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June 19, 2006

並列麻酔と周術期看護師

慈恵医大青戸病院のラパロ前立腺摘出の裁判で3人の泌尿器科医師に有罪判決がでた。

医師のあいだでも彼らを擁護するもの,非難するもの,いろいろな意見があるようだ。
私の意見はどうかというと,「ノーコメント」。

さて,6月初めにあった日本麻酔科学会の話でも書こう。

興味があったが都合により聞けなかった演題に以下のものがある。
ポスターディスカッション「麻酔科常勤1人での麻酔業務と危機的偶発症について~過去6年間の発生状況と並列麻酔の現況~」

日本麻酔科学会は並列麻酔禁止の立場なのに,タイトルに堂々と「並列麻酔」と明記した演題を採用していいのだろうか。それとも,座長あたりが「だから学会は並列麻酔するなと言ってるだろ。並列麻酔なんてするからそんな危機的偶発症に遭遇するんだ」などと,ディスカッションでボコボコにけなす,いわば見せしめのために採用したのか。

あるシンポジウムでは,フロアから「私の地方では昔から並列をしてきた。並列しないととても回らない」「ある教授はバイト先で並列麻酔している」という発言があったし,他のセッションでも演者が悪びれもなく「麻酔は並列でしています」と言っていた。

一方,周術期看護師について。

手術件数に比べ,麻酔科医の絶対数が不足している
学会としては並列麻酔を推奨しない

この二つの課題をクリアするために日本麻酔科学会は周術期看護師を目論んだと思っていたが,学会のお偉いさんは「周術期看護師は麻酔看護師ではない。麻酔は麻酔科医が担当するのが原則」と言っていた。大学病院などでは研修医数人をひとりの麻酔科医が操って複数の麻酔を同時にこなす,いわゆる“鵜飼い麻酔”が行われているが,研修医を利用できない市中病院でも鵜飼い麻酔ができるよう,ナースを昇格させる資格が周術期看護師なのだろうと私は勝手に解釈していた。しかし,そのようなものではないらしい。
では,周術期看護師は従来のオペ室ナースとどう違うのか? 
私の理解力が乏しいのか,結局よくわからなかった。

とにかく,私の今の仕事をナースに横取りされる心配は当分なさそうだ。

しかし,最近は「産科医,小児科医,救急医が不足」はよく目にするが,気のせいか「麻酔科医が足りない」というフレーズをあまり見かけない。後期研修で麻酔科を選んだ者が多かったのか? だとしたら,10年後ぐらいに麻酔科医過剰になっているかもしれない。こちらのほうが心配だ。

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June 11, 2006

変則ダブルヘッダー

先日,病院のかけもちをした。
午前中はA病院で2例,午後からB病院で2例。

一日に2つの病院で働くと,時間を有効に使ったような錯覚を覚える。
しかし,歩合制なので一カ所の病院で4件麻酔するのと報酬は同じである。自宅からA病院とB病院は方向がまったく違うので,交通費を得するわけではない。移動に費やした時間と労力を使えば,簡単な手術の麻酔をもう一件こなせただろうに。

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June 04, 2006

放置麻酔

麻酔科医によって麻酔の流儀が異なるのは当然である。最初に麻酔を教わった病院の流儀に始まり,その後は自分の経験・学習によって修飾されていくのが自然な流れだろう。
学会や研究会で,発表の本題以外の事項,例えば演者がさらりと述べた部分で「えっ! この施設ではいつもこんな麻酔をしているのか?」と,本題よりもそっちに気をとられたことは1度や2度ではない。挿管チューブの太さ・深さ,エピドラやルンバールに使う局麻の量,全麻下でのエピドラ施行の是非etc。
このような流儀の違いは何も麻酔科に限ったことではないし,すべての医療においていろんな流儀があるのは当然である。

学会で公にはできないであろう麻酔の流儀に「放置麻酔」というものがある。「無人麻酔」や「キセル麻酔」とも呼ばれている。
これは,麻酔科医が麻酔の導入時と覚醒時のみ手術室に立ち会い,麻酔安定期の大半を麻酔科室で過ごすことである。麻酔科室は手術室のすぐそばにあるとは限らないし,清潔区域ではなく準清潔区域にあるかもしれない。麻酔科室には基本的に麻酔科医しか存在せず,一人医長なら文字通りのプライベートルームとなり,人目を気にすることなく自由に過ごせる。ましなところでは論文執筆,学会準備,麻酔のお勉強。ひどいものではネットサーフィン,PCゲーム,読書(まんが,小説),TV鑑賞。なかには副業としてデイトレーダーしているものもいるという。

手術症例の生体情報(EKG,BP,SPO2,EtCO2,BTなど)が麻酔器近辺のモニター機器だけでなく,麻酔科室にも映し出されるようになっている施設も少なくない。それを常時監視しているかどうかは疑問だが,モニターに異常データが見られたり,ナースから有害事象の連絡が入ったりすると,麻酔科医はただちに手術室にかけつけ,対処にあたる。

「麻酔科医は導入時と抜管時,そして急変時に手術室にいればいい」 最初に麻酔を学んだ文化圏がそうだったから,彼らに罪悪感はない。それが当たり前なのである。他の文化圏の麻酔科医が注意しても,「この人は何に腹を立てているのだろう」と逆に不思議がられる。

私が日頃行っている並列麻酔と,上記の放置麻酔ではどちらがましだろう。並列での放置麻酔は論外なので,ここでの“放置麻酔”は単列を前提とし,“並列麻酔”とは麻酔科医が必ずどこかの手術室にいるものとする。並列麻酔では,ある部屋で麻酔導入や覚醒を行っている間,他の部屋の麻酔を放置していることになる。ただし,麻酔科医はどこかの手術室にいて,仕事時間中は麻酔業務に専従している。とは言っても「放置麻酔の麻酔科医は仕事時間中に遊んでいるが,私は常に働いている」というのは私の自己満足に過ぎない。

ではPtにとってはどうか。
放置麻酔の場合,偶発症が起きれば麻酔科医はただちに駆けつけ,その症例の処置に専念できる。
一方,並列麻酔では,ある部屋で麻酔導入時のマスク換気中に「となりの部屋で血圧が下がっています」と言われても,挿管し人工呼吸器につなぐまで手が離せない。また,ある部屋で大出血してMAPのポンピングをしている最中に他の部屋で問題が発生しても,その場を離れるわけにはいかない。悪性高熱,重症喘息発作,CVCI,アナフィラキシーショック,AMI,肺血栓症のいずれか二つが別の部屋で同時に発生するシーンは想像もしたくない。
「何か起こった場合,その症例だけに専念できる」という点では,放置麻酔が並列麻酔に優るだろう。
しかし,有害事象が何も起こらなかった場合,放置麻酔では麻酔科医がPtのそばにいるのは導入時と覚醒時のみである。並列麻酔では,並列が二列の場合,単純計算で麻酔時間中の半分はPtのそばにいる。
患者のそばにいる時間が長いという点では並列に分がありそうだ。
「アンイベントフルな麻酔では,麻酔科医がそばにいようがいまいが問題ない。それよりも何か起こったときに麻酔科医が専従できるほうが重要だ」と言われれば,反論できないが。

では外科医にとってはどうだろう。
放置麻酔では外科医が麻酔科医の顔を見るのは最初と最後だけ。並列麻酔では5分か10分ごとに現れるが,他の部屋で麻酔の導入や覚醒が始まると30分以上戻ってこない。麻酔科医が手術室に不在になる時間があるのはどちらも同じ。
以前,外科医の友人に「手術中に麻酔科医に術野を凝視されるのと,麻酔科医がその場にいないのと,どちらがイヤ?」と訊ねたことがある。答えは「手術に夢中というか必死で,とにかく自分のことで精一杯。とても麻酔科の存在など気にしている余裕はない」だった。それだけ手術に集中しているということか。
外科医が麻酔科医の存在を常に意識しているわけではないのなら,麻酔科医が他の手術室で麻酔していようと,麻酔科室で遊んでいようと,問題ないのかもしれない。
しかし,手術のヤマ場を越えて余裕のできた外科医が,「いま,麻酔科医はどこで何している?」とナースに問うたとき,それに対する答えが,「隣の部屋でエピドラ入れています」と,「麻酔科室で『医龍』読んでいます」では,感情的にずいぶん開きがあると思う。

昨年の日本麻酔科学会では「いいかげんに並列麻酔を認めたらどーなの!!」というタイトルの総合討論があったが,さすがに「「いいかげんに放置麻酔を認めたらどーなの!!」は言えないだろう。

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