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December 31, 2006

反省したが

某月某日

硬膜外併用全身麻酔の開腹術。手術が終了し,いつものように抜管した。ところが抜管直後からPtは苦悶様表情を浮かべ,創部痛を訴えはじめた。
私は心の中で「しまった! 硬膜外が効いていない! そんなバカな…」と叫び,絶望感にさいなまれた。
無駄と知りつつ硬膜外に局所麻酔薬を追加投与し,NSAIDを点滴静注した。
他の部屋も手術が終了したため,「そのうち痛み止めが効いてきますからね」などと無責任な気休めを言いつつ,手術室を退室させた。手持ちの麻薬は無いし,退室間際にレペタンやペンタジンを投与するのも嫌いだ。

他の部屋の症例はつつがなく抜管・退室し,その日の仕事が終了した。
更衣室でひとりになった時点で反省をはじめた。硬膜外が効いていないというトラブルは今までにも何回かあるが,ここ数年なかったこと,感触がいつも通りで全く予期していなかったことから,少なからずショックであった。
まず麻酔記録を見直す。術中に硬膜外に投与した局所麻酔薬はいつも通りで,特に少ないわけではなかった。
生食を使ってのロスオブレジスタンスの手応えは充分だった。硬い靱帯を通過後にスコンと抜けた。手応えが怪しいときはエアーでも確認するようにしているが,その必要はなかった。硬膜外腔までの深さも適度だった。ただ,カテーテルが4cm以上先へ進まなかった。少し迷ったが自分の手応えを信じた。カテーテルが進みにくいことはたまに経験するし,硬膜外腔に4cmも入っていれば充分だ。
甘かった。やはりカテーテルの進みが止まったときにやり直すべきだった。そう言えば術中に血圧が高くて降圧薬を使用したが,あれは痛みのせいだったのか。もともと高血圧の患者だったし,心拍数が安定していたので痛みによるものとは考えなかった。
麻酔科医なら誰もが知っている,針先が硬膜外腔に抜けたときの感触。私の手もあの感触を数え切れないぐらい経験し,覚えているはずなのに。今回のあの感触は硬膜外ではなかったのか。
自分に向かって毒づいた。「ダメだ。硬膜外カテーテルが入っているPtを痛がらせて病棟へ帰すようでは麻酔科失格だ。何がプロだ。笑わせるな。未熟者が“感触”なんて信じるからこんなことになるんだ。今日の麻酔は敗北だ」
反省と放心で1時間くらい経過した。Ptが帰棟してからは2時間以上はたっていただろうか。

病棟へPtを見に行くのが恐かった。そのまま家に帰りたかった。今も痛がっているだろうか。それともレペタンだのボルタレン座薬だの投与され,あげくのはてには鎮静剤も入れられてドロドロかもしれない。Ptの家族が病室にいたら白い目で見られるだろう。「こうまく何とかいう管が入っていれば痛くないって話だったのに,ひどく痛がってたじゃないか」なんて言われたら返す言葉がない。
重い足取りで病棟へ行った。いきなり病室へ行かず,ナースが記録している重症用チャートでまず確認した。チャートの疼痛欄には(-)が並んでいる。そうか,やはり帰室直後からいろいろな鎮痛薬が投与されたのだな。薬の内容はまだ記載されていないだけか。しかしおかしいな。帰室直後も「疼痛(-)」となっている。担当のナースに「ペンタジンか何か使った」と訊ねたところ,「いえ,何も」。「えっ? 痛みのほうは?」「いえ,全く訴えありません。すやすや寝られています」「はぁ?」
半信半疑で病室に行くと,確かにかすかな寝息をたてて眠っている。鎮痛の程度を確認するために起こそうかとも思ったが,目覚めたとたんに痛がられるのを恐れ退散した。

狐につままれたような気分で帰途についた。
Ptはそれほど高齢者でも小柄でもない。手術室退室間際に投与したNSAIDだけであれほど鎮痛できるとは思えない。カテーテル尖端は硬膜外腔にはないが,持続硬膜外のシュアヒューザーに入っているオピオイドが皮下注として効いている? いやオピオイドは局所麻酔薬で薄められ,皮下注で効くような濃度ではない。カテーテルは硬膜外腔にあるが,手術中に投与した局所麻酔薬が少なかったため,覚醒後に痛がったと考えるのが妥当なようだ。もう一度麻酔記録をチェックしたが,術中の局麻使用のペースはいつも通りかむしろ多めだった。穿刺レベルが的外れだったとも思えない。

その病院での勤務が数日後にあり,仕事が終わった後に病棟へ行って件のPtのカルテを確認した。持続硬膜外だけで鎮痛できている。やはり硬膜外は効いていた。

私の,あの小一時間の反省は何だったんだ。硬膜外腔に抜けたときの,あの感触は信じていいのだな。

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December 28, 2006

なんと古典的な

http://www.asahi.com/national/update/1227/OSK200612270033.html

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人工呼吸器のチューブはずれ脳障害 神戸大付属病院
2006年12月27日12時10分
 神戸大医学部付属病院(神戸市中央区)は27日、動脈瘤(りゅう)破裂で入院した兵庫県内の80代男性の治療中に人工呼吸器のチューブが外れ、低酸素症で重い脳障害が残る医療ミスがあった、と発表した。家族には経緯を説明して謝罪したという。

 同病院によると、男性は11月下旬、右ひざの動脈瘤破裂で入院。3日後、バイパスを作るなどの手術をしたが血流がよくならないため、同日、カテーテルを差し込んで血栓を溶かす治療をした。治療後、男性の顔が青ざめていることに医師が気づき、調べたところ、人工呼吸器のチューブが本体から外れていた。昇圧剤投与などの措置をしたが、男性は低酸素脳症のため、意識がほとんどない状態が続いている。

 同病院は、治療中に男性が乗った台を動かした際、チューブが外れた可能性があるとみている。チューブは10分程度外れていたとみられ、外部委員を含めた調査委員会で詳しい原因を調べる。

 春日雅人病院長は「男性の容体の変化に気づくのが遅れるなど不十分な点があった。男性とご家族に深くおわび申し上げる」と話した。

----------------------------------------------------------引用終了-------------------

上の記事(朝日)だとイベントが起こった部屋がどこなのかわからないが,下(毎日)の記事から(手術室で造影できる施設もあるだろうが)造影の検査室であることがわかる。

----------------------------------------------------------引用開始-------------------
医療事故:検査中、人工呼吸器外れる 80代男性意識不明----神戸大病院

 神戸大医学部付属病院(神戸市中央区、春日雅人院長)は27日、11月下旬に右足の動脈りゅう切除とバイパス手術を受けた兵庫県内の80歳代の男性の人工呼吸器のチューブが、手術後の検査中に外れる医療事故があったと発表した。男性は低酸素脳症のため重度の脳障害が残り、現在も意識不明の状態という。病院側は過失を認め、男性の家族に謝罪した。

 同病院によると、男性は右足の動脈りゅうが破裂して血行障害を起こし、手術を受けた。しかし手術後も血流が改善しないため、医師4人が立ち会い血管の造影検査を実施。この際、男性を寝かせた台が動き、人工呼吸器のチューブが機械側で約10分間外れたとみられる。チューブにとめ具は付いていなかった。

 同病院は医師4人を口頭で厳重注意するとともに、外部メンバーを含めた医療事故調査委員会で原因を調査している。春日院長は記者会見で「男性と家族に対し深くおわびします」と謝罪した。【武内彩】

----------------------------------------------------------引用終了-------------------


人工呼吸の回路が外れるという古典的な過誤で脳障害とは。

メディアの報道がいい加減であることは過去の医療記事が証明しているが,一応上の記事に沿って考えてみる。

解せないことがいくつかある。

1 80歳代とはいえ,下肢の動脈バイパス術でオペ室で抜管できず術後も人工呼吸
2 普通なら回路が外れたときに人工呼吸器のアラームが鳴るはず
3 パルスオキシメーターを装着していたなら音色の変化あるいはアラームでSp02の低下に気づくはず
4 心電計モニターを装着していれば,徐脈などで察知できたはず
5 挿管チューブは抜けていない。静脈ラインも確保されており,心停止してもただちにCPRできたはず。

1 80歳代とはいえ,下肢の動脈バイパスでオペ室で抜管できず術後も人工呼吸
入院から3日後に手術をしていることから緊急手術ではなさそうだ。予定手術のFA-PAバイパスなら麻酔はラリマの自発呼吸でも可能だ。術後も人工呼吸しなければならない理由は何だろう。それとも,手術前から既に人工呼吸だったか。もともと重篤な呼吸器疾患があったのかもしれない。

2 普通なら回路が外れたときに人工呼吸器のアラームが鳴るはず
一般的な人工呼吸器は回路が外れるとアラームが鳴り続ける。折角のアラームも簡単にOFFにできると意味がないため,一時的なミュート機構しか備えていないものが多い。つまり現在の人工呼吸器のアラームは安全のため,しつこいぐらい鳴ってくれる。頻繁にアラームが鳴っているような状況ではいわゆる「アラームのオオカミ少年化」が起こり誰もがアラームを重要視しなくなるが,造影室で気管内吸引などはしないだろうから,低圧アラームがたびたび鳴るとは思えない。

3 パルスオキシメーターを装着していたなら音色の変化あるいはアラームでSp02の低下に気づくはず
人工呼吸中のPtにパルスオキシメーターを装着しないのか? 造影室に常備していないとか。

4 心電計モニターを装着していれば,徐脈などで察知できたはず
下肢の血管造影に心電図電極が邪魔になるとは思えない。モニターするのが常識だと思うが。

5 挿管チューブは抜けていない。静脈ラインも確保されており,心停止してもただちにCPRできたはず。
心停止する前に人工呼吸を再開できたのであれば,脳障害はたぶん発生しない。心停止があったと考えるべきだろう。さらに,心停止してもただちに適切なCPRを行えば脳障害は残らない。回路が外れただけで,挿管チューブは抜けていないのだから,回路をつなぐだけでただちに100%酸素で換気可能である。挿管に手間取るといった時間的ロスはない。点滴ルートからの薬剤の投与もただちに行える。CPRの条件は整っている。心停止に気づくのが遅れたとしか考えられない。

記事では
>治療後、男性の顔が青ざめていることに医師が気づき、調べたところ、人工呼吸器のチューブが本体から外れていた
>人工呼吸器のチューブが機械側で約10分間外れたとみられる

とある。

回路が外れる直前まで100%酸素で換気されていたとしても,予備能の低い高齢者のこと,その後無呼吸が3分も続けば心停止になるだろう。10分間も回路が外れていて心停止がなかったとは考えられない。

おそらく以下のようになるだろう。

ICU(または病室)から血管造影室まではアンビューもしくは移動用の簡易レスピレーターで移動。
血管造影室では,そこに備え付きの旧式の人工呼吸器を使用,または移動用レスピレーターをそのまま使用。低圧アラームはついていないか,完全OFFが可能。
局所麻酔でできる検査・処置なので,麻酔科医はつかず。
パルスオキシメーターは造影室にはなく,ICU(または病棟)から持ってくることもしなかった。
心電計モニターは装着したが,造影機器の影に入り,術者から見えなかった。アラームもOFFか音量極小。
4人とも外科医なので術野・画像モニターに気をとられた。


記事からはわからないが,その場面に麻酔科医はいなかったと断言していい。
麻酔科医は心電計などのモニターを見たがる。自分を安心させるために。モニターが見えないと不安である。アンギオのガイドワイヤの進め方などには興味がない。そんなものを見るよりはパルスオキシメーターの99や100という数値を見て安心したい。血管造影室は麻酔科医にとってホームではない。いつもと勝手が違うアウェーで油断できる麻酔科医はよほどの大モノか大馬鹿モノである。アウェーでの麻酔をローテーターひとりに任せるはずはない。本職の麻酔科医なら薄暗い造影室での麻酔がどれほど危険か知っているので,オペ室でのいつもの麻酔より警戒レベルは上がっている。

記事では心停止の有無に触れていないが,心停止に気づかないあるいは心停止があったかどうかもわからないということなら,心電計モニターを装着していなかったとも考えられる。だとしたら論外である。

尚,このような人工呼吸回路の接続外れによる不幸な事象が起こったとき,「外れるような構造がおかしい。外れないようなロック機構が必要だ」と主張する人が必ずいるが,回路に力がかかったときには接続部が外れるほうが安全である。回路が外れただけならナースでも継ぎ直せる。接続部がどこも強固にロックされていたなら,回路が引っ張られたときに挿管チューブが抜けてしまう。再挿管が簡単にできる医師がそばにいるなら問題ないが,そうでなければ危険である。薄暗く,造影用機器が所狭しと並んだ部屋では本職の麻酔科も少し冷や汗をかくかもしれない。検査室の救急カートに入っている喉頭鏡は電池切れの可能性もある。喉頭展開時,口腔内に分泌物が多くてもすぐに吸引が使えるとは思えない。

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December 23, 2006

杞憂であればよいが

手術患者の胸部XPを見ていて,ふと不安になることがある。

麻酔科のための検査
例えば整形外科が麻酔科に麻酔を依頼する際,前もって胸部単純レントゲンをオーダーしてあるが,それは撮っておかないと麻酔科が怒るからである。骨腫瘍を専門にしている場合は別として,整形外科医は胸部XPなど興味はないだろうし,まったく見ない場合も多いだろう。これは整形外科に限らない。眼科も耳鼻科も形成外科も同じである。
他の麻酔科医がどれほど念入りに胸部XPを見ているか知らないが,私は気管の太さと心臓の大きさぐらいしか見ていない。emphysematous なら巨大ブラを探すくらいはするが,肺癌を探す努力はしない。

麻酔科医が肺癌を見落とすと過失か?
ある高齢患者がOAでTHAを受けたとする。麻酔も手術も問題なく,リハビリを終えて無事退院。その後検診で肺癌を指摘され,呼吸器内科を受診したが既に手遅れ。そのとき誰かが「もう半年早く発見できていれば…」などと口にする。THAを受けたのは半年前。そしてその際に撮った胸部XPに癌が映っていた場合どうなるか。
患者側は「胸部レントゲンで異常陰影があったのに見逃した。肺癌の治療を早期に受けられる機会を失った。医療ミスだ」と怒りだし訴訟になるかもしれない。最近の医療訴訟のバカさ加減を思えば,麻酔科医に賠償を命ずる判決が出てもおかしくない。
整形外科医は「麻酔科の先生に見てもらうために胸部XPをオーダーしただけ。自分は胸部XPを見ていない」と逃げることができる。
麻酔科医が「麻酔科医にとっての術前胸部XPは,麻酔に支障をきたすような異常がないかチェックするためのものであり,肺癌のスクリーニングではない。麻酔科医は単純XPで肺癌を見つける訓練は受けていないし,癌の早期発見を麻酔科医に期待されても困る」などと主張するだろうが,果たして通用するか。

見なかったことにする
米国の外科医は画像検査の写真をなるべく自分で読影せず,放射線科に任せていると聞いたことがある。なるほど,見ていなければ見落としはない。いっそのこと,術前XPをまったく見ないようにしようか。術前の胸部XPで異常が見つかったために手術が中止になったり麻酔方法が変わったりした経験は記憶にない。あるいはXPを隠れてこっそり見るとして,表向きは見なかったことにするとか。それとも麻酔の同意書に「術前の胸部レントゲンは麻酔上の問題点がないかどうかを確認するためのものであり,悪性腫瘍をスクリーニングするためのものではありません」と明記しておくのはどうだろう。

ECGも
麻酔科のための検査は胸部XPだけではない。心電図も呼吸機能も同じである。
若い人が突然死し,ブルガダ症候群が疑われる。1年前に鼻中隔弯曲症で全麻手術を受けた既往があり,そのときの心電図を調べたところ,典型的なブルガダ型心電図だったとする。「そのときに麻酔科医がブルガダ型心電図に気づいていれば,循環器内科を受診してICD植込みなどで突然死を防げたはずだ」

うーん。防衛医療って,簡単なようだが難しい。

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December 18, 2006

消失が加速

-----------------------------------------------引用開始-------------
産科医不足、大阪の都市部でも深刻 分娩制限相次ぐ
2006年12月16日
  

 地方で深刻化している産科医不足が、都市部でも加速してきた。一施設あたりの産科医数が東京に次いで多い大阪でも、産科を閉める病院が続出し、残ったところは分娩(ぶんべん)制限が相次ぐ。大阪市内でお産できる病院は来春、23カ所に減り、3年前の4分の3。お産の場の連携・再編は待ったなしだが、予算も医師も不足しており、拠点病院に医師を集める「集約化」のめどさえ立たない。(久保佳子、阿久沢悦子)

 ●市民病院も制限

 地域医療の中核を担ってきた大阪市内の市民病院で現在、お産ができるのは市立総合医療センター(都島区)、住吉(住之江区)、十三(淀川区)の三つ。住吉、住之江、西成3区のお産の約2割、年約750件を扱ってきた住吉市民は9月、月二十数件と半分以下に絞る分娩制限を始めた。産科医3人が定年などで病院を去り、常勤医が3人になったからだ。

 麻酔科医も1人だけで、夜間の緊急帝王切開は産科医が自ら麻酔をする。中村哲生医師は「初めて聞いた人は驚くが、ここではずっとそうだ」。応援医を1人頼んでいるが、それでも月の半分近くは当直や自宅待機で夜間も拘束される。

 医師5人態勢の十三市民病院も女性医師の産休で1人減となった。淀川区内で唯一のお産ができる総合病院で、分娩数は年間約750件。出口昌昭・産婦人科部長は「市民に身近な公立病院として踏ん張ってきたが、これ以上、人が減れば分娩制限を検討せざるを得ない」。

 リスクが高い分娩も扱う総合医療センター。産科医6人で年900件のお産を診てきたが、周辺の産科廃止が相次ぎ、今年上半期は25%増のペースだった。来年から正常産の受け入れ上限を月45件から39件に減らす。合併症のあるハイリスク出産や緊急搬送の計50件の枠を狭めるわけにはいかないという。

 ●焼け石に水

 産科医が減り続ける中、大阪市は昨年8月、四つの市民病院にある産科を三つに再編。医師を住吉市民病院などに振り分け、5人以上の態勢を整えたが、わずか1年で崩れた形だ。医師らは「勤務が過酷な状態が変わらなければ再編しても効果が上がらない。焼け石に水だ」とこぼす。

 医師の負担軽減に向けて市が期待するのが、医師に代わって助産師が正常産を担当する「助産師外来」。今年11月に住吉市民病院に設置され、来春には十三市民病院にもできる。さらに今年5月には、当直の応援医確保のため、産科と麻酔科の当直単価を1回最高7万5千円と約3倍に引き上げた。ただ、常勤医の確保は困難な状況だ。

 ●深刻さ増す南部

 「安全にお世話できる受け入れ能力の限界に近づいております」。今月1日、民間の愛染橋病院(浪速区)のホームページに、来年3月まで新規の分娩予約を断る通知文が掲載された。産科医は8人。毎月約120件の予約分娩と10~20件の緊急搬送を受け入れている。分娩数は西日本一だ。

 だが、産科医1人の退職が決まり、補充のめどが立たないまま、産科を休止したほかの病院から移ってくる妊婦が相次ぐ。今月は予約だけで150件を超えた。村田雄二院長は「市内の『最後の砦(とりで)』として、すべてのお産を受け入れようと思ってきたが、医療事故が起きてからでは遅い」。

 来年3月、阪和住吉総合病院(住吉区)が分娩をやめ、市南部の4区にある病院の産科はすべて分娩を休止するか制限することになる。年500件を扱ってきた診療所のオーク住吉産婦人科(西成区)も同4月にお産を休止する。

 市は住吉市民を周産期医療の拠点と位置づけ、常勤医を6人以上に増やすとともに、老朽化が著しい建物を改築する考えだ。ただ、返済期限が迫っている市の病院事業の不良債務は約116億円。総務省は5年以内に解消しなければ、新規起債は許可できないとしており、先行きは厳しい。

 巽陽一・市医務保健総長は「お産状況の改善のためには、市内だけでなく、近隣都市を含めた産科医の集約化を考えなければならないだろう」と強調する。

-----------------------------------------------引用終了-------------

産科は昔から激務。激務だけなら耐えられるが,昨今のDQN患者への対応,言いがかり的民事訴訟,理不尽な刑事訴追に心が折れる。辞めていく産科医が少ないうちはまだ残った産科医たちで何とかやりくりできたのだろうが,産科医減少が進むと残された産科医への負担は激増し,訴訟リスクによらず激務のみでも耐えられない。もはや代償期を過ぎてしまった感がある。

北極海に浮かぶ氷は温暖化によって溶けていくが,最初は氷の厚さが減少するだけなので衛星写真ではそれほど変化は見られないという。しかし穴があき出すと「氷のない海面は、氷よりも太陽光を吸収しやすいため、海面が広がるとますます暖まりやすくなる」そうで,氷は急激に減少するらしい。
http://www.jccca.org/content/view/1547/670/

産科医療では氷のない海面が広がりつつある。海面が広がるとますます暖まりやすくなり,ただでさえ薄くなった産科医のモチベーションがさらに溶け,新たな穴があく。新たな穴から太陽光をさらに吸収して暖まり…。
夏の北極海の氷は2040年にはほとんど消失すると予測されているが,このままだと日本の産科医がほとんど消失するのはもっと早いだろう。

産科医を取り巻く状況を知ってか知らずか,マスコミも政治家もプロ市民どもも,産科崩壊を「医師のモラルや使命感の低下」のせいにするのだろう。そんな奴らにオーク住吉産婦人科の「分娩取り扱い終了のご案内」を見せてやりたい。

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December 16, 2006

そんなにいけないことなのか

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セルシオ:病院長の公用車に 通勤でも使う 岡山・備前市

 岡山県備前市の市立吉永病院で、荻野健次院長(60)が01年から、自分の誕生日と同じナンバーを付けた高級国産車のセルシオを公用車として通勤に使っていることが分かった。荻野院長は20年以上、公用車を通勤に使っているが、市の庁用自動車管理規則が定めた運行簿を付けていない。市側は、85年ごろに合併前の当時の町長が「運転手を雇う経費がなく、安全性の高い車で緊急医療に対応してほしい」と購入したのを引き継いだと説明。ナンバーは「覚えやすいように」という配慮だったとしている。

 市によると、公用車を購入したのは院長が通勤中に自家用車で事故を起こしたため。院長は毎月、公用車には提出が義務付けられている車両の点検簿も提出していなかった。ガソリン代など年間の維持費約60万円は公費で支払っている。

 院長は別に自家用車を所有しており、「(公用車を)私用で使ったことはない」と話しているという。西岡憲康市長は「院長が公用車で通勤することの是非は現段階では申し上げられないが、実情を調査し検討する」と話している。【佐藤慶】

毎日新聞 2006年12月9日 20時58分

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最初は「せこい院長だ。クルマぐらい自分で買えよ」と思ってしまった。

しかし,この院長が言っているとおりドライブや買い物に公用車を使用しておらず,院長の通勤に公用車が認められているとしたら,それほど悪いことをしていたとは思えない。

院長の通勤に公用車が認められているのなら,本来は運転手が自宅まで送り迎えしてくれる。朝の出勤と夜の帰宅で一日に計2往復することになる。院長自ら運転すれば運転手の人件費が浮くだけでなく,1日1往復ですむためガソリン代も半減する。

確かにクルマ購入時に希望ナンバーを注文すると数千円余計にかかるが,人件費と比べるまでもない。

書類提出の不備は良くないだろうが,新聞にフルネーム出されるほどの悪事か?
毎日新聞は医者を叩きたくてしようがないらしい。

セルシオだったのがよくないのか。1世代前のクラウン程度なら問題にならなかったかもしれない。

某知事なら息子を年俸2000万で運転手として雇うだろう。「彼は立派な運転手だ。余人をもって代え難い」などと言って。

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December 01, 2006

医学生は嫌われる

医師はなぜ目の敵にされるのか

それは,世間に総合大学出身者が増えたから。正確にいうと「医学部を有する総合大学の,医学部以外の卒業生が増えたから」である。

医学部生は他学部生の反感を買う。その理由は

1.その大学で偏差値トップ
2.意外とスポーツもできる
3.家庭教師のバイト代が高い
4.女子にもてる
5.学生時代が6年もある
6.就職活動しなくてよい
7.卒論がない


1.その大学で偏差値トップ
詳細省略

2.意外とスポーツもできる
医学生,特に男子は運動系クラブに入ることが多い。それもスポーツが得意なものだけではない。動機は「今まで勉強ばかりしてたから大学では運動を」「医者になったら体力が必要だから学生時代にからだを鍛えておきたい」「中高でやってたスポーツを続けたい」といったところだろう。そして,所属するのはもちろん全学の体育会ではない。“医学部野球部”“医学部サッカー部”など,医学部生だけで構成される部活である。この排他主義も他学部生の反感を買う一因となる。これらの“医学部※※部”は体育会には遠くおよばないものの,他学部のサークルよりは練習時間が多く,熱心に活動している。中途半端な部活ではあるが,もともと医学生は根が真面目なため,練習をさぼることも少ない。また,東医体や西医体といった目標もある。継続は力なり-いつ引退するかにもよるが,4~5年同じスポーツをやっていれば多少は上手くなる。中学から同じスポーツを続けていれば尚のこと。

一方,他学部生がスポーツをやろうとすると,体育会かサークルかということになる。私立総合大学の体育会など,その運動能力を買われて推薦入学してきたような猛者ばかり。正規入学の一般学生はまず入らない。国公立でも体育会に入るには相当の覚悟がいる。体育会に所属すれば就職が有利になるのかどうか知らないが,楽しい大学生活の大半を犠牲にしてそのスポーツに打ち込まねばならない。大多数の学生はサークル系で楽しもうとする。
高校で同じ※※部に属していた二人の一方が某大学医学部,もう一方が他学部に入学したとする。かたや“医学部※※部”に入り,かたや「夏は※※,冬はスキー(今ならスノボか)」のサークルに入ったとする。高校のOB戦で活躍するのはどちらか。誰もが言う「あいつ,あんなに上手かった?」

しかし,ここまでならまだ本人の努力によるところが大きいので,他学部生もそれほど強い嫌悪感は抱かない。また,他学部サークルと医学部※※部との交流戦があるところは少ないだろうから,医学生が案外スポーツもできるということを他学部生が知る機会は多くない。

3.家庭教師のバイト代が高い
今の研修医の給料はずいぶん良くなったそうだが,かつてファーストフード店の時給と比較されるほどの薄給で酷使されていた研修医が真顔で「家庭教師のバイトを再開したい」とこぼしていた話は珍しくない。地域にもよるだろうが,医学部生というだけで家庭教師の口は簡単に見つかり,しかも時給は高かった。学生の多い地域の他学部生は旧帝大といえど家庭教師のバイトを見つけることは難しく,やむなく他のバイトをすることになる。このバイトのせいでスポーツなどに打ち込むのはますます困難になる。そして,噂で医学生のバイトの額を聞いてあ然とする。

4.女子にもてる
「学生時代のボーイフレンドと将来の結婚相手は別」と割り切れる女子学生もいるだろうが,20歳前後ともなれば打算も働く。医師は割に合わない職業と医師自身が気づくようになったのも比較的最近。世間からすれば,医師は今も結婚相手のブランドとして充分通用するだろう。法学部の学生で弁護士になるのは一握りだが,医学生はほぼ全員が医師になる。医学部相手の合コンと他学部相手の合コンがブッキングした場合,ルックス不明ならどちらをとるか。好意を抱いていた女子学生を医学生にとられたものも少なくないであろう。
医学部の女子学生の場合は…省略

5.学生時代が6年もある
大学はワンダーランド,桃源郷,ユートピア。楽園にはできるだけ長くいたい。4年などあっという間に過ぎてゆく。「医学部だけ6年間も学生をしていられるなんて不公平だ」と思うようになる。

6.就職活動しなくてよい
他学部生では,なかなか就職先が決まらず心労のあまり身体や精神に変調を来すものがいるという話をよく聞いた。彼らが就職活動真っ盛りのころ,同じ学年の医学部生は学生生活真っ盛り。「いーよなー 将来が約束されている医学部は」と嫌悪感をつのらす時期。

7.卒論がない
経験が無いので知らないが,卒論とは大変なものらしい。そういえば卒後何年たっても誰もが卒論のテーマを覚えているようだ。「医学部には卒論はないが卒業試験があって,これはこれで大変なんだ」と言っても理解してくれない。定期試験みたいなものと思われるだけである。彼らが卒論で苦しんでいる間,同学年の医学生はやはり学生生活まっただなかである。「何? 医学部には卒論がない?」彼らの医学生嫌いは決定的となる。

弁護士も裁判官も新聞記者も教師も,もちろん大学を卒業している。昔からそうである。ただし昔は医専が多く,彼らが医師候補生を間近に見ることは少なかった。
近年,医科単科大学が次々と総合大学に統合されている。2002年に山梨,2003年に島根,香川,福井,高知,佐賀,大分,宮崎,2005年が富山,さらに浜松医大や滋賀医大も総合大学との統合が検討されている。つまり,医学生に反感を持つ大学生が増える。将来これらの学生がマスコミに就職したり,あるいはロースクールに進んで見事法律家になったとき,果たして医師をどうみるか。学生時代の恨みを存分に晴らしてくれるだろう。医師をバッシングしたがる人間は増える一方だ。

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