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January 31, 2007

目を背けたい事件

周防正行監督は運の良い人だ。冤罪を扱った『それでもボクはやってない』の初日が1月20日だが,前日の1月19日に富山での冤罪が明るみに出た。婦女暴行と痴漢の差はあれ,富山県警が映画の宣伝をしてくれたようなもの。
『それでもボクはやってない』の詳しい内容は知らないが,私は観に行かないしDVDのレンタルもしないだろう。TV放映されても観るつもりはない。痴漢の冤罪で刑事訴追を受けるなど,想像もしたくない話である。恐ろしいものは観たくない。小学生がレイプ被害者となる映画を観たくないように。

先日福島県立大野病院事件の初公判があり,多くのブログで取り上げられている。

医療従事者のみならず多くの人々の注目を浴びている裁判であるが,私には心のどこかで,この事件を自分から遠ざけようとしているところがある。『それでもボクはやってない』と同様,自分の視界に入らないことを漠然と期待している。

K先生は無罪であると信じているし,無罪になることを心より願っている。しかし,無罪を勝ち取ったとしても心が晴れないのはおそらく私だけではないはずだ。一審で無罪でも検察はメンツのために控訴し,最終的に決着がつくのは何年も先の話。失われた名誉と時間は戻らない。心の傷が癒されることはないだろう。医療という仕事を一生懸命していただけなのに逮捕。不名誉は岩に刻まれ永遠に消えず,多くの目に晒される。「逮捕されても裁判が終わるまで有罪とは限らない」は,何の気休めにもならない。起訴後の有罪率は非常に高いとかいう問題ではない。結局無罪となったとしても,一度でも逮捕なんてされたら人生台無しである。我々医師は中学時代にシンナーやカツアゲもせず,高校時代に教師を殴ることもなく暴走族にも入っていなかった。苦しい大学受験を突破し6年間勉強した後に国家試験を受け,その後も身を削るようにして働いている。住所不定・無職などではなく,刑事事件ではどちらかといえば被害者になる側である。いつも危ない橋を渡っているヤクザや詐欺師ではない。医師は世の多くの善良な人々と同様,犯罪者予備軍とは対極に位置する。そんな堅気の人間が牢屋に入れられ,密室で非人道的な取り調べを受ける。盗撮したわけでも飲酒運転したわけでもなく,たまたま困難症例に遭遇し患者を救えなかった医師が,何日間も拘留され精神的リンチを受ける。患者を死なせようとする動機などあるはずもない。あふれ出る血液を前に何とか患者を救おうと秒単位で下した決断を,結果を知っている人間(しかも臍帯と靱帯の区別もつかない素人)が後日あら探しをして糾弾する。おぞましい限りだ。われわれは警察・検察の暴挙の前になすすべもない。自分の身に降りかかることを想像すると絶望感にさいなまれる。

冷静かつ論理的な先生方が健筆をふるわれる医療系ブログを私はよく見る。もちろん今回の初公判に関してもたくさん書かれている。私はこの事件を別の次元に葬り去りたいと願いつつも,大野病院事件に触れたブログに目を通す。目を背けたいはずなのに…。それは私が救いを求めているから。K先生に落ち度はないということを再確認したい。福島県警や検察の非道ぶりを露わにし,ヤツらをやりこめるような辛辣な言葉を聞いて少しでも溜飲を下げたい。ただそれだけ。

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January 30, 2007

肺静脈に血栓? 胆管癌はお尻の病気?


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<被告死亡>留置場でエコノミークラス症候群 大阪府警
(毎日新聞 - 01月29日 23:20)
 29日午前10時35分ごろ、大阪市平野区平野元町の平野警察署の留置場で、窃盗罪などで拘置されていた男性被告(26)=大阪府高石市千代田1=が体調を崩しているのに署員が気付き、119番通報した。男性は約3時間半後、病院で死亡した。死因は「エコノミークラス症候群」と呼ばれる肺塞栓(そくせん)症だった。

 平野署によると、男性は昨晩食事を残し、この日は午前7時に起床。朝食は一切手を付けなかった。壁にもたれ、足を伸ばして座っていたという。その後、手足が冷たく、脈が弱まっているなどの異常に署員が気付いた。医師は「座った状態が続き、肺の左右の静脈に血栓ができたことで死亡した」と診断した。

 男性は昨年10月下旬、タイヤ盗の疑いなどで逮捕され、起訴された。拘置中は体調不良を訴えることが多く、医師の診察を計14回受け、急性胃腸炎やストレスなどと診断されていた。今月21日、「腰が痛い」と訴え、動きがにぶくなっていた。日ごろから食事を残すことが多かったという。

 平野署は「対応に問題はなく、処遇は適切だった」と説明している。【田辺一城】

 ▽東京慈恵会医科大大学院医学研究科消化器内科の銭谷幹男教授の話 留置場での発症は初めて聞いた。冬場の空気乾燥や食事が十分でないことで(体内の)水分が減り、付加的な原因となった可能性もある。

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>医師は「座った状態が続き、肺の左右の静脈に血栓ができたことで死亡した」と診断した。

医師が肺動脈と肺静脈を間違えることはないだろう。診察した医師の名前が記載されてないのでまだいいが,もしも氏名が明記されていたなら,その医師は大恥をかかされるところだ。肺動脈を流れる血液は確かに静脈血ではあるが。

毎日新聞は昨年12月にも以下のような記事を出している。

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病院側は請求棄却求める 福島・肝臓摘出損賠訴訟
06/12/19
記事:毎日新聞社
提供:毎日新聞社
ID:425831


福島・肝臓摘出損賠訴訟:病院側は請求棄却求める----第1回口頭弁論 /福島

不要な手術で肝臓や胆のうを摘出されたとして、福島市の男性(54)が「大原綜合病院」(福島市大町、有我由紀夫院長)を相手取り約5000万円の支払いを求めた損害賠償 請求訴訟を起こし、第1回口頭弁論が18日、福島地裁(森高重久裁判長)であった。病院側は、請求棄却を求めた。

訴状によると、男性は04年12月、胆管の病気で同病院に入院。担当医師は「肛門部胆管がん」と診断し、05年1月21日に男性の肝臓の3分の2と胆管、胆のうを摘出する 手術を行った。

しかし、がんではなく、以前にも胆管の病気の疑いで同病院に入院していたことや、細胞診断でがんを示唆する陽性でなかったことを挙げ、がんでないことは予測可能で、十分な 検査・検討を行わなかったことは医師の過失だと主張。慰謝料や手術によって失われた生涯賃金など5005万円の支払いを同病院に求めている。

病院側は、結果的にがんでなかったことは認めているが、過失はなかったと主張している。【松本惇】

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>肛門部胆管がん

これも,担当の医師が「肛門部胆管がん」などと間違うはずがない。地球人類なら肛門部に胆管癌など発生しない。ささいな用語のミスの揚げ足とりと思われるかもしれないが,一般人がこの記事を読むと「お尻の病気」だと誤解するぞ。

私だって誤字・脱字は日常茶飯なので偉そうなことは言えないが,毎日新聞は医師を叩くのが社是なのだから,せめて医療用語ぐらいちゃんと調べてくれ。出鱈目医学用語の記事で叩かれると惨めさが倍増する。それとも,それが狙いか?


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January 27, 2007

加入していない研究会をすべて列挙せよ

http://www.nikkansports.com/general/f-gn-tp0-20070126-147622.html
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日赤に1000万円賠償命令
 兵庫県姫路市の姫路赤十字病院で、悪性リンパ腫だった9歳の男児が合併症で死亡したのは、治療上の過失や説明不足が原因として、遺族が日本赤十字社と担当医師に計約9400万円の損害賠償を求めた訴訟で、神戸地裁は26日、計1000万円の支払いを命じた。

 下野恭裕裁判長は、同病院が当時、血液疾患の治療方法などを共同研究する「小児白血病研究会」に参加していないという説明を医師が怠った義務違反を認定。

 同研究会の参加病院であれば、蓄積された治療ノウハウの提供を受けるなど高度な医療を期待できることから、「説明があれば、参加病院で診断を受けることなどにより、死亡という結果を回避できる可能性があった」と指摘した。

 判決によると、男児は1999年10月、同病院で悪性リンパ腫と診断され、同研究会作成の治療計画書に従った化学療法などの治療を受けたが、合併症による間質性肺炎で翌年10月に死亡した。

[2007年1月26日22時2分]
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亡くなられた男児とそのご遺族には心よりお悔やみ申し上げる。

しかし,判決には納得できない。

>「説明があれば、参加病院で診断を受けることなどにより、死亡という結果を回避できる可能性があった」

トンデモ判決の共通項は「~すれば,…を回避できる可能性があった」だ。
可能性で言うなら「どの施設でどのような治療を受けようとも助からなかった可能性があった」とも言える。悪性リンパ腫は鼠径ヘルニアや斜視とは違う。

悪性リンパ腫など生命を脅かす疾患に限らず,ほとんどすべての医療が「この薬(治療法)を使ってみて効果がなければ別の薬(治療法)を」といった,try and error の性格を帯びている。多くの医師が何度も主張しているように,結果を知った後で時間かけて調べ上げれば,「あの薬は無効だった。もっと早く別の薬を使うべきだった」という箇所はいくらでも見つかる。100点満点,完全無欠,非の打ち所のない医療など存在しないということに司法もマスコミも一般市民も(無理だろうがDQNどもも)そろそろ気づくべきだ。小松秀樹氏が『医療崩壊』で述べている(正確に引用したかったが,記載箇所を忘れた)ように,医療においては正しい一本の道が用意されているわけではない。試行錯誤を繰り返して正しい道をたどろうとするが,道は存在しないこともあるし,同程度の正しさの道が2本存在することもありうる。回り道に見えたものが唯一の正解だったとしても,「別のルートならもっと早かった可能性がある」と難癖つけるのも簡単だ。

四国の臓器売買のときもM医師が移植学会に入会していないことが話題になっていたが,何度も言うが学会や研究会は同好会に等しい。同好会に入っているかどうかをいちいち説明しなければいけないのか。
昨年私は3日に1回以上のペースで硬膜外麻酔を施行したが,硬膜外麻酔研究会には入会していない。
「私は硬膜外麻酔研究会には参加していませんが,それでも構いませんか?」と麻酔前にムンテラしないといけないのか。

自分が入っている学会や研究会を列挙するのは簡単だが,入っていない研究会って(存在を知らないものも含め)いくらでもあるぞ。

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January 25, 2007

強盗してでも返す借金と

消費者金融,借金,強盗の3つのキーワードで検索した結果から最近のニュースを拾ってみる

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能代の連続コンビニ強盗:借金に困り犯行 逮捕の決め手は足跡と運動靴 /秋田
1月12日11時4分配信 毎日新聞


 能代市と八峰町の連続コンビニ強盗事件で、県警捜査1課などが強盗容疑で逮捕した能代市落合悪土の自称アルバイト店員、能登数馬容疑者(22)の自宅から押収した運動靴が、現場で採取された足跡と一致していたことが11日、分かった。能登容疑者は動機について「パチンコで消費者金融などに多額の借金があり、金に困ってやった」と供述しているという。
 調べでは、能登容疑者は10月6日午前4時50分ごろ、能代市高塙の「ローソン能代高塙店」に押し入り、現金約9万円を奪った疑い。ほか3件の強盗事件も容疑を認める供述をしているが、この4件のうち一部の現場から採取した足跡が、能登容疑者が所有する運動靴と一致し、逮捕の決め手の一つとなった。
 県警は昨年8月、コンビニの防犯カメラに映った犯人の映像を公開したものの、有力な情報が得られず、捜査は難航。周辺の聞き込み情報で能登容疑者の名前が浮上したのは約2カ月前だった。
 一方、県警は「第5の犯行」を防ぐため、未明の時間帯に能代市内の全コンビニに捜査員を張り付けて監視する活動を約3カ月間にわたって続けたという。【百武信幸】

1月12日朝刊
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高知の育児用品店強盗:事件直後、39万円を消費者金融に返済 /高知
1月18日15時1分配信 毎日新聞


 高知市の子ども服店での強盗事件で、強盗容疑で逮捕されたいの町楠瀬、無職、中岡慎一容疑者が事件直後、消費者金融に39万円を返済していたことが17日までの高知署の調べで分かった。
 子ども服店では72万円が奪われており、このうち39万円を借金返済に充てたという。当時、中岡容疑者は複数の消費者金融から借金を重ねていた。また、中岡容疑者はふだんからパチンコ店に入り浸っており、同署は奪った金をほかに生活費やパチンコ代に使ったとみており、一連の強盗事件との関連を追及している。【近藤諭】

1月18日朝刊
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札幌・資産家死体遺棄:杉本容疑者、消費者金融から借金 数社から数百万円
 札幌市中央区のアパート経営、伊澤裕子さん(73)が焼き肉店から他殺体で見つかった事件で、死体遺棄容疑で逮捕された同店店長の杉本功司容疑者(28)が、消費者金融数社から数百万円の借金があったと供述していることが分かった。調べに「金に困っていて殺害して金品を奪おうとした」などと供述しており、札幌西署捜査本部が強盗殺人での立件を視野に、裏付けを急いでいる。

 同本部は、杉本容疑者が日ごろから店舗管理などを巡って伊澤さんとの関係が良好でなかったことに加え、生活に困っていたことなどが背景にあったと見ている。

 一方、伊澤さんは店舗入り口付近で包丁で胸などを刺された後に、金づちのような物で頭を殴られていた。伊澤さん宅の鍵が奪われていたが、物色された形跡は確認されていない。【金子淳】

毎日新聞 2007年1月18日 北海道夕刊

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昔からよくある話だが,サラ金から借りたカネを返済するために強盗を働くというのは,やはり理解に苦しむ。強盗までして返済しようというのは,踏み倒すヤツよりは律儀とも言える。踏み倒して逃げると怖いお兄さんがどこまでも追ってくるのかどうか知らないが,「強盗する度胸があるなら,踏み倒せよ。夜逃げしろよ」と言いたくなる。

一方,給食費はどうかというと,

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2007/01/24-20:10
給食費未納、約10万人で22億円=「払わぬ親」増加-文科省が初の調査
 文部科学省は24日、学校給食費徴収状況に関する初の全国調査の結果を公表した。それによると、2005年度の学校給食費未納額は計約22億円に上り、人数では児童生徒数の1%に当たる約10万人が給食費を支払っていない実態が明らかになった。
 調査は、学校給食を実施している全国の国公私立小中学校計3万1921校を対象に06年11~12月に実施した。未納額の推移を尋ねたところ、約半数が「かなり増えたと思う」あるいは「やや増えたと思う」と回答。未納の主な原因については、全体の約6割が「保護者の責任感や規範意識」と答えており、経済的に余裕があっても「払わない親」が増加していることがうかがえる。
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医療費の自己負担分はというと,

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治療費不払い85億円 290公立病院3年間

 都道府県や県庁所在市など自治体が経営する全国290の病院で、患者が支払わない治療費(未収金)が2002年度からの3年間で85億円を超え、1病院平均で約2940万円になることが読売新聞の調べでわかった。

 低所得者の増加や、医療制度改革に伴う自己負担の拡大などが背景にあるとみられる。290の公立病院の大半を含み、国内の6割以上の公立、民間の医療機関でつくる「四病院団体協議会」(四病協)は、加盟5570病院の未収金総額は、02年度以降の3年間で853億円を超えると推計。来春にもまず、国民健康保険の保険者である市町村に対し、未収金の肩代わりを請求することを検討している。

 47都道府県と政令市、県庁所在市の病院を対象に調査。1年以上未払いの「過年度未収金」について、02~04年度の年度ごとの額と対策などを質問し、85自治体から回答を得た。

 都道府県立223病院の未収総額は58億9264万円で、平均2642万円。都道府県別平均で最も多いのは沖縄(病院数7)の7664万円、次いで石川(同2)、青森(同2)の7300万円。1000万円未満は6道県で、熊本(同1)だけが未収金ゼロだった。

 県庁所在市と政令市が経営する67病院は平均3923万円で、1億円を超える病院もあった。うち政令市立37病院は平均4116万円で、1000万円未満はさいたま、福岡両市だけ。大都市の病院ほど多くの未収金を抱えていた。

 未収金増加の原因として大半の自治体は、〈1〉所得格差の拡大による生活困窮層の増加〈2〉医療費の自己負担増――などを挙げ、「治療費が債務だという意識の欠如」(山梨県)、「患者のモラル低下」(福岡市)などの指摘もあった。病院側は連帯保証人制や自宅訪問などの対策を講じているが、督促に応じない患者や、他人を装って治療費の支払いを免れる悪質な例も目立っているという。

 未収金増加は病院経営を圧迫しつつあり、四病協は「保険者が医療機関の請求に基づき患者から徴収できる」とした国民健康保険法などの規定を根拠に、未払い患者の加入する国保の保険者(市町村)に対し、加盟病院が歩調を合わせ、未収分を代わりに支払うよう求めることを検討している。

 これに対し、厚生労働省保険課は「法は、保険者が患者から徴収することを可能としているのであって、未払い分を肩代わりする義務を課していない」と否定的な見解を示している。

 医療費の自己負担 サラリーマン本人と3歳以上の家族は2割負担(家族の外来診療は3割)だったが、2003年4月から一律3割に引き上げられた。70歳以上の高齢者は原則1割で、一定所得があれば3割。3歳未満は2割だが、0歳児などは多くの自治体が少子化対策として患者分を負担している。生活保護世帯では医療費は全額、医療扶助で支出される。

叔母のふりで「この子の親に」 「故人が払った」言い張る遺族
あきれた治療費逃れ 頭抱える公立病院
 国内の主な自治体が経営する病院を対象に読売新聞が実施した「医療未収金」に関する全国調査で、意図的に治療費の支払いを逃れようとする患者の姿や、医療の提供義務と経営のはざまに苦しむ公立病院の実情が浮き彫りになった。各病院は「このままでは経営破たんしかねない」として、支払いを拒む患者からの治療費回収に知恵を絞る。未収金問題が今、地域医療の足元を揺るがそうとしている。

 「この子の親に伝えておきます」。今年4月、大阪市の市立病院。小学生の男児を連れてきた母親が、治療費明細を示されると、「叔母だ」と言い出して支払いを拒んだ。以前、母子として診察を受けたことがあり、病院側は支払いを督促しているが、母親は応じようとしない。「支払い困難なら分割納付を勧められるのに、ウソをつかれると手の施しようがない」。市の担当者は頭を抱える。

 三重県の県立病院は今年6月、患者に数十万円の治療費支払いを求め訴訟を起こしたが、患者はその後も診察に訪れ、再び会計を済ませずに帰ったという。

 このほか、〈1〉救急治療を受けた病院に虚偽の連絡先を伝え、請求できなくする(千葉市)〈2〉受給した出産一時金を「生活費に使ってしまった」と言い、出産費用を払わない(神奈川県)〈3〉患者の遺族が「故人は払ったと言っていた」と言い張る(福島県)――など、悪質な事例は後を絶たない。

 「払おうにも払えない患者」も多い。愛知県が県立5病院で調べたところ、病気による失業や事業不振などで支払い困難なケースが未収総額の6割を占めた。

 九州地方の県立病院職員は「悲痛な顔で『本当にお金がない』と訴える患者もいる。民間のように費用の一部を前納してもらう預かり金制度を導入すれば、患者を貧富で選別することになってしまうし」と悩む。

 島根県の担当者も「病院は患者の財産調査権をもたず、支払い能力を判断できない。患者の預金や勤務先を確認できれば、未収金も減るのだが」と漏らす。

 ほとんどの自治体では、病院事業会計(特別会計)が赤字。未収金は「累積欠損金」として計上される。その負担は将来、住民に跳ね返ることになるだけに、自治体は回収に懸命だ。

 県立病院の平均未収額が全国最多の沖縄県は、民間の債権回収会社への徴収委託を検討。兵庫県の一部の県立病院では、夜間や休日の救急外来でも会計窓口を開き、「後日清算するから」と言って支払わないケースを防いでいる。

 調査対象で唯一、未収金ゼロの熊本県の「県立こころの医療センター」は、患者の親族が「家族会」をつくって院内で売店を運営。収益を治療費支払いが困難な家族に貸し付ける制度を導入し、以前は500万円あった未収金を解消した。入院患者のほとんどの家族が入会し、外来患者の家族も加わっているという。

(2006年12月26日 読売新聞)
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ワーキングプアの問題もあり,実際に「払いたくても払えない」人もいるだろう。それは仕方ないとして,未払い者が豪奢な一戸建てに住んで高級外車に乗っているという話は飽きるほど聞いた。それほどの金持ちではないにしても,最新型の携帯電話を所有し「いや,これは仕事に必要なので…」と言い訳する話も。

給食費を払わなくても,学校側はそのこどもに給食を与え続ける。最初はこどもに「4月分と5月分の給食費がまだです」と書いたプリントを渡す程度。それに反応がなければ担任から電話。次は家庭訪問といったところか。最初から払う気のないDQN親には何の効果もなく,教師の負担が増すばかり。DQNらの間では「給食費なんて払わなくていいんだ。ヤクザが取り立てにくるわけないし,あんなもの払う方がバカだ」が常識になっているのだろう。医療費もまったく同じ。

結局,「ヤクザが取り立てに来ない給食費や医療費は踏み倒す。サラ金の借金は怖いので強盗してでも返す」ということだ。

私が気になるのは,最初から医療費を踏み倒すと決めているDQNが保険料を払っているかどうか。どうせ踏み倒すのだから,無保険で全額自己負担でも気にならないはずである。保険料が給料から天引きされるサラリーマンにも踏み倒しDQNはいるだろうが,大半は国民健康保険だと思われる。万が一のことを考えて保険料を払っているのか,あるいは「十割踏み倒すのは気が引けるが三割なら」という小心者がいるかもしれない。

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January 21, 2007

過誤は過誤だろうが


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07/01/17
記事:共同通信社
提供:共同通信社
ID:449118

千葉県の鋸南町国民健康保険鋸南病院で2005年1月、肺炎で入院していた同町の男性患者=当時(87)=に輸血をした際、血液型を取り違えるミスがあったことが16日、分かった。患者は約半月後に死亡し、遺族が昨年12月、町に約2600万円の損害賠償を求め千葉地裁木更津支部に提訴した。

 訴状などによると、病院側は05年1月末、男性が貧血状態のため輸血を開始。男性の血液型はB型だったが、O型と取り違えたことに気付き、40ccを輸血した時点で中止した。男性は同年2月中旬に死亡したが、死亡診断書で直接の死因は「肺炎」とされた。

 遺族は「死亡したのは輸血が原因で、医師らに注意義務違反があった」と主張。同病院の内田正司(うちだ・まさし)事務長は「輸血ミスは事実で大変申し訳ない。弁護士と協議した上で対応を決めたい」としている。

 遺族は男性死亡の約半年後、代理人を通じ病院に説明を求めたが、輸血ミスと死亡の因果関係を否定されたため、提訴に踏み切った。

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その昔,大病院に勤めていた頃の話。

手術中の患者に輸血が必要となったので輸血部からAB(+)のMAPを取り寄せた。別に急な大量出血とかではなく,緊急性はなかった。輸血部から届いたMAPの中にAB(-)が含まれていた。輸血部からナースへの申し送りで「期限切れが近いのでAB(-)も使ってくれ」とのことだった。
RhマイナスのMAPをRhプラスの患者に輸血するのは問題ないとはわかっていても,「期限切れ間近とはいえ,日本では貴重なAB(-)を使うのはもったいない。他に必要としている患者はいないのか」という気持ちが半分,「一刻を争う緊急の輸血ではないのだから,正負の記号が一致したMAPを投与したい」という気持ちが半分だった。
もしこのとき,輸血部もナースも私もRh-に気づかず,知らずにRh+の患者に輸血したなら「輸血ミス」とされたのだろうか? 知ってて輸血したら「貴重な血液製剤を無駄にしない」とされ,知らずに輸血すると「輸血ミス」になるとはおかしな話だ。

誰もが指摘しているように,O型のMAPを他のABO型の患者に輸血しても医療上問題はない。慈恵医大青戸病院事件では当初AB型MAPが4単位用意されており,それを使い切った後追加投与までに時間がかかった。連絡の不手際などがありAB型MAPの血液センターからの到着が遅れたらしい。ただ,当時青戸病院にAB型MAPの備蓄はなかったもののO型MAPは6単位が備蓄されていたという。なかなか到着しないAB型を待たず,院内にあったO型6単位を輸血していれば結果は違ったかもしれない。あくまでもタラレバの話だが。

共同通信の記事ではB型の患者にO型を40cc輸血したとある。過誤は過誤だろうが,これで肺炎になるとは思えない。B型の患者が大出血していてB型の血液が足りず,やむを得ずO型を輸血するのはOKだが,誤ってO型を輸血すると転帰と因果関係がなくても民事訴訟か。
DQN患者やマスコミだけでなく,法曹界も「医療は100点満点でなければならない」と信じて疑わないようだから,こんな“言いがかり訴訟”でも負けるかもしれないな。特にあの人が裁判官になったら。

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January 19, 2007

日本の社会保障における「不都合な真実」

http://hodanren.doc-net.or.jp/kenkou/kanjafutan/kanjafutan.htm

http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1999/00182/contents/024.htm

http://www008.upp.so-net.ne.jp/isei/htmls/hoh-txt.html

http://www.mie.med.or.jp/hp/iryou/iryou.html

医療従事者なら誰もが知っていることで,いまさら取り上げるまでもないが,少しでも多くの人の啓蒙になればと思い,上記リンク先の要点を列挙する。


日本の医療制度の国際評価はトップクラス

日本の医療費は、GDP当たりで比較すると世界18位でG7中で6位

日本の公共事業費はG7中で他の6ヶ国の合計よりも多い

この10年間で、先進国では日本だけが社会保障費を減額している

国庫から支出される社会保障費と公共事業費を国内総生産で割った値では、日本だけが「社会保障費」よりも「公共事業費」のほうが多い


日本は医療などの社会保障よりも公共事業を重視している。政府が医療にお金をかけたくないのだから,医療が崩壊するのは仕方ない。というか,国策として医療崩壊を推進しているとしか思えない。しかし政府は選挙に絡む絡まないによらず,口が裂けても「医療よりも公共事業が大事なのです」とは言えない。まさに政府にとって「不都合な真実」だろう。

もともと少ない医療費なのに,国が率先してそれをさらに削ろうとしている。医師が増えると医療費が増大するからと,厚労省は「医師は不足していない。偏在しているだけ」を繰り返す。偏在がもし事実なら,僻地や産科で医師が不足する一方,都会で仕事にあぶれる眼科医や皮膚科医がいそうなものだが,そのような話は聞いたことがない。そして僻地の住民たちは厚労省の虚言を真に受け,医師不足を「都会を志向し,楽な診療科を選ぶ医師のモラルの問題」「高給取りなのだから,僻地の住民に奉仕する義務がある」などと本気で思っている。何度も書いてきたが,医師の絶対数がお話にならないくらい足りないのだ。産科,小児科,救急,僻地など脆弱なところで崩壊が目立っているだけで,そのうち医師不足が僻地や特定の診療科だけでないことが誰の目にも明らかになってくるだろう。そのときの一般市民の声はおそらく「医師不足は医師のせい」「医師の数が少ないことをなぜもっと早くアピールしなかったのか」に違いない。

医師は伝統工芸の職人と違い,弟子を勝手に見つけてきて後継者にするわけにはいかない。医学部の定員を決めるのも,医師国家試験を課すのも医師ではない。医師の絶対数不足を医師のせいにされてはたまらない。
大学では出席をとらない講義,特に一限目の講義の出席率は低い。出席している学生に向かって講師が「この出席率の低さはなんだ。君らは何を考えとる!」と怒る場面を想像すればいい。

日本の医療崩壊は避けられない。これは予言や予測なんてものではない。「ガラスのコップを高いところからコンクリの床に落とすと,コップは割れるでしょう」は予言と呼ばない。問題はイギリス型を経てアメリカ型になるのか,それともいきなりアメリカ型か。

アメリカでは意識不明の患者がERに運ばれると,治療前に財布を探り加入している医療保険を確認するというのは有名な話だ。高額の医療保険に加入していれば高度な医療が受けられるが,そうでなければ最低限の治療しか施されない。そんな弱者切り捨てのイメージが強いアメリカでさえ,社会保証費は公共事業費の2.5倍である。

イギリスの医療に関しては以下
http://blog.so-net.ne.jp/medi_rmk_ems/2006-01-01
http://www.jcoa.gr.jp/siten/content/teiiryo.html

アメリカの医療に関してはここが詳しい
http://www.docbj.com/kkr/kako/37.htm
http://www.kochinews.co.jp/medihito/kennet21.htm

人権など無に等しい中国は参考にならないが,そう遠くない未来の日本でも同じ光景が見られるかもしれない。「年寄りと貧乏人はさっさと死ね」が日本の国策なのだから。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2006&d=1126&f=column_1126_003.shtml
http://www.tangrenjie.biz/modules/wordpress/index.php?cat=6

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January 17, 2007

いったい,どうしろと

某法科大学院で民事訴訟とサイバー法とかいうものを担当している教授のブログのなかで,医療界でかの有名な藤山雅行裁判長の講演の内容を紹介している。

エントリーの一部を引用する

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最近の医療関係者の言動では、患者に選択を任せてしまって、医師の立場での最良の診療方針を示すことを怠る傾向があるという。下手に診療方針を示すと、思うような結果が出なかったときに責任を追及され、しかも患者から他の方法を選ぶ機会を奪ったなどといわれかねないので、考えられる選択肢をただ並列的に並べて患者に選ばせて、その選択結果には医師は責任を持たないという、そういう傾向である。

#サイバーノーガード戦法を思い出してしまったが、メディカルノーガード戦法とでもいうべきか。

このようなノーガード戦法は、それ自体、よりよい療法を患者に分かる形で説明すべき義務を尽くしたとはいえないというのが藤山部長の評価で、そのことを医療関係者に伝えたいということであった。

-----------------------------------------------引用終了-------------

リンクを張るのはやめようかとも思ったが,「前後の文脈を割愛して一部を抜粋すると誤解を招く」などとクレームがつくかもしれないので一応張っておく。
http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2007/01/juge_1e70.html


以前にも書いたが,未破裂脳動脈瘤へのクリッピングなどリスク/ベネフィットが微妙な場合は,充分な情報を与えた上で患者側に選択してもらうのが医師・患者の双方にとってベストだと信じていたのだが,これを完全に否定されてしまった。まさに後ろから袈裟がけにばっさり斬られたようなショックを覚える。他の治療法があるにもかかわらず,ある特定の治療をすすめた結果不幸な転帰をとった場合どのような仕打ちにあうのか,昨今のトンデモ判決をみれば火を見るよりも明らかである。

私と違い文章力と根気のある医師たちが,この教授に対して精力的かつ紳士的にコメントしている。

それらのコメントに対する教授のレスを一部紹介する。

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医療崩壊の原因が医療事故訴訟の多発にあるということでしょうか?
ずいぶん前のアメリカではそのように言われていましたが、その際の要素の一つとして、医療過誤保険の保険料の高騰で一般の医師が負担しきれないという点が挙げられていました。日本でもそのようなことがあるのでしょうか?
今の日本の医師不足は、それが医療崩壊だとしても、研修医システムが変わったせいだとか相変わらず医師の数が足りないのだとか、報道されていますが。

法的責任追及を恐れて防衛医療に走るという弊害はよく言われていますが、それこそ医師の行動倫理としての問題がありそうです。

それから、藤山裁判長は民事担当なので、刑事事件での医師の責任追及が医療崩壊を招いていると言うことであれば、彼とは関係のない話です。

-----------------------------------------------引用終了-------------

なんということだ。
・・・信じられない・・・。
・・・・・・怒りを・・・通り越して・・・言葉もない・・・。

法律の専門家が,「法的責任追及を恐れて防衛医療に走るのは医師の行動倫理としての問題がありそうです」と。

法科大学院の教授が,「医師は法的責任追及を恐れるな」と。

日本がまだ法治国家であると前提しよう。そして医師の多くは善良な市民で,ヤクザのように「法的責任追及を恐れる」ために法の裏をかくなんて芸当はできないし,しようとも思わないと仮定する。そうすると,医師が「法的責任追及を恐れる」ためにとる行動は「日本の今の法律に抵触しないようにする」ことだけだ。

民事だろうが刑事だろうが,法律に抵触しないように仕事をすることは法治国家に住む国民として当然のことではないのか?我々医者は法律の専門家ではない。今から行おうとしている行為が法に触れるかどうかは,過去の判例を参考にすることになる。「心嚢穿刺のできる医者しか救急当直してはならない」という判決があったなら,それに従うべきではないのか?「私は心嚢穿刺の訓練を受けていませんので,救急当直をしません」と言えば,医師の行動倫理に問題ありとされるのか。

医師というのは特殊な職種なので,患者の治療のためなら逮捕や高額賠償を恐れるなということか? そんなバカな・・・

そこらへんのDQNが2ちゃんねるに書いているのではない。法科大学院の教授が自身のブログではっきり書いている。

法的責任追及を恐れて防衛医療に走るという弊害はよく言われていますが、それこそ医師の行動倫理としての問題がありそうです」。

防衛医療に走らずに法的責任追及を逃れる方法があるとでもいうのか? どんな難しい手技でも100%成功させるのが医師の義務だとでもいうのか? 福島地検の片岡康夫次席検事は「いちかばちかでやってもらっては困る」と言ったのだ。これは「自信のないことはやめておけ」という意味ではないのか。


いったい,どうしろというのだ。

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January 13, 2007

殴って怪我させても逮捕されない職業

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070113i301.htm
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福島県警高速道路交通警察隊の男性巡査部長(58)が11日、福島市で乗車したタクシーの男性運転手(46)と口論となり、後頭部を路面にたたきつけるなどの暴行を加えていたことが12日、わかった。

 福島署は巡査部長から任意で事情聴取したが、「証拠隠滅や逃走の恐れがない」などとして逮捕せず、公表もしていない。

 県警などによると、巡査部長は11日夜、市内で飲酒後、自宅に帰るため、タクシーに乗ったが、行き先の指示がはっきりせず、運転手と口論になった。午後11時50分ごろ、運転手に降りるように言われて、料金を払おうとしたが、運転手は受け取らず、巡査部長は腹を立てて顔を数回殴打。車外に引きずり出し、馬乗りになって後頭部を路面に数回たたきつけるなどした。

 巡査部長はそのまま走り去ろうとし、運転手は110番通報して約200メートル追いかけ、もみ合いになった。福島署のパトカーが到着し、運転手は病院に運ばれ、後頭部打撲などで入院した。

 巡査部長はこの日は非番で午後6時ごろから、所属係の新年会に出席。同僚5人と飲食店2軒で飲食後、さらに2人とラーメン店でビールを飲んだ。巡査部長は12日午前5時ごろまで署の事情聴取を受け、「飲み過ぎてしまった」と反省しているという。

 今泉満臣・同署副署長は逮捕しなかった理由を「事実を認めており、証拠隠滅の恐れがない。住居、職業があり、逃走の恐れもない」と説明。公表しなかったことについては、「任意捜査のため」としている。

(2007年1月13日3時2分 読売新聞)

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福島県立大野病院の件では,妊婦が死亡したのが2004年12月,産科医が逮捕されたのが2006年2月。妊婦死亡から1年3か月後に逮捕された。在宅起訴などではなく,「逃亡・証拠隠滅のおそれあり」とされ病棟で手錠をかけられた。胎盤癒着という予期しない病態に遭遇したが何とか赤ちゃんだけでも救った医師が,その後1年以上経過してから職場で逮捕された。上の巡査部長と比べたら-いや,比べること自体がK医師に失礼だ。

酔っぱらっての狼藉を比較するには以下

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/33654/

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酔って交番のドア蹴り壊した医師を逮捕
01/02 12:16

 宇都宮中央署は2日までに、交番のドアを壊したとして、器物損壊の現行犯で前橋市、医師岡本知紀容疑者(41)を逮捕した。
 調べでは、岡本容疑者は1日午後11時半ごろ、宇都宮市塙田の同署塙田交番のドアガラスを足でけって壊した疑い。
 交番の署員は不在で、通行人からの通報を受けて戻った署員が、近くに家族と一緒にいた岡本容疑者を発見した。
 岡本容疑者は酒を飲んでいて「なぜ割ったのか覚えていない」と供述しているという。岡本容疑者は、宇都宮市の実家に帰省中だった。

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この医師に同情する気はあまりないが,医師は交番のドアガラスを割っただけ(けが人なし)で逮捕,巡査部長はタクシー運転手をボコボコに殴って病院送りにしても任意の事情聴取のみで,新聞に名前も晒されない。福島と栃木の地域差だけではないだろう。

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January 11, 2007

一人で仕事してますもので

産科を閉鎖中の某病院から私に非常勤の依頼があった。
ある産婦人科医が「帝王切開の麻酔を麻酔科がしてくれるなら,その病院で働いてもいい」と言っているらしい。その病院には常勤麻酔科医はいない。産科を再開したい病院としては,平日昼間の予定帝切の麻酔を週に一度私に担当して欲しいとのこと。

絶滅危惧種の産科医は職場を選べる。どうせ選べるのなら,複数の麻酔科医が常勤し夜中の緊急帝切でも麻酔をしてくれる病院を探せばいいのに。いまどき田舎の病院で産婦人科の一人医長をしても構わないというのはどういう了見だろう。

麻酔というのは一部の大手術を除き個人プレーで,麻酔科医の多くは個人主義。群れるのを好まないと言えば聞こえがいいが,協調性に欠けるとも言える。従って,麻酔科では一人医長を好む者もいる。周りからあれこれ指図されることもなく,自分が好む麻酔を行える。また,病院や外科医からの要求に対し「麻酔科は自分一人しかいないので,これ以上のことはできません」と線を引くことも可能だ。麻酔科医が二人になってしまうとこの線が引きにくくなるので,大学からの研修医派遣は歓迎されない(本音は研修医を教えるのが面倒なだけかもしれない)。

産科医のなかにもチーム医療より個人プレーを好む者がいたとしても不思議ではない。それに,近頃は都会の大病院でも分娩制限することが珍しくない。田舎の病院で産科を再開するにあたり,一人医長産科医の負担にならない程度に分娩を制限しても波風は立たない。あるいは病院側が破格の報酬を提示したか。それはともかく,妊婦の麻酔管理を麻酔科が担当してくれることを望むのは産科医としては当然で,これを勤務の条件とするのはワガママでもなんでもない。

しかし,今の私も仕事を選べる。産科医には何の恨みもないが,帝王切開の麻酔は願い下げだ。福島県立大野病院の件では,遺族の怒りの矛先が麻酔科に向かっていたなら,衆人環視のなかで手錠をかけられたのは麻酔科医だったかもしれない。医療上の有害事象で患者が死亡した場合,警察は遺族の感情で動く。検察も「失血死したのは麻酔科の輸血開始が遅れたせい」とするかもしれない。慈恵医大青戸病院の腹腔鏡下前立腺摘出術の件では泌尿器科医が実際そのような主張をしている。

そんなことを言い出すと,大出血する可能性のある手術はすべて断らなければならない。それでいいと思う。フリーターであろうと常勤医であろうと,一人で麻酔するなら肝切や大血管の手術などは避けた方が賢明だ。何しろ今の日本では予期しない大出血で患者が死亡した際,家族が納得しないと医師の誰かが逮捕されるのである。急な大出血では,すぐ隣に血液センターがあったとしても麻酔科医が一人では限界がある。

大野病院の症例は癒着胎盤で,産科医が一生に一度遭遇するかどうかの稀な病態という。週に一度麻酔するだけなら私がこれに当たる確率はきわめて低い。しかし大出血するのは癒着胎盤だけではないし,ルンバールの合併症などでも患者側ともめる危険性もある。なにしろ,DQNに限らず誰もが「お産は病気ではなく,母児ともに無事が当然」と信じている。未破裂脳動脈瘤のクリッピングと同様,帝切もゼロ点スタートなのである。有害事象が全く発生せずに無事終了してもやっとゼロ点(お腹に創が残る点でマイナスか?),何かあればマイナス。決してプラスにはならない。そのうち「子供の学校の成績が悪いのは,帝切時のルンバールで母体の血圧が下がったせい」などと訴える親が現れても不思議ではない。

帝王切開にかかわらなければ,上記の地雷を踏む可能性はゼロになる。産婦人科医が周産期医療から撤退しつつあるこのご時世,麻酔科医も同じく周産期医療から手を引いても罰は当たらないだろう。

帝王切開の麻酔は通常ルンバールなので母体は意識清明である。娩出された赤ちゃんに異常がなければ清拭や口腔内吸引の後ナースに抱かれて,仰臥位のまま動けない母親の顔の近くに連れて行かれる。我が子の顔を見て喜びと安心のあまり涙を流す母親もいる。感動的な母児対面のシーンである。新しい生命が誕生する瞬間に麻酔という形でそれをサポートすることに意義や使命感を感じる麻酔科医も多いだろう。そのような麻酔科医を私は否定しない。ただ,私は遠慮させて貰う。母児対面の感動的シーンは過去に充分見させてもらった。頭からジャンパーをかぶり手錠をタオルで隠しながら自分が連行される屈辱的シーンは想像もしたくない。

帝王切開という手技がある限り,そのための麻酔を誰かがやらねばならない。その誰かは,運が悪ければ刑事訴追されることがある。そんなロシアンルーレットに私は参加しない。

非難は私ではなく警察(特に福島県警),司法,マスコミ,DQN市民に向けて貰いたい。

蛇足だが,どこかの病院から腹腔鏡下前立腺摘出術の麻酔依頼があったとしても,私は断るつもりである。

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January 07, 2007

ゼロ点スタート

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070106-00000016-mailo-l10

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損賠訴訟:脳手術ミスで群大提訴 寝たきり男性の家族、3000万円求める /群馬
1月6日11時1分配信 毎日新聞


 群馬大学付属病院で脳手術を受けた渋川市のパート男性(66)が寝たきりとなったのは、手術中のミスが原因だとして、男性の家族が5日までに、群馬大学を相手取り、慰謝料など約3045万円の損害賠償を求める訴えを前橋地裁に起こした。
 訴状によると、男性は03年7月、飲酒中に倒れ、脳の血管中にできるこぶのような「脳動脈瘤(りゅう)」が見つかった。群馬大学付属病院の医師から「放っておくと破裂する」などと言われ、同年12月に同病院脳神経外科医師の手術を受けたが、手術中に動脈瘤が破裂し、出血。脳梗塞(こうそく)となり、左足まひや認知症などの後遺症が残って寝たきりの状態が現在まで続いている。
 執刀医は家族に対し「手術が原因。申し訳ない」と謝罪したが、その後、病院からの補償はないという。
 男性が受けたのは、動脈を金属クリップではさみ、血流をふさぐ「クリッピング手術」。原告はこの手術が男性にはリスクが高かったとし、「動脈瘤の破裂を防ぐ注意を怠った過失がある」と主張。また、執刀医から手術の危険性について十分な説明がなかったと指摘し、さらに手術後に男性が暴れるなどした際に鎮静剤を投与したことについて「脳梗塞を悪化させた」としている。
 同病院の医療サービス課は「弁護士と対応を協議中のため、コメントを差し控えたい」と話している。【伊澤拓也】

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飲酒中に倒れたということだが,これがSAHだったのかどうか。医師が「放っておくと破裂する」と言ったのなら,SAHではなかったが精査で未破裂の動脈瘤が見つかったのだろう。

未破裂の脳動脈瘤に対して予防的クリッピングを施術するかどうか。瘤の大きさ,形状,部位によって破裂の危険性は異なるし,Ptの年齢も考慮する必要がある。コイル塞栓にしてもリスクはある。自分や家族に未破裂動脈瘤が見つかったらどうするべきか,きっと悩むだろう。

日本脳神経外科学会では日本未破裂脳動脈瘤悉皆調査(UCAS Japan)というものを行っているが,結果はまだ出てないようだ。

現在66歳なら2003年の手術時には63歳。瘤の大きさや部位はわからないが,平均寿命まで15年もあるのなら予防的クリッピングの意義はあったかもしれない。

2003年なら医療者側の防衛手段として既にICは重要視されていたはずだが,旧来のパターナリズムで手術に誘導したのか。田舎の個人病院ではあるまいし,手術のムンテラや同意書がなかったとも思えない。結局,リスク/ベネフィットが微妙な治療を施行するかどうかは,充分な情報を提供した上で,医師ではなく患者側に判断をまかせるしかないだろう。

一度破裂した動脈瘤へのクリッピングはマイナスからのスタート。家族はPtがSAHによる激しい頭痛を訴えたり意識不明になるところ,つまりマイナスを見ている。クリッピングが成功し後遺症なく退院できたら,マイナスからゼロにアップし相対的にプラスとなる。未破裂動脈瘤へのクリッピングは,瘤が大きくて神経を圧迫したりしていなければ症状がなく,ゼロ点スタート。後遺症が残ればマイナス。クリッピングが成功してもゼロのままで,決してプラスにはならない。クリッピングが成功して後遺症なく経過し,20年後に別の病気で死ぬまで動脈瘤が破裂しなかったとして,「あのとき脳外科の先生がクリッピングしてくれたおかげで長生きできた」と感謝してくれる人がどれほどいるか。

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