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March 30, 2007

夜は家でおとなしく寝ましょう

魚拓


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過労自殺否定、賠償認めず 小児科医労災訴訟と逆判断 '07/3/29


 十四日の東京地裁判決で労災と認定され、確定した小児科医中原利郎さん=当時(44)=の自殺をめぐり、遺族四人が勤務先の病院を運営する立正佼成会に約二億五千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、同地裁は二十九日、遺族の請求を棄却した。

 湯川弘昭裁判長は「過重な身体的・心理的負担がある業務をしていたとはいえない」と十四日の判決とは反対の判断を示し、自殺の原因を過労とは認めなかった。遺族側は控訴を検討する。

 賠償請求訴訟は、労災認定訴訟とは別の裁判官三人が担当した。

 判決によると、中原さんは一九八七年四月から、東京都中野区の立正佼成会付属佼成病院に勤務。九九年二月から小児科部長代行となった。同年三月から六月ごろにかけて、うつ病を発症し、同年八月に病院の屋上から飛び降り自殺した。

 原告側は「代行就任前後で小児科の常勤医が減り、二日しか休めなかったり、八回も宿直勤務する月があるなど、業務は過酷だった」と主張したが、湯川裁判長は「宿直中に仮眠できないほど患者は来ず、日程の割り振りにも一定の余裕があった。業務が原因でうつ病を発症する危険がある状態だったとはいえない」として退けた。

 判決後、記者会見した原告の妻のり子さん(51)は「裁判官が違うとはいえ、全く予想しなかった内容。夫の労働が大して過重ではなかったという判断は納得できない」と話した。
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>宿直中に仮眠できないほど患者は来ず、日程の割り振りにも一定の余裕があった

だから,宿直は仮眠じゃなくて熟睡できなきゃいけないと何度も言っているだろ!
http://anesthesia.cocolog-nifty.com/freeanesthe/2006/10/index.html

魚拓

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小児科医自殺 過労認めぬ判断

この裁判は、8年前、東京・中野区の病院で小児科医の中原利郎さん(当時44歳)が自殺したのは、過酷な勤務が原因だとして、遺族が病院に損害賠償を求めていたものです。29日の判決で、東京地方裁判所の湯川浩昭裁判長は「中原医師は月に8回の宿直勤務をしたときもあるが、ほかの月は6回程度で、うつ病になった時期に特に増えたとはいえない。ほかの病院でも同じくらい宿直勤務をする医師は少なからずおり、中原医師の業務が特に過酷だったとは言えない」と判断して、遺族の訴えを退けました。遺族が労働基準監督署を訴えた裁判では、今月14日、別の裁判長が「自殺は過酷な勤務が原因で労働災害と認めるべきだ」という判決を出し、国側が控訴せず確定しており、29日の判決はまったく逆の判断となりました。判決について、中原医師の妻の、のり子さんは「労働災害だと認めた判決とは正反対に『過酷ではない』と判断したことはまったく納得できない」と話していて、控訴する方向で検討したいとしています。
3月29日 17時54分
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>ほかの月は6回程度で、うつ病になった時期に特に増えたとはいえない。

月6回の宿直(実質夜勤)が楽だとでもいうのか。一度でいいから36時間連続勤務を月に6回やってみるがいい。

来週から4月。

過酷な奴隷勤務から逃散することを決めた医師は年休を消化しているか,残務整理に追われているか,または引っ越しに大わらわかもしれない。

この春の逃散は思いとどまった先生方は,このようなニュースを見てどう感じるだろう。忙し過ぎてインターネットを見るヒマもない先生方もそろそろ気づくのではないだろうか。「身を粉にして働いても報われない」と。

とにかく,私は勤務医を辞めて正解だった。

中原先生は小児科だったが,過剰労働は小児科に限らない。病院側の書類上では宿直を装いながらも,実質は一睡もできない夜勤を強いられている医師は日本全国に数え切れないほどいる。

上のようなDQN判決が出る前でも,救急指定の看板を降ろす病院が増えている。

救急病院の看板をまだ掲げている病院の多くは,中原医師のような滅私奉公,つまり単なる宿直でありながら実質夜勤として一晩中働く過剰労働で成り立っている。今回のトンデモ判決を見て心の折れた医師も多いはずだ。眠れない宿直を強要する病院からは医師が逃散する。医師がいなければ救急医療など出来ない。今後,救急指定を返上する病院は増加の一途をたどるだろう。

「救急車はすぐに現場に来たが,搬送先の病院がなかなか見つからず手遅れになった」という悲劇が日常茶飯事になるのはそう遠くないような気がする。

私や私の家族が急性腹症になったり交通事故に遭う可能性もあるが,いたしかたない。急病は防ぎようもないが,なるべくケガをしないよう夜の外出だけでも控えるとしよう。特に今は歓送迎会や夜桜宴会のシーズンで,酒気帯び運転のクルマがそこら中走っていることだし。

夜はおとなしく家で寝ているべきだ。もちろん医師も。

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March 27, 2007

リスク回避のためにベネフィット放棄


魚拓

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「利益が危険性を上回る」=タミフル使用で見解-欧州当局
3月24日0時1分配信 時事通信


 【ロンドン23日時事】欧州医薬品審査庁の医薬品委員会は23日、インフルエンザ治療薬「タミフル」服用後に異常行動が相次いで報告されている問題に関し、適切な指示の下で使用されれば「利益が危険性を上回る」との見解を発表した。
 声明文によると、日本で指摘されたタミフルと精神・神経症状の関係について、同庁は安全検査を実施。その結果「タミフルに関し、精神・神経症状も含めた安全情報について引き続き注意深く監視する。さらなる懸念があれば対応策を取る」と指摘したが、現時点での具体的な措置は見送った。 

最終更新:3月24日0時1分
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タミフルはインフルエンザに有効な薬で,大勢の患者が恩恵を受けてきた。
全麻に併用する硬膜外麻酔は術後鎮痛に有効で,大勢の患者が恩恵を受けてきた。

タミフルによると思われる副作用で死亡例が報告されている。
硬膜外によると思われる合併症で下肢麻痺が報告されている。

タミフルを飲まなくてもインフルエンザは治ることが多い。
硬膜外を併用しなくても手術を完遂できることが多い。

タミフルを飲まなくても異常行動が見られることがある。
硬膜外を施行しなければ下肢麻痺はまず起こらない。

タミフルを制限するくらいなら,全麻に併用する硬麻をやめるべきではないか?

私は麻酔科医なので硬膜外麻酔を例にあげたが,他の診療科でも同じようにタミフルと比較できる薬・治療があるはずだ。

世界一のタミフル消費国である日本において,いままでにタミフルを飲んだ青少年がどれほどの数にのぼるのか計り知れない。確率がどんなに低くても,その有害事象が重大な場合はその手段を放棄するというのであれば,明日から禁止しなくてはならない医療行為は山ほどあるだろう。

十代の少年少女が異常行動を起こして死亡するというのは,ショッキングな有害事象である。タミフルと異常行動に因果関係があると仮定したとすると,死亡した子供たちは,タミフルを服用さえしていなければ発熱の期間が一日程度長かっただけで,何の障害もなく元気に青春を謳歌していた可能性が高い。そう思えるからこそ遺族の喪失感は大きい。タミフルを敵視する遺族の気持ちはごもっともである。

しかし誰もが主張するように,薬や治療手技には副作用や合併症があり,ベネフィットとリスクを天秤にかけて使用の是非を考えるのが医療である。

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March 25, 2007

青森に住んで医師になろう

魚拓

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県内合格者増えず/弘大医学科

 本県の医師定着を狙い、弘前大学医学科が二〇〇七年度の推薦入試から、県内枠を十五人から全国最大規模の二十人に拡大したが、一般入試の合格者が九人から二人と激減したため、全体の県内合格者が二十五人から二十四人と減少した。〇六年度に県内枠を初めて導入したが、二年連続の減少となり、一般入試で合格水準にある受験生が、県内枠に流れ込む構図で、合格者増につながっていないことが分かった。

 弘大は推薦入試の県内枠を地域医療対策の一つに掲げ、〇六年度に初めて十五人の県内枠を設定。今回の〇七年度入試で、後期日程の定員五人を振り替え県内枠を計二十人に拡大した。しかし、県内合格者は計二十四人。〇六年度の本県合格者も県内枠十五人に、一般入試九人と学士編入学一人の計二十五人で、小幅ながら二年連続の減少となった。

 推薦はセンター試験や面接、小論文などで合否が決まるが、ある県内進学校の進路担当教師は「弘大医学科を志願する現役受験生のほとんどが、推薦と一般入試の二段構えで臨む」と指摘。学力のある生徒はもともと、一般入試でも通用するが、センター試験を終えて推薦に出願し、合格を手にするという。

 その一方、推薦に届かなかった受験生は、全国の受験生との一般入試に臨むことになる。その結果、「全国的に医学部の難易度は上がっており、合格は厳しい」という。

 弘大医学部の佐藤敬学部長は「地元合格者の増加を期待していたので残念。医師確保には入学だけでなく、授業の工夫や研修医の確保など多面的な対応が必要」と話している。

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昔,国立なのに北海“道”大学という名称はおかしいと思っていた。他の都府県と異なり,prefectureをはずして“北海”と呼称する習慣はないとわかっていても,やはり「国立北海道大学」は「国立東京都大学」「国立大阪府大学」「国立神奈川県大学」とかと同じになってしまう。「国立北海道大学」の“北海道”は都道府県としての北海道ではなく,北海道地方のことだと気づいたのはずっと後年,つい最近といってもいい。同じように地方名を冠する国立大学に東北大学と九州大学がある。

名称を見ただけでは国立なのか公立なのかわからない大学がある。例えば旭川医大,滋賀医大,浜松医大は国立で,札幌医大は北海道立である。自分の居住する地域から離れたところでは私立かどうかも自信がなくなる。関東圏以外の人では東京医科大が私立で,東京医科歯科大が国立であることを知らない人も多いのではないだろうか。東日本の人は福岡大を,西日本の人は岩手医大を,それぞれ国公立と誤解しているかもしれない。

さて,本題に入ろう。

弘前大学は市立や県立ではなく,国立大学である。○○市立大学や△△県立大学がその自治体在住の受験生を優遇するのとはわけが違う。自県への医師の定着が悪いからといって,県内枠を設けるのはどうだろう。国立大学への入学志願者が,その出身地によって差別を受けていることになる。

医学部医学科の入試では面接を課する大学が多い。そして面接では必ずといっていいほど「当大学を希望した理由は何ですか?」と質問される。受験生は「臨床・研究ともに優れ…。文武両道の校風が…。伝統ある…。勉学に適した環境」など心にもないことを並び立てる。本当は「自分の今の学力で受かりそうだから」「センター試験の比重とか,試験科目の配点が自分に有利だから」「苦手の小論文がないから」 そのことは面接官も充分わかっている。受験生は弘前という土地や弘前大学そのものが好きで受験しに来るわけではない。

自分の学力で受かる大学医学部が自宅から通えるところにあればいいが,なかなか難しい。「どこでもいいから,とにかく国公立大学医学部に」という受験生が自分の学力と相談し,かつて一度も訪れたことのない地方の,親戚も知り合いもいない土地の大学を受験する。弘前大学に限らず,地方の国公立大学医学部はいわば「医師免許取得を目的とする6年間の合宿」に過ぎない。卒業すれば多くが故郷に戻る。

弘前大学の他学部卒業生の地元定着率はどうなのだろう。医学部医学科のみが他学部に比べ,格段に悪いのだろうか? 来年度の入試方法を見たところ,他学部には地元優先枠は存在せず,推薦入試に青森県枠を設けているのは医学部医学科だけのようだ。

医学部医学科の卒業生だけが地元に残らなければならない理由はない。地元出身者が多くいれば,卒業後も地元に残る医師が多くなるだろうというのは自然な発想ではあるが,新臨床研修制度のおかげで医師のフットワークは軽くなった。自分で生活費を稼げるようになった若手医師が実家の近くで働くことにこだわるとも思えない。


>ある県内進学校の進路担当教師は「弘大医学科を志願する現役受験生のほとんどが、推薦と一般入試の二段構えで臨む」と指摘。

当たり前だ。受験のチャンスは1回より2回のほうがいいに決まっている。一般入試で楽々合格できる学力のある受験生が,学力の劣る他人のために推薦枠を譲ったりするはずがない。地元を離れたくない受験生は推薦と一般の両方に願書を出すのが定石というものだ。推薦で落ちるようでは一般入試で受かるはずはないとも言えるが,とにかく青森県在住の医学部志望者は恵まれている。

国立大学であることを忘れるなら,いっそのこと定員すべてを青森県出身者に限ってはどうか。学生の質がどうなるか,そして彼らが地元に定着し医師として働き始めたときの医療の質がどうなるか,見てみたい気もする。

そのうち,国立医学部進学の実績を残したい私立中高一貫校が青森分校をつくったりして。保護者も住民票を青森に移せば,地元枠出願に問題ないだろう。

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March 21, 2007

6年後,その病院あります?


魚拓

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2007年03月20日

新年度からドクターバンク 休職の特典、給与保証
 福島県は県立病院の医師確保に向け、勤務する医師を全国から募る「ドクターバンク」制度を新年度内に創設する方針を固めた。海外留学などを視野に、要望に応じて2年の連続勤務で1年、4年で2年の休職期間を与え給与の約7割を保証する「特典」を設け、アピール力を強める。ホームページでの募集に加えて職員が医大・医学部を直接訪問し、本県出身の医師らにUターンを促す取り組みも開始する。来週中にも制度の概要を公表する見通しだ。
 県が検討しているドクターバンク制度では、ホームページで全国から県立病院に勤務する医師を募集するほか、県病院局の職員が医大・医学部を訪問し医師に直接、「移籍」を働き掛ける。医局に在籍する本県出身や定年の近い医師らをターゲットにする考えで、現在でも勤務可能な医師や数年後なら条件が整うといった人材まで幅広くバンクに登録し、継続的にアプローチを続ける。
 医師を募集する際の強調材料にするのが、新たに設ける休職制度。医療機関で診療に当たる医師には、常に最先端の医学を学び知識や技術に磨きをかけたいとの要望が強いことから設ける。2年連続で勤務した場合には1年、4年で2年の休職を認め、約7割の給与と1回分のボーナスを支給する。
 海外の大学など研究機関に留学する場合、本人が全額を負担するのが通例で、給与保証は医師の県内への誘導に向けて大きな魅力になる、と県はみている。この制度は現在、県立病院に勤務している医師にも適用する。
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基本給の7割だとたいした額ではないだろうが,休職中にアルバイトしてもいいなら魅力的かも。何年働いても休職期間の上限が2年なら,こまめに入職・退職を繰り返すという手もある。他の自治体が同じような制度を作った場合,福島県を3年(実働2年+休職1年)で退職し,他府県で同じパターンの3年を過ごし,その後また福島に帰ってくる。こうすれば2年働き1年休むというサイクルを繰り返せる。どうせ公立病院の医師の退職金なんてしれている。休職中のアルバイトが許されるなら,1年間で退職金ぐらい稼げるかもしれない。

しかし,
>この制度は現在、県立病院に勤務している医師にも適用する。

新しい医師が集まる前に,現職の医師がいっせいに「休職したい」と言い出したらどうするつもりだろう。順番待ちか?

福島県いわき市も医師集めに大盤振舞いしている。

魚拓

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医学生に修学資金貸与 いわき市が新設
 福島県いわき市は新年度、医師確保に向け医学生に対する修学資金貸与制度を新設する。医師免許を取得後、市立総合磐城共立病院か常磐病院に就職し、貸与期間と同じ年数勤務すれば返済の義務がなくなる。県は同様の修学資金貸与制度を設けているが、市町村単位では県内初。21日に発表した「市病院事業中期経営計画」に計画案を盛り込んだ。
 貸与を受けられる学生の出身地や大学は問わない。応募があった学生に面接を行い、卒業後に市立病院に勤務する意思があるかを確認する。月額23万5000円を貸与する。年間の貸与額は282万円、6年間貸与を受けた場合の合計額は1692万円。
 市は新年度、2人分の予算を計上し、3月定例会に条例案と合わせて提出する。
 「市病院事業中期経営計画」は、平成19年度から22年度までの市立病院改革の指針。今後の取り組みとして安全安心の医療を市民に提供するための医師確保や人材育成、患者サービスの充実、病棟・病床の適正規模への見直し、地域間完結型の医療提供、緊急医療の充実などを掲げている。
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先日,某大学医学部の教務係前を通りかかり,奨学金関係の掲示板を見る機会があった。ざっと見たところ,多くても月額10万円程度だった。いわき市の月額235,000円というのは破格かもしれない。自治医大などの義務期間は貸与期間の1.5倍だが,これに比べればいわき市への御礼奉公の期間は短い。

大学卒業直後の大事な期間に選択できる病院が2つしかないということになるが,その頃には人権無視の僻地勤務義務化が施行されている可能性もある。僻地として指定されるのは最果ての診療所ばかりとは限らない。市立総合磐城共立病院や常磐病院が僻地病院に指定されれば大笑いである。いわき市から奨学金をもらっていなくても無理矢理派遣させられる医師がいるのだから。自治医大出身者が義務期間中に働く病院に,他大学からの通常派遣組も多くいる状況と同じである。「義務期間として勤務している医師はその病院を辞めることはできないが,通常派遣組ならいつでも辞められる」は通常派遣組の心の支えに過ぎず,その権利を行使するには(昔ほどではないが)勇気がいる。

市立総合磐城共立病院と常磐病院が僻地の指定を外れた場合,いわき市の義務と僻地義務が競合するが,お金がからむいわき市への義務が優先され,僻地義務が減免される可能性もある。交替で派遣するといっても,すべての研修医に僻地を経験させるに充分な数の医療機関が地方に存続しているとは思えない。

今後,この手の奨学金は貸与金額の高騰・義務期間の短縮など,条件はどんどん良くなっていくだろう。貸与期間中に他の奨学金に乗り換えて行けば,義務年限も短くできる可能性もある。

ただ私が医学生なら,奨学金の条件が他と比べていくら良くても,あの福島県での勤務を強いられる奨学金には絶対手を出さない。

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March 20, 2007

火中の栗拾いWG


麻酔科医 「出血時、記憶にない」、調書揺るがす発言繰り返す
福島県立大野病院事件で第3回公判

長いので一部を抜粋する

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麻酔科医に対する審問は、午後1時半から6時過ぎまで4時間半という長丁場となった。

 審問は、「加藤医師がクーパーを用いて胎盤剥離を開始したころから、子宮内で次々と沸き出るような出血が始まった」とされる部分に集中した(福島県立大野病院事件、冒頭陳述の要旨_検察側参照)。

 まず検察側に、大量出血の様子を問われた麻酔科医は、「お風呂がわくような、スイッチを入れると下からどんどん水位が上がってくるような出血だったと思う」と発言した。出血のタイミングについては調書では、「胎盤剥離の最中にあった」としている。

 しかし、弁護側が、このタイミングでは麻酔記録と矛盾する点を指摘すると、「どの時点でわき出るような出血を見たかについては記憶がはっきりしない」と証言を変化させた。

 さらに、警察や検察の取り調べの際は自身も被疑者として扱われており、特に2006年2月に加藤医師が逮捕された直後の取り調べでは「自分も逮捕されると覚悟していた」と心理的な動揺があったことを告白。

 供述段階から証言を変質させていることを裁判官に問われて、「取り調べで行った供述が、そのまま裁判で使われるとは知らなかった。調書に書かれているのなら、取り調べで自分がそう言ったのだと思う。だが、発言のニュアンスや、はっきりとは言っていないところも、調書では断定的に書かれてしまっていた。(警察や検察は)『そういうところなのだな』と半分あきらめてしまった」と語った。
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>「自分も逮捕されると覚悟していた」と心理的な動揺があったことを告白


私は過去のエントリーで「産科医には何の恨みもないが,帝王切開の麻酔は願い下げだ。福島県立大野病院の件では,遺族の怒りの矛先が麻酔科に向かっていたなら,衆人環視のなかで手錠をかけられたのは麻酔科医だったかもしれない」と書いたが,やはり危なかったようだ(実際にはK医師は衆人環視のなかで手錠をかけられたのではないらしい)。通常はまったく縁のないはずの警察署で,しかも「自分も逮捕される」と思いながら取り調べを受けていれば,雰囲気に飲まれ警察が望むような調書に誘導されてしまうのはやむを得ない。警察はさぞかし調書を取りやすかったろう。

とにかく私は逮捕や書類送検どころか,事情聴取も受けたくない。あと何年麻酔科医を続けるかわからないが,周産期の麻酔にはゆめゆめ手を出すまい。

ところが,絶妙のタイミングで日本麻酔科学会からNEWS LETTERが送られてきた。

そのなかの理事長声明に以下のようなことが記載されている。

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また、麻酔科医の専門性を高める上でSubspecialtyの確立が求められてきている。
小児、心臓などの特殊外科麻酔、産科医療の専門性の向上とリスク管理を目指した周産期・産科麻酔は、医療安全面、手術成績の向上からも国民的ニーズの高い問題と考える。中でも、無痛分娩に留まらない周産期・産科麻酔は、分娩期の管理を充実することで、多くの命を救い、あるいは障害児の発生を防止できる可能性を秘めており、少子化にあって麻酔科医が重要な役割を果たせる可能性があると考える。日本では小児麻酔、心臓麻酔に実態のある動きがあるのに対して、産科麻酔だけが概念に留まっているように思う。今後、産科麻酔を日本の麻酔科医の重要な業務の一つとして位置づけをしていく必要があると考え、WGを立ち上げた。
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また,次のページには「関連領域委員会産科麻酔 ワーキンググループが目指すもの」とのタイトルで,産科麻酔WG長のT先生が寄稿している。
その一部を抜粋する。

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○設立の背景
麻酔科医の活動領域は,関連領域委員会内の各種WGが示すように,救急,集中治療ペイン,緩和医療と広がってきた。臨床麻酔の中でも,小児麻酔や心臓血管麻酔はsubspecialtyとして早くから確立され,独自の学会も10年ほど前に設立されて活動を広げている。これに対して産科麻酔領域は,日本では麻酔科医の関与が大きく立ち後れてきた現状がある。
日本麻酔科学会の偶発症例調査に基づき,川島康男先生は日本の全帝王切開件数のうち麻酔科医が担当している割合は25.9%に過ぎないと推定している(臨床麻酔2002年3月号)。麻酔科医がいない施設で多数の分娩が行われているため,出血などの対処が不十分となり,防げたはずの母体死亡が日本では少なくないことも厚生労働省班研究に基づき長屋論文が示している(JAMA2000;283:2661-2667)。日本麻酔科学会偶発症例調査からは,術中心停止の原因が麻酔にあった事例は,帝王切開では60%と他の手術と比較して極めて高いことも示された。このように日本においては,産科麻酔の診療は質量ともに不十分といわざるを得ない。このような現状を打開するために,日本麻酔科学会の中で産科麻酔をどのように発展させていくかを検討すべく,本WGが設置された。

(中略)

○活動方針
上記の使命と目標を達成するために,WGでは個別の活動内容をリストアップし,その優先順位を話し合った。その結果,第一に優先すべきものとして,周産婦医療における麻酔科医の役割を広報・啓発することと,学術集会や専門医試験のなかに産科麻酔領域を適切に組み込むことが挙げられた。次いで,マンパワー調査や母体死亡調査にて現状を把握すること,産科麻酔領域の研究を推進することとした。最後に,帝王切開の脊髄くも膜下麻酔の保険点数増加,無痛分娩率上昇,帝王切開での麻酔科医担当割合上昇をめざす。今後はこのような行動計画をタイムテーブルに載せる必要があり,具体的には教育・学術集会担当,保険点数担当,母体死亡調査,関連学会との渉外について活動を進めていく方針である。
本産科麻酔WGは,あくまで日本麻酔科学会の組織の中で,会員に系統的な教育の場を提供し,産科麻酔を担う麻酔科医を増やし,周産期医療において麻酔科医が重要な役割を担うことを目指すものである。そしてそれが麻酔科志望者を増やすことにもつながると私たちは考えている。本WGの活動に会員の皆様のご理解を賜り,ともに活動していただきますようお願い申し上げます。
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誠に崇高な理念であり,意義深いものである。いつかこのWGが周産期麻酔研究会となり,周産期麻酔学会へと発展して行くのだろう。言われてみれば,日本小児麻酔学会や日本心臓麻酔学会が存在するのだから日本周産期麻酔学会があっても不思議ではない。学会や認定医の乱立については触れないでおく。

私はこの産科麻酔ワーキンググループの主旨に異を唱えるつもりは毛頭無く,産科麻酔の知見や技術の発展を心よりお祈りする。周産期麻酔に熟練した麻酔科医が帝王切開の麻酔を担当してくれるなら,産科医は安心して手術に取り組めるだろう。もしかしたら絶滅寸前の産科医の復活に貢献するかもしれない。

だが,私は産科麻酔に一切かかわりたくない。

>無痛分娩率上昇,帝王切開での麻酔科医担当割合上昇をめざす
>産科麻酔を担う麻酔科医を増やし,周産期医療において麻酔科医が重要な役割を担うことを目指す

上記の目標をかかげるWGにとっては,私などは情けない落伍者に映るだろう。「麻酔科医の風上にも置けない」「これだからフリーターは困る」「出血が怖いなら麻酔そのものをやめろ」 「お前のせいで産科医がますます減る」 揶揄の声は容易に想像できる。

確かに帝王切開以外にもリスクのある手術はいくらでもある。しかし,高齢者の大血管手術と帝王切開(当然若い女性)は同列には扱えない。日本の国民は,出産には危険が伴うことを忘れている。おめでたいはずのお産で母親や赤ちゃんに不幸が起きると,家族は受け入れられない。怒りの矛先は医師に向かう。マスコミはもちろん警察にいたっても「実際被害者がいるのですから」と,医師を加害者扱いする。疾患や病態が加害者であると理解できない。そしてやり玉に挙がるのは術者だけとは限らない。

今の日本は,不可抗力の出血死でも医師が逮捕される。私は,逮捕される危険を冒してまで産科麻酔に精通したいとは思わない。少なくとも,国民が「お産は母子ともに危険なものである」ことを思い出すまでは帝王切開の麻酔は引き受けない。おそらく,私が麻酔科医を続けている間は無理だろう。

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March 16, 2007

小児科医過労死行政訴訟に勝訴

魚拓

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過労自殺の小児科医に初の「労災」認定…東京地裁

判決を受け、記者会見する小児科医の妻の中原のり子さん(手前) 東京都中野区の「立正佼成会付属佼成病院」の小児科医・中原利郎さん(当時44歳)が自殺したのは、過密勤務などでうつ病になったためで、労災にあたるとして、妻、のり子さん(50)が新宿労働基準監督署を相手取り、遺族補償給付の不支給処分の取り消しを求めた訴訟の判決が14日、東京地裁であった。

 佐村浩之裁判長は「欠員となる医師の補充に悩んだことや過密な勤務などが原因でうつ病にかかり、自殺に及んだ」と労災を認定し、処分の取り消しを命じた。

 判決は、自殺の背景に、全国的に小児科医が不足している現状があったと指摘しており、医療行政にも影響を与えそうだ。原告代理人によると、医師の過労自殺が訴訟で認められたのは2件目で、小児科医では初めてという。

 判決によると、中原さんは1999年1月に同病院小児科部長代行に就任したが、同科医師2人の退職などに伴い、同年3月以降、後任の確保や宿直当番の調整などの業務に追われてうつ病となり、8月に病院から飛び降り自殺した。

 判決はこれら業務が「強度の心理的負荷となった」と指摘した上で、「こうした問題は、当時、小児科医が全国的に不足していたため、解決が極めて困難だった」と述べた。

 さらに、判決は「同病院の小児科の宿直勤務は、診療の多くが深夜時間帯で、十分な睡眠は確保できず、月8回の当直勤務は精神疾患を発症させる危険の高いものだった」と判断した。

 原告代理人の川人博弁護士は「判決は深刻な小児科医の労働条件に警告を発するもの」と話した。

 新宿労働基準監督署の話「上級庁と協議して今後の対応を決めたい」

(2007年3月14日20時47分 読売新聞)
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遅ればせながら,
【速報&お願い】小児科 故中原先生 過労死行政訴訟に勝訴 厚労大臣へ手紙を書こう!
http://ameblo.jp/med/entry-10027963461.html

に協力させていただきます。

「医師の待機は労働時間ではない」などの世迷い言を公の場で披露するようなボケにお願いのハガキなど送りたくないという方もおられるでしょう。確かに私もそうでしたが,黙っていてはいつまでもわかってくれません。「どうしても柳沢厚労相だけはイヤだ」という方は,新宿労基署長と東京労働局長宛だけでも送って下さい。昨年末,ぎりぎりになって大あわてで年賀状をつくられた方も多いでしょう。失敗作や余った年賀ハガキがまだ机やパソコンの周辺にあるはずです。それで充分です。自分で文章を考える必要はありません。PDFファイルをプリントアウトしてハガキに貼り付けるだけですので,書き損じたハガキでも使えます。

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March 15, 2007

お前らが先に行け


魚拓

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へき地勤務の義務化を検討=医師不足問題で日医対策委
3月14日20時1分配信 時事通信

 深刻化する医師不足問題について、日本医師会は14日、地域医療対策委員会がまとめた中間答申の内容を公表した。臨床研修終了後の一定期間内に、「へき地や医師不足地域での勤務の義務化を考慮する」ことを提言しており、論議を呼びそうだ。
 義務化については、厚生労働省が昨年検討しようとしたが、日医などの反対で頓挫した経緯がある。会見した内田健夫常任理事は「あくまで委員会の中間答申であり、日医として方針を決めたわけではない。今後、会員の意見を聞きながら検討を続ける」としている。 

最終更新:3月14日20時1分

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血迷うたか,日本医師会

臨床研修終了後の医師に僻地勤務を義務づける,これを日医が提案して何のメリットがあるのか。

以下は私の勝手な想像

勤務医が次々病院を辞め,医療崩壊が進んでいる。厚労省としては開業に制限をかけ,勤務医が簡単に病院を辞められないようにしたい。てっとり早いのは開業医の診療報酬を低くして儲けが薄くなるようにすること。開業医の利益を代表する日医は,これだけは避けたい。厚労省のご機嫌をとりたい日医が僻地勤務義務化を提案。若い医師が僻地勤務を強制されても日医の連中は困らない。
つまり,開業医の診療報酬削減を回避するために,若い医師を生け贄に差し出すと。

開業医の団体に過ぎない日医が,なぜ若い医師全員の自由を奪うような提案をできるのか。すべての医師や医療全体のことを心配するなら,もっと他にやることがあるだろう。

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March 14, 2007

誤診は犯罪だそうです

魚拓

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診断ミスで医師書類送検 病名誤り4歳児死亡させる
 北海道警捜査1課は13日、4歳の女児の病名を誤って診断し死亡させたとして、業務上過失致死の疑いで札幌市の50歳と57歳の医師2人を書類送検した。

 調べでは、厚別区の病院に勤務する医師2人は、昨年1月24日と25日、診察に訪れた区内の三上紗英ちゃん(4)を急性胃腸炎と誤って診断、翌26日に腸捻転による腹膜炎で死亡させた疑い。

 道警は、専門家による鑑定の結果、診察に訪れた段階では腸捻転を発症していたのに、医師2人が適切に診断しなかったと判断した。

(共同)
(2007年03月13日 13時39分)

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亡くなられたお子さんの冥福を祈るとともに,ご遺族には心より哀悼の意を表します。
お怒りはごもっとも。

問題は警察。

医師をしている以上,誤診はある。

前回のエントリーは,マラリアを診断できなかったという理由で4637万円の賠償を請求された民事訴訟についてだったが,そのタイトルをどうしようか迷った。

「誤診はイチローの三振と同じ」「発熱を見たらマラリアと思え」「風邪は万病の誤診の元」など,我ながらトホホなタイトルしか思い浮かばず,結局苦し紛れに「刑事訴追でないだけマシ?」としておいた。これがフラグになったのか。

誤診で書類送検。民事でなくて刑事訴追。ということは,今後は誤診で逮捕も当然ありうる。病理医が組織診を誤っても,放射線科医が読影で疾患を見逃しても,それが患者死亡につながれば業務上過失致死の疑いで刑事訴追となるおそれがある。

「麻酔科医は診断をしない」などと書くと同業者から非難される。ペインクリニックでは当然診断もする。手術麻酔に限定してもTEEという診断機器もあるし,悪性高熱やアナフィラキシーショックを診断しなくてはならないことも稀にある。日常よくある事象として,術中の血圧低下ひとつにしてもその原因を特定,つまり診断する必要がある。だが術中の血圧低下について患者に向かって「この血圧低下は硬膜外に先ほど投与した局所麻酔のせいで,出血によるものではありません」などと説明することはない。何しろ,全麻中の患者に意識はない。

大学卒業時に麻酔科を選ぶ際,自分は診断学を放棄するのだと覚悟しつつも「診断をしない医師なんて…」と少し寂しい気持ちになったことを覚えている。しかし,当時の自分の決断に感謝せねばならない。わずかなsignを手がかりに難しい診断を的中させる喜びは医師冥利につきるだろうが,それに失敗すると刑事訴追が待っているのではやってられない。疾患名を言い当てることで喜びを得たいなら日経メディクイズやたけしのバラエティ番組で充分だ。これなら診断が間違っていてもせいぜい家族に馬鹿にされる程度で済む。

それにしても警察はいったい何を考えているのか。自分たちが医師に対してしていることを自分たちがされるほうに置き換えて考えられないのか。

症状や検査結果などから疾患を突き止めるのが診断
現場に残された遺留品や状況証拠から犯人を突き止めるのが捜査

診断の失敗である誤診が刑事訴追なら,捜査の失敗である誤認逮捕も刑事訴追の対象となるはずである。

今回は小児科だったが,誤診で刑事訴追となる可能性は他科にも広がるだろう。だが,小児科は特に厳しくなるような気がする。幼児では検査もままならない。成人では簡単に検査できるCTひとつ撮るにも鎮静が必要になる。小児科はただでさえ数が少なく激務の上,検査もしにくいというハンデを負い,誤診すれば刑事訴追…。

「今回の刑事訴追が医療崩壊をさらに促進する」「瀕死の日本の医療にとどめを刺す核攻撃」などとはもう言えない。既にオーバーキルである。

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March 10, 2007

刑事訴追でないだけマシ?

魚拓

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マラリア感染死亡医療ミス訴訟:病院側、請求棄却求める--初弁論 /茨城
3月1日11時1分配信 毎日新聞

 アフリカから帰国した石岡市の男性(当時69歳)がマラリア感染で死亡したのは医療ミスが原因だったとして、男性の遺族3人が、「柏木医院」(同市)を運営する医療法人などに総額4637万円の賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が28日、水戸地裁(志田博文裁判長)であった。被告側は請求棄却を求めた。
 訴状によると、男性は04年2月、南アフリカなどを巡るツアー旅行に参加。帰国後、発熱を訴えて同26日、同医院で診察を受けた。原告側は「インフルエンザや腸管感染症を疑い、感染を見抜けなかった」と主張。男性は別病院でマラリア感染が判明したが、同年3月1日、死亡した。【山本将克】

3月1日朝刊
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確か戦前までは八重山諸島あたりはマラリアの汚染地域だったし,地球温暖化のせいでマラリア媒介蚊の生息域が北上すれば近未来の本州でもマラリアが珍しくなくなるかもしれない。しかし,今の日本の医師でマラリア患者を実際に診たことがある医師はどれくらいいるだろう。

マラリアの初発症状はcommon coldに似ている。研修医でもやらないような明かな誤診なら話は別だが,日本のクリニックでマラリアを見逃したからという理由で訴えられたのではたまらない。トンデモ訴訟もここまできたか。初発症状がcommon coldと似ている疾患は枚挙にいとまがない。さぞかし今後,風邪と誤診したことを責める高額訴訟が増えるだろう。

医師の多くは外来というものを受け持っており,短時間の問診と診察で診断を下さねばならない。熱発程度で血液検査する開業医は少ないだろう。そして「風邪だと診断したが実は○○だった」というのは内科・小児科に限らず,よくある話。「そうか,風邪と誤診されたら訴えていいんだ」と喜んでいるDQNが日本全国に大勢いることだろう。

今後,発熱の患者が来たら必ず海外渡航歴を問診しなければならない。

私が最後に外来で風邪薬を処方したのは研修医時代,個人病院での一般当直バイトだった。麻酔科を選んだのは人生最大の選択ミスと思っていた頃もあったが,とんでもない。外来でcommon coldを診なくて済む今の境遇に感謝しなければならない。

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March 07, 2007

どこまで強制?


魚拓

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自治医大卒生を産科に-医師不足で重点配置
2007/03/06 09:41

 産科や小児科を中心に医師不足が深刻化している問題で、香川県は五日、来年度から自治医科大(栃木県下野市)の卒業者を積極的に充当する新たな対策を明らかにした。来年度は二年間の卒後研修を終えた女性医師一人が、県立中央病院の産婦人科で勤務。その後も本人の希望や他診療科との均衡に配慮した上で、産科や小児科への重点配置を進める。

 同日の二月定例県議会文教厚生委員会(水本勝規委員長)で、斉藤勝範氏(自民・三豊)の質問に宝田健康福祉部長が答えた。

 自治医科大は全国の都道府県が共同で設立。医学部生に学費を貸与し、卒業後の九年間、出身都道府県の知事が指定する医療機関に勤務すれば返還が免除される。香川からは毎年二人が入学しており、卒業後は県医師として、県内のへき地や離島の公的病院・診療所に勤務している。

 現在、県内での勤務が義務づけられている十二人の自治医科大出身医師の専門は、内科と外科が中心。小児科医が一人いるが、産科の専門医はいない。

 県医務国保課によると、県が一昨年に実施したアンケート調査で自治体立病院の七割が「医師不足」と回答。診療科別では、産科と小児科の不足を訴える病院が多かったことから、公費で養成する自治医科大出身医師を充てる対策を決定した。

 また、県は来年度から県立中央病院内のへき地医療支援機構の医師態勢を、現在の一人から二人へ増員。無医地区などへの総合的な支援事業の企画調整や巡回診療の調整といったへき地医療対策の機能強化を図る。

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まさかと思って何回か読み返したが,そう読めてしまう。いや,そんな馬鹿なことが許されるはずない。それにどこにも「本人の希望によらず強制的に産科をさせる」とは書いていない。でもやはり…。

>診療科別では、産科と小児科の不足を訴える病院が多かったことから、公費で養成する自治医科大出身医師を充てる対策を決定した。

これは「公費で養成する自治医科大出身医師を(強制的に)産科や小児科に充てる」と読める。そんなこと県が勝手に決定していいのか。しかも来年度って,来月じゃないか!

大学卒業後二年間の初期臨床研修を終えて,これからの自分の専門を決めようかというときに産科や小児科を強制されるのか? 「そんなことは入学時,つまり8年前の募集要項に書いておけよ。診療科を強制されるくらいなら自治医大を受験しなかった」とはならないだろうか。それとも,昔から自治医大の卒業生は年季明けまで診療科選択の自由がないのがデフォなのか? ネット検索してみたが自治医大卒医師の一般的な進路を見つけられなかった。

自治医大の入学募集要項には以下のように記載されている。
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入学料、授業料等は下記のとおりである。
  なお、入学者全員に対してこれらの経費をすべて貸与する修学資金貸与制度がある。この貸与金は、大学を卒業後引き続き、第1次試験の試験地の都道府県知事の指定する公立病院等に勤務し、医師としてのその勤務期間が、修学資金の貸与を受けた期間の2分の3に相当する期間(その勤務期間のうち2分の1は、へき地等の病院、診療所に勤務する。)に達した場合は、その返還を免除する。
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どこにも「義務期間中は診療科を選択できない」とは書いていない。ただ,「診療科を自由に選択できる」とも書いていないし,僻地の病院では診療科が少ないので,自分が希望する診療科がその病院に存在しないこともあるだろう。しかし,ベテラン産科医の撤退も相次ぐこのご時世に,本人が望んでもいない産科を強制するのはいくらなんでもひどすぎないか。

修学資金を6年間貸与されたなら義務年限は9年,初期研修で2年は終わっているので残りは7年。産科や小児科は「選びたくない診療科」から今や「絶対選んではいけない診療科」と言っても過言ではない。本当は整形外科などをやりたいのに産科や小児科を7年もさせられるのは,患者と医師の双方にとって不幸ではないか。

香川県としては,「カネを出したのだからこっちの言う通りにしろ。産科が足りないから産科しろ」とでも言いたいのだろう。

香川県のこの暴挙が許されるなら,他の都道府県も真似をすることは間違いない。福島県出身者は戦々恐々だろう。いや,自治医大の卒業生は全員が義務期間中は産科か小児科を強制されてしまう。

しかも産科あるいは小児科強制の7年間,ずっと指導医がいてくれるかどうかわからない。診療科を強制するということは,時代に逆行して一人医長を強制してくる可能性も充分ある。

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March 03, 2007

避難勧告

魚拓

CP児を持った両親のご心労は一方ならぬものとお察し申し上げます。
しかし,この判決は…。

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帝王切開賠償訴訟、市に1億4300万円支払い命令
 神奈川県大和市立病院で1997年、帝王切開が遅れたため重い後遺症が残ったとして、東京都内の養護学校4年の男子児童(10)と両親が、市に介護費用や慰謝料など約1億9200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、横浜地裁であった。

 三木勇次裁判長は「(帝王切開は)遅きに失し、後遺症との因果関係が認められる」と述べ、市に約1億4300万円の支払いを命じた。

 判決によると、男児の母親(35)は97年2月24日、陣痛が起きて入院した。胎児に心拍数の低下などの異常があったことから、病院は帝王切開を決めたが、手術決定から出産まで約1時間20分かかり、男児は仮死状態で生まれて低酸素脳症となり、四肢がマヒする重度の障害が残った。

 三木裁判長は「心拍数が低下した時点で、病院は帝王切開の準備をする義務があったが、怠った。夜間、麻酔科医らが常駐しておらず、医師を呼び出すなど出産まで1時間以上かかった」と指摘した。

 大宮東生・院長は記者会見で、「可能な限り適切な処置を行っており、過失はない。後遺症との因果関係もない」と話し、市として控訴する方針を明らかにした。

(2007年2月28日23時1分 読売新聞)

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麻酔科医が当直しておらず,オンコール体制なら夜間に1時間20分はそれほど遅いとは思えない。結局これは「昼間だけでなく夜間も麻酔科医が常駐する病院でなければ,帝王切開をしてはならない」という判決。しかし院内に麻酔科医が常にいたとしても,麻酔科側の事情,例えば朝からの予定手術が終わっていない,あるいは他の緊急手術が先に入ったなどの理由により帝王切開の開始が遅れる場合もあるだろう。それで児に異常が発生したなら,異常と執刀遅れの因果関係に関係なく麻酔科が訴えられる可能性も充分ある。

いったい,帝王切開の決定から執刀までがどれほどの時間ならOKなのだ。
と思っていたところ,

日本産婦人科学会では30分ルールというものを提唱している。
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/kakudai_iryouteikyoutaisei.pdf

自分たちの首を絞めて何がうれしいのだろうか。

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30分ルール:多様な施設を許容しつつ安全性を確保するために、分娩を取り扱うすべての施設で、急変時に30分以内に帝王切開による児の娩出が可能な体制が整備されていること(30分ルール)を原則とする。その原則が達成されている場合もそうでない場合も、緊急時の体制に関する情報公開が義務づけられる必要がある。

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学会が30分以内を推奨しているなら,「1時間20分では遅すぎる」とする裁判官に文句を言いにくい。

妊婦の氏名も既往歴も検査データも知らないままただちに手術室に来て麻酔をしろと言うのなら話は別だが,30分以内なんて麻酔科が当直制でも達成できるかどうか怪しい。妊婦の緊急手術の麻酔はリスクが高いが,30分では充分なムンテラは不可能だ。妊婦や家族に麻酔のリスクを説明しなかったら,合併症が起こった場合に今度は説明義務違反に問われるだろう。大野病院不当逮捕事件では,懸命に止血操作を行っていたK医師に対しても検察は「途中で家族に説明しなかった」と責めている。大出血している最中にも「説明を優先させろ」とのたまうのが日本の検察クオリティだ。

社会勉強のために法廷の被告席に立ってみたいと思う医師以外は,周産期医療から早く逃げた方がよい。

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March 01, 2007

春が待ち遠しい

魚拓

最近話題になっているブログ。見に行ってもどうせ不快な思いをするだけだろうから避けていたがとうとう見てしまった。

前回の自業自得と同様,やはりこういう人は年に何回かネット上に現れるが,最近は出没間隔が短くなっている。この現象は医療崩壊を如実に物語っているのかもしれない。医療の荒廃が進むと,医師に対する不満はますます膨らみ,このような人間もつぎつぎ湧いてくるだろう。

>以前、人間ドックで微粒な脳梗塞が7箇所も発見されているので、また調べてもらうためだった。
>するとさ、4時間半も待たされたあげく、問診10分で終わり。異常ありません。

>これはいくらなんでもまずい。全患者を代表して、加治はしっかりと抗議。

確かに4時間半も待たされるとつらいのはわかるが,診察までの待ち時間が長くなるのは医師のせいではないことくらい,普通の頭なら理解できそうなものだ。診察が10分で終わったのが不満らしいが,異常がなければ,というか,異常がないからこそ10分で済んだのであって,むしろ喜ぶべきところだ。

罵詈雑言が公用語の2ちゃんねるならともかく,個人ブログにどうどうと書いているところが救いがたい。彼もにゃんすけも,煽りとかでなく自分の主張は正しいと信じているようだ。彼らが一般市民の代弁者でなく,DQNの代表に過ぎないことを祈るしかない。

身を粉のようにして働いても,待ち時間が長いと患者になじられ,医師の重労働は自業自得と言い放たれる。医療の結果が悪ければ民事訴訟で不可解判決のオンパレード。不可避の死亡でも刑事訴追。マスコミは医師叩きを社是とし,厚労省は医師の労働基準法違反を黙認するばかりか,医師を困窮させる施策しか考えない。医師のモチベーションを減衰させるネタには困らない。

新年度に向けて医療崩壊が加速すると言われている。今までは冷ややかに見物するつもりだったが,もうこうなったら崩壊を大喜びしてやる。医療を叩きたがるDQNどもにも大きな影響が及ぶのを期待してやる。せいぜい派手に崩壊するがいい。

忘れて欲しくないのは,医師たちは「このままでは医療は崩壊する」と声をあげてきたということ。その多くはネット上での発言に過ぎないが,医療崩壊に関する著書を上梓した先生もいる。しかし耳を貸す者は少なく,警告が広く伝わることはなかった。最近になってようやく一部のメディアが(自分たちが医療崩壊の大きな要因であることは棚に上げ)報道し始めた程度だ。

病院での待ち時間が長いのは医師のせいだとしか理解できないDQNどもはきっと『医療が崩壊したのは医師のせい』と言うだろう。勘違いしないで欲しい。医療崩壊は国の方針なのだ。先進国のなかで最低レベルの医療費をさらに抑制しようとしているのは政府だ。また別のDQNは『医療崩壊を予測できたのなら,なぜ手を打たなかった』と言いたがるかもしれない。ここも勘違いしないで欲しい。医療が崩壊して実際に困る人々は,医療を提供する側ではなくて受ける側。医師はそれほど困らないどころか,ビジネスチャンスが増えるぐらいだ。国民が困るだろうと思い,医師本来の慈悲の心により警告を発しただけ。医師ふぜいが国家の方針である医療崩壊を食い止めることはできないし,そもそも施策の是正は医師の仕事ではない。

医療崩壊は確実に進んでいる。昨年から今年の産科や小児科の閉鎖や縮小は,予定も含めるとあまりにも多すぎて数える気にもなれない。http://ameblo.jp/med/entry-10025620801.html

産科や小児科が新たに閉鎖されてもいまさら驚かないが,さすがにナショナルセンターのICUが一挙に崩壊したのには驚いた。
魚拓
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ICU医師全員退職へ 国循センター 執刀との分業困難
3月1日8時0分配信 産経新聞


 国立循環器病センター(大阪府吹田市)で、外科系集中治療室(ICU)の専属医師5人全員が、3月末で同時退職することが28日、分かった。同センターは国内で実施された心臓移植の半数を手掛けるなど循環器病治療の国内最高峰で、ICUは心臓血管外科手術後の患者の術後管理・集中治療を受け持ち、診療成績を下支えしてきた。同センターはICU態勢の見直しを検討している。

 同センターによると、ICUには5人の専門医が所属。所属長の医長を含む2人のベテラン医師が辞職を表明したのをきっかけに、指導を仰げなくなる部下の3人の医師も辞職を決めたという。

 ベテラン医師2人は辞職の理由を「心身ともに疲れ切った」と説明しているという。

 同センターのICUが対象とするのは、先天性心疾患や冠動脈・弁疾患、心臓移植、大血管疾患などさまざまな心臓血管外科系の難病患者。成人だけでなく小児も対象とし、外科手術後の患者の最も危険な時期の全身管理や集中治療を24時間態勢で行ってきた。

 ICUの入院病床は20床で、年間1100症例を超える重篤な患者を受け入れ、常に患者の容体の急変に備え、緊張を強いられる環境にあった。

 同センターは、5人に残るよう慰留を続けているが、辞職の決意は固いという。

 このため4月以降は、他部署からICUの専属要員を確保するものの、ICUでの患者の超急性期管理・集中治療は、執刀した外科チームが責任を持って行う態勢にすることを検討している。

 同センター運営局は「特にベテラン2人に代わる人材はおらず、これまでのように執刀チームとICUの分業ができなくなる。しかし、手術件数を減らしたりICUでの管理が不十分になるなど患者に影響を与えるようなことはない」と話している。

最終更新:3月1日8時0分
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5人で20床,年間1100例を24時間体制なら,そりゃ「心身ともに疲れ切った」となるだろう。

それにしても,巨大掲示板にリークされることもなく寝耳に水だったので驚きである。おそらく同じように,全国いたるところの噂にもならない病院で臨界寸前にある医師・診療科が多数存在すると見ていいだろう。辞めるタイミングをうかがっている医師にとっては絶好のきっかけになる。「モチベーションが高いであろう国立循環器病センターの医師でさえ逃散するのだから,自分が立ち去るのも無理はない」と。

国立循環器病センターでは,フェンタニルの件で麻酔科医が逮捕されたばかり。麻酔科医の欠員を補充できたかどうか知らないが,ICUが完全崩壊したなら従来の手術件数を維持するのは無理だろう。予定手術の手術待機期間は伸び,緊急手術も今までと同じように対応できるかどうか…。

例年にない暖冬で春の足音がいつになく大きいような気がするが,医師の多くにとっては医療崩壊の足音のほうがひときわ大きく聞こえているだろう。

完全崩壊後,イギリス型医療になり「日本の昔の医療はよかったなー。5時間も待てば専門医が10分も診察してくれたからな。初診でもその日のうちに診てくれたものだ」となるか,アメリカ型医療になって「神経学的には問題ないですけどねー。えっ? 脳ドックで見つかったラクナ梗塞が心配? 診察だけじゃなくもっと精密検査を受けたい? あなたが加入しているオリ○クスの保険ではカバーできませんね。自費でよければいくらでも検査しますが。ところで,診察時間が5分を越えたので割り増し料金をいただきますね」となるか,どちらにしても古き良き日本の医療をせいぜい懐かしむがよい。

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