« October 2006 | Main | December 2006 »

November 29, 2006

ボランティアはいつ辞めてもよい

当直(宿直)中は労働時間とみなされないことはM3や他のブログでも取り上げられているが,より多くの人々に知ってもらうべく再度確認する。

医師に関する労働基準法から抜粋する


-----------------------------------------------引用開始-------------
 病院、社会福祉施設などでは、よく日勤のことを日直勤務、夜勤のことを宿直勤務や宿直勤務と呼んでいるところがあるが、労働基準法でいう宿日直勤務というのは、単に夜間に勤務するとか、日中に勤務するζいう区分ではなく、通常の勤務とは全く違う勤務を意味するものである。例えば、病院における看護師の通常の業務といえば、患者の受付、診療の補助業務、看護業務などであるが、労働基準法でいう宿日直勤務は、所定の勤務時間外における火災、盗難防止のための巡回、緊急の文書や電話の収受、又は非常事態に備えて待機しているもので、通常の業務はほとんど行われない勤務を想定している。このような勤務は、通常の業務に比し労働密度が低いものであるから、労働基準監督署長の許可を受ければ、所定労働時間外に、あるいは休日に勤務させても、いわゆる時間外労働、休日労働とはならない。

(2)許可基準
一般的な許可基準は、次のとおりである。
・常態として、ほとんど労働する必要のない勤務で、原則として定時的巡視、緊急め文書文は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限ること

・宿日直手当は、職種毎に、宿日直勤務に就く労働者の賃金の1人1日平均額の3分の1を下回らないこと

・宿日直の回数は、原則として、日直については月1回、宿直については週1回を限度とすること

・宿直については、相当の睡眠設備を設けること

医師,看護師の宿日直勤務については、許可基準の細目が次のとおり定められている。
・通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。すなわち通
常の勤務態様が継続している場合は勤務から解放されたとはいえないから、その間は時間外労働として取り扱わなければならないこと

・夜間に従事する業務は、一般の宿直業務以外には、病室の定時巡回、異常患者の医師への報告、あるいは少数の要注意患者の定時検脈、検温等特殊の措置を必要としない軽度の、又は短時問の業務に限ること

夜間に十分睡眠がとれること

・このほか上記の一般的な許可基準を満たしていること宿直勤務の許可が与え.られている場合であっても、宿直中に突発的な事故による応急患者の診療又は入院、患者の死亡、出産等の昼間と同態様の労働に従事する場合には、時間外労働となるので、労基法33条又は36条の手続きをとるとともに、37、条の割増賃金を支払わなければならない。また、このような労働が常態的に行われるような場合には宿直勤務の許可がなされないことになり、労基法でいう宿直勤務として取り扱うことはできないこととなる。

-----------------------------------------------引用終了-------------太字は管理人


ホワイトカラーエグゼンプションが導入されたらどうなるか知らないが,少なくとも今の段階では医師が宿直中に院外緊急患者を診ることはボランティアである。宿直手当はあるが,それは「自宅のふとんで寝られないこと」の代価だ。救急隊や他院からの救急患者受け入れを強要されるいわれはない。

ボランティアならいつ辞めても構わない。

震災や台風の被災地で長期にわたりボランティアをしていた人が活動を終え自分の故郷に帰るとき,地元の人々は何と言うだろう。住民がよほどのDQNでない限り,おそらく「長い間ありがとう。おかげで助かりました」とねぎらいの言葉くらいはかけてくれるはずだ。

一般病院の宿直医が「夜中に院外発症の患者を診るのはボランティアに他なりません。今日からボランティアはしないことにしましたので,他のボランティアを探してください」と言った場合,地元住民が「長い間ボランティアありがとう。ご苦労様でした」とねぎらってくれる…ことはあり得ない。

一般市民の「当直(宿直)の医師が救急患者を診るのは当たり前」という誤解を早く解かねばならない。救急隊員にも知ってもらうべきだが,搬送先を探さねばならない彼らとしてはボランティア救急医が減るのはつらいだろう。

| | Comments (27) | TrackBack (0)

November 23, 2006

車外飛び出しは遠距離搬送

http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20061108

やや下火になったきたが,ネット上で「救急医はスーパーマンでなければならない」と話題になっている。

民事では刑事ほど過去の判例が重視されないらしいが,このような判決が出た以上,救急医(として病院に存在する)なら自信の無い手技は控えざるを得ないだろう。治療手技のリスクとベネフィット,失敗する可能性などの充分なムンテラを行う時間もないだろうし。

救急医療の崩壊に関してはいろいろなところで盛り上がっているようなので,私が今更取り上げるまでもない。

ただ,私は交通事故での受傷者の搬送に関して前から思うことがある。

例えば高速道路での多重事故の場合。

救急隊が到着して真っ先に救急車に収容されるのは誰か。それは車外に飛び出て路上に横たわっている重傷者のはずである。クルマの下敷きになっていない限り運びやすいし,何より存在が目立つ。救急隊は最寄りの病院に連絡し,OKが得られたならただちに病院に向かうだろう。

だが,待て。路上に飛ばされた人間はシートベルト(SB)を装着していなかったのではないか。SB装着者はクルマの中に閉じこめられて救出に時間がかかるが,救出後に搬送しようとすると,現場近くの病院は先に運ばれたSB非装着者で満床というのではあんまりである。正直者がバカをみてはいけない。事故現場近くの病院へはSB装着者を搬送するべきだ。つまり,車外に放り出された受傷者は原則として遠くの病院へ搬送し,近くの病院はSB装着者のためにベッドを開けておくというのはどうだろう。

交通事故に遭ったとき,車外に放り出された上,わざわざ遠くの病院に運ばれるのがイヤなら,妊婦だろうが後部座席だろうが高速バスの乗客だろうがシートベルトを締めていればよい。あるいは母子手帳で妊婦であることが確認できた場合のみ,近くの病院に搬送してもよい。

SB非装着でも車内に閉じこめられる場合も当然あるだろうが,それは運が良かった(?)と見なすしかない。

フロントガラスを突き破って投げ出され,アスファルトや他のクルマに叩きつけられたのでは即死か瀕死だろう。瀕死の患者を遠くに運んだのでは途中で息絶えるかもしれない。しかし,何とかたどり着いた場合,そこにはスーパードクターが待機している可能性もなくはない。

遠くに運ばれるのが必ずしも不利益とは限らない。事故現場近くの病院はスタッフが未熟で,遠い病院のスタッフが充実している場合もある。また,事故現場によっては遠くに行くほど大都市に近づくかもしれない。大都市の病院が良いかどうかは知らないが。

しかし今後,救急指定を返上する病院も増えてくるだろうし,「患者様の期待権を満足させる自信がありません」と重症患者の受け入れを拒む医師はさらに増えるだろう。結局,患者によって転送先を変えるなどという贅沢は不可能になる。

そうなると,○○救命救急センターの前に救急車が列を作ることになる。最後に到着した救急車がちゃんと順番を守れるよう,テーマパークのアトラクションのように「ここが列の最後尾」と書いた看板を掲げる人が必要だな。

| | Comments (9) | TrackBack (0)

November 06, 2006

是非はまだわからないが

-----------------------------------------------引用開始-------------

病気で摘出の腎臓移植…宇和島徳洲会病院で11件

生体腎移植手術に絡む臓器売買が明らかになった宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)は2日、過去に実施した生体腎移植で、病気のため摘出した腎臓を別の患者に移植したケー スが11件あったという調査結果を発表した。
病院関係者は、これらの腎臓は良性腫瘍(しゅよう)や動脈瘤(りゅう)などの病気で摘出されたものとしているが、他の腎移植医らによると、病気の腎臓を移植することは医学 的にあり得ないという。臓器売買という法的な面だけでなく、移植手術そのものも大きな問題となりそうだ。
同病院で行われた腎臓移植のすべてに泌尿器科部長の万波(まんなみ)誠医師(66)がかかわっている。病院の発表によると、2004年4月の開院後に実施した生体腎移植は 、臓器売買の事件を除くと81件。うち4件は、摘出した腎臓を治療して本人に戻す「自家移植」と判明した。
(読売新聞) - 11月3日

-----------------------------------------------引用終了-------------

臓器売買の件では万波医師を擁護していたのだが…。

まだ情報が少ないし,偏向の多いマスコミの発表を鵜呑みにできないのは奈良の件で証明済みだ。

誰もが指摘するように,他人に移植して機能するような腎臓なら摘出する必要はないと言える。ただ,癌ならまだ話がわかる。たとえ小さな癌だったとしても,癌のあった腎臓は残して欲しくない患者がいるだろう。一方,そんな腎臓でも移植して欲しいと願う透析患者がいても不思議ではない。癌病巣を切除した腎臓とはいえ癌細胞は残っている可能性はある。しかし,遠隔転移のリスクをのむことにより血液透析から開放される。

一説にはネフローゼでも腎臓を摘出し移植したという。門外漢なので,ネフローゼでの腎摘出の是非は知らない。それを他人に移植して機能するのかもわからない。

腎移植をしたいがために腎摘のオーバーインディケーションがあった可能性がある。医療におけるオーバーインディケーションは日常茶飯事。インターベンションで済むような虚血性心疾患でもCABGしたがる心臓外科医は多いし,CABGの適用なのにインターベンションに挑む循環器内科も少なくないだろう。

だが,移植がからむオーバーインディケーションはどうもきな臭い。やらずもがなの腎摘があった可能性もある。

充分なムンテラがなかったならなおさら問題だ。

| | Comments (41) | TrackBack (0)

November 02, 2006

当直中の医師は働いてはいけない

前回,当直医は熟睡しなければならないと書いたが,これはもちろん誇張表現である。眠たくなければ当直室で勉強でも読書でもインターネットでもしていればよい。

ただし,当直中は働いてはいけない。

数年前,ある小児科医が過労により鬱病となり飛び降り自殺した。
先頃発売された『週間東洋経済』2006年10月28日特大号(2006年10月23日発売,私は買い損ねた)にこの医師の過労死が取り上げられている。
http://blog.livedoor.jp/polyhedral_space/archives/50648022.html
http://ameblo.jp/setugekka/
http://blog.m3.com/turedure/20061009
http://www5f.biglobe.ne.jp/~nakahara/sub5jian.htm


遺族は労災申請したが,「当直は労働時間ではない」として労災認定は却下された。当直は労働時間として算入されないため,過労死の認定基準を満たさなかったという。

前回書いたように,当直とは「常態として、ほとんど労働する必要のない勤務で、原則として定時的巡視、緊急の文書文は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限る」ものなのである。
実際には一睡もしないどころか,重症患者に振り回され神経をすり減らしたとしても,書類上“当直”だったなら,電話番と同じとされる。

1998年に関西医大の研修医が自殺過労死したときも,当初大学側は「(研修医は)学ぶため自発的意思で研修しており、労働者とは言えない」つまり「勉強のために勝手に働いていたので労働者ではない」と主張していた。

当直も同じである。「当直なのだから寝ていいのに,勝手に働いた」と解釈される。

雀の涙ほどの当直料で一晩中働かされ,労働時間とは算定されない。こんなバカな話はない。医師の当直を夜勤として正しく労働時間扱いにし,翌日を休みにすると病院経営がなりたたないのは誰もが知っている。だからといって医師を危険にさらしてもよいのか。それに過労死だけでなく,医師が地雷を踏んでも病院や自治体は守ってくれないどころか,あっさりトカゲの尻尾切りをしてくれる。

今夜も日本中で多くの医師が当直している。夜中にやってきた元気なDQN患者に罵声を浴びせかけられながら,どんなに一生懸命働いても,それは労働時間ではない。お気の毒と言う以外,慰めの言葉が見つからない。

| | Comments (100) | TrackBack (0)

« October 2006 | Main | December 2006 »