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February 23, 2007

自業自得


魚拓

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医師の激務は自業自得

傑作(1)

月3回は連続32時間勤務、3割近くは1カ月間休日なし-。勤務医の厳しい労働実態が19日、日本医療労働
組合連合会(日本医労連)の初の調査で浮き彫りになった。慢性的に疲労を感じる人は6割に上った。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070219-00000115-jij-soci

最近よく聞く医師不足に関連する問題です。
医師が不足しているため、現役の医師に負担が掛かっているわけですが、
自業自得だな、と思います。
過酷な研修医制度、眼科医など訴訟リスクの低い科への流出など、
医師会の政治力でどうとでもなる事を、ほったらかしにしてきたしわ寄せが
現在の勤務医の激務に繋がっているのですから。


その年に医師免許を取った人たちを均等に内科、外科などに振り分け、10年間は異動を禁止する
など、いくらでも改革する事ができるのにしてこなかったから起きた今の現状。
それを棚上げにして「医療報酬を上げないから医者不足なんだ」など叫ぶのは、ふざけてますよね。

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私も自分で気づかないうちにひどい勘違い記事を書いてしまうことがあるかもしれないが,これはちょっと…。

昔,毒舌で有名なタレント二人が「視聴者からよく苦情が届くけど,いつのどの発言に対するクレームかわからない」「そのうち何も言ってこなくなるよ」「的が絞れなくなるんだろ」とか言っていた。

上のブログ記事も同じで,突っ込みどころが多すぎてとまどってしまう。

>過酷な研修医制度、眼科医など訴訟リスクの低い科への流出など、
>医師会の政治力でどうとでもなる事を

今の研修医は昔より報酬も時間も恵まれている。“過酷な研修医制度”はとっくに改善されているのだが,それはさておき,医師会の政治力で研修医制度をどうにでも変えられると思っているらしい。イタ過ぎる。
医師会は開業医を主体とした団体である。かつては“圧力団体”だったかもしれないが,今はその面影もない。昔ほどの影響力が今もあったとしても,開業医集団が研修医制度を変えようとする動機は乏しい。研修医が楽になっても開業医に何のメリットもない。開業医もかつては勤務医だったが「俺も研修医時代は馬車馬のように働いたものだ。お前らも我慢しろ」で片付けられるだろう。医師会の努力は開業医の権益を守ることに向けられる。

眼科医など訴訟リスクの低い科への流出も,医師会の政治力でどうとでもなると明言している。「らしい」「だろう」「思われる」などの語尾は用いず,さも当たり前かのように断言している。私なら,穴があったら入りたい。イタイにもほどがある。
初期研修を終えた研修医に向かって「産科,小児科,救急が人手不足だ。訴訟のリスクが高いからと言って避けるんじゃない。リスクなんて気にせず産科をやれ」と強制する力が医師会にあると。できるのにしなかったから今のようになったと。この人の頭の中では,医師会の政治力は厚労省を操り,勤務医の進路を左右できるほど強力なものらしい。あるいは厚労省の存在そのものが欠落している。

そもそも“眼科医など訴訟リスクの低い科への流出”を阻止すると,刑事事件が増えてしまう。世間を騒がせる刑事事件は少ないにこしたことはない。
民事で訴えられるのもつらいが,民事訴訟では手錠や腰縄をつけられることはない。大野病院事件以来,医師は刑事訴追を恐れ始めた。訴訟リスクの低い科への流出の“訴訟リスク”とは刑事事件の訴訟のことを指しつつあるように思う。医師以前に一般市民として,いや日本という法治国家(?)に住む善良な国民として,警察のごやっかいにならないように努めるのは褒められる行為であって,非難されるいわれはない。大野病院事件のように,患者を救おうと努力したにもかかわらず結果が悪かったという理由で逮捕されてはたまらない。「人の命がかかっているのだから,逮捕など恐れるな」と無責任に言い放つDQNもいるかもしれないが,逮捕されてハクがつくのはヤクザだけである。善良な市民が逮捕なんてされたら人生台無しだ。毎日いつも通りに仕事していて,その結果が悪ければ逮捕されるような仕事は選ぶべきではないだろう。そう言うと脊髄反射的に「だったら医者を辞めろ」(さすがに最近は「代わりはいくらでもいる」は見ないな)と返すDQNもいるが,医師の多くは他の職能を持たないので医師そのものは辞めない。リスクの少ない診療科や地域に移るだけである。

>その年に医師免許を取った人たちを均等に内科、外科などに振り分け、10年間は異動を禁止する
>など、いくらでも改革する事ができるのにしてこなかったから起きた今の現状

プロ野球のドラフト制などのこともあるだろうから,憲法違反に思える診療科強制そのものに関してはスルーするとしよう。でも,これを決めるのは医師なのか? 自分たちを縛る制度を自分たちで作って来なかったから,今の過剰労働があると? だいいち,勤務医が余っている診療科など最近聞いたことがない。眼科や耳鼻科,皮膚科などでも常勤医を置けない病院は多い。内科や外科,整形外科の撤退話も後を絶たない。医師の絶対数がどうしようもなく少ないのに振り分けだけしても意味がない。まさか,「医師の数は足りている。偏在しているだけ」という大本営発表を鵜呑みにしているのか?

勤務医が激務になってきた原因はいろいろある。大学医局の力が弱まって医師の強制配置ができなくなり,関連病院の欠員補充が不可能になったこと,新臨床研修制度によって研修医が自由に研修先を選べるようになったことなども原因の一部ではあるが,これらは厚労省が仕組んだことだ。

「夜や休日のほうが待たなくて済むから」と三日前からの風邪症状で時間外受診する,いわゆるコンビニ受診の増加も医師の激務に拍車をかけてくれる。「当直医が救急患者を診るのは当たり前」ではない。
本来当直医(正確には宿直医)は入院患者の急変に備えるもので,翌日の通常業務に備えて睡眠を確保しなければならないことは以前に書いた。http://anesthesia.cocolog-nifty.com/freeanesthe/2006/10/index.html

この数年間で医師の労働時間は確かに増えたが,労働基準法の逸脱は以前から常態化していた。しかし,ボランティア精神で耐えていた。感謝されていれば,疲れていても「もっと働こう」という気にもなった。しかし昨今のように,一生懸命治療しても結果が悪ければ高額賠償や刑事訴追というのなら,「もうボランティアは終わりにしよう」となるのは当然の流れだ。ボランティアならいつやめてもいいどころか,去り際に「今までボランティアをありがとう」と優しい一言があってもいいくらいだ。
http://anesthesia.cocolog-nifty.com/freeanesthe/2006/11/index.html


今回のような,無理解と思いこみによる心ないブログ記事は定期的に発生するのだが,私のように激務とは無縁のフリーランスでさえ,例えようのないむなしさを覚える。よほど医師が嫌いなのだろうか,コメント欄を見てもとりつく島がなさそうだ。このブログを読んだ勤務医はどんな気持ちになるだろう。「お前らが忙しいのは自業自得」と書かれて,気持ちは折れないのだろうか?

ブログ主が「本当に激務ならこんなところにコメントできないはずだろ。他人のブログに書き込みするヒマがあるなら仕事しろ」と,定番のキレ方をしないことを祈るばかりである。

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February 22, 2007

過労医療は黙認 医療事故は個人の責任


魚拓

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スキーバス事故、過労運転でも立件へ…運行記録を鑑定
2月21日18時12分配信 読売新聞


 27人が死傷した大阪府吹田市のスキーバス事故で、府警は、「あずみ野観光バス」(長野県松川村)の小池勇輝運転手(21)を道路交通法違反(過労運転)容疑でも立件する方針を固めた。

 小池運転手は事故の前夜も大阪―長野間を運転するなど、過重勤務による疲労の蓄積が事故につながった疑いが強まったため。府警は、背景には同社の過密な運行態勢があったと判断しており、バスの「タコグラフ」(運転記録)を科学捜査研究所で鑑定するなどして裏付けを進め、下総建司社長(39)についても同法違反(過労運転下命など)容疑で本格捜査する。

 調べでは、小池運転手は17日午後6時ごろ、スキー客を乗せて長野県白馬村を出発。高速道路を乗り継いで大阪・梅田に向かっていたが、翌日午前5時25分ごろ、バスを大阪モノレールの橋脚に衝突させた。その後の調べで、前夜も大阪―長野間を運転していたことが判明。事情聴取にも、「ここしばらく多忙で、毎日運転していた」と話した。

最終更新:2月21日18時12分

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交通違反の種別の中に無免許運転や酒気帯び運転と並び,過労運転等という項目があるらしい。どのような状態で運転した場合を過労運転とするのか明記されていないが,あずみ野観光の運転手は過労状態でバスを運転したとされても仕方ないだろう。しかし,この運転手は自分のレジャーのために過労運転していたのではないはずだ。本来休憩すべき時間帯に体力を消耗するほど遊んでいたなら話は別だが,どうやら仕事のため仕方なく過労状態にあったとして間違いないだろう。本人は休みたいのに過剰労働を強いられたあげくの事故なら,運転手の刑事責任を問うのはいかがなものか。

マスコミ各社の報道すべてに目を通しているわけではないが,運転手個人を責めるのではなく,過剰労働を押しつける会社や業界の体質に責任があるかのような報道姿勢がうかがえる。死亡したのが乗客ではなく運転手の弟ということもあるのかもしれないが,マスコミもやればできるじゃないか。普通の考え方もできるんだ。知らなかった。どんな事故・事件でも個人の責任としか理解できないのかと思っていた。

医療事故のときだけ医療従事者個人の責任を追及するのはどういうことか。意図的か? 過剰勤務で疲れると注意力・集中力が低下するのはバスの運転も医療も同じではないのか。それとも医療従事者なんだから自分で体調管理できるだろうってか? 

マスコミは医療事故でもバス事故と同じ姿勢で臨んでくれ。労働基準法に違反するような労働環境の中で医療事故があったなら,再発防止の観点からも運営管理側の責任を追及するべきだろう。

魚拓

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大阪のバス事故 あずみ野観光バスを立ち入り監査へ

2月20日(火) 信濃毎日新聞

 大阪府吹田市でアルバイト添乗員の小池雅史さん(16)=大町市=が死亡、スキー客ら26人が負傷した「あずみ野観光バス」(北安曇郡松川村)のバス事故で、国土交通省北陸信越運輸局は20日午後、道路運送法に基づき同社に立ち入り監査する。違反があれば行政処分する。

 同局によると、職員4人で、運行管理上の問題があったかを調べる。運転手の過労調査などが主になり、タコグラフ(運行記録計)や運行指示書、運行日報などがあれば詳しく調べるという。

 同社に対し、大町労働基準監督署は昨年6月、運転手の長時間労働を改善するよう是正勧告している。

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医療事故があった場合,担当医師に過剰勤務がなかったかどうか労働基準監督署が調べてみればよい。
いや,事故が起こってからでは遅い。

>同社に対し、大町労働基準監督署は昨年6月、運転手の長時間労働を改善するよう是正勧告している。

同じように,全国各地の労働基準監督署は地元の病院に対し,医師の長時間労働を改善するよう是正勧告してくれ。そこらへんの病院を片っ端から立ち入り検査すればよい。空振りに終わることはまずない。


魚拓

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医師の96%宿直明けも勤務 日本医労連が実態調査 [ 02月19日 19時03分 ]
共同通信


 医師の96%が宿直勤務明けも連続して勤務していることが、日本医労連が19日発表した医師の労働実態調査で分かった。最長連続勤務時間は平均32・3時間で、中には60時間以上連続で勤務した経験のある医師もいた。医労連は「医師の過酷な勤務が浮き彫りになった」としている。調査は昨年11月から今年1月にかけ全国の加盟単組などの医師を対象に実施し、約1000人の回答をまとめた。

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February 20, 2007

梅毒ウイルス

毎日新聞がまたやってくれた。

ウェブソースは既に修正されているが,こちらの先生が魚拓をとってくれていた。

ウェブ魚拓
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病気腎移植:感染症患者から移植、万波医師が実施
 愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院の万波誠医師(66)らによる病気腎移植問題で、B型肝炎ウイルスや梅毒ウイルスの反応が陽性の患者、腎臓が細菌感染などで化のうする腎膿瘍(じんのうよう)の患者の腎臓が移植に使われたことが分かった。いずれも、万波医師が前任の市立宇和島病院で実施。感染症患者からの移植は移植を受ける患者への感染の恐れがあるため、避けるべきだとされており、病院の調査委員会などで検討を進めている。

 関係者によると、B型肝炎ウイルスのケースは00年12月、ネフローゼ症候群で両腎摘出手術を受けた。移植前に検査をしたが万波医師は「B型肝炎ではない」と判断して腎臓を2人に移植。その後の血液検査でB型肝炎ウイルス陽性が判明したという。腎膿瘍患者の腎臓は95年11月に移植したが腎機能が十分でなく、移植された患者はその後人工透析に戻っている。

 万波医師は毎日新聞の取材に「移植前の検査でB型肝炎ウイルスの陽性反応は出なかった。知っていて移植したのではない」と話し、腎膿瘍については「化のうした部分を切除すれば、きれいな腎臓だった。抗生物質を投与すれば問題ないと判断した」と述べている。

 一方、梅毒の抗体が陽性だったのは三原赤十字病院(広島県三原市)で03年、尿管がんの男性患者から摘出した腎臓を移植したケース。抗体反応は治ったと判断されるレベルだったため、当時の主治医は問題ないと判断。摘出手術は万波医師の実弟の廉介医師(61)が執刀し、市立宇和島病院で誠医師が移植した。

 当時の主治医は「梅毒は昔にかかったもので既に治っており、当時できた抗体が残っている状態。腎臓を移植しても梅毒がうつるわけではなく、医学的に問題はないと判断した」と話している。【津久井達、野田武、堀江拓哉】

毎日新聞 2007年2月17日 11時16分

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>梅毒ウイルスの反応が陽性の患者

その後,こっそり「梅毒の抗体の反応が陽性の患者」に差し替えられている。

誰にでもミスはあるし,用語の間違いの揚げ足ばかりとるのも大人げないが,あまりにも多くないか?
「毎日新聞の医療記事の医学用語ミス」だけをテーマにしたブログを作ってもネタには困らないだろう。
速報性を重視するあまり,よく調べる時間がないのだろうか。

一時期,「エイズ菌」という表現もよく目にした。新聞記者にとってはウイルス=細菌のようだ。

それはさておき,腎移植前の検査でHBVキャリアがレシピエント側でも悩むだろうに,ドナーがキャリアだったならちょっと…。自分や家族がレシピエントなら断るな。専門外なので劇症肝炎となる危険性がどれほどか知らないが,透析から解放されるなら肝炎のリスクは受け入れるという人もいるのかもしれない。

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February 18, 2007

我々は福島事件で逮捕された産婦人科医師の無罪を信じ支援します。

本記事は,新小児科医のつぶやき2.18企画
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20070207
に賛同したものです。

私にとって大野病院の件は,少女へのレイプ事件のような「目を背けていたい悲惨な出来事」であり,触れたくない話題のひとつなのだが,いつ自分にも降りかかるかわからず,避けてはいられない。K医師は警察と司法とマスコミに陵辱された被害者と見なし,実名は使いたくない。

昨年のTVドラマ「Dr.コトー診療所2006」で,中学生の開腹手術中に悪性高熱症が発生するシーンがあった。コトー先生はただちに手術を中断,ダントロレンや氷を使って対処し悪性高熱を治療,その後無事手術を終えた。手術が終わって家族にムンテラする際,「合併症が起こりましたが手術は無事終了しました」というようなことを言っていた。ドラマのセリフに突っ込んでもしかたないが,私は「ずいぶん簡単そうに言ってくれるじゃないか」と思った。

麻酔中の地雷疾患として悪性高熱は有名である。外科系はもとより,内科系の先生でもご存知の方も多いだろう。学生時代には各診療科ごとにいろいろな疾患を覚えなければならないが,麻酔科の勉強で初めて目にする疾患名といえば悪性高熱ぐらいで,ダントロレンという特効薬とペアで覚えておられる先生も少なくないと思う。麻酔中の地雷にはアナフィラキシーショックや肺塞栓などもあるが,これらは麻酔以外でも発生する。

ダントロレンのおかげか近年は死亡率が低下しているようだが,私が悪性高熱に遭遇した場合,救命できる自信はない。一度も経験したことのない事象に際し,教科書の知識で乗り切れると思うほど私は楽観主義者ではない。ダントロレンは蒸留水で溶解しなくてはならないが,あわてて生理食塩水で溶かそうとするかもしれない。また,蒸留水を使っても非常に溶けにくいらしい。強アルカリ性で配合禁忌が多いため,単独ルートで投与しなくてはならないことも失念しそうだ。開腹術なら術者に冷却水での腹腔内洗浄を頼めるとして,整形外科などでは体内から冷却するのは無理だ。冷却水で膀胱内洗浄などと簡単に言ってくれるが,麻酔科医は純酸素での過換気,大量輸液,尿量確保,高Kの補正,ダントロレン専用ルートの確保などやらねばならないことは山ほどある。人手の少ない田舎の病院で乗り切れる自信はない。Dr.コトーのドラマでは,専属の麻酔科医もいない中,コトー先生以外は不慣れなナースと和田さん(役場の職員)だけで悪性高熱の対処に成功し,さらには手術も完遂した。ドラマとはいえ,悪性高熱も軽くみられたものだ。

恥ずかしながら,私は胎盤癒着(癒着胎盤)という病態を去年の今頃まで知らなかった。発生頻度の詳細な数値は産科の先生方にまかせるが,「産科医として一生涯働いていて一回遭遇するかどうかという頻度」という表現をよく目にする。悪性高熱も「麻酔科医として一生涯働いていて一回遭遇するかどうか」と思われ,まさに産科医にとっての胎盤癒着は麻酔科医にとっての悪性高熱と言っていいだろう。

K先生に起こったことは他人事ではない。私がいつもように麻酔の仕事をしていて悪性高熱という非常に稀な病態に遭遇し,奮闘むなしく残念な結果に終わった場合に逮捕されるわけである。今までにも何度も書いたが,修羅場の中で医師が秒単位で下した決断を後日何ヶ月もかけて吟味すればいくらでも疑問点は見つかる。体温上昇に気づくのが遅かったのではないか? 手術中止の判断は遅くなかったか? ダントロレンの使用方法・投与量は間違ってなかったか? 麻酔器を交換すべきと書いてある教科書もあるが何故そうしなかったのか? 悪性高熱の家族歴の術前聴取は充分だったか? 数え上げればきりがない。

K医師は患者死亡から1年以上経過してから逮捕された。病棟で勤務中にナースや入院患者の前で逮捕されたというのはどうやらデマだったらしいが,手錠をかけられて連行されるシーンはTVで放映された。

一生に一度遭遇するかしないかの事象に当たり,努力しても結果が悪ければ逮捕-これではとてもやってられない。

富山の冤罪事件では誰も責任を問われていない。福島県警高速道路交通警察隊の男性巡査部長がタクシー運転手に暴行して入院させた事件では,巡査部長は逮捕されず氏名も公表されていない。

警察・司法は自分たちには大甘だが,医師に対しては刑事訴追の機会を鵜の目鷹の目で狙っている。リスクが予測できる疾患・病態にはなるべくかかわらないようにするしかない。これは皮肉や冗談ではない。事前に察知できない地雷疾患への対策としては,「ひとりで医療を行わない」ぐらいしかない。マンパワーがあれば最悪の事態を回避できることもある。産科も集約化が進むとK医師のように“犠牲になる医師”は減ることが期待できる。産科集約のせいで代わりに犠牲になるのは誰か,警察と司法とマスコミは胸に手をあててよく考えてみることだ。

「恥を知れ」で一躍有名になった日刊スポーツの井上真記者はかの記事

>時間的余裕もあり誰でも治せて、助かる確率が高い患者だけを選んでいるのか?

と問うているが,まさにその通りである。助かる確率が低い患者に手を出すと,結果次第では逮捕されるのだから。文句は医師にではなく,警察と司法に言うべきだ。何かというと医師を目の敵にする偏向報道を続けているマスコミも同罪だが。

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February 17, 2007

ポカポカとしびれる

ウェブ魚拓

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県立奈良病院の医療過誤訴訟:県、「手術としびれ、関連性は争う」 /奈良
2月15日17時1分配信 毎日新聞


 県立奈良病院の医師が体内に残したガーゼを取り除く際に、誤って交感神経を傷つけ右足に障害が残ったとして、県内の40代の女性が県を相手に慰謝料など約970万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が14日、奈良地裁(坂倉充信裁判長)であった。
 訴状によると、女性は01年10月、同病院で下腹部の開腹手術を受けた際、医師がガーゼを体内に残し、定期的に腹痛を起こすようになった。手術を担当した医師らはその後、ガーゼの置き忘れを認め、05年11月に除去手術をしたが、誤って交感神経を傷つけた。
 県側は「ガーゼを体内に残した事実は認めるが、ガーゼ除去手術と右足のしびれとの関連性は争う」としている。【黒岩揺光】

2月15日朝刊
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毎日新聞なら「交換神経」ぐらい書いてくれそうだが,今回の医療記事は医学用語の誤りはなさそうだ。

しかし「交感神経を傷つけ右足に障害(しびれ)が残った」は意味がわからない。訴状にそう明記されているのか。

交感神経が傷つくとしびれが残るなら,交感神経ブロックなんてできない。

ガーゼ摘出術の際に硬膜外麻酔を併用し,硬麻の合併症でしびれが残ったとか?

そもそも「しびれ」という訴えは曖昧である。ピリピリするような異常知覚なのか,知覚が低下(鈍麻)しているのかはっきりしない。異常知覚でも,触るなどの刺激によって生じる異常知覚と,刺激がなく自覚的に生じる異常知覚もある。

交感神経が障害されて恒久的交感神経ブロックの状態となり,下肢が常にポカポカした状態を異常知覚,つまり「しびれ」と訴えているのだろうか

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February 16, 2007

吐き気で目が覚める?

ウェブ魚拓


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麻薬アンプル30本盗難、国立病院の医師を逮捕
 大阪府吹田市の国立循環器病センターから麻薬系鎮痛薬「フェンタニル」を盗んだとして、吹田署は15日、同市青山台、同センター麻酔科医師の福田稔容疑者(36)を窃盗容疑で逮捕、自宅から空のアンプル30本を押収した。

 福田容疑者は容疑を認めており、同署は余罪のほか、麻薬及び向精神薬取締法違反容疑でも追及する。

 調べでは、福田容疑者は1月15~29日の間、同センター3階の麻酔科の金庫に保管されていたフェンタニルのアンプル(2cc入り)30本を数回にわたって盗んだ疑い。

 フェンタニルは麻薬指定され、毒性が強く、鎮痛効果はモルヒネの200倍とされる。福田容疑者は「疲れた時や眠い時に注射した。すべて自分で使うために盗んだ」と話している。

(2007年2月15日21時55分 読売新聞)

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ありゃりゃ。定番通り麻酔科医だったのか。わずか2週間で30本もなくなったら大騒ぎになるだろうし,自宅に空アンプルをいつまでも置いておくのはあまりにもずさん。こんな簡単なことも判断できなくなったのか。少しずつ使ったのなら翌日にでも空アンプルをこっそりオペ室に戻して(以下略)。

>「疲れた時や眠い時に注射した。すべて自分で使うために盗んだ」

覚醒剤と間違えてないか? 

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February 15, 2007

○○師に治してもらえ

フリーランスになった私は病院機能評価機構と同様,エ○バの証人とも無縁になれると信じて疑わなかった。いや,「無縁になれる」と強く意識したということはなく,フリーになったときにまとめてやっかい払いしたもののひとつで,記憶の底に沈殿しがちであった。ときどき単語を聞いたときに「あぁ,そんなものもあったっけ」と懐かしく思い出す程度だった。学会発表や雑誌で「輸血拒否患者の手術で○○○ml出血したが,□□□と△△△を用いて乗り切った」などの症例報告を見ても「大変だなー。ご苦労さん。無輸血手術OKの噂を聞きつけてまた別の信者がやってくるだろうね」と,私にとってはまったくの他人事,別世界でのやっかいごとと見なしていた。あまりにも無防備であり,楽観が過ぎた。

エ○バの証人の信者を患者とする,多少出血するであろう手術の麻酔を某病院の外科医から打診された。

なんということだ。出血する手術を無輸血で受けたいなら都会の大病院に行けよ。複数の麻酔科医が常勤していて外科医も大勢いる施設で手術受けろよ。

相手が信者本人でなく外科医だったので少々本音を言ってもよかったのだが,適当な理由をつけて丁重にお断りした。

それにしても油断ならない。「田舎の病院にはエ○バ信者は出没しない」は何の根拠もない勝手な思いこみに過ぎなかった。確かに無輸血が前提なら血液センターから遠く離れた田舎病院で手術受けても支障ない。都会の大病院は輸血拒否者に対するマニュアルが用意されている可能性が高いが,病院挙げての取り組みは大がかりで,さすがのエ○バ信者も気後れするのかもしれない。大病院なら顧問弁護士もムンテラに加わることも考えられる。エ○バ信者にとっては輸血拒否に手慣れた大病院よりも,ハードルが少なそうな田舎病院のほうが与し易いのかもしれない。

信教の自由は憲法で保障されている。患者がどんな宗教を信じようが本人の自由だ。しかし,まわりを巻き込むのはやめてほしい。罵っているのではない。懇願しているのだ。自分の健康よりも信仰のほうが大事なら,病気も祈祷師に(以下略)。

「輸血しなかったために死亡しても構いません」などと書いた同意書なんて意味がない。警察はそんなことはお構いなしに,みすみす出血死させた麻酔科医を逮捕するだろう。業務上過失致死などではなく殺人罪が適用されるかもしれない。この国の警察は,患者を助けようと必死に努力した医師さえも逮捕することを忘れてはならない。

患者本人の信仰はそれほど強くなく,大出血した場合の輸血を本人が承諾したとしても安心できない。一族にエ○バ信者が一人だけのはずがない。ガチガチのエ○バ信者である親族や友人が後日何を言ってくるかわからない。本人の信仰の厚い薄いによらず,エ○バ信者というだけで麻酔科医にとってのリスクは大きい。

教科書も雑誌の総説も「エ○バの手術は一切断れ」とは書けない。せいぜい「麻酔科医個人ではなく,病院全体で取り組み」「患者側との話し合いには病院幹部も同席し」「文書による充分なインフォームドコンセント」などをちりばめた無難な散文にとどまる。

エ○バ信者の麻酔を引き受けて,輸血したなら民事で訴えられ,輸血を我慢しすぎて失血しさせたら逮捕。何が悲しくてこんなリスクを背負わねばならないのだ。

私のようなフリーランスはもちろん,常勤麻酔科医でもひとり医長なら自分の判断で輸血拒否患者の麻酔を断ることも可能だ。一方,エ○バに理解のあるボスの下,輸血拒否患者の麻酔を自分の意に反して担当させられる麻酔科医は本当に気の毒だと思う。

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February 11, 2007

ガス管の中でガス噴出

ウェブ魚拓

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医療事故:県立病院の3件、5800万円で和解--賠償へ /宮崎
2月9日17時1分配信 毎日新聞


 県は8日、04~06年に3県立病院で患者死亡を含む計3件の医療事故があり、賠償金計約5800万円で和解に合意したと発表した。3件の損害賠償議案を2月県議会に提案する。
 病院局によると、宮崎病院で06年8月、動脈硬化症で血管手術を受けた男性(当時69歳)が術後、血管内で大量出血し、死亡。賠償約2738万円。
 延岡病院では05年1月、狭心症の男性(54)がカテーテル検査を受けた際、右腕の血管内に血の塊ができ、右手にまひの障害が残った。同約2359万円。
 日南病院でも04年5月、けいれんの発作を起こした女児(3)の左手の甲に刺した点滴の針が抜け、薬が漏れたことが原因で指に障害が残った。同約711万円。【中尾祐児】

2月9日朝刊

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>血管内で大量出血し

医学用語を知っているとか知らないとかいう問題ではない。血管から血液が漏れ出るのが出血だ。「血管内で大量出血」など意味が通じない。医療従事者でなくともこの文章には疑問を抱くだろう。個人ブログではあるまいに,新聞記事にはピアレビューというものはないのか? ま,peerによるチェックなら同じことか。まさか大動脈が解離して解離腔に大量の血腫が溜まったことを「血管内で大量出血」と表記したとか。

読売も先月面白い表記をしていた。

-----------------------------------------------引用開始-------------
7/01/12(金) 11:41:49 0

【ロンドン=中村宏之】露連邦保安局(FSB)元中佐、アレクサンドル・リトビネンコ氏殺害事件に関連し、
日本人5人が、放射性物質「ポロニウム210」に感染した疑いがあるとして、
英保健当局がロンドンの日本総領事館に通知してきたことが11日、明らかになった。

総領事館は5人に連絡をとり、検査を受けるよう助言したが、5人の名前や性別、
居住地などは明らかにできないとしている。

5人は昨年10月31日から11月2日までの3日間に、
リトビネンコ氏が同年11月1日に立ち寄ったロンドン市内のホテルのバーを利用した可能性がある。

英保健当局は放射性物質に触れた可能性のある外国人旅行客らが約450人いるとしており、
各国の大使館などに通知している。

ソース:(2007年1月12日11時34分 読売新聞)

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>放射性物質「ポロニウム210」に感染した

こちらは何となくわかるような気もする。不自然さを感じなかった人も多いだろう。読売は(おそらく2chでの指摘に気づいて)すぐにこっそり訂正していた。

それにしても,毎日新聞の医学用語ミスの多さは群を抜いていると思う。

ウェブ魚拓

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2月7日13時1分 毎日新聞

 <埼玉県三郷市、みさと健和病院医療事故:県警、適切な処置怠った医師ら書類送検>

 三郷市の「医療法人財団健和会みさと健和病院」で02年、人工呼吸器の管が気管内でずれて意識不明となった入院中の女性患者(当時55歳)が3ヶ月後に死亡した医療事故で、県警捜査1課と吉川署は6日、適切な処置を怠ったなどとして同病院の男性医師(34)と31歳と27歳の女性看護師を業務過失致死容疑でさいたま地検に書類送検した。

 同署などによると、女性は同年4月6日、右足骨折で入院。同16日、骨を固定する手術を受けたが、生理食塩水などの輸液を過剰投与され急性心不全を起こした。手術後、人工呼吸をしていたが、同日、病室で看護師2人が女性の体をふいていた際、女性が動いた為、気管内に通していた管がずれた。すぐに男性医師が駆けつけたが、ずれていないと判断。その後、チアノーゼの症状が表れ、約25分後に別の医師が再送管したが意識不明となった。死因は、低酸素脳症による多臓器不全だった。

 県警は▽看護師は女性が動かないように両手を押さえるなどの措置を怠った▽医師は管がずれたことに気付かず再送管を怠ったことなどが過失にあたるとしている。

 この医療事故は、02年8月、同病院が記者会見して発覚し、病院が遺族に慰謝料を払うことで示談が成立している。同病院は「(女性と遺族に)心よりおわび申し上げます」とコメントした。[村上尊一]

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細かいようだが,「再送管」ではなく「再挿管」

そんな用語のミスよりも,示談が成立しているのに書類送検というほうが大問題ではあるのだが。

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February 09, 2007

病院機能評価機構

某ブログでも,かの利権団体が話題になっていた。

フリーランスになって良かったことのひとつに,「病院機能評価機構とかいうものに振り回されずに済む」ことが挙げられる。

私が勤務するどの病院も,審査にパスするために様々な会議,模様替え,リフォームを繰り返している。

職員の誰もが「もうすぐ評価機構の審査があるので病院中が大変なのです」とは言うが,不思議なことに「こんなことやっても意味がない。カネと時間と労力の無駄だ」というセリフは出てこない。というより,病院一丸となって精力的に取り組んでいるようにさえ映る。文化祭前の高校生のようだ。

審査は祭りの一種で,これを乗り切ることに意義がある。審査日が近づくと,それまで病棟の廊下に放置されていたストレッチャーや床頭台,オーバーテーブルはどこかに片付けられ,いつになくスッキリしていて歩きやすかった。しかし,審査が終わると廊下はまた備品置き場になった。祭りが終わると当たり前のようにいつもの状態に戻った。

病院機能評価は「一般病院・精神病院・長期療養病院を対象に第三者評価を行い、病院の現状と問題点を明らかにする団体」を謳っているが,この団体が正しい評価を行っているかどうかは誰がどう評価するのか?彼らは絶対に間違った評価を下さないと言えるのか? 

医師の労働環境が労働基準法に違反していない病院など皆無に等しい。病院側が審査にパスしたいばかりに虚偽の労働実態を報告しているのかもしれないが,だとしても評価機構が見逃していたのでは職務怠慢もはなはだしい。

ただでさえ医療費が抑制されて病院経営は青息吐息のところが多いはずなのに,厚労省の天下り団体を潤すために時間と労力とカネを傾注するなど,愚の骨頂。

評価機構の認定病院だけを保険点数で優遇するなどすれば,ヤクザのショバ代に他ならない。厚労省が,その天下り団体と組んだ“官製みかじめ料”と言える。

それにしても,こんな奴らにCP児の無過失補償制度を握られるなんて,産科はどこまで(以下略)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20070129ik0f.htm

とにかく,今の私は病院挙げての機能評価狂想曲を遠くから眺めるだけである。対岸の火事,それも風上から見ている。少なくとも医師評価機構ができるまでは。

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February 07, 2007

アンビューも持ち帰っておくんだな


ケタミンで遊んでて死亡するバカが多いために,今年からケタミンが麻薬に指定されてしまった。今年はまだケタラールを使用していないが,使うにしても1ボトル全量を使用することはない。必ず残ってしまう。麻薬が残ると返却伝票が必要になる。


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「麻薬」アンプル30本、国立循環器病センターで盗難
 大阪府吹田市の国立循環器病センターで、3階の麻酔科の金庫に保管していた麻薬系鎮痛薬「フェンタニル」のアンプル(2cc入り)30本がなくなっていたことが2日、わかった。

 強い毒性とモルヒネの約200倍もの鎮痛効果があるとされ、府警吹田署が窃盗容疑で捜査している。

 一方、昨年12月22日、同センター職員が、患者延べ1100人分の個人情報を記録した私用のノートパソコン1台を紛失していたことも判明した。

 同センターによると、麻薬系鎮痛薬は、1月29日午後、金庫内にあったアンプル50箱(1箱10本入り)のうち、3箱がなくなっていることに麻酔科の医師が気付き、同署と近畿厚生局麻薬取締部などに通報した。別の医師が同日朝、金庫を確認した際には異状はなく、こじ開けたような形跡もないという。

 金庫を開けるためにはカギと暗証番号が必要。カギは同じフロアの麻酔科別室で保管しており、暗証番号は麻酔科の医師13人が知っていた。

 フェンタニルは、クエン酸フェンタニルの商品名。麻薬及び向精神薬取締法で麻薬に指定されており、多幸感をもたらし、依存性があり、禁断症状も起きる。2002年のモスクワ劇場占拠事件で、特殊部隊が使用し、人質が巻き添えとなり中毒死者を出した薬物に混じっていたともいわれる。

(2007年2月2日14時42分 読売新聞)

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誰が持ち出したのかはさておき,何のために持ち出したのかが気になる。

闇ルートで売りさばくにはそれなりのコネクションが必要だ。まさか六本木で自ら売り歩くわけではあるまい。ネットオークションもまずいだろう。

自分で楽しむためならいきなり30本は多すぎる。それとも,1本ずつくすねて遊んでいるうちに味をしめ,たくさん欲しくなったか。いままでにもフェンタニルの数が1本や2本合わないことがあったのかもしれない。その程度なら警察に通報することもなかっただろう。

麻酔科の薬物乱用は昔からよくあり,今回も誰もが麻酔科医を怪しむと思うが,麻酔科なら露骨な窃盗をしなくてもフェンタニルを自宅に持ち帰ることはいくらでも可能だ。薬局としてはアンプルの数が揃っていることが重要であり,未開封のアンプルを持ち帰るのは難しいが,逆にいうと空アンプル数と使用量とが一致していれば何ら問題ない。
1アンプル2mlのフェンタニルをシリンジに引き,1.5mlしか使用しなかった場合,0.5mlが残ったシリンジと空アンプルを薬局に返却し,さらに返却伝票を書かなくてはならない。この返却伝票を書くのが面倒なため,麻酔チャートには患者に使用したことにして,シリンジ内の0.5mlは密かに廃棄することがある。麻酔チャートには実際には投与されていない0.5mlが記入され,チャート上での使用量と空アンプルの数が合っているので問題ない。密かに廃棄できるなら密かに持ち帰ることも可能だ。ただし,薬液はシリンジに入った状態でしか手に入らない。
持続静注や持続硬膜外では一度に10アンプル以上のフェンタニルをシリンジやバルーン型ポンプに注入する。そのときに3アンプル分ほど生理食塩水とすり替えることだってできる。薄め過ぎると鎮痛効果が弱くなって怪しまれるかもしれないが,大抵は「この患者さん,痛がりだね」で片付けられる。

つまりシリンジに入った状態のフェンタニルなら,一度に30本分は無理にしろ,ある程度は簡単に手に入る。

未開封の30アンプルが盗難された場合,考えられるのは
1)誰かがフェンタニルパーティを予定している。
2)麻酔科医がバイト先で自由に使えるフェンタニルを欲しがった。

1)フェンタニルを飲むとどうなるかは知らない。パーティではおそらく静注か皮下注だろう。だとしたらシリンジと注射針もそれなりの数が必要だ。病院でこれらの在庫が急に減ったら怪しい。しかし国立循環器病センターほどの大病院ならシリンジ+注射針30セットぐらいは誤差の範囲か。バカは注射器の使い回しも気にしないだろうから,5セットもあれば充分かもしれない。しかし,こんなパーティをすると死人がでるだろうな。鉛管硬直が起こるとアンビューだけでは無理だ。マスキュラも数本紛失してないか。

2)の気持ちはよくわかる。バイト先の手術が長引くと用意されたフェンタニルでは足らなくなることがある。追加を薬局から取り寄せたいが,誰かが麻薬伝票を書かなくてはならない。自分で書くのは面倒だし,主治医はじめ外科医は全員が清潔で手を下ろしてまで書いてもらうのは気が引ける。しかも残ったなら返却伝票も必要になる。こんなとき,こっそり使えるフェンタニルがあれば便利だ。

んー。国立循環器病センターの麻酔科医がバイトを禁じられていないとしたら,フェンタニルを盗んだ犯人は,バイト先でフェンタニルを使用している麻酔科医,あるいはヤ○ザの彼がいる***か?


そうそう,私は麻薬どころかいかなる麻酔薬も持ち帰ったことがないことを一言添えておく。もちろん麻酔薬を自分に使用したこともない。

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