかねば「医者のくせに」と軽蔑されかねない。「本当は医師として病人を助けてあげたいが,がんばっても助けられなかった場合,逮捕されるかもしれない。お父さんが牢屋に入れられてもいいのか?」と。小学校高学年ぐらいからならわかってもらえるだろうが,低学年は難しそうだ。特に,親の職業が医師であることを誇りに思っているような子の場合はつらいかもしれない。

飛行機に乗る何日も前から繰り返し言い聞かせておくべきだ。機内持ち込みのカバンの中に医学系の雑誌を入れておくのも御法度。誰がどこで見ているかわからない。そして,自分のことを「先生」と呼ぶ人間(愛人のナースとか)とは一緒に飛行機に乗らない方がいい。繁盛している開業医でも,医院の慰安旅行で飛行機などもっての他。

私ひとりで乗る分にはなんの問題もない。寝たふりすらしなくてもよい。

学会などで連れも医師だった場合はどうするか。成り行きにまかせるだろうが,やはり搭乗前に打ち合わせしたほうが無難だろう。

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June 03, 2007

痙攣で心肺停止

その昔,セボフルレンもイソフルレンもなく揮発性麻酔薬といえばハロセンとエンフルレンだった頃,当然カプノメーターもなかった。おそらく麻酔導入時のマスク換気中は過換気だったと思う。エンフルレンで過換気にすると痙攣が起こりやすいと言われていたが,私は一度も見たことがない。小児では麻酔導入後に静脈ラインをとることが多いので,筋弛緩薬が入る前に過換気だったはず。つまり,筋弛緩のせいで全身痙攣がマスクされるわけではない。

魚拓

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医療過誤:「重い後遺症」 24歳女性と家族3人、国立病院機構に損賠提訴 /千葉
6月1日11時1分配信 毎日新聞


 千葉医療センター(千葉市中央区)で肝腫瘍(しゅよう)の切除手術を受けた千葉市内の女性(24)が術後に呼吸停止になり、脳障害による重い後遺症が残ったのは病院側に過失があったとして、女性と家族3人が、同センターを運営する独立行政法人国立病院機構(東京)を相手取り、2億1000万円の損害賠償を求める訴えを千葉地裁に起こしていたことが5月31日、分かった。
 訴状によると、当時女子大生(21)だった女性は04年4月5日に同センターに入院し、同23日に手術を受けた。
 しかし、手術後、医師と看護師は約5分間にわたり、女性を目の届かない場所に放置し、全身麻酔の終了後、突発的に起きる可能性のあるけいれんなどの異常に気付かなかった。その間に女性の心肺は停止、低酸素性脳症による言語や歩行障害が残り、現在も入院中。女性は当時私立大薬学部の4年生で薬剤師を目指し、就職希望企業から内定を受けていた。
 原告側は「医師らは術後の一定期間、患者を観察する義務があるが、怠った」と主張。同センターは「このような事態になったことは憂慮するが、医療事故という認識は持っていない」としている。【寺田剛】

6月1日朝刊
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>全身麻酔の終了後、突発的に起きる可能性のあるけいれんなどの異常に気付かなかった

これは「全身麻酔の終了後にはけいれんが起こりやすいにもかかわらず,注意を怠った」と読める。

脳を手術したわけでもないのに,全身麻酔後に痙攣が起きやすいとは知らなかった。冒頭で述べたエンフルレンは現在ほとんど使用されていないし,逆にプロポフォールやミダゾラムには抗痙攣作用がある。
肝腫瘍切除術なので肝性脳症か,それとも持病としててんかんがあったのか。

そもそも私の勉強不足か,全身痙攣で心肺停止というのがよくわからない。確かに全身痙攣は酸素消費量増大と換気量低下で脳の低酸素をもたらす危険な状態である。しかし,5分で心肺停止するとは思えない。
てんかんのなかでも重症のてんかん重積発作とは“痙攣発作が30分以上持続する”病態である。痙攣=すぐに心肺停止なら30分も静観できない。つまり重積発作でさえ少なくとも30分は心肺停止しないとも言える。

全身痙攣で心肺停止と言えば,吐物が気道を閉塞しての心停止が思い浮かぶ。しかし,予定手術の患者の胃に固形物は存在しない。

全身麻酔後,痙攣とややまぎらわしいものにシバリングがある。温風式加温装置のない手術室では術後にシバリングを見ることは少なくない。しかし,シバリングでも酸素消費量は増大するがAMIでも発症しない限り心肺停止など起こらない。

もしかしたら全身痙攣ではなく,喉頭痙攣?

あの毎日新聞のこと,「下手に『喉頭』などいう難解(?)な用語をつけるとまたポカをやってしまうかもしれないので,無難に『痙攣』だけにしよう」と。

喉頭痙攣なら無呼吸による心肺停止も考えられる。しかし抜管直後なら麻酔科医がそばにいるはずだし,ICUでの口腔内吸引(奥に突っ込みすぎて喉頭を刺激)で誘発された場合もナースがそこにいる。術後の病態が落ち着いていて放置しているときに自然に発生する喉頭痙攣は寡聞にして知らない。術中問題なく経過した麻酔の後でもこんなものがしばしば起こるなら,私は仕事した日は家に帰れない。

あるいは実際に全身痙攣は起きたが,原因ではなく結果。つまり呼吸器系トラブルによる低酸素脳症となり全身痙攣となったとか。

毎日新聞の医療記事は毎度のことながら要領を得ず,コメントしにくい。しかし,気道系のトラブルが原因だとしたら,病院側に非があるような気がする。

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June 01, 2007

目盛りを付けて腹囲を測る?

意外と思われるかもしれないが,麻酔科は聴診器をよく使う。術前の診察(大抵は儀式だが,このときにmurmurを見つけるのを生き甲斐にしている麻酔科医もいる),挿管後の確認,胃管の確認,麻酔中のカフのゆるみ(喉頭でのリーク)チェック,抜管後のエアー入りetc。気道内圧上昇,SpO2低下,換気量低下など,麻酔中に呼吸で何か問題が発生した場合,多くの麻酔科医はまずはバッグで用手換気しながら聴診するだろう。マイ喉頭鏡やマイトラキライトは別だが,麻酔科医の商売道具はボールペンと聴診器と言っても過言ではない。

一方,聴診器をほとんど使わない診療科も少なくない。ある診療科の局麻手術の際,オペ室ナースがモニター心電計の電極を患者の胸部に貼ろうとしたとき,一目でそれとわかる程の進行乳ガンが初めて見つかったという話も聞いたことがある。

さて

『聴診器ブック』とかいうものが人気らしい。

「素人が聴診器を持ったところで何がわかる」などと定番の憎まれ口をたたくつもりはない。しかし,購入者のインタビューなどで「メタボリックが心配だから…」などと言っているのを聞くとやはり苦言のひとつも発したくなる。

表紙にも
「メタボリック症候群や長年の持病が不安な方に」
「お子様の健康を気遣うパパやママに」
のキャッチコピーがあるかと思えば,

ア○ゾンの商品紹介にはさらに

◎毎日の激務でちょっと疲れ気味のビジネスパーソンに
◎お肌の調子が気になる女子のみなさまに

とまで書いてある。

いったい,聴診器でメタボリックの何がわかるのか?
喘息を持病とし,発作時に典型的な笛声音を呈する子なら話は別だが,通常はパパやママが聴診器で健康状態をチェックできるとは思えない。
疲れ気味のビジネスパーソンやお肌の調子が気になる女子は聴診器で何をどうするというのだ。

しかし,馬鹿にしてばかりいられない。これは「聴診器は一般人には入手できない」という思いこみをついた巧みな商法だ。聴診器を購入するときに医師であることの証明などまったく必要なく,欲しければ誰でも買える。このことはあまり知られていないようだ。「本のオマケとして聴診器がついてくるなら買ってみようか」という人が多いのも不思議ではない。
それともうひとつ,非医療従事者は「聴診器で得られる情報は数多い」と思っているのかもしれない。「これさえあれば,メタボリックかどうかがわかる」「健康状態をチェックできる」と。出版社としては「購入者が勝手にそう思っているだけ」と言うだろうが,錯覚商法に近い臭いを感じる。
かすかなmurmurも聞き逃さない循環器内科(この名称はなくなるらしい)の先生に「聴診器で得られる情報は多い」とお叱りを受けそうだが,少なくとも聴診器で「お肌の調子」は評価できない。まさか腸蠕動音→お通じ→お肌か?

「聴診器があれば健康をチェックできる」は「CTを撮っていれば助かった」に通じるものがある。医療ハードウェア依存症とでも呼ぶべきか。メタボ症候群より先にこちらを何とかするべきだ。

出版社は予想外の売れ行きに次の一手も考えているだろう。心雑音CDが付いたデラックス版でも発売してソフト面も充実させてくるかもしれない。耳に自信のある一般人がそのうち「俺はそこらへんの医者よりも正確に心雑音を聞き分けられる」とか言い出しそうだ。

それとも二匹目のドジョウを狙って『額帯鏡ブック』や『水銀式血圧計ブック』か? ただ血圧を測るだけならすでに家電製品として数多く市販されているが,コロトコフ音で測ったほうが医師気分を味わえる。何より,「使い道がない」聴診器が役に立つ。

私としてはオムロンやシャープあたりが健康ブームに便乗し,格安の携帯エコー装置を市販してくれると有り難い。大病院で既にやっているように,CVカテーテル穿刺の際の頚静脈が見えればそれでよい。そういえば,トム・クルーズが妻のおなかにいる胎児を見るために超音波装置を買っていた。シャープが得意の液晶を駆使して安価なエコーを売り出せば,お産難民がこぞって買ってくれるだろう。オマケに「誰でもできる自宅お産マニュアル」と安産のお守りでも付ければ完璧だ。

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