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July 30, 2005

リバース考

この週を夏休みとする予定はなかったが,手術予定のpatientsが夏風邪をひいたり都会の病院へ逃げたりしたため,今週は1日しか勤務しなかった。そのかわりその1日は他の休業日を補ってあまりあるほど忙しく,ある症例では既にリバースの薬剤を用意していたにもかかわらず,さらにもう一回分のリバースをシリンジに引いてしまった。最後の症例ではなかったため,他の症例にまわすことができたが,これがフェンタだったら麻薬伝票がややこしくなるところだった。

マスキュラの持続時間は短いし,神経刺激装置で筋弛緩の程度をモニターしていればリバースは必要ないかもしれない。実際,リバースを全廃した施設もあるそうだ。

リバースを廃止すれば,薬剤の誤投与を防ぐことができる。

リバースが関与する誤投与のひとつは,リバースだと思って投与した後,シリンジをよく見ると別の薬剤だったというものである。抜管前は口腔内吸引,気管内吸引,使用した麻酔ガスの計算,輸液量の合算などで慌ただしい。若いpatientなどで体動が激しくなってくると「挿管チューブを嫌がっている。早く抜管して楽にしてあげねば。その前にリバースを」と,麻酔器の上に置いてあった10mlのシリンジをあわてて三方活栓につなぎ,薬剤を投与する。そしてそれがリバースではなくマスキュラやエホチール,硬麻用局所麻酔薬だったというもの。

もうひとつはリバースとしてシリンジにひいたアンプルのひとつが硫アトやワゴスではなく,ボスミンまたはノルアドであったというもの。これらのアンプルはすべて同サイズである。硫アトやワゴスは麻酔科医がリバースとしてたくさん使用するため,薬剤カートのなかでも大きなスペースを占めている。その隣にボスミンの置き場所があった場合,薬剤補充の際にボスミンのアンプルがワゴスのところに紛れることがある。リバースをシリンジにひこうと薬剤カートの中から硫アトとワゴスを複数抜き取った際,ボスミンが混じる。「ワゴスの置き場所から取り出したアンプルはワゴス」という先入観があるため,よく確認しない。「アンプルカットするときやアンプルの中に注射針を入れるときにラベルぐらいは見えるだろう」と思う人もいるだろうが,1mlのアンプルは小さく,指に挟んでしまうとラベルは見えにくい。薬剤伝票にはワゴス○本と記入され,空アンプルは,やはりよく確認されないまま,部屋の隅に置いてある大きな危険物廃棄ボックスに捨てられる。かくして,ボスミン1Aはワゴス1Aとしてリバースのシリンジ内に混入し,ワンショットで投与される。もちろんリバースを投与した医師はボスミンを投与したことに気づかない。シリンジには確かにリバースと記入されている。

「リバースを投与したら,異常高血圧,肺水腫になりました」という報告がときどきあるが,そのなかには上記のような誤投与が含まれているのではないかと疑っている。薬剤管理がきちんとできていれば,薬剤カートのなかに残っているワゴスとボスミンの数で確認できるかもしれないが,オピオイドや筋弛緩薬ほど厳しく管理される薬剤ではない。数日分のアンプルが収納されている危険物廃棄ボックスをくまなく調べるという方法もある。しかし,もともとワゴスの消費本数は多いし,ボスミンもボスミン生食などに使用されるため,廃棄されるアンプル数は少なくない。結局,真相はわからない。

リバースを全廃すればこのような誤投与は防げるはずだが,神経刺激装置もないし,たとえ自発呼吸が充分戻っていても,ミオブロック時代からの慣習で抜管前の儀式として投与している。

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July 22, 2005

月がとっても・・・

今日(日付が変わったから,正確には昨日)の手術は予定時間が3時間と2時間半の2件だけで,しかもどちらもリスクのない症例なので,いつもように並列麻酔すれば明るいうちどころか,売店のおばちゃんより早く帰れると思っていた。

しかし・・・。

一例目の手術が始まり,血行動態も安定してきたので,「そろそろ次のpatientの入室を」とオペ室ナースの師長に言うと,師長は
「いま,この手術以外に局麻の手術と腰麻の手術が施行中なので,ナースが足らないんです。この手術に続いて縦(直列)でお願いできますか? (この手術と)同じナースが担当します」

一昨日の病院では(私の勘ぐりすぎかもしれないが)ナースが早く帰りたいから3並列を強いられ,今日の病院ではナースの数が足らないから直列させられる。どうやら私の仕事の密度を決めるのは彼女たちのようだ。

paitentsはふたりとも合併症がなく,術中の血行動態はきわめて安定していた。昇圧薬も降圧薬も使用せず,輸血も輸液負荷も必要なく,ときどきマスキュラを追加投与する程度だった。

「まあ,たまにはこんなのんびりした麻酔も悪くはないか」と自分を慰めるしかなかった。

帰りは,月がとってもきれいだった。

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July 19, 2005

早く帰れたが

連休明けに手術5件はきつかった。世間は3連休だったが私は4連休だったので,早くも夏休みモードに入ってしまい,勤労意欲がわかなかった。

スタートが午前中だったため,通常の並列で充分にこなせるはずだったが,ある手術が予想以上に長引いた。私は翌日が休みなのでいくら遅くなっても構わなかったが,他の病院から来る応援術者の都合と,ゲフリールの都合(つまり病理医の都合)から,5例目を早く始めたいとのことで,結局最後は3例並列になってしまった。 2例並列が3例並列になると,忙しさが格段にアップする。マスキュラは充分投与しているつもりだったが,二つの部屋でほぼ同時にバッキングが起こり,右往左往した。神経刺激装置がないのはつらい。リバースの薬剤をシリンジにひいている最中に他の部屋に呼ばれ,戻ってきたら空アンプルが廃棄されていたため,硫アトとワゴスをどれだけひいたかわからなかった。また,麻酔導入も早く済ませたいので麻酔器のチェックがおろそかになってしまう。喘息の既往があるpatientの麻酔導入時,意識消失後にマスク換気をしようとしてバッグを押すととても固かった。喘息発作かと思って焦ったが,麻酔器のレバーがレスピレーター側になっていた。

3例並列を要求してくるのはいつもオペ室のナースである。応援術者やゲフリールは口実で,本当はナース達が定時で帰りたいから3並列を要求しているような気がする。

おかげで疲れたが早く帰宅でき,家族と一緒に食事ができた。

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July 18, 2005

慣れた方法が一番?

手術に腹腔鏡,胸腔鏡,関節鏡などの光学機器がさかんに用いられるようになったのはこの10年ほどだろうか。

現在,「開腹胆摘の腕前はピカ一だが,ラパ胆はできない」という消化器外科医がどれほどいるのか知らない。ラパ胆が普及しはじめた当時,「そんなテレビゲームみたいな手術は若い者にまかせる」「今から新しい技術の訓練は受けられない。今まで通り開腹胆摘でやる」と決断した年配の外科医もいただろうが,それは何歳ぐらいの医師だっただろう。

麻酔の世界にもラパ胆に相当するような新たな技術が導入され,それに乗り遅れた麻酔科医は仕事ができなくなる。そんな悪夢のような未来は想像もしたくない。

今後の麻酔にどのような新技術が登場するのか,凡人の私にはわからないが,私が麻酔科医になってから今までにどのような変化が麻酔科領域にあったかを振り返ることはできる。

揮発性麻酔薬
ハロセンやエンフルレンが廃れ,セボフルレンやイソフルレンが主流になった。これは特に問題なかった。「ハロセンでは麻酔できるが,セボフルレンは使えない」という麻酔科医はいないだろう。

ラリンジアルマスク
短時間の手術では重宝するし,私もよく使っている。しかし,ラリマを使えない麻酔科医がいたとしても,仕事ができないわけではない。挿管すれば済むことである。ラリマでの麻酔を要求する外科系医師もいるかもしれないが,ラリマには誤嚥を防げないという重大な欠点があるため,挿管擁護派は肩身の狭い思いをしなくてもよい。

プロポフォール
ラリマの挿入時にはこれが便利であるが,別になくても構わない。今でもラボナールやイソゾールで導入している施設もあるだろう。TIVAだって好きな人がやればいいだけなのだから。

トラキライト
これが使えれば挿管困難に対するストラテジーがひとつ増えるが,ファイバースコープやインテュベーチングラリマなどに習熟していれば,トラキライトが使えなくても問題ない。常勤麻酔科医がいながらも,これを置いてない施設もあるだろう。

TEE
心臓血管外科の手術には必要だろうが,一般的なバイト麻酔では目にすることもない。心電図のようなルーチンモニターになれば別だろうが。

結局,過去十数年間の麻酔科領域では,(一般的なバイト麻酔の範囲では)習得に苦労するような手技はなかったように思う。

そもそもラリマが登場したときも,ラリマの熟練者に手取り足取り教えてもらった日本人医師がどれほどいるだろう。ラリマもトラキライトも,みんな文献や説明書を見ながらおそるおそる試したのではなかったか。ダメならいつもの喉頭鏡で挿管すればよいだけだったし,patientに危険がおよぶことも(私の知る限り)なかった。新しい医療機器やインプラントを使用する鏡視下手術や整形外科手術では,今も業者からの説明を受けながら手術をしている光景をよく見かけるが,私はラリマやトラキライトの説明を業者から受けた覚えはない。

ただ,過去に大きな変化がなかったからといって,将来にもないとは断言できない。

気管挿管に代わる,合併症がきわめて少ない気道確保手技,あるいは気道確保そのものが不要になるような呼吸手段が開発され,その習得には時間と労力がかかる。このような状況もあるかもしれない。

しかし「いつもひとりで麻酔していれば,新たな技術を習得できない」というのなら,それにあてはまるのはフリーター医師だけではない。中小病院で一人医長として日夜がんばっている常勤麻酔科医も同じはずだ。むしろ時間に余裕のあるフリーターのほうが,新しいものを学びやすいかもしれない。

それに,新しい技術が自分にとって難しく,とても習得できないとあきらめた場合でも,「慣れた方法が一番」という念仏を唱えれば何年か働けるだろう。

学会のシンポジウムなどで,「ある状況(病態)への対処法としてどの方法が良いか」がテーマになることがあるが,最後の締めくくりに司会の先生がよく用いる決まり文句,どのシンポジストの顔もつぶさずに済む台詞,「つまり,慣れた方法が一番ということでよろしいですね?」

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July 05, 2005

傘をさしただけ

今年はカラ梅雨かと思ったが,ここ数日は毎日のように傘をさしている。
その昔,傘という雨具がまだなかったころ,傘を発明した人が初めて傘をさして雨中の街を歩くと嘲笑されたとか。

勤務医を辞めてフリーターになるのは,傘をさす程度のことかもしれない。

自分にとって雨量(仕事量?,ストレス?)が多かったから,傘をさしただけ。

雨量には地域差があるだろうし,同じ雨量でも「この程度の雨で傘なんかいらない」という人もいるだろう。

「ズブ濡れでも我慢している人が大勢いるのだから,おまえも我慢しろ」という人も少なくない。

傘をさした麻酔科医はまだ少数派で,周囲の麻酔科医たちはうわべでは「いいなあ,気楽で。自分もそうしたいな」とうらやみながらも,本心は「自分はまだそこまで落ちたくない」「最後の駆け込み寺としてとっておく」といったところか。

最近,あちこちの病院で麻酔科医が大量辞職するという話を耳にする。特に,独立行政法人 国立病院機構○○医療センターという名の病院が多いようだ。これらの病院は,(私が知っている範囲では)昔の病院名の頃から「土砂降り」で有名だった。辞職した麻酔科医がフリーターになるのかどうか知らないが,また何本かの傘が開くのだろう。

先日,雨の程度を見くびって傘を持たずに出かけ,びしょ濡れになってしまった。

びしょ濡れになってから傘をさしても,服は乾かないのであった。

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