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May 29, 2007

いつになったら非を認めるのか

魚拓-----------------------------------------------引用開始-------------
女医自殺、病院に責任…7600万円賠償命令
 勤務先の愛媛県新居浜市の「十全総合病院」で自殺した麻酔科の女性医師(当時28歳)の両親が「うつ病を発症し、自殺したのは過重労働が原因」と病院を経営する財団法人「積善会」に約1億8600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、大阪地裁であり、大島真一裁判長は「うつ病が悪化し、自殺を示唆するほど深刻な状態だったのに安全配慮を怠った」と、同会に約7600万円の支払いを命じた。原告代理人によると、勤務医の過労自殺を巡って賠償責任が認められたのは初めてという。

 判決によると、女性は2002年1月から麻酔科に勤務し、上司と2人体制で手術中の麻酔管理や救急外来などを担当。03年2月には診察中に持病のてんかんが原因のけいれん発作で意識を失い、同病院で治療して約1か月後に復帰した。

 その後、女性はうつ病になり、同11月ごろには症状が悪化。病院側が他病院への異動を打診したが、04年1月5日、辞職届と「探さないで」などと書いたメモを残して、行方不明になった。同日中に戻り、翌日から勤務を始めたが、同月13日、病院内で静脈に麻酔薬を注射して自殺した。

 判決で大島裁判長は「うつ病の発症にはてんかんによる仕事へのいら立ちなどが大きく影響している」とした上で「業務は長時間で精神的緊張を強いられ、通常の心理状態でない女性には過重。自殺の主な要因になった」などと自殺と業務の因果関係を認定した。

 さらに「病院側は当直を軽減するなどの措置は講じたが、遅くとも、うつ病が悪化した03年11月には休職を命じるか、業務の大幅な軽減が必要だった。女性が失踪(しっそう)し、自殺の危険性が強まった後も当直などをさせたのは違法」とした。

 女性の自殺前4か月間の時間外労働は月100時間を超えていたが、病院側は「女性にはうつ病の治療を勧めたが、応じなかった。勤務も他の医師より軽かった」などとしていた。

 判決後、女性の父親(63)は大阪司法記者クラブで記者会見。「許せない。同じ悲劇が繰り返されないよう、医師の労働環境の改善を願っている」と話した。代理人の松丸正弁護士は「医師の数を増やすなど組織的な対応がないと解決にならない」と述べた。

 積善会の代理人の話「判決は納得できない。検討して控訴するか決めたい」

(2007年5月29日 読売新聞)
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契約病院への通勤途中に,他の信号とのタイミングのせいかいつも赤信号に引っかかってしまう交差点がある。田舎の片側一車線だが交通量は少なくない。交差点の一角には地蔵堂というのか,人の胸の高さほどの祠があり,そのなかに小さなお地蔵さんが祀られている。そしていつ見ても花が飾られている。地蔵堂は新しくはないので,花の鮮度がいっそう際だつ。昔,この交差点で子供が死亡したのは間違いないだろう。子供が死亡した当時の交通量や道幅は知るよしもない。既に信号があったかもしれない。子供が交通事故で死亡したために信号がついたのなら,典型的な墓石行政だ。

医師の過労死もしくは過労自殺は何人も出ているが,厚労省は墓石行政さえもする気はない。無理もない。労働者である勤務医の労働実態が労働基準法に則しているかどうかを全国の病院で調べ,それを是正しようとしたなら医療がまったく成り立たなくなる。崩壊しつつあるとはいえ,日本の医療の大部分が勤務医の奴隷労働に立脚していることを厚労省は充分知っている。勤務医の労働環境を本気で調べて発表してしまうと,「医師は足りている。偏在しているだけ」が大ウソであることがばれてしまう。厚労省は未来永劫非を認めないつもりか。

勤務医の過剰労働を厚労省は見て見ぬふり。いや,見ようともしない。そして,医師が過酷な労働に耐えても誰も褒めてはくれない。

それどころか,「医師の過労は自業自得」とブログにはっきり書いている人もいる。
忘れないように再度貼っておく。

魚拓

「医師会とはなんぞや?という基本的な事を理解していないにゃんすけの勉強不足」があったとかで一部を修正しているが,基本的な考えは変わっていないらしい。

http://blogs.yahoo.co.jp/nyansuke_2006/14053653.html


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May 28, 2007

脳死移植は許されても


魚拓

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和歌山県立医大で患者の呼吸器外し…医師を殺人で書類送検

人工呼吸器が取り外され、患者が死亡した和歌山県立医大付属病院紀北分院 和歌山県立医科大付属病院紀北(きほく)分院(和歌山県かつらぎ町)で、延命措置を中止する目的で80歳代の女性患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして、県警が、50歳代の男性医師を殺人容疑で和歌山地検に書類送検していたことが22日、わかった。

 終末期医療を巡っては国や医学界の明確なルールがなく、患者7人が死亡した富山県・射水(いみず)市民病院のケースでは結論が出せないまま1年以上捜査が続いている。和歌山の事例は、判断が揺れる医療と捜査の現場に新たな一石を投じそうだ。

 調べによると、男性医師は脳神経外科が専門で、県立医大の助教授だった2006年2月27日、脳内出血で同分院に運ばれてきた女性患者の緊急手術をした。しかし、患者は術後の経過が悪く、脳死状態になっていたため、家族が「かわいそうなので呼吸器を外してほしい」と依頼。医師は2度にわたって断ったが、懇願されたため受け入れて人工呼吸器を外し、同28日に死亡したという。

 医師は3月1日に紀北分院に報告。分院では射水市民病院での問題が発覚した直後の同年3月末、和歌山県警妙寺署に届け出た。捜査段階の鑑定では、呼吸器を外さなくても女性患者は2~3時間で死亡したとみられるが、県警は外したことで死期を早めたと判断、今年1月に書類送検した。

 飯塚忠史・紀北分院副分院長は「呼吸器の取り外しについては医師個人の判断だった。医療現場の難しい問題なので、司法の判断を仰ぎたいと考えて県警へ届け出た」と話している。家族は被害届を出しておらず、「医師に感謝している」と話しているという。

 呼吸器取り外しを巡っては、北海道立羽幌(はぼろ)病院の女性医師が05年5月に殺人容疑で書類送検(不起訴)されており、今回の書類送検が2例目。羽幌病院の問題では、女医が呼吸器を外した行為と、患者の死との因果関係が立証できずに証拠不十分で不起訴となった。

 一方、射水市民病院の問題については、現在も、富山県警が殺人容疑で捜査している。県警の依頼を受けた専門医からは、死亡した7人のうち一部の患者について呼吸器を外した行為と死との因果関係があるとする鑑定結果が出ている。

 しかし、問題発覚後、呼吸器の取り外しは医療の現場では一般的に行われている可能性があることなどが判明。これを契機に、国や医学界が延命措置中止に関するルールを明確にしようと指針作りに乗り出したこともあり、富山県警は、慎重に捜査を進めている。分院の医師が書類送検されたことで、富山県警の捜査関係者からは「同様の事件で死亡者数はこちらの方が多いのに、書類送検しないという選択肢があるのかは微妙な問題だ」との声も出ている。

(2007年5月22日14時33分 読売新聞)

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既に多くの方が意見を述べられている。

家族は人工呼吸器をはずして欲しいと願っていた。そして医師がそれを実行すると殺人罪に問われる。家族は取り調べを受けるどころか,“被害届を出しておらず”という扱い。運悪く遭遇する困難症例を“地雷”と表現することが多いが,呼吸器外しの刑事訴追は適当にばらまかれた地雷というより,兵士をおびき寄せる小道具を使ったブービートラップのようだ。

ところで
いつかブログに書こうと思いながら,恐ろしくてなかなか書けなかった話がある。
匿名チクリが横行する昨今,そのうちどこからか噴出すると思われるのでそろそろ書いておく。

それは,ICUの焦げ付きPtの間○き

大病院のICUには心臓血管外科や脳外科の術後患者が収容される。すべての手術が成功するわけではない。なかには手術のかいなく,あるいは合併症で脳死に至る症例もある。家族や本人に臓器移植の意志がない,もしくは他臓器の機能も良くなく移植に適しない場合も多い。重症なので一般病棟はもちろん引き取ってくれない。その症例のためにICUのベッドがひとつ塞がり,新たな手術ができない。積極的な治療はしないとはいえ,人工呼吸にTPNとカテコラミンの現状維持で血行動態が安定している場合もある。そこで,ベッドを早く空けたい○○科は…。
これ以上は書けない。

この話は実際に見たわけではなく,噂(しかも酒の席)で聞いただけということを明記しておく。
また,上の○○科はもちろん麻酔科ではない。奴隷勤務の麻酔科医としてはICUに焦げ付きPtがいてくれたほうが手術が少なくなるので有り難い。

家族に懇願されて人工呼吸器をはずした医師がこれだけ問題になっている。家族に何の説明もなく,輸液やカテコラミンを絞ったなら…。殺人罪の時効は15年。ICUのナース(三交代なので多くのナースがかかわる。師長も当然知っている)は証人になるが,自分も共犯になることぐらいは知っているので自らカミングアウトなどしない。だが,事情を知っているが共犯にはならない人物がいないわけではない。匿名での密告も容易だ。○引きはさすがに最近はしていないと思うが,十数年前の自らの所行に怯えている医師も少なくないと思う。どの症例も,最後(最期)あたりのICU記録だけ欠落しているかもしれない。主治医が用心深ければ。

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May 27, 2007

いのち(医師生命)がけのおやつ


魚拓

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こんにゃくゼリーで窒息死…7歳児2人
のど詰まらせ
 7歳の男児が、こんにゃく入りゼリーをのどに詰まらせて窒息死する事故が、今年になって2件起きていたことが23日、国民生活センターの調査でわかった。同センターは「安全性が確認できないため、子どもや高齢者に食べさせるのは控えて」と呼びかけている。

 調査によると、東海地方の小学1年生の男児(7)が3月23日、学童保育でおやつとして出たこんにゃく入りゼリーを食べようとして、のどに詰まらせ死亡。

 甲信越地方でも、7歳の男児が4月29日、祖父母の家で、別のこんにゃく入りゼリーを食べ、のどに詰まらせた。救急隊員が医療器具を使って取り出したが、5月5日に死亡した。

 同センターによると、こんにゃく入りゼリーは弾力性があり、吸い込むように食べることから、のどに詰まりやすく、1995、96年の2年間には、乳幼児と高齢者の計8人が死亡した。

 メーカーの多くは警告表示を目立たせたり、ソフトタイプにしたりする安全対策を取ったが、その後も事故は続き、99年には40歳代の女性が死亡した。

(2007年5月25日 読売新聞)
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「こんにゃくゼリーは危険である」などと書くと,「今さら何を言っている。こんにゃくゼリーが危険なことは有名だ」と馬鹿にされそうだ。

こんにゃくゼリーは子供にとっても危険だが,「医師にとっても危険」と言いたい。何しろ,助けられなかったら親に訴えられる。
忘れないように再度貼っておく。


魚拓

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3歳児窒息死:救急搬送受け入れ拒否…川崎市と両親が和解
 のどにゼリーを詰まらせた長男(当時3歳)が窒息死したのは、川崎市立川崎病院が救急搬送を受け入れなかったためとして、同市内の両親が同市に約2000万円の損害賠償を求めた裁判で、両親と川崎市は13日、横浜地裁川崎支部で、同市が両親に和解金300万円を支払うことで和解した。また同市が「救急医療体制、救急患者の受け入れ態勢整備、充実を目指す」ことも和解条件に盛り込まれた。

 訴状などによると、長男は03年8月7日、自宅でこんにゃくゼリーをのどに詰めた。救急隊員が同病院に連絡したが、受け入れを拒否された。12分後に再び要請し、受け入れられたが、長男の心臓は停止しており、同日夜に死亡が確認された。市側は裁判で、最初の受け入れ拒否の理由を、他の患者の搬送中で小児科で受け入れは不可能だったなどと主張していた。

 母親は(36)は「ここまで来るのは長かった。和解で、救急医療が約束された通りになり、悲しい思いをする子がなくなるよう考えてほしい」と訴えた。【山衛守剛】

毎日新聞 2006年10月13日 12時14分

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川崎病院の件ではいったん断ったことが親の逆鱗に触れた,あるいは訴える口実を与えたようだが,ゼリーで気道が完全閉塞したなら最初の要請で受け入れても無理だったと思う。窒息から5分ももたないだろう。救急車が着く頃には心臓は完全に停止しているはずだ。低温での溺水とは異なり,救急隊が迅速に対処して心拍が再開したとしても脳死は免れない。

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May 24, 2007

温暖化のせいで今年は5月か?

日差しが強くなってきた。また,アレの季節がやってくる。

アレとは,一言では表現しにくいが無理に一語にすると「パチンコ店駐車場乳幼児車内放置熱中症死」 いまや日本の初夏の風物詩とも言える。ただ,字数が長いので季語にはならないだろう。

さすがにDQNどもも7~8月の真夏の車内はまずいということを知ったらしく,近年は6月ぐらいが多いような気がする。ノロウイルスのせいで食中毒は冬にも珍しくなくなったが,以前は夏場に多く発生した。ただ,夏場といっても食中毒は7月8月の夏真っ盛りよりも6月に多いと教わった。真夏なら調理人も用心するが,6月は「まだ大丈夫だろう」と油断するからだという話だった。パチンコ店駐車場乳幼児車内放置熱中症死も同じ理由で初夏に発生するのだろう。

魚拓

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「男児を座席下に入れたバイク処分」死体遺棄逮捕の母親ら
 大阪府能勢町の山中に峯松優ちゃん(当時1歳)が全裸の遺体で遺棄された事件で、死体遺棄容疑で逮捕された母親の無職・田宮美香(21)、夫の同・元貴(21)両容疑者が、府警豊能署の捜査本部の調べに対し、優ちゃんを座席下のヘルメット収納スペースに入れ、死亡させたとされるバイクについて、「優ちゃんの死亡後に処分した」と供述していることがわかった。府警は、2人が証拠隠滅を図った疑いもあるとみて追及する。

 府警によると、2人は1月31日、優ちゃんをバイクの座席下スペースに入れて外出し、パチンコなどをしていた間に死亡したと供述。「子どもを抱きながらでは2人乗りできなかったため入れた」と説明し、「バイクはその後処分した」と話している。

 2人は、遺体を遺棄した日を「1月31日」(美香容疑者)、「2月2日」(元貴容疑者)と説明。しかし、遺体発見後の司法解剖では4月中旬の死亡と推定されており、府警は2人の供述は虚偽で、遺棄までの一定期間、遺体を冷暗所などで保管していた可能性もあるとみている。

 2人はアルバイト先で知り合い、美香容疑者は1月に大阪市内の実家から優ちゃんを連れて家出していた。

(2007年5月17日14時44分 読売新聞)
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こういうことをされると季節と関係がなくなる。まさに昨今の食中毒と同じだ。DQNどもは季節感までも破壊してくれる。

数年前まではこのようなDQN親に殺される子供を不憫に思っていたが,最近はそう思わない。あるいは「かわいそうだと思わないように努めている」と表現したほうがいいかもしれない。

パチンコ店の駐車場に停めたクルマのなかで死亡した子供は,たとえ運良くそのときに死ななかったとしても,どうせろくな人間には育たない。こどもを車内に放置してパチンコに没頭するような親に育てられ,まともな社会人になるはずがない。税金も社会保険料も払わず,最初から生活保護をアテにし,社会に寄生するだけの存在になると言っても過言ではない。凶悪犯罪者になる可能性も低くはないだろう。
パチンコ店の駐車場で自分の子を熱中症死させたDQN親は,自らの手でDQNの芽をひとつ摘んだことになる。社会にとってマイナスではない。

同じ理由で赤ちゃんポストも不要だと思っていた。しかし,DQNのDNAがどれほど強力か知らないが,DQN親から切り離して育てれば案外普通に育つかもしれない。

賛否両論ある赤ちゃんポストだが,児の年齢・月齢や事情によらずとにかく「幼い命を救おう」ということなら,今の時期はパチンコ店に赤ちゃんポストを置けばよい。

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May 23, 2007

イカンに思う

魚拓

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医療ミス患者死亡 気管に栄養チューブ 岩手医大病院
5月17日6時12分配信 河北新報


 岩手医大病院(盛岡市)は16日、循環器医療センターの30代後半の男性医師が、入院患者の気管に誤って栄養チューブを挿入し、患者が15日に多臓器不全で死亡したと発表した。盛岡東署は業務上過失致死の疑いで医師や関係者から事情を聴いている。

 病院によると、死亡したのは心機能不全や慢性腎不全などの治療を受けていた70代男性。4月2日に入院し、5月9日に心臓大動脈弁などの手術を受けた。

 術後に食事を受け付けなくなり、12日に鼻から胃へチューブを挿入して栄養剤を送る処置を受け、容体が急変。呼吸不全に陥り、15日午前6時半に死亡した。容体急変時にレントゲンで再確認したところ、医師がチューブを誤って気管に入れたことが分かった。

 記者会見した鈴木一幸病院長は「遺族におわびする。再発防止対策を徹底したい」と謝罪した。

最終更新:5月17日6時12分
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挿管チューブが食道に入るのも困るが,経鼻胃管が気管に入っても困る。
どちらにせよ,すぐに気づけば問題ないのだが。

気管内チューブの盲目的経鼻挿管を意図的にしようとしても難しい。なのに,経鼻胃管が何度やっても気管に入ってしまうことがある。麻酔科の場合,経鼻胃管を入れる頃にはすでに気管挿管されている。胃管は本来なら障害物のない食道のほうが入りやすいのに,なぜかそれをわざわざ避け,挿管チューブのカフを押しのけて気管に入っていく。手術中に栄養剤を入れることはないので重篤な事態にはならないが,挿管チューブのカフにリークが発生し一回換気量が減ってしまう。そして,胃管の他端から麻酔ガスが吹き出す。

たかが経鼻胃管のために喉頭鏡を使いたくない。首の角度を変えたり,喉頭を軽く持ち上げたり左右に圧排したりして何度も試みる。非上腹部の短い手術なら結局あきらめることもある。そういうときは「クラシックLMAだったなら,胃管は入れないのだし」と自分に弁解する。

胃管の出し入れによって声帯損傷や声門浮腫が起こらないか不安になることがある。胃管が何度も気管に入るということは,胃管が何度も声帯をこすっていることを意味する。胃管は挿管チューブほど太くはないが,声門は既に挿管チューブでほとんど占拠されており,胃管が迷入する際には挿管チューブと声帯と間に分け入るように押し込まれる。

前投薬にH2ブロッカーを処方しなくなって久しい(成人では前投薬をまったくしない)が,以前に比べて胃液が増えたという印象はあまりない。麻酔に胃管は不要という人もいるかもしれない。しかし,同じような指示で絶食・絶水されていても麻酔導入後に大量の胃液が引ける症例もある。抜管前に胃管で胃液を吸引しておかなかったなら,抜管後に大量に吐かれる可能性もある。また術後のPONVでも,実際に胃液を吐かれるのと“からえずき”ではナースや外科医の印象も違う。第一,胃液を吐かなければ誤嚥性肺炎にはならない。
麻酔導入時,胃に空気が流れ込むような下手な用手換気はしていないつもりだが,上腹部の手術で外科医に胃の“張り”を指摘されたくない。腹膜が開くまでには胃管を入れたい。

よくある光景
「やれやれ,ずいぶん時間がかかったが,この感触では胃に入ったはずだ。さっきまでと違って麻酔ガスが吹いてこない。胃液が引けることを吸引で確認と…。あれ,何も引けてこない。仕方ない,シリンジで少量のエアーを入れて(上腹部の)聴診で確かめようっと…。あー! 腹部の消導が始まってしまった。もう聴診器使えない…」


で,冒頭の岩手医大の記事に関する感想だが。

上腹部の聴診が阻害されることがないなら,簡単に確かめられると思うのだが。せめてXPで胃管の位置を確認できるまで栄養剤投与を控えていたら…と思ってしまう。
「無麻酔下で胃管が気管に入ったなら,強い反射が起こるはず」という思いこみが強かったのだろうか。

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May 17, 2007

骨髄と髄液はまったく別

魚拓

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訴訟:「不要な検査で後遺症」と提訴 前橋の女性、医師ら相手に /群馬
 前橋協立病院(前橋市朝倉町)で必要のない検査を受け、後遺症が残ったなどとして、同市内の20代の女性が9日までに、医師らを相手取り、慰謝料など約3600万円の支払いを求める訴えを前橋地裁に起こした。

 訴状によると、女性は06年7月、頭痛のため、同病院で2度診察を受けた。2度目の診察の骨髄検査で、腰に体液採取用の針を刺された。その後、腰や左足などにしびれや痛みを感じるようになった。

 原告は「不要な検査が左下半身に後遺症を引き起こした」などと主張。病院側は「訴状の中身を検討している段階で、コメントできない」としている。【杉山順平】

毎日新聞 2007年5月10日

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>2度目の診察の骨髄検査で

いいかげんにしろ,毎日新聞。「顎へのCVカテーテル挿入」や「梅毒ウイルス」と違い,今度の用語ミスは内容を大きく変えてしまうぞ。ちゃんと調べて書け。

おそらくはSAHを鑑別するために腰椎穿刺でCSFを採取したのであろう。
脊柱管(クモ膜下腔)に針を進め脳脊髄液を採取するのであって,椎体を穿刺するわけではないので“腰椎穿刺”という用語も誤解を招きやすいが,これを「骨髄検査」と表記したのではまったく違う意味になる。
頭痛のPtに骨髄穿刺(マルク)という骨髄検査をしたのなら,「不要な検査」と言われても仕方ない。

頭痛を主訴とするPtに腰椎穿刺を行うことが不要かどうか,ネット検索すればどこにでも書いてある。

大淀病院の妊婦死亡のときには「CT撮っていれば助かった」と言われ,頭痛に腰椎穿刺すれば「不要な検査」と責められる。

とにかく結果が悪ければ,何でも医師のせいにされる。

麻酔のルンバールの場合,「不要な麻酔」との言いがかりはつけられないだろうが,きついムンテラをしておくに越したことはない。私はもうルンバールはしないが。

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May 14, 2007

どうせ選挙対策だろ


魚拓
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医学部に地域勤務枠、卒業後へき地で10年…政府・与党
5月13日3時4分配信 読売新聞


 政府・与党は12日、へき地や離島など地域の医師不足・偏在を解消するため、全国の大学の医学部に、卒業後10年程度はへき地など地域医療に従事することを条件とした「地域医療枠(仮称)」の新設を認める方針を固めた。

 地域枠は、47都道府県ごとに年5人程度、全国で約250人の定員増を想定している。地域枠の学生には、授業料の免除といった優遇措置を設ける。

 政府・与党が週明けにも開く、医師不足に関する協議会がまとめる新たな医師確保対策の中心となる見通しだ。

 地域枠のモデルとなるのは、1972年に全国の都道府県が共同で設立した自治医科大学(高久史麿学長、栃木県下野市)だ。同大では、在学中の学費などは大学側が貸与し、学生は、卒業後、自分の出身都道府県でのへき地などの地域医療に9年間従事すれば、学費返済などが全額免除される。事実上、へき地勤務を義務づけている形だ。

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大学入試の段階で地域医療枠を設定するということなら

いままで100人だったところの医学科の定員は105人になるが,通常枠の100人と地域医療枠の5人は別々に募集することになる。
地域医療枠は通常枠よりも合格偏差値は低いはずだが,たった5人。
ある大学の医学部医学科を目指していて,学力がボーダーラインにいる受験生がいたとする。たった5人の地域医療枠にチャレンジするかどうか。しかも狭き門に合格しても,卒業後約10年間の進路に制限がつく。おまけに同級生からは「あいつは僻地枠で入った」という目で見られる。

それとも,入学試験は別枠にせず105人の定員として従来通りに行い,試験のワースト5人を地域枠として入学させるか。しかしその5人の家庭の経済状況が悪くないなら,授業料免除を拒否して僻地勤務もしないだろう。

国公立大学医学部医学科では後期試験を廃し,前期試験のみに絞るところが増えてきた。この後期試験を地域枠試験として復活させるという方法もある。でもやはり同じ。「とにかく入学できればいい。カネさえ払えば僻地には行かなくて済む」となるような気がする。

授業料の免除は私立大学では大きいが,国公立大学の授業料は医学部も他学部と同じかほぼ同じはずである。国立大学法人化に伴い,文部科学省が定める標準額の10%増を限度に各大学が定められるらしいが,まだ学部間に大きな差はないと思われる。国立大学の授業料が無料の先進国もあり,「日本は国立大学の授業料も高い」と言われてしまうとどうしようもないが,私立中高一貫校からの受験者が多いことを考えると,国公立大学の授業料免除はそれほど大きな魅力とは思えない。

国立大学授業料の「標準額」は年間53万5800円。6年間でも321万4800円。「これだけのお金を免除してやるから卒業後9年間僻地で奉公しろ」ということは,これだけのお金を払えば僻地勤務を拒否できることになる。

授業料免除と僻地勤務は別にしないと意味がない。政治家が「授業料全額免除の地域医療枠には希望者が殺到する」と本気で考えているのならイタすぎる。やはり選挙向けのパーフォーマンスか。

ところで,地域医療枠で入学した学生が研修医になる頃,その研修医を指導する医師が僻地に存在するのだろうか? ひとり立ちできるまで市中病院で修行させるなら,その期間も義務年限に入れられるのか? もしそうなら実際の僻地勤務期間は大幅に短縮される。

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May 12, 2007

そうかんたんじゃない

魚拓

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救命士がチューブ誤挿入 搬送女性死亡、名古屋
2007年5月7日 20時30分

 名古屋市は7日、瑞穂消防署の男性救急救命士(37)が1日に心肺停止状態の女性(68)を自宅から救急車で搬送した際、気道確保のためのチューブを誤って食道に挿入したと発表した。女性は病院に搬送後、死亡が確認された。死因は心筋梗塞だった。市は誤挿管が死亡につながった可能性もあるとみて詳しく調べている。

 市によると、1日午前零時すぎ、女性の家族が119番し、救命士らが同市瑞穂区の女性宅に向かった。到着時、女性は呼吸をしていたが、意識不明。数分後に心肺停止状態に陥ったため、救命士が病院の医師と連絡を取りながら、挿管し救急車に乗せたという。

 病院で女性の死亡が確認された後、医師がチューブを抜こうとして誤挿管が分かった。

 救命士は聴診器で女性の肺の音を確認したり、体内の二酸化炭素濃度を測っていたが、誤挿管に気付かなかったという。

(共同)
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プールで泳いでいた若い女性が「耳に水が入った」という理由で救急車を呼んだという話を聞いたことがある。これは例外としても,救急車をタクシー代わりにするDQNどもに毎日のように振り回される救命士の苦労は察するに余りある。最近では医師不足,病院の救急指定取り下げなどにより搬送先探しもままならず,同情の念を禁じ得ない。自分もいつお世話になるかもしれず,救命士の皆さんには敬意を払いたい。

しかし

私が勤務医を辞めて良かったことのひとつは,救命士や研修医(非麻酔科)やローテーターに挿管の練習をさせなくて済むことである。麻酔科医(に限らないかもしれないが)には2種類の人間がいる。挿管や硬膜外穿刺,CVカテーテル挿入などの手技を教えたがる人間と,教えるのが大嫌いな人間。私は後者だ。前者の中には自分自身が2年程度の麻酔経験しかないのにやたら自信満々で教えたがる者もいる。「教うるは学ぶの半ば」というが,将来同じ職場でチームメイトとして働くこともない連中に教えてもこちらには何も得るものはない。それどころか,研修医やローテーターが挿管時に歯を折った場合,始末書を書き,歯科受診の手配をし,Ptにムンテラしなくてはならないのは指導医である。

研修医やローテーターは慣れれば術前訪問も勝手に行ってくれるし,鵜飼い麻酔(鵜飼い麻酔の是非についてはここでは触れない)の鵜として労働を引き受けてくれる。一方,救命士の場合は,術前に指導医クラスの麻酔科医と救命士がペアでPtの病室に出向き「挿管実習の練習台になってくれませんか」とお願いに行くことになる。当然ながら通常の術前診よりも長時間のムンテラとなる。Ptが受諾すると指導医は翌日の麻酔において救命士の挿管実習というリスクにさらされる。Ptが実習を拒否してくれると有り難いが,なかには「お前らの練習台になんかなるか!バカ」と暴言を吐く者もいる。指導医は「俺が望んでいるわけでもないのに,なぜ罵られなければならないのか」と凹んでしまう。

また,救命士はオペ室で挿管の実習を受けるのみで,麻酔管理を手伝うことはできない。一応手術終了までオペ室にはいるが,所在なげに立っているだけ。せいぜい入室時と退室時のベッド移送に力を貸す程度。

麻酔科医にとっては救命士の挿管実習は時間と労力を消費するだけでなく,精神的にもきついものがある。

いつか救命士に質問されたことがある。「先生は現場での救命士の挿管についてどう思われますか?」
私は本音を隠し「意義のあることだと思う。自分が心肺停止になったときも一刻も早く気管挿管して欲しい」と答えた。挿管の実習に来ている救命士に対し「挿管なんてしなくていいから,心マ+マスク換気のまま病院に連れてくればよい」とか「コンビチューブで十分」などとは言えなかった。

さて,今回の誤挿管のことだが。

「最初はちゃんと気管内に挿管されていたが,心マやベッド移動の際に抜けたのでは」などという意見があるが,私はそうは思わない。固定用テープが少々ゆるんだとしても,挿管チューブはそう簡単には抜けたりしない。経験の浅い人間が挿管すると,成功の喜び(?)と「抜けては大変」との意識から,深く入れすぎる傾向になる。チューブの深さが浅めであっても,TEEの出し入れを頻回に行ったりなどしない限り,挿管チューブが抜けることは考えにくい。

やはり最初から食道挿管だったのではないか。

わざとやったわけじゃなし,救命士が刑事訴追を受けたりするのは気の毒だ。しかし,「悪気はなく一生懸命やったのに,結果が悪かった」という理由で刑事訴追を受けている医師がいる。挿管ミスは医師ならNG,救命士は許せるというのでは不公平極まりない。

「俺はそこらへんの医者より挿管が上手い」と公言して憚らない救命士もいるだろうが,失敗したときに責任をとらねばならないことも考慮する必要がある。今朝の読売新聞によると『プロである以上、精いっぱいやりました』ではすまないはず」らしい。

司法など「現場で気管挿管に成功していれば,○○%の確率で蘇生し社会復帰も期待できた」と簡単に決めつけるだろう。挿管の指示を出した医師まで責任が及ぶなら,これからは救急隊からの電話で挿管の指示は出せなくなる。それならそれで「あのとき担当医が挿管の指示を出していれば助かったはず」となるのだろうか。

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May 11, 2007

首がないほどのobesity?

ちょっと古いが

魚拓

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医療ミス:カテーテルで動脈損傷 群馬大医学部付属病院で
 群馬大学医学部付属病院は2日、女性患者にカテーテルを挿入する際に動脈を損傷させ、大量出血により死亡させる医療ミスがあったと発表した。石川治院長が記者会見してミスを認め、「一人の命が奪われたことは残念で、ご家族に深くおわびします」と謝罪した。

 病院などによると、死亡したのは群馬県桐生市の60代女性。入院後に摂食障害や意識障害が生じたため4月27日、栄養管理などのため主治医の30代の女性医師が直径2ミリの「中心静脈カテーテル」を右あごの静脈に挿入した。

 間もなく、肺からの出血で血を吐くなど容態が急変し、血圧低下で呼吸困難になり、約7時間半後に死亡した。病院は「動脈を損傷した可能性が高い」として同日中に前橋署に「異常死」として届け出た。遺族にも説明・謝罪した。処置は「内科、外科問わず日常的な操作」だが、カテーテル挿入時、女性の意識がもうろうとし、体を動かすなどしたため、看護師ら3人も補助したという。

 石川院長は「動脈の位置を確認するのにエコー検査を用いるなど、より安全な方法を実施したい」と述べた。【鈴木敦子】
毎日新聞 2007年5月2日 21時31分

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亡くなられた女性の冥福を祈るとともに,ご遺族にはお悔やみ申し上げます。

さて
>「中心静脈カテーテル」を右あごの静脈に挿入した

未熟な私は顎からCVカテーテルが入っている患者を見たことがない。さすが毎日新聞。


>石川院長は「動脈の位置を確認するのにエコー検査を用いるなど、より安全な方法を実施したい」と述べた

エコーを用いれば体動を防げるのか?

「意識が朦朧」は「自然に麻酔がかかった状態」ではない。意識が朦朧としている状態では当然ながら「処置が終わるまでじっとしていなくてはならない」という自制が働かないため,ちょっとした刺激で暴れる。全身麻酔下で体動のまったくないPtでもCVPカテーテルが入りにくいことがあるというのに,体動の激しい患者にIVHカテーテルを挿入するなど至難の業である。

読売の記事では

魚拓
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群馬大病院でカテーテル挿入ミス、女性患者が大量出血死
 群馬大学医学部付属病院(前橋市、石川治病院長)は2日、栄養補給のため頸(けい)静脈から中心静脈カテーテルを挿入された、60歳代の女性入院患者が4月27日、大量出血で死亡したと発表した。

 カテーテルが静脈を破り、鎖骨付近の動脈を傷つけた可能性があるという。

 病院は女性の遺族に経緯を説明して謝罪。病院からの届け出を受けた前橋署と群馬県警捜査一課は業務上過失致死の疑いで捜査に乗り出した。

 同病院によると、女性は意識障害や摂食困難があり、主治医の30歳代の女性医師が同日、看護師ら3人の補助でカテーテルを挿入した直後に出血し、約7時間半後に死亡した。

 中心静脈カテーテルは直径約2ミリの管で、口などから十分に栄養補給できない場合などに使われ、通常は頸静脈から心臓近くまで管を通すという。

 2日に記者会見した石川院長は「誠に残念。カテーテルを挿入する際のより安全な方法を院内で統一し、徹底する」と述べた。

(2007年5月2日21時49分 読売新聞)
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>業務上過失致死の疑いで捜査に乗り出した

IVHの合併症で死亡となった場合,遺族のお怒りはごもっともだが,またしても刑事訴追?

麻酔科医は主治医から「全麻のついでにIVHも入れといて」と依頼されることが多いが,断るのが無難なようだ。麻酔科医がカテコラミンルートを必要とする場合は除いて。いや,カテコラミンやCVP測定を必要とするような病態・手術では麻酔そのものを断るべき時代になったのかもしれない。善良な市民としては,「失敗したら犯罪者になるような手技」は厳に慎むべきだ。

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May 07, 2007

その日のうちに受診できる国の社説

魚拓

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社説:在宅医療 往診する開業医を増やそう
 来年度から医療構造が様変わりしそうだ。専門治療は大病院で行い、開業医(診療所)は「かかりつけ医」として24時間体制で患者を診る。厚生労働省がこの機能分担を進めようとしている。狙い通り実現すると、医療現場で起きている課題のいくつかは解決へ向かうかもしれない。

 大病院での「待ち時間数時間、診察数分」というばかげた事態はなくなる。勤務医や看護師は過重労働から解放され、医療ミスも減る。小児科や産科の医師不足も解消されそうだ。こんな良いことばかり思い描いてしまう。

 もちろん、厚労省の狙いは金のかかる入院を減らし、在宅医療を促して総医療費を抑制することにある。でも、駅前のビルに診療所を構え、9時~5時の時間帯で外来患者しか診ない医師よりも、往診に出向き、みとりを含め患者や家族の相談にのってくれる「かかりつけ医」がたくさん増えるのは歓迎だ。高齢社会もそんな医師を求めている。

 厚労省は、この方向に誘導するための施策も用意している。24時間体制で往診に応じる開業医には診療報酬を手厚くし、外来だけに特化し往診に取り組まない医師の報酬は抑え込むことにしている。金だけでなく公的資格も与える。複数の疾患を持つ患者を一人で総合的に診察できる開業医を「総合医」として認定、技量、能力にお墨付きを与える。

 わが国の医学教育は臓器別専門医を養成してきた。今後、専門医が開業する場合、総合的な診察ができるように研修制度を設けたり、研修医段階から総合医の養成システムを構築するという。

 開業医は1次医療を担い、必要に応じて病院や老健施設を紹介する。大病院は開業医から紹介された人や急性期の患者を受け持つ。こうした「すみわけ」は何も目新しいことではないが、欧米に比べ日本は取り組みが遅れた。

 成否のカギを握るのは、開業医である。ありていに言えば「もっと腕を磨き、もっと汗をかけ」というメッセージにどう応えてくれるかにかかっている。私たちが理想とする開業医とは、地域の人びとから信頼され、往診や夜間診療をいとわず、切り傷、風邪からがんの早期発見まで幅広く対応できる人だ。

 患者側の意識変革も必要だ。ちょっと頭痛がするだけで大病院へ行きたがる傾向がある。原因がわからないので迷った末、診療科もそろい、24時間対応、専門性が高い病院を選んでしまう。病院が1次医療をしないとなれば、私たちは良い「かかりつけ医」を選ぶしかないのである。発想を切り替えなければならない。

 在宅重視への構造変革は日本医師会などの協力がなければ絵に描いたモチに終わる。厚労省も仕組みを号令するだけでなく、医療現場の声に耳を傾けるきめ細かい心配りが必要だ。政策官庁と現場の信頼が崩れると、迷惑をこうむるのは患者である。なるほど変わって良かったというシステムをみんなの力で築いていきたい。

毎日新聞 2007年5月6日 

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すっかり有名になったお馬鹿な社説。

>大病院での「待ち時間数時間、診察数分」というばかげた事態はなくなる。

日本では自分が加入している保険がその病院で使えるかどうかを気にすることなく,患者が自由に医療機関を選べる。つまり自分が行きたい病院に行ける。しかも数時間程度待つだけで,なんとその日のうちに数分間も診てもらえる。しかも運が良ければいきなり専門医に。こんな恵まれた医療環境が「ばかげた事態」とは。さすが「風の息づかい」クオリティ。

こんな世界最高の医療も崩壊しつつあるが,崩壊加速の大きな因子がマスコミであることに気づいていないのか,気づいているけど知らないフリか。

>もちろん、厚労省の狙いは金のかかる入院を減らし、在宅医療を促して総医療費を抑制することにある。でも、駅前のビルに診療所を構え、9時~5時の時間帯で外来患者しか診ない医師よりも、往診に出向き、みとりを含め患者や家族の相談にのってくれる「かかりつけ医」がたくさん増えるのは歓迎だ。高齢社会もそんな医師を求めている。

「総医療費を抑制しようとすることがおかしい」という考え方はできないらしい。公共事業費が先進国最高のこの国で,先進国最低の医療費をさらに削ることが正しいのか。歳をとれば誰もが病気になるというのに。

厚労省は入院患者を病院から追い出したい。その尻拭いを開業医にして欲しい。まさか厚労省が「病人が長期入院すると医療費がずいぶんかかるんだよね。だから病院にかからずに家で早く死んでね」とは言えない。だから「入院はさせないけどかかりつけ医の制度を作ったから,自宅でかかりつけ医に診てもらってね。夜中でも休日でも呼んでもらっていいよ。その分の報酬を手厚くしといたから」と。

簡単に「みとり」なんて言ってくれるが,これは医師にとって危険極まりない。DQNは死を受け入れられない。「90歳のおばあちゃんが痰を詰まらせて死んだのは往診が遅れたから」「遠くの親戚が死に目に会えなかったのはかかりつけ医のせい。慰謝料払え」。司法も「在宅にこだわらず,早急に専門医のいる大病院に送るべきだった」とDQNどもを擁護し,死体換金ビジネスはますます隆盛を極めることだろう。このビジネスの標的からはずれる病院勤務医にとってはありがたいことだが。


>厚労省は、この方向に誘導するための施策も用意している。24時間体制で往診に応じる開業医には診療報酬を手厚くし、外来だけに特化し往診に取り組まない医師の報酬は抑え込むことにしている。金だけでなく公的資格も与える。複数の疾患を持つ患者を一人で総合的に診察できる開業医を「総合医」として認定、技量、能力にお墨付きを与える。

ハシゴ外しは厚労省の得意技。「総合医の資格をあげるから,24時間体制で働け。診療報酬は高くしてやるぞ」 そんな甘言に引っかかる医師がどれほどいるだろう。どうせ総合医がある程度増えたら診療報酬は引き下げられるに決まっている。そう何度も同じ手には引っかからない。それに,過酷な勤務医生活に嫌気がさして開業した医師が再び夜間休日の拘束を簡単に受け入れるとは思えない。

>開業医は1次医療を担い、必要に応じて病院や老健施設を紹介する。大病院は開業医から紹介された人や急性期の患者を受け持つ。こうした「すみわけ」は何も目新しいことではないが、欧米に比べ日本は取り組みが遅れた。

やはり欧米の医療が優れていると思っておいでのようだ。イギリス型とアメリカ型,どちらをお望みだろう。金持ちしか医療を受けられないアメリカは論外として,確かにイギリスやカナダでは家庭医と専門医の棲み分けはできているらしい。医師が余っているならそれもいいだろう。日本政府はこの期におよんでもまだ「医師は足りている。偏在しているだけ」とひとつ覚えを唱えているが,日本では医師の絶対数が不足していることは厳然たる事実。そしてがん拠点病院ですら専門医が不足している。厚労省主導で後期研修を終えた時から総合医のコースを設ければ,専門医コースに進む医師は減ってしまう。それとも開業医が総合医になるので専門医は減らないとでもタカをくくっているのか。前述のように,少々カネを積まれても24時間拘束医にだけはなりたくないと思う開業医は少なくないのではないか。

総合医という政府お墨付の家庭医が増え,それらがフリーアクセスだったとしても,その分専門医が減る。癌を疑った家庭医は病院受診の手続きをするが,専門医に診てもらうまで予約待ちで1か月。専門医が検査を予約し,病院でCTや造影を受けるのが早くて1週間後(カナダでは家庭医は血液検査やレントゲン検査をしない。主な検査はすべて病院で行う),検査結果で癌と診断されるのがさらに1週間後。その時点で手術の予定が組まれるが,やはり専門医(外科医)の不足により手術まで3か月待機。初発症状で家庭医を受診してからオペまでに4か月と2週間。これは控えめな数字で,イギリスはもっとひどいらしい。

イギリスの医療の概要は
http://yamanoi.net/blog/archives/2005/12/33744.html

http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wpdocs/hpyi200501/b0476.html

NHS改革目標(2002年7月)がすばらしい
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最大待機期間を2005年末までに外来3か月入院6か月とし、2008年には入院も3か月とする。
救急患者の最大待機時間を2004年までに4時間とする。
・2004年までに一般家庭医へのアクセス待機時間を最大48時間以内(熟練看護士等との面会は24時間以内)とする。
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(太字は筆者)


さて,例の社説に戻ろう。

>成否のカギを握るのは、開業医である。ありていに言えば「もっと腕を磨き、もっと汗をかけ」というメッセージにどう応えてくれるかにかかっている。

過剰労働に疲弊している勤務医なら賛同してくれるとでも思ったのだろうか。
全国の開業医の皆さん,先生方は腕が悪いうえに働きも悪いそうですよ。


井上真の「恥を知れ」と同レベルだな。

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