産婦人科医逮捕3
福島県の産婦人科医が起訴されて4日がたつ。少しは冷静になれるかと思ったが,やはり腹の虫が治まらない。
起訴された3月10日には滋賀県で園児二人を殺害した女性も起訴されている。
5歳のいたいけな幼児二人を「殺そうと思って刺した」人間と,予期せぬ大量出血の中で何とか母体を救おうと奮闘努力した人間が同じ扱いか?
包丁を用意し,人気のない場所で何カ所も刺して用水路に捨てた人間と,胎児だけでも救った人間とが同じカテゴリーか?
「慈恵医大青戸病院の件と似ている」だと?
癒着胎盤らしいことが判明したとき,K医師に興味や功名心がわき起こったとでも言うのか。
青戸の泌尿器科医がラパロにこだわったのと,K医師が当初子宮温存に努力したのとは同じか?
非医療従事者は「同業者をかばっている」と言いたいだろうが,青戸の件では支援の輪は今回ほど広がらなかったではないか。褒められたことではないが,医者は「自分(の科)が一番偉い」と思いがちで,他の診療科のことを馬鹿にしたり嫌ったりする。従来は他科の医師が書類送検されたりしても「バカなことをするから。これだから○○科は…」と冷ややかな態度をとることが多かった。それが今回はどうだ。私をはじめ,様々な診療科の医師が怒りの声を上げている。産婦人科のみならず,診療科を超えて支援の輪が広がっている。
だれかがどこかで「火事を鎮火できなかった消防士が逮捕されたようなもの」と書いていた。
乱暴な例えだがわかりやすい。
離れ(子宮)と母屋(母体)からなる家屋で,離れから火が上がった。かけつけた消防士(産婦人科医)が火を消そうとしたら,離れには非常に珍しい爆発性物質(胎盤癒着)が存在していた。その物質に引火し大爆発(大出血)が発生。用意していた消火剤(血液製剤)では足らず,追加の消火剤を要請したが消防本部(血液センター)は遠く,なかなか届かない。応援の消防士もいない。そしてとうとう離れだけでなく,母屋も全焼した。ただし,離れにあった家宝(胎児)だけは何とか無傷で運び出せた。その地区でひとりしかいない消防士は夜も昼もなく働かされて,非番の日はなかった。
そして後日,誰かがこう言う。「離れの消火にこだわらず,離れと母屋の間を遮断して母屋の類焼を防ぐべきだった」「爆発性物質の存在は予見できた。充分な消火剤を持って行くべきだった」「もうひとり熟練した消防士を連れて行くべきだった」「消火の最中,母屋の家主(家族)に状況説明するべきだった」
そして火事から14か月後,消火のしかたが適切でなかった,届け出がなかったという理由で消防士が逮捕された。家族の目の前で手錠をかけられ,報道陣にさらされながら。家宝を救ったことは評価されない。
「消防士がいれば必ず消火できるはず。消火できなかったのは消防士がミスしたからに違いない」
どんなに懸命に消火活動を行っても,全焼するとその結果責任を問われる。このような環境では消防士は怖くて働けない。
その地区にひとりしかいない消防士はこう考えるだろう。「どんなに小さなボヤでも何かに引火して大火事になるかもしれないので,すべて大きな消防署に通報してくれ。俺一人で消火できなかったら逮捕されるのだから」
「胎盤を剪刀ではがす行為はかえって出血量を増やした。消防士なら火に油を注ぐ行為」と突っ込む人もいるかもしれない。火勢が増すことを望む消防士がいないように,出血がよりひどくなることを望む医者はいない。あの状況では用手剥離よりも剪刀を使った方がベターとK医師が判断した。その判断が,衆人環視の前で逮捕までされるほどの最悪の選択だったのか? 最後まで用手剥離にこだわっていたなら,母体の死亡時刻はもっと早かった可能性もある。
とにかく,一刻も早く保釈され,拘留中に誕生した我が子を抱けることを心より願う次第である。


Comments
今日、私の勤務する病院で80歳代女性の胃潰瘍出血の患者さんの手術がありました。
内科医が内視鏡下で止血を試みたのですが、止血出来ず臨時の胃全摘出術となりました。
かなりひどい出血で、まだ手術の準備もできないうちに患者さんが入室となりました。
麻酔導入時は血圧50くらいしかなくて、ちょっとハラハラドキドキ!!!
でも、開腹して止血して胃全摘して、退室時血圧は110くらい…。
私は器械出しだったので、一番楽してしまいましたが、外科の若い先生が「これで患者さん死んじゃったら、俺たち逮捕されちゃう~?」って冗談言うんですよ。
でも冗談じゃないよね…。福島の産婦人科医逮捕の一件は、手術に携わる医療従事者全員にそんな不安を与えている…。
私たち医療従事者が最善を尽くすとを躊躇させるこの事件は、いったい何なのでしょうね…?
Posted by: niko | March 26, 2006 at 10:11 PM
nikoさん,こんにちは。コメントをありがとうございます。
本当に,今回の逮捕は我々医療従事者のやる気を失わせてくれました。
未経験の事象に遭遇した場合,助けようとベストを尽くしても結果が悪ければ逮捕されるのであれば,医療はやってられません。
最近,仕事を減らすことばかり考えています。
Posted by: 管理人 | March 29, 2006 at 12:18 AM
ウン?
報告書発表の際、調査委委員長の"宗像正寛"・県立三春病院診療
部長(現院長)は「胎盤の剥離が難しい時点でやめていれば助か
る可能性は高かった」と述べた。"手術用"はさみで胎盤をはがす
方法も通常あり得ないとも指摘した。//ヘ~ッ?ソゥナンスカ?
私も、危険な血管内手術を長年やって来ましたが、この宗像正寛
先生の様に技術も無いくせに偉そうな事を言う先生が居るんです
よね。恐ろしい"本当の前線"に来た事もないくせに大本営だけで
批評家ぶって批判する奴。こいつの顔と御自慢の"手"が見たいな。
自称、ゴッドハンド
Posted by: 私もコピペ | July 10, 2006 at 03:22 PM
私、自称ゴッドハンドですけれども、他科の外科系医長の先生達
からもソナイ言われた事あります。25年以上、超~危険な手技
に従事して来て老眼が酷くなって、現役から引退しました。何度
も絶望的な状況に立たされました。その時に私を救ってくれたの
は、偉そうな学者先生方が書かれた教科書ではなくて厳しい親方
から仕込まれたこの腕、現場での自己判断、それと最後には運で
した。お蔭様で本当は死んでしまったろう沢山の患者さんを救う
事が出来ました。でも残念ながら亡くなられた方もいらっしゃい
ました。避けられない事故もありました。私、世間では超一流と
言われている医学校を出まして、最新鋭で超一流の設備の病院で
働いて来たのですが、駄目なモノは駄目。運命を信じております。
そして老境に入った今、私の様に恵まれた環境に居られた医者じ
ゃなく、加藤先生の様に設備も大した事の無い田舎病院で毎日体
を張ってコツコツと働いている医者が"本物"だという事もヤット
理解出来たこの頃です。だから加藤先生、負けないで頑張って!
自称、ゴッドハンド
Posted by: 私もコピペ | July 10, 2006 at 03:23 PM
何故、知らない人物の能力が分かるのですかと質問がありました
のでお答えしたいと思います。黒帯高段者は道場で対戦相手の僅
かな動きからでも、その人間のレベルがタチドコロに分かります。
宗像正寛先生の発言から、この人は本当の絶望的な状況を経験せ
ずに理解も出来ていないので、教科書から格好の良い事を言って
さも自分が能力があるかの様に見せていますね。産婦人科の手術
の名人の前で手術させてみせて下さい。真の実力が分かりますよ。
加藤先生は今回大変辛い経験をしました。ここで諦めないで恐ろ
しい戦場から逃げないで下さい。また辛い目に合うでしょう。負
け戦さなら厚顔無恥な片岡康夫人間から再度迫害されるでしょう。
しかし今後も絶望的な状況になった時は勝ち負けは考えずに現場
での"自己判断"に総てを託さねばなりません。そうすると手術の
神様が己に憑依する日が来るのです。自分の実力を遥かに超えた
奇跡が起こって己一人では助ける事が出来ない患者さんが不思議
に助かるのです。この試練に耐えて、手術の達人になって下さい。
自称、ゴッドハンド |
Posted by: 私もコピペ | July 11, 2006 at 05:56 AM